第十一話
長い連休のある日、私はリュックを背負って広尾山に登山をしていた。
新緑の木々に沿って続く登山道は歩いていて心地が良い。大きく深呼吸すると自然の空気がとても美味しく感じる。五月の上旬、日差しは暑いが日陰は涼しい。
私一人だけで登っているという訳ではなく、一緒にいるのは引率している大学生のリーダーとその彼女、後は小学生が四人。
何故、こんな組み合わせで登山をしているのかと言うと、元々この登山イベントは私の父親が大学生の時に友達連中とで広尾山へ登山したのが始まりで、毎年その同じメンバーで登山するようになって、そのうち社会人になり、みんな結婚して子供ができてもその集まりでの登山は続いていて、母親や子供も参加して大人数で登山をしていた時もあって、それが昨年ぐらいから親達は登山に行かなくなって、大きくなった子供達だけで行くことになった、といった経緯がある。
今年は参加を断ろうかなと思っていたけど、結局は断れずに参加している。
今朝は朝八時に駅前に集合して、広尾山の最寄りの駅まで電車で移動、麓から登山を開始した。頂上まで約一時間で到着する。標高が六百メートル程度なので小学生でも登山が楽しめる丁度良い山です。
人気のパワースポットなのかハイキングする人が多くて、狭い登山道では混雑までする。山林の綺麗な風景を眺めながら登っているととても癒される。
休憩無しで山頂の広場まで辿り着いた。小学生の頃はもっと長く感じた登山コースも高校二年の私にはあっという間だ。
小学生の四人は山頂でもはしゃいでいた。その様子を見ていると大学生のリーダーが私に話し掛けてきた。誰ともあまり話さない独りぼっちの私が寂しそうに見えたから話し掛けてきたのだろう。私に対して気を遣わなくても良いのに。
「最近、ソロキャンプにハマっててさ、それを撮影して動画投稿サイトにアップしているんだ。倉里さんは動画とか見たりする?」
自分は友達の投稿動画に出ている、と言おうと思ったけどやっぱり止めた。私がメインの動画ではないし、もし動画を見られたら恥ずかしいと思ったから。私はどういう事を言ったらリーダーの会話が盛り上がるのかを考えて返答しようとしたが、頭の中で上手くまとめられなかった。
「スライムを作る動画とかは見たことあります」
「何か作る実験の動画も多いよな。あとゲームしている動画とかも多すぎるぐらいあるな、実況とか。自分の趣味とか興味ある事で検索したら、何かしらの動画がヒットするから凄いよな。それこそ宇宙とかで検索したら山ほど出てくるし、本棚をDIYで制作する動画や絵の描き方を説明しながら実践している動画、単なる風景だけが流れる動画とか」
「すごいですね」
私はスライムを作った動画しか見たことがなかったので、そういった使い方で動画を検索してみたいと思った。今度してみようかな。
暫くしてリーダーの彼女がトイレから帰ってきた。
リーダーと私が楽しそうに話しているのを見て、彼女のちょっとした表情の動きを私は感じ取ってリーダーと話すのを止めた。
「ちょっとトイレに行ってきます」
空気を読んだというか、人の表情や態度って心の中で思っていることがすぐに表れる。人に嫌われたり、人といがみ合ったりすると、心が傷ついてとても嫌な気持ちになるので避けている。私は同級生の西井君しか興味がないので、リーダーとはこれくらいの会話で良いだろうと思う。
私は独りぼっちでも良い、慣れてるから。お弁当は一人で食べようっと。来年はイベントに参加するのは止めておこうかな。大学受験でもあるし。大切な一年になるだろうから。
色々と考えすぎて疲れちゃった。