第二話
ある日の国語の授業中、机の上に広げた現代文の教科書の文章を目で追っていた。
私は先ほどからずっと緊張している。段落ごとに順番に音読をしていて、前の席の草野さんが立って教科書を音読している。
次は私の番だ。国語は得意だが、音読は得意ではない。だから緊張している。上手く読めなかったらどうしよう。読むときの私の声が変で皆に嫌な気分になったらどうしよう。目立ちたくない私にとって音読はいらない授業方法だった。
「はい、次」
教科書を持って黒板にもたれ掛かった先生は作業的に言った。
私は立ち上がり息を吸い込むと頭が真っ白になった。えっと…、読む所どこだっけ。早く読み始めないと、どうした?って皆に思われる。背中に皆の視線が背中に突き刺さっている。と思うと更に緊張してきた。頭の中であちらこちらから感情や気持ちが行き来している。
焦りながらも読む箇所を思い出した。
「く、叢の中からは、暫く返答が無かった。しのび泣きかと…」
自信の無さが声の大きさに現れていた。文章を読みつつも、読み始めの時に噛んでしまって変に思われてないか、読んでいる声が変ではないか、もしかしたら顔も赤くなってるかもしれない、変に見られないか、という事が頭の中を這いずり回っている。
「はい、次」
黒板にもたれ掛かった先生の声が教室に響いた。ようやく読み終えて、力が抜けたように椅子に座った。
教科書のページが手の汗で少しフニャフニャになっている。まだ心臓の鼓動が身体中に響いている。私の番だけとても長く読んでるように感じた。
暫くしてチャイムが鳴り、国語の授業が終了した。
休憩時間はいつも私は自分の席に座っている事が多い。トイレに行く以外は机でじっとしている。教室を出て歩いてきたりするのはなんとなく不安で、自分の席がまるで基地のように安全な場所だと思っている。
二年になってクラスが替わって、仲が良い友達があまりいないし。喋りかけられるのを待ってたりする。皆、お互いそう思ってるのだろうけど。違うクラスの仲の良い友達に喋りに行くのもどうしようか迷う。誰かと喋ってる時もあるだろうし、私から話し掛けて嬉しかったら良いけど、邪魔だったら悪いし、なんて色々と気にして行きずらかったりする。だから机でじっとしながら周りの人達の動きや関係を見ている事が多い。
そして、西井君をチラッと見ている。私の気になる男子。気付かれないように横目で見る。
「カスミ~、見てみて新しいスマホ買ったんだ」
一年生の時に仲が良かった友達の宮河さんがスマートフォンを見せながら机の前にしゃがんだ。
「すごーい、最新機種じゃん」
普通の人は最新のスマートフォンを自慢されたり、見せびらかされたら、嫉妬や負けず嫌いで批判したりするけど、私はすごいと思うことはすごいと言う。だって、批判された方は気分良くないじゃん。そんな拗ねた人いるの?と思うけど、実際は結構いたりするし。
私はいつも聞き役が多いかな。だから西河さんも私に話に来たのかもしれない。安心して話せる人として選んだのかもしれない。
私はそれでも良いと思っている。相手がそれで楽しいのなら。
色々と考えすぎて疲れちゃった。