第六話
ある日の日曜日、私は友達の家の前に来ていた。中学生の時に仲が良かった北上理央奈という同級生だ。
高校生になってからはクラスも別々だった事もあり、ゆっくりと話す機会も減って、最近どうしているのかなぁと思っていた。自分から話をするために行くのも気が引けるし、新しいクラスで新しい友達が沢山増えたんだろうなと思っていたけど、私を遊びに誘ってくれてとても嬉しかった。私の事をまだ友達だと思っていてくれて嬉しかった。今までの友達の中で一番仲が良い親友です。
玄関の扉が開くと、明るくて高い声が響いた。
「いらっしゃい、カスミン!久しぶり!」
魔法使いのようなローブ姿だったので私は目を丸くして驚いた。赤と黒のツートンカラーのローブは艶かしい雰囲気を感じた。
「リオ、どうしたの?その服。何かのコスプレ?」
「まあまあ、良いじゃないの。ささ、上がって上がって」
言われるがままに家の中に連れ込まれた。
可愛らしいリオの部屋で私は座椅子に座ってじっとしていた。ガラス製の小さなテーブルの前には三脚に取り付けられたカメラがあった。
何だろう、緊張する。そのシチュエーションに何故か尋問が行われるような状況を想像していた。そんな事は無いと思うけど、カメラをあまり見ないようにした。
「お待たせ!」
缶ジュースを持ってきたリオは忙しそうに机や押入れをゴソゴソとして、色々な物を小さなテーブルの上に並べた。
「今日はね、動画を撮ろうと思ってて。カスミンはそれを手伝って」
前もって言ってくれていたら良いのに、リオは何をするにもいつも突然だ。昔から思い付いたらすぐに行動する気質がある。
「良いけど……、何の動画を撮るの?」
「ここ最近、ずっと動画ばっかり撮っててさ。新しいWebサイトにも投稿したいから、今日はそれを撮るのよ」
「そうなんだ」
リオはしばらく会わないうちに新しいことをどんどん始めているのがすごいなと思った。動画を投稿しているなんて知らなかった。私のクラスでも目立ちたい人は投稿しているみたいだけど。動画投稿サイト自体あんまり見ないから分からないなぁ。
リオはカメラの画角を確認しながら話を続けた。
「今の投稿しているサイトは人気があり過ぎて投稿する人が激増しちゃって、埋もれて視聴回数が全然伸びないから新しい投稿サイトにするの。広告収入はお小遣いにもならないけどね」
「そうなんだ」
頭の中で何を言おうかあれこれと考えてたけど、うまく纏めることができなかった。リオはいつも喋るペースが早いし、話題も多くてコロコロ変わるので、私は頭の中が真っ白になって会話についていけなくなる時がある。後になってから、こう話せば良かった、ああ話せば良かったと思い付く事が多いから困る。
「今日はね、スライム作るの。テスト投稿用の動画として、最初はやっぱりスライムでしょ。カスミンも助手として手伝って。物を渡してくれるだけで良いから」
「えっ、私も映るの?」
「もちろんよ。一人だとつまんないじゃん。それに何人かいる方が視聴回数は伸びるって言ってるし、人気動画投稿者が言ってた話だけどね」
「えー、私は映らなくていいよ」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと衣装も用意しているから。これね、この前セールで80%オフで売ってたから買っちゃった。カワイイし」
リオは袋の中から魔法使いのローブを取り出して、私の前に置いた。リオと同じものだけど色違いだ。紫と黒のツートンカラー。
「仮面もつけると顔も隠せるし。誰だか分からないから良いじゃない。きっとカスミンは似合うよ」
「そうかなぁ……」
まさか自分がコスプレをして動画に登場するとは思ってなかった。手伝いって言ってたからビデオカメラでリオを撮る方だと思っていた。動画に映ることによって起こる様々なことが頭の中で浮かびすぎて何を言ったら良いか分からくなっていた。
YESというべきか、NOというべきか悩んでいた。でも無言でいるとリオは待ってて困ってると思うから早く回答しないといけない。YESと答えるとリオは喜ぶだろう。リオが喜んでくれるなら私は応えてあげようと思った。
「う、うん」
「ありがと!私が言ったものを渡してくれたら良いから。面白いことを喋っても良いし、その辺は適当。カスミンに任せるわ」
「うん」
「じゃあ、早速始めるから。衣装を着て、服の上から着れるから」
急に緊張してきた。衣装に袖を通しながら自分なりにどんな感じで見られたらよいか考えていた。やっばりメインのリオを目立たせる為に私はあまり喋らないでいよう。それに動画を見た人に良いイメージを残す為に楽しい雰囲気になるようにスマイルでいよう。下品にならないように言動に気を付けよう。もっと考える時間が欲しい。