第十九話
ある日の午後、私は家で昼食のパスタを食べていた。
今日はテスト期間の最終日で学校は午前中までだったから、午後からはゆっくり休めそう。そう思った時、スマートフォンに電話の着信音が鳴り響いた。相手はリオからだ。
「もしもし、カスミン」
「どうしたの? リオ」
「動画撮ろうと思うんだけど、今日はどう? 用事ある? 忙しい?」
「空いてるから大丈夫だけど……」
「それじゃ待ってるから、来てね~」
「うん」
午後からゆっくりしようと思っていたのに、突然予定が変更になるのは性格的にあんまり気分が良くない。でも、西井君も動画を楽しみにしてくれているし、その気持ちが無くなってしまう前に早めに撮らないといけないと思っていた。
ただ、次の動画を撮って、もし面白くなかったら悪いなぁ、という思いが心の片隅にあった。
リオの部屋で座椅子に座って待っていた。ここで待っている間、何故かいつも微妙に緊張する。
以前とは違って、目の前の壁に男性アイドルのポスターが貼られていた。リオの好きそうなタイプの顔だ。美形でスポーツできそうでお喋りな感じの人。私はちょっと苦手なタイプだな、活発でよく喋る人がもし一緒にいたら疲れてしまうと思う。私は静かな人が好きなタイプ。
「はーい!」
部屋の扉が開くと、赤と黒のツートンカラーの魔法使いのローブを着たリオが現れた。
そういえば他のクラスメイトと撮った動画ではローブは着ていなかったから、私と動画を撮るときは魔法使いなのかな。
「カスミン、テストどうだった?」
「あんまり自信ないかな」
「最終日に数学はキツイよね。」
「うん、キツイね」
「カスミンは良い点取るからいいじゃない」
「そんなことないよ。普通だから」
リオがクローゼットから取り出してきた紫と黒のツートンカラーの魔法使いのローブを私は受け取った。綺麗に畳まれていてリオの几帳面な一面を感じた。
「動画だけど、今回もスライム作るよ。前回は失敗だったけど、今日は成功させるから。タイトルはスライムリベンジで!」
「スライムね、今回は成功したいね」
「前回は何か足りなかったんだよね、ホウ砂が足りなかったんだっけ?」
「そうそう、ホウ砂だったと思う」
「あと水が多かったんだと思う。適量って書いてあったから適当に入れてみたら多かった」
「アハハ」
リオはカメラをセットしながら、思いがけないことを言った。
「カスミンは前回と一緒で“清楚キャラ”でお願いね」
「せ、清楚キャラ? えっ? 私が? そんなつもりはなかったんだけど」
「動画サイトのコメントでね、みんなカスミンは清楚って盛り上がってたから」
「盛り上がってたんだ」
視聴者の目に映った印象によって私のキャラが作られていくのが、とても不思議に思えた。だから今のキャラを壊さないために言動に気を付けないと。
「カスミンは美人だから良いじゃない」
「えぇ、そんなことないよ」
自分が美人だなんて思ったことないけど……。
「そういう控えめな所が受けるんじゃない、男達に」
同性には猫被ってる、とか本性を出せ、とか嫌われそうで怖い。
動画はリオがメインで、私は助手だから目立たないようにしないと。緊張すると顔が強張って見えてしまうと思うので笑顔を忘れないようにしないと。
以前の撮影の時も同じようなことを考えていたような気がする。あと、仮面を付けるのを忘れないようにしないと。
みんな普通に顔出しをしているのが不思議でしょうがない。変な人に目をつけられたりしたら怖いし、インターネットを悪く使われると大変なことになりそうで怖い。パソコンの知識があまり無いから想像でしかないけど。
世の中、悪い人がいるから。ストーカーとか怖いし。クラスメイトからのイジメも……、怖いし。
色々と考えすぎて疲れちゃった。




