やっててよかった偽善式
サーカスの猛獣が巨大化して暴れた件で駆けつけた兵士の皆さんが、とっても死んだ魚の眼差しで私を凝視しています。………タスケテ。
このままでは、マンティコアちゃんをもふる為に変な魔法をかけて騒ぎを起こした変態と思われてしまう!! ないよね? そんな誤解してないよね、みなさん?
「………………」
言い訳しようにも、誰も何も言い出さない。
微妙な沈黙が流れる。
ここで自分から弁護始めたら、逆に怪しくなっちゃうでしょ! せめてそちらからなんか言っていただけませんかね? そしたら反論できるから!
「………」
誰かなんか言おうよ? 目線を向けると顔をそらされる。そういうゲームみたいな動き全員するなよ! 猛獣達もビクビクしてるのが一番傷つくんですけどーーーー! アニマルの全身で訴えてくる感情が怯え一択で、チンピラーノさんのガラスのハートが木っ端微塵ですよ!
多分全員が同じこと思ってるよ、この空気、誰か何とかしてって……あーーーもーーーーーー!
「……突然巨大化したって聞いたけど、元からこの大きさではないんですよね?」
秘儀『何事もなかったように話を進める』拳! 質問されたら答えるよね! 猛獣使いのお姉さん、貴女をご指名です! お姉さんて言うかお嬢さんぐらいの見た目の子だけど、この場のサーカス側の当事者として返事をプリーーーズ!!
会話しよ!
猛獣使いちゃんは話を振られるとは思ってなかったのか、ビクッとしながらもちゃんと答えてくれた。
ずっとこっちからは目をそらしてたけどね…
「……は、はい。普段はこの子と変わらないサイズでした……」
自分の後ろにいる2メートル越えのシロクマを2本足で立たせた。
うん、さっきまで地べたに縮こまって震えてたもんね。 まだぐったりしてる体長5メートルのマンティコアちゃんの半分くらいである。
オッケーー! これで場の空気が変わる!
「今は落ち着かせてますが、魔法による巨大化から解除されてない。目を覚ませばまた凶暴化するかもしれません」
「魔法? こんな事が魔法でできるというのか!?」
お、兵士さんも会話に参戦してくれたぞ! あからさまに『嘘つくなてめぇ!!』って目が言ってるけど、これは魔法です。
「この魔獣の調教の甘さ故の事故とお思いですか? ………何かに興奮して凶暴化が単純な理由づけでしょうか、しかしそれはあり得ません。先程このマンティコアを鎮める際、沈静化のプリースト呪文『トランキリティ』を使いましたが効果は一時的なものですぐ錯乱状態に戻りました。これは魔法による『状態異常』です。大至急、上級魔法使いを呼んで『ディスペルマジック』による解呪を行ってください」
理性的に、そう、理性的に話しあえばわかりあえる。
なんで、そこで「え、プリースト?」って顔をするのかなぁ? このラヴァデウスのホーリーシンボルが目に入らんのかい!
兵士の中から魔法兵が手を上げて、ディスペルマジックしてくれなかったら泣いちゃうとこですよ!
「この魔獣、魔法抵抗力が高い! 応援を頼む!」
「はい!」
現場に魔法兵が続々投入されて、ようやくマンティコアちゃんの体が元の大きさに縮んだ。
これで安心だ。
兵士の中でも鑑定眼のある人が鑑定したのだろう。ずっと心配そうに見ていた猛獣使いちゃんに大丈夫です、と告げた。
「マスティ!」
猛獣使いちゃんが元に戻ってるマンティコア(気絶中)にしがみついてわんわん泣き出した。美少女ともふもふの感動の再会である。
あの姿を見たら、魔法兵さん達も頑張った甲斐があるだろう。
良かったね、と涙ぐんで見守ってたら、兵士の中でも特別装備のいいおじさんがポンと私の腕を叩いた。
多分肩に手を置きたかったんだろうけど、トゲトゲあるから無理だったンだね。
全然目が笑ってない笑顔だった。
「ここじゃなんだから、ちょっとうちまで来てもらえるかな?」
事情聴取かな?
