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第81回「血塗られた道」

 僕に与えられた選択肢はいくつかあった。

 大別すると二つ。「スワーナを直接訪ねて一緒に来てもらう」か、「ノエミを訪ねてスワーナを手放す許可をもらう」だ。あとはそれぞれのリアクション次第で、対応は無数に分岐する。

 ここは熱力学的に合理的な判断を行おう。すなわち近い方を選ぶということだ。


「スワーナの家に行こう」

「わかった」


 プラムとともに、歩き出す。先ほど会話の合間に、スワーナの家までの道のりはすでに聞いていた。ここから近いのであれば、わざわざノエミの居場所を聞く必要もない。

 

「ジョージ」

「ん」

「急いだ方がいい。何かが起きている可能性がある」


 僕は彼女がそう判断した理由について、深く問うことはしなかった。少なくとも、彼女は僕が認知していない能力を有していて、それによって変事が起きていることを悟っている。そこから出たアドバイスに従うだけで充分だった。


「走ろう」


 プラムと僕は走り、教えられた場所に着いた。植物が鉄柵を覆っているのが見目麗しい。庭師が丁寧に手入れをしているからか、庭木や草花の生長も良好なようだ。

 もっとも、明らかに不良なものがある。この家の護衛をしていたのであろう魔族が、ある者は腰から両断され、ある者は首を切られ、ある者は両足を失った上に胸を突かれている。いずれも息絶えているようだ。

 近くには他にも住居があるのだが、しんと静まり返っている。せいぜい小鳥のさえずりくらいしか聞こえない。近くの道にも誰も歩いている様子がないから、この凶行は誰にも目撃されていないかもしれない。


 僕はプラムに手でついてくるよう促し、スワーナの家の敷地内に入った。そこにはさらにいくつもの死体があった。剣を持っている者もあれば、杖を持っている者もいる。職種を混成させることでバランスのいい戦力を整えていたようだ。しかしながら、彼らは皆、荒れ狂う巨大な刃に巻き込まれたかのように、無残に斬られて死んでいた。

 中、か。

 家の扉は破壊されていた。蹴り開けられた上に刀で斬られたのだろうか。扉の断面が二種類あるように見えた。


 プラムに目で注意を払うよう指示を出して、家の中に入る。まるで盗賊のように、静かにだ。血の匂いが外よりも一層濃くなった。空気が悪い。思い切り窓を開け放ちたい気分だ。

 この分だと、スワーナも死んでるかもしれないな。

 あまり嬉しくない未来を想像しながら、僕は廊下を進んだ。打ち破られた扉があったので、そこから中を覗いてみた。どうやらここは物置代わりに使っていたらしい。スコップやツルハシが雑多に積まれていた。他には誰もいない。


 神経を研ぎ澄ませながら、さらに奥に進む。物音は聞こえて来なかった。もう誰もいないのだろうか。それとも、僕らが来たことに先に気づいて、潜んでいるのだろうか。

 僕は脳内での術式構築を完了し、プラムに防御魔法をかけてやった。彼女が不意打ちを受けて傷つく事態は避けたい。こういう時にはメドラーノ市長のような召喚魔法がほしいと思った。肉壁になる頭数さえいれば、とりあえずの一撃は防げるのだ。あいにく、僕は大規模な破壊に向いている竜族の召喚に特化している。


 プラムが僕の背中に手を置いた。振り返ると、奥の部屋を指さした。そこも扉が壊されていて、外の日差しがほのかに射し込んでいるのが見えた。

 あそこに何かあるんだな。

 僕は彼女に従って、他の部屋を無視して進んだ。


 中に、血まみれの少女の死体が見えた。


 いいや、あくまでも見た感じだ。他のものに比べれば、損傷は激しくない。もしかしたら、生きているかもしれない。僕の回復魔法なら助けられる可能性がある。部屋の中に入る。


 敵が、いる。


 僕の五感が素早く反応した。僕の真上だ。すかさず手の中に剣を生み出す。攻撃を受けるのは間違いない。直後、激しい衝撃が僕の全身に伝わった。


「神っ」


 プラムらしからぬ大きな声に、彼女の動揺が伝わってきた。

 僕はすかさず反撃に転じようとしたが、体勢が悪い。敵を直上に瞬間的に押し返して、部屋の中に転がり込む。すかさず部屋の入口を見る。鎧を来た銀髪の男がいた。大きな剣を持っている。何よりも、凶悪な顔をしていた。笑っているのだ。男の足元の床はヒビが入ってえぐれていた。たった今の攻防で出来たのだ。それだけ激しい一撃をもらったようである。


「こいつを餌にすりゃ、もう一匹釣れると踏んでたが……当たりだぜ。俺の不意打ちから生き延びるとはなぁ」


 男は剣を構え直した。


「だが、お前は魔族じゃないらしいな。人間がここに何の用だ」

「君こそ人間のようだが、ここに何をしに来た」


 僕はすぐそばの血まみれの少女にちらりと目をやった。


「彼女を殺しに来たのか」

「知らねぇな。こんな小物のために残ってたんじゃねぇよ」


 男は本当に嬉しそうに言った。


「お前はゼネブじゃねぇよな」

「ゼネブだと」

「とぼけてんのかマジなんだか知らねぇが、お前がゼネブじゃないのはわかったぜ。本当は用はねぇんだが、ちったぁ張り合いがある相手みたいだしな。遊んでいけや」

「僕はいきなり不意打ちをされるような遊びは好きじゃないんだ」

「名前はなんて言うんだよ。教えろや」

「君の頭の中身がスライムよりマシだって言うんなら、名乗る義務などないことに気づくはずだ」

「じゃあ、いい。俺の名前を教えてやる。ウェイロン・シュルツだ。死んだら墓に刻んでもらえや」


 シュルツと名乗った男は、猛然と突進してきた。

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