第十七話
ある日の学校が終わった後の帰り道、私は自転車を停めて信号待ちをしていた。
ここの信号はいつも長いなぁ。四車線の道路は交通量が多く、通学で引っかかると数分は待たされる。
虹のようなアーチを作れば信号待ちをせずに渡れるのになぁ、なんて想像していると雨の匂いを感じた。湿気を含んだ重い空気、アスファルトが濡れた匂い。もうすぐ雨が降りそうな予感がする。学校から出てすぐに雨が降りそうになるなんて、私って雨女なのかな。家に着くまでは降ってこないでほしい。
「倉里さん!」
後ろから声を掛けられた。聞いたことのある落ち着いた声。西井君だった。
「西井君」
目を合わせると私は心臓が大きな鼓動を打ち始め、急に緊張してきた。何を話せばいいのだろう。頭の中で高速回転シミュレートが動き出した。ほんの数秒間、もじもじとしていた。
「倉里さんが出ていた動画は面白かったよ」
西井君はそういうとニコリと笑顔を見せた。カッコいい。嬉しい。カッコいい。嬉しい。
私はあの時のリオとの会話が西井君に聞かれていたと思うと顔が赤くなってきた。西井君は赤面した顔を見て何て思っているのだろう。頭の中の高速回転シミュレートが何も回答を出てこないので、何を言ったら良いか分からなくなった。すると、自然と言葉が口から出た。
「ありがとう、見てくれて」
「雰囲気が良かった。衣装も似合っていたし」
「うん」
待っていた信号が青に変わった事に気が付いた。こういう時は赤信号がもっと長くて良いのに。
「それじゃ、俺はこっちの方向だから。次の動画も楽しみにしてるから」
西井君が自転車で道路沿いに走っていくのを見送ると、私は青信号を渡って自転車を走らせた。まだ心臓の鼓動が太鼓のように鳴り響いている。もっと上手く話せたら良かったのに。でも、西井君が私に話しかけてくれて嬉しかった。
西井君……。西井君……。ウエスト……。エスト。
またオンラインゲームしようかな。
緊張しすぎて疲れちゃった。