第七話
「準備はOK? 一発撮りでいくからそのつもりで。途中で止めないよ。尺は後で編集すれば良いし」
「うん」
「あっ、そうそう。最初に自己紹介するから自分の名前なんだけど、私はリオでいくから。カスミンはカスミンで良いんじゃない?」
「そのまま過ぎないかな、カスミンって」
「あんまり気にしてないけどね、私は」
でも、まあ自分のクラスでカスミンって呼ばれた事は無いし、呼ぶのはリオぐらいだから良いかな。
「カスミンでいいよ」
「あと、私は顔出しするけど、どうする?」
「私はこれをつける」
衣装と一緒に入ってた黄色い蝶の仮面を手にとって顔に付けた。
リオは小さなリモコンの録画開始ボタンを押した。5秒ぐらいの沈黙の後、リオはテンション高い口調で喋り始めた。
「どもーー、リオチャンネルです! 今日はスライムを作ってみたいと思います。まずは自己紹介から。私はリオです! そして……」
リオは私の方をチラッと見て、アイコンタクトを送ってきた。
「カ、カスミンです」
噛んでしまったので肩をすくめてはにかんだ。心臓の鼓動が高まり、体中に響いている。
「今日は可愛い衣装ね、カスミン!」
「フフッ」
吹いてしまったので、また肩をすくめてはにかんだ。あまり目立たないようにしないと。
「さあ、今日はこの二人でスライムを作っていきます。まずは……容器と水を用意します」
リオからのアイコンタクトに頷いて、物を置いている床から容器と水を探した。ペットボトルに入った水とアクリルでできた四角い容器をリオに手渡した。
「容器は百円で売っている大きめの透明なフィギュアケースを使います。この中に水を入れます」
ガラス製のテーブルの上で透明なケースを裏返して、ペットボトルから水を注いだ。私はじっと見守っている。
「そして水に色を付けます。何色にしようかな~、気分は黄色かなっ」
リオからのアイコンタクトに頷いて、水彩絵具と筆を手渡した。
「色は自分の好みで決めちゃって良いので、今日はちょっと濃いめにしたりしてね」
黄色い絵具で水は徐々に濃い黄色に染まっていった。
「オレンジジュースみたいになったので……。酸っぱいオレンジジュースね!カスミン飲む?」
「えっ!?」
突然のパスに思わず声が出て、顔を左右に小刻みに揺らした。
「あはは、冗談よ。もしカスミンの好きなアップルティーだったら飲む?」
私は顔を左右に小刻みに揺らした。そして、肩をすくめてはにかんだ。
「次は酸っぱいオレンジジュースの中に洗濯ノリを入れてかき混ぜます」
リオからのアイコンタクトに頷いて、洗濯ノリと割りばしを手渡した。
「うまく混ざるかな。これ」
リオは洗濯ノリを入れては混ぜて、入れては混ぜてを数回繰り返して様子をみている。私はじっと見守っている。
「ちょっとネチャっとしてきたので……、ここにホウ砂の入った水を入れて混ぜます」
リオからのアイコンタクトに頷いて、ホウ砂水と書かれた紙コップを手渡した。これだけで本当にスライムができるのかな……、ちょっと心配な気持ちだった。
「混ぜて、混ぜて、よく混ぜて……、スライムの出来上がり!」
リオは混ぜ続けているが、いまいちプニプニとしていない。手を入れて触ってみても固まりきっていないように見えた。まだ全体的に水っぽいので手がべとべとにまとわりついていた。
「ちょっと……、緩かったかな……」
リオは私の方を向いた瞬間、二人とも笑いが出てしまった。失敗気味のスライムを前にお互い大爆笑が数分続いた。
動画撮影が終わってからお互いの近況などの話をしてから帰路に就いた。
久しぶりに会った友達と遊ぶのはとても楽しかった。それにしても動画撮影するとは思ってもみなかった。リオは喜んでいたけど、私で本当に良かったのかなと思った。もっとお喋りで楽しい友達の方が良かったのではないかと思った。あまり目立たないように気を遣って大人しくしていたけど、動画を見る人にはつまらないって思われたりするんじゃないかなぁ。猫被っているって言われたりするかもしれない。私のせいで動画の視聴回数があまり増えなかったらリオに悪いと思った。私のせいで動画のコメントが不評ばかりだったらどうしよう……。コメントが荒れたり、迷惑をかけるようなことがあったらリオに悪いと思った。もしそうなったらリオに謝ろうと思った。
ふと、雨のにおいがした。今朝の天気予報は「晴れのち曇り」って言ってたのになぁ。季節の変わり目だから天候が安定しないのかも。風も強いし。
色々と考えすぎて疲れちゃった。