あの頃私は中二病。
推し声優のイケボにつられて始めたスマホアプリで乙女ゲーをしていた私はふと顔を上げたら目前にトラックが迫っていた。
会社の帰り道にイヤホンつけっぱでながらスマホしてただけに自業自得感ぱねぇのに
ブラック会社で魂削られてた私は『異世界転生チャンーーーーーーース? キタコレ!』なんてあほなこと考えながら人生の幕を下ろした。
確実に死亡した筈の私の意識が浮上する。
来た!
即死だったのでまだ夢見てるみたいだけど、これは期待してもいい筈だ。
そーーっと片目を開けてみる。
痛みもなく目が覚めたし、きっと最期に聞いてたあのイケボの推しキャラのいる世界の悪役令嬢ですよね!
高位貴族の生まれで、美少女という約束された人生よ!
破滅フラグは自力で処理必須だけど……なんて夢見ていた私のブランニュー人生計画は鬱蒼としげる森の中という背景に儚く消えたのでした。
バサバサとなんか鳥が飛んでったのが聞こえた。
周りに人気はない。というか道らしい道すらなく大きめの木の幹にただもたれかかっていた。
「こっち系かぁーーーーーー! 嫌いじゃないけど!」
気が付くと森の中って導入の話も多いもんなラノベ界。
乙女ゲームのゆるい世界はあきらめて剣と魔法の世界も嫌いじゃないので心機一転頑張ろう。
チートな能力に目覚めて冒険者無双するのも悪くな…あるよね?
きっとある!
「いでよ! ステータス画面!」
周りには誰もいない深い森の中と言う事実が私の中二病スイッチを激しく連打した。
もう30も越えてるし人に見られたら恥ずかしくて死ねるけど、一回死んだ身である。
だからお願い!
でてきて! ステータス画面さん!
ステータス画面さえ見ればどのゲームの世界かも大体割れる筈なの!
情報不足が怖すぎる!!
期待よりも切実に情報が欲しい。
切羽詰まった心理状態を空元気で声を張り上げたのだ。
そして……… 頭上から1枚の紙がひらりひらりと舞うように落ちてきたのを自分でもびっくりする素早さで掴んだ。
「んん?」
それは学生時代クラスメートとめちゃくちゃヤリこんだTRPGのキャラクターシートだった。
鉛筆書きの汚い字で埋められた項目も、当時の画力で描かれたキャラクターの絵もしばらく忘れていたけど猛烈に記憶がよみがえった。
私の魂の分身とも言えるキャラクターだ。
「チンピラーノ・ヒャッハーのキャラシーじゃん! うわぁ懐かしい! TRPGにみんなではまって放課後私んち集まってダイス転がしたよなぁ。
卒業後も社会人になっても週末にずっと続けて……… レベル1の新米冒険者から始まってミッションこなして、コツコツレベルあげて最後には異界の邪神倒して世界救ったもんなぁ」
完璧主義のゲームマスターが成績差し置いてまで煮詰めたシナリオの数々にどっぷりハマりきったあの日々。
頭使って戦わないと死ぬ戦略性を求められ、満を持して作った作戦をダイス目に裏切られても、戦い抜かざるを得ないギリギリよりちょっと死に近い緊張感。
ダイスを転がしていただけなのに、私たちはダンジョンと強敵を確かに感じた。
学生時代の思い出が冒険しか出てこないのはご愛嬌だ。
社会人になって、段々仲間たちともつるむ時間無くなってあの頃の事思い出しもせず磨耗した神経で通勤の合間にソシャゲってた。
思い出は美しく、ノスタルジーに浸りつつも私の冷や汗は止まらず現実逃避もそろそろ打ち止めにしなければならない。
「さっきから声帯が千◯繁過ぎて辛い………」
目覚めて初めて出した声が男の声だったのでTS…性転換転生と気がついてた。
うん。
これで乙女ゲーキャラはないなって絶望したし。
キャラシー見て、どっかで聞いたような声だなぁ?
ぼんやり考えてたのが吹っ飛んだし。声優指定するな!
当時の私!
女子高生の持ちキャラなのにモヒカン雑魚を選んだのは、中二病を斜めに拗らせて『他人と違うセンスの私カッコいい!』と当時は真剣に思っていたからだ。
転生キャラに選択されると知っていたらせめて「僕の罪は赦されない………」と呟く漆黒の堕天使方面の中二病拗らせてたよ!
さっきから見ないようにしてた、肩からのプレッシャーと言う名の現実にようやく目を向ける。
辛い。
何で肩から横に20センチもはみ出てる肩パッドしてんの?しかもギンギンのトゲ生えてんだけど。
TRPG:テーブルトークロールプレイングゲーム。
自分でキャラクターを作り、自由な発想でシナリオを攻略するゲーム




