第二十話
リオがカメラの画角をチェックしている間、私はスライム制作で使う道具が揃っているか確認していた。いつ始まっても良いように蝶の仮面もすでに付けている。
「カスミン、準備はOK? さぁ、始めるよ」
「うん、OK」
「まあ、後で編集できるから気軽にね」
「うん」
「私が始めに“リオです!”って言った後に、カスミンも自分の名前を言って。自己紹介はそれだけで済ませて、すぐ本題に入るから」
「うん」
小さなリモコンを使って、カメラの録画スイッチを入れて、約五秒の沈黙があった。編集の関係なのかな……。沈黙が長く感じられた。
「リオです!」
「カスミンです!」
「さて、今日はスライムを作りたいと思いまーす。イェーイ!」
両手を広げて大きなアクションをしているリオに合わせるように、私は拍手をした。
「スライム作りって楽しいよね! ね?」
リオはカメラに笑顔を見せた後、私の方を見てアイコンタクトを送ってきた。いつものキラーパスだ。台本も無いのでアドリブで進んでいく。急に考えて返事しないといけないのはとても苦手。
「うん、楽しいね」
私も笑顔を見せる。引きつって見えていたらどうしよう、どう思われるだろう……。
「まず容器と水を用意します」
リオに透明なアクリル製の四角い容器と水の入ったコップを手渡した。
「この透明なケースの中に水を入れて、色をつけます」
次は水彩絵の具をリオに手渡した。またキラーパスがくるかな……。
「今回は何色にしようかなっ! 最近はテストの点が残念な結果でブルーだったので、青! あれっ筆が無かった? まぜまぜする為の筆」
「あっ」
水彩絵の具と一緒に筆を渡すのをすっかり忘れていた。焦りながら筆を探して素早くリオに手渡した。テンポが良かったのに、私の失敗でグダグダに映ってたらどうしよう……。
「あらら、カスミン。超かわいい」
「フフッ」
こういうキラーパスには思わず吹いてしまう。焦っている私の姿が良かったのかな。
「水に青い絵具で色を付けると……。 わぁ、ブルーハワイみたい! カスミンはブルーハワイ好きだよね?」
「えっ? ううん」
私は顔を左右に小刻みに揺らした。しまった、「うん」って言っていた方がスムーズで良かったかな。照れ隠しで少しはにかんだ。
「このブルーハワイに洗濯ノリを入れます。ノリノリでね」
「プフッ」
おやじギャグでも和やかな雰囲気になるような微笑みをして、リオに洗濯ノリを手渡した。雰囲気って見てる人にも伝わると思うから、できるだけ良い雰囲気になるようにしないと。
「さぁー、まぜまぜしますよー」
リオが筆で混ぜるとブルーハワイの水がドロッとした状態になってきた。以前の時よりも良い感じになっているようだ。
リオが楽しみながら作っている姿が絵になるなぁと思った。良い意味で無邪気に楽しんでいる子供のような姿が面白さを引き出しているのだと思う。
「そして、これにホウ砂水を混ぜれば……」
あれっ、ホウ砂水が無い。ホウ砂と水の入った紙コップが置かれている。これで良いのかな。私はホウ砂と水の入った紙コップをリオに渡した。
リオはホウ砂を全体的に振りかけて混ぜ、次に紙コップから水を全体的にかけて混ぜた。
「スライムの出来上がりー!」
透明なケース内にきれいな青いスライムが出来上がった。リオはそのスライムを持ち上げ、両手でスライム特有のビヨーンと伸ばそうとしているが、ちょっと固かったのかあまり伸びずにブチっと途中で切れてしまった。
「はい、成功ーー! パチパチパチー」
リオが拍手し始めたので、私も合わせて拍手をした。ここで撮影が終わりかな? 十秒ぐらい拍手は続いた。時間を長く取るのは編集の関係だろう。
リオはリモコンで動画撮影を停止しながら、こちらを向いた。
「このスライムちょっと固くって、今回。水分が足りなかったんだろうな」
「うん、以前の時よりも少なかったね」
「まあ、これで良いか。強引に成功って言っちゃったけど」
「良いと思うよ、リオらしい感じが出てて」
「サンキュー、カスミン!」
動画撮影の後、お互いの近況を話し合ったりして、リオの家を後にした。
ほとんどリオが喋って、私は聞き役なんだけどね。時には恋愛の話もする。リオは私の好きなクラスメイトを知っている。私もリオの好きなクラスメイトを知っている。
リオは美人だし、性格も良いし、明るいし、オープンだし、告白したら付き合う事もできると思う。でも、クラブ活動もして、学習塾に通って、パソコンで動画も始めたから、今それどころじゃないって感じ。私は好きなクラスメイトと付き合いたい気持ちはあるけど、もし付き合ったら相手の事がずっと気になると思う。そして、きっと受験勉強に集中できなくなって成績に影響が出ると思う。結果、行きたい大学に行けなくなると思う。将来を考えると良くない。
私から告白することは無いけど、万が一……、万が一、告白されることがあったらどうしよう……。
想像すると胸がドキドキしてきた。その時はどういう顔をしていればいいのだろう……、どういう返事をすればいいのだろう……。
頭の中で幾つもの状況が思い浮かんでは消えていくのを繰り返している。
色々と考えすぎて疲れちゃった。