兵士の詰所とか交番チックなとこじゃなくて、本部らしき建物の応接室に通されました。
おじさんはここの偉い人らしい。
「ラヴァデウスのプリースト様、ねぇ」
あれぇ? ギルドカードも見せたし、ホーリーシンボルもアピりまくったのに不審の目で見つめられるのなんで~?
「あのマンティコア魔法で凶暴化してたんでしょ? あんたどうやって気絶させたの?」
「もふもふテクニックで………」
「………まぁ見てたんだけどさぁ」
「お疑いなら、もふもふした方をもふらせて頂けたら何度でも実証いたしますが………魔獣でも、動物でも、獣人でも!」
「そんな事の為に部下を犠牲に、出来ないよ」
むしろその三択でなんで真っ先に部下を使おうとするかな?
「チンピラーノさん、って中央通りでスリ300人捕まえてくれたチンピラーノさんだよね。その上暴れる巨大魔獣取り押さえて被害者ゼロに押さえてくれて、もう感謝しかないのに! なんなの! そのモヒカン! 怪しさ満載じゃん!」
「そこは諦めて信用するしかないねぇ」
「ローザ!」
「ローザさん?」
ノックもせずに応接室に乱入してきたのは冒険者ギルドのギルドマスターローザさんだった。
まぁ、警備隊本部と冒険者ギルドってあんまり離れてないからご近所さんなんだけど。
昨日登録したばかりなのに、騒ぎになったせいでギルドマスターが呼び出されてしまったとしたら申し訳ない。
「話しは聞かせてもらったよ、チンピラーノ。この街に来てたった1日であんた随分な活躍じゃないか」
はぅーん、ローザさんに誉められたぁぁ!!
ブル様の貫禄がたまらない~あぁ全身もみしだきたいけど、セクハラになっちゃう! 我慢我慢。
「たまたま、出くわしちゃっただけですよ」
ついデレッとしちゃう私にローザさんは呆れた顔でため息を吐く。
「ロナルド、チンピラーノは他所の大陸じゃSランクまでいった方だ。なんかあるならいっそすがっちまいな」
えー、それ言っちゃうんですかローザさん、冒険者ギルドに守秘義務ってないんですか?
ローザさんにうながされたおじさんが居ずまいを正し私にがばりと頭を下げた。
「私はこの街の警備隊の総隊長ロナルド・マクガンです。チンピラーノさん、あなたが今日捕らえたスリはほとんどが余所者のスリの一味で、この街の大市の評判を落とそうと派遣された者達でした。そして今回の魔獣の件。何者かが、この街を狙っている事は明白。どうかお力をお貸し願いたい」
さっきまで不審者対応だったくせにぃ! ローザさんに言われてここまで態度変わるとか、びっくりです。
スリ一掃祭り………確かにスリ多すぎって思ってたけど余所者だったのか………こうやって聞くと私、凄くいい人な立ち回りしまくってるのに、ローザさんの太鼓判もらうまで、不審者扱いだった………
モヒカンか!? モヒカンがそんなに悪の象徴とでも言うのかーーー!!
くっ………いや、だってモヒカンだもんな………
チクショウ。泣いてないぞ。
いいもん、私はよいモヒカンだと絶対証明してやるからな!
「ただでさえ魔法抵抗力の強い魔獣にかけられた魔法自体、人のモノではなかったのです。恐らく客に扮した何者か………いや、そこまでの魔術が使えて高度に人に擬態できる時点でわかりますよね。………これは悪魔の仕業です」
『トランキリティ』魔法じゃない精神異常にはオールマイティーで効く万能鎮静魔法。生来の変態嗜好は治りませんが興奮は落ち着くかも。別名強制賢者タイム。
(MTGならエンチャント全破壊なのにな………)




