本末転倒にも程がある
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魔王マルコキアスは、召喚主チンピラーノが姿を消したので、目の前の名もない小さな悪魔を視線を向けた。
吹けば消し飛ぶ埃のように矮小なる者だ。
消すのは簡単だが、その前に聞くことがある。
喚ばれた世界が、人間の世界であることにどれだけ安堵しただろうか。
理不尽にも神域での超越者同士の戦いに駆り出された先人は、未だにその時の悪夢に魘されているのだ。上からも下からもその非業の顛末を嫌という程聞かされてきたマルコキアスは自身の幸運に胡座をかく訳にはいかない。
『肉壁以上の役に立つ仕事』をこなさなければ魔界に帰る場所はないのだ。
「直答を許す。あの御方が我を喚んだ理由を言え」
喚ばれた世界が、人間界であると理解すると同時に迸る魔力を抑え込んだ。
チンピラーノが主戦場とする場ならば、自身の最強状態に瞬時に換装出来ないと即蒸発する、と先人は言っていた。
だからマルコキアスも身最初は構えようとしたが、召喚先は普通に人間界。
『高次元の戦場で瞬時に肉壁にする』以外の用途で呼ばれた場合、過度の武威は無礼に当たるかもしれない。
瀬戸際の賭けにマルコキアスは勝利した。
チンピラーノにとってすれば、意に介すものでもないマルコキアスだが、他のこの地の生き物からすれば魔王という存在の気配は途轍もなく大きいものだ。
元日本人の平和ボケな性格で覇気を出さないタイプのチンピラーノは、そこのところを全く頓着していない。
実は凶悪なポテンシャルを秘めてることを隠してないトゲトゲ(防具)と釘バッド(武器)の持つ圧倒的な威圧感に気付いていないのだ。
普通にビジュアルだけで引かれていると思っている。
社畜気質故に周囲に気が使える、という悪魔らしくない性格で重用されてきたマルコキアスの方が余程人間にも環境にも優しかったりした。
名もない悪魔は、モヒカンプリーストに這いつくばって忠誠を示していた新たに現れた悪魔に戸惑っていた。
完全に魔力を抑え込んだ状態でも己より遥かに強大な存在と見てとれた。なのに何故人間などに従っているのか。
モヒカンプリーストは確かに動きは早く拳1つで頭を木っ端微塵にされたが、肉体等いくら滅びようと精神体で存在する悪魔故に脅威を感じなかった。
たかが人間。その程度の認識だった。
大いなる使命に動かされている今、このダンジョンのマスターが手厚いバックアップを保証してくれる。
ここにいる限り自分は安全の筈だ。
なのに、この心からの絶望は何なのだろう。
悪魔は本能的な恐怖心に従い、己が喚ばれてここに到るまでの全てを語った。
語れば語るほど目の前の強者の「………意味が!
わからない!」と何度も呟くのが恐ろしくてたまらなかった。
動揺の余り、時たま抑えていたモノが吹き出しかけているのが恐怖に拍車をかけた。
名もない悪魔は気づかない。魔王召喚を為そうとする自分を止める、ただそれだけに喚ばれたえらく強い悪魔がとんでもなく上位(不幸な事情により現在序列五位)の魔王の一柱であることに。
何よりマルコキアスを喚んだ本人が『魔王』イコール『大魔王』の事だと思い込んでいて、その家来であるマルコキアス達72の魔王をただの悪魔だと勘違いしている等知るよしも無かった。
この辺りの魔界知識については、プリーストの派生系職業であるエクソシストであれば詳しく学べたのだが、チンピラーノはSランク冒険者として神殿所属のエクソシストでも達成出来なかった案件を片付けた事があるだけなので、悪魔の知識はボコり方以外フワッとしか知らない。フワッとといっても一般のプリーストよりは詳しいが。
「あぁ、マスター・チンピラーノ様がご帰還だ」
先程まで両手で、顔を押さえて「嘘だろ、マジか」と、限りなく素の感情を溢しまくっていたマルコキアスが表情を引き締めて膝をついた。
チンピラーノが姿を消した時と同じ色で発光する魔法陣が床一面に広がりを見せる。
名もない悪魔は震えた。
ずっと肌で感じていたダンジョン全体から伝わる『マスター』の意思、意向のようなモノが今は全くわからなくなっている。
途端に、地に足がついてないような不安に襲われた。
愚かな人間に喚ばれてこの地に来て、願いの代償に僅かな血と肉と魂を得た。
願い事の『街の滅亡』は代償からすると対価が足りない。どうしたものかと思案していたらこのダンジョンに見つかり封印を解かされ………
違う。 ………私はダンジョンを見つけたから、それを利用するために………ゆっくりと姿を消したあの時と違い、チンピラーノは陣の中央に一瞬で現れ、混乱し何かに気づきかけた思考は停止した。
「はぁ………推しが尊い………」
恍惚を浮かべたモヒカンが何を言っているのか、悪魔たちにはよくわからなかった。
作者の悪魔知識がフワッフワッです。
大体パタリ◯で学びました。




