聖なる銀を持つ者
とある討伐隊員視点
その男を見た瞬間、あまりにも露悪な姿に生理的な嫌悪を感じ、即刻討つべし! の念にかられた。
チンピラーノと名乗るラヴァデウスのプリースト………本当にラヴァデウスの信徒であることも疑わしい。
それほどに禍々しい姿形の男。
今すぐ抹殺すべきなのはジャスティオーザの信徒として当然の事だと言えた。
なのに、隊長は彼の杖を見て俺たちを制した。
『聖なる銀』だと。
拐われた女性の1人イリーナは私の幼なじみで、ずっと彼女の安否を心配していた。
討伐隊に選ばれた事が誇らしく、必ず悪魔を滅せねばならないと誓ってここに来て、この不意打ちのような顔合わせ。
「外見は特殊だが信用出来る人物だ」
イリーナの兄、ロナルドはそう言ったが………
紹介されてやって来た男に私を含めた全員が殺気立った。
あのそそりたつモヒカンと禍々しい肩のトゲトゲのどこに信用出来るものがあるというのか!
正直、ロナルドの審物眼に疑いを持った。
隊長の言葉に武器を納めたが、納得出来たとは言いがたい思いでいると、そんな私の不服に気づいた隊長が重い息を吐いた。
「そうか、お前らはエクソシストについて知識は無いんだったな」
確かに、悪魔の専門家でそう言われてる集団がいると言われているが、実際悪魔絡みの事件そのものが少なく半ばおとぎ話か伝説のように思っていた存在だ。
上級神官の家系である隊長は声を潜めつつ、『エクソシスト』は実在しており、しかも神殿の上層部にその悪魔専門の処刑部隊が所属していること、『聖なる銀』の事も教えてくださった。
一般には秘匿されていて、おとぎ話と混同されているのは意図されたものだとも。
『聖なる銀』は魔を滅する効果があり非常に貴重な金属でで熟練のエクソシストにしか授与されることはない、と。
普通は、剣や槍、もしくは矢じりなどに加工するらしい。
確かにただの杖なのに無数の『聖なる銀の釘』を穿たれていて、並々ならぬオーラを持った武器だった。
持ち主はあれ程禍々しいというのにあの杖だけは神々しさと同時に静謐なる滅殺の気配を感じ好ましいと感じた。
「しかし、あのラヴァデウスにエクソシストなど務まるのでしょうか?」
『あの』は彼ではなくラヴァデウスを指す。
愛こそ全てというゆるふわ教義を過信するお花畑集団のエクソシストなど、戦場で役に立つのか。せめてブッドハルト教徒ならまだ戦力になるだろうに。
「………ラヴァデウスは魔物さえも罪無くば許してしまう、我々ジャスティオーザとは全く相容れない存在だ。しかし、ラヴァデウスのエクソシストまでぬるいとは思わない方がいい」
隊長の目は静かに凪いでいて『お前にはわからないのか?』と暗に聞かれているような気分になった。
私が言葉に詰まると、隊長は部屋の隅にいるモヒカンの方へ歩き出した。
「チンピラーノ。宗教的立場から意見を違える事もあるだろう、今のうちすり合わせをしておきたい」
「はい」
神妙な態度は、全く見かけに合っておらずこちらを油断させる罠にしか見えない。
疑いの目を変えることは出来ないが、静観にとどめるのは私以外も同じだった。
つまり固唾を飲んで見守るわけだ。
「我々は悪魔を発見次第、殲滅する。いいかね」
擦り合わせと言いながら、その言葉に強調する気は全くなかった。
隊長こそが彼を侮っておられるのでは?と、一瞬不遜な思考に陥った。
「もちろんです」
静かな返答だった。
チンピラーノは薄く笑みを浮かべていた。
それはとても穏やかで、悪辣の欠片もない純然ある笑みだった。
なのに何故こんなにも背筋が凍るのか。
「お優しい我が神が悪魔に求めるものは『服従』か『死』か、のみですよ」
笑みなのに、一切の情が感じられない。
悪魔がこの笑顔を見たら、きっと悪魔に『死』しか許さないジャスティオーザこそが『優しい』と思うことだろう。
敵意を向けられたわけでもないのに言い知れぬ恐ろしさ、隊長が我々に伝えたかったものを魂に刻み込んだ。
これがラヴァデウスのエクソシスト。
ジャスティオーザの信徒として……悪魔に憐憫を催した事を懺悔するしかなかった。
ラブオブゴッド棒:まさかの高評価(ただしジャスティオーザに限る)
隊長さんのエクソシスト観:ジャスティオーザだろうと、ラヴァデウスだろうと権力集中してる場所の特殊部隊には大体狂信者しかいません。他教との合同任務でいつもドン引きされる宿命のラヴァデウス狂信者。
チンピラーノの本音:揉めるとめんどくさいからなるたけニコニコ愛想笑いで誤魔化そう。
チンピラーノさんはエクソシストの組織には入ってませんが、当時のエクソシスト連中にめっちゃ信奉されてました。本人の知らないとこで。




