モヒカンが街にやってきた。
ギルドマスター視点。
リングムの冒険者ギルドのマスターローザは、怪しげなモヒカンの男が入って来るのを見て戦慄した。
歴戦の冒険者だった実績を買われて、引退と同時にギルドマスターを就任。リングムは街と言っても辺境の入り口で規模は大きくなく、ギルドに集まる冒険者達はローザから見たらまだまだひよっこの部類しか今までいなかったからだ。
それが、自分よりも遥か高みの強者が。
明らかに怪しい不審者丸出しの格好で現れたのだ。
あんな、他人を威嚇するようなトゲ付きの肩パッドなんて、普通は己を強く見せようとする頭の悪いド三流のチンピラが身につけるモノだ。
髪型もおかしい。サイドを大胆に刈り込み高くそそりたつモヒカンヘッド。
そして持っているのは、無数の釘が打たれた謎の杖。この杖の見た目の異様さ以上に恐るべき威圧感はローザでなくとも感じられたろう。
本人は見た目以外の威圧を完璧に消している。
達人以上、仙人の域であると察せられた。
実力を隠す気があるのかないのか、何から何まで意味がわからない。
ローザは無表情を装いながらも軽く混乱していた。
門番はなんでこいつを街に入れたのだ。
どう見てもヤバイヤツではないか。
心の中で罵りながら、青ざめている受付嬢を逃がし代わりにカウンターに陣取った。
相手に出来るのは自分しか居ない、そう確信して。
モヒカンはローザを見るなり目を輝かせた。
冒険者時代に見たことがあったのをローザは思い出した。
獰猛な魔獣が好物の獲物を見つけた時にするギラつきと同じだ。
戦えば敗北しかない格上。争う意思はないと、ギルドマスターとして慎重な対応をせねばならないとして、どこまで話が通ずるか。理不尽な要求をされたらどこまで譲歩させられるか。
ローザはこの場所を戦場と認識した。
「ご用件は?」
少々固くなった声にも、モヒカンは立ち居振舞いも言動も紳士に答えた。
しかし、その内容は酷い。
そのなりでプリーストはないだろう! と突っ込みたかったが、ローザの精神力はなんとか耐えた。
……言われてから、胸にかかるラヴァデウスのホーリーシンボルに気がついたせいもある。
目の前にあっても、モヒカンとトゲトゲのインパクトに完全に存在感が敗北していた。
プリーストの証を示されたら否定出来ない。
愛で全て解決するラヴァデウス神の門戸の広さにしぶしぶ納得するしかなかった。
そして、名前。
このやりとりをフロアにいる冒険者やギルド職員が注視しているが、全員の心は1つになった。
親ぁ!!
そんなふざけた名前を子供につけたりするからモヒカンにしたり、トゲトゲしたりするようになっちゃうんだよ!
「俺……子供が出来たら立派な由来や綺麗な響きの素敵な名前をつけるんだ……絶対」
酒場の隅で小声で呟いた男に結婚の予定はない。だが、そういう決意は将来的に大事だろう。
誰もが同じ気持ちだった。
名は体を表す、の見本がそこにある。
今のところ中身が良識的な分だけ、外見のマイナスの原因を名前に見つけてしまうのは仕方のない事だった。
チンピラーノ、という子供に付けたら即虐待認定食らいそうな名前の男は、モヒカンとトゲトゲさえなければ表情も柔和で軟派な優男のようだ。
……モヒカンとトゲトゲさえなければ。
羊の皮をかぶっているのか、狼の皮をかぶっているのか。
こちらを騙そうとしての詐欺師の笑みにも見えるし、無警戒なお人好しにも見える。
混乱するローザをさらに悩ませたのが、他大陸のギルドカードだ。
ギルドマスター専用の鑑定道具で調べた所、カードに込められた術式がほぼギルドカードに使われている冒険者の判別に必要な特殊なものであることがわかった。
間違いなくギルドカードだろう。
術式が違うためローザに読み取れた情報は、『Sランク』の文字と『チンピラーノ・ヒャッハー』彼のフルネームのみ。
ファミリーネームまでイかれてるとか、コイツの国はどうなってんだ。
ローザの目にわずかに憐憫が宿った。
ローザは結局、外見以外の判断要素で彼を判断することにした。
相当腕は立つが、物腰は謙虚が過ぎる程。
見かけと違って人品は決して悪くない、表立って敵対しなければ害はないだろう。
親身にはなれないが最低限友好的な対応の方針を後で職員たちに周知しよう。
「よろしくね、チンピラーノ。あたしゃギルドマスターのローザだよ」
これが、吉と出るか凶と出るか。
せめて、何事もなく一週間が過ぎる事をローザは祈るしかなかった。
ギルドカード:大体のギルドには、本人認証(レベル、依頼達成率)を鑑定する専用の魔道具があります。




