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第70回「発展のための人員計画」

 今やすっかり会議室と化したダンスホールに、チャンドリカの主要メンバーが揃っていた。僕の認識では、すでにその「主要」の中には屈服したばかりのサリヴァが加わっている。


「では、予定を変更して、チャンドリカの今後の方針について、簡単に認識合わせをしておきたい。その後に、プラムと僕はすぐにスカラルドに向かって出発する」


 列席した面々は、いずれも理解を示した。ならば話を始める時だ。


「サリヴァ。僕は君を情報収集のスペシャリストだと思っている。これからチャンドリカの発展のために尽くしてもらいたい」

「枕を高くして眠れると思うなよ」


 椅子に座っているサリヴァは相変わらず僕にハートの入った瞳を見せてくるが、言っている内容は物騒だった。その憎しみを愛情と言い切ってしまうあたり、彼女は僕の世界で言えばヤンデレに当たるのかもしれない。


「サリヴァ」


 サマーがサリヴァを睨んだ。可哀想な復讐者は、それだけでシュンと身を縮こまらせた。


「お嬢様の頼みだから……いいだろう、やろうじゃないか」

「君の能力は高く買っている。望むなら、いつだって殺し合いをしてやろう」

「本当か」


 パァッと顔が明るくなった。

 この単純さがあったからこそ、ムーハウスでの離間の計が成功したとはいえ、味方にしてみると存外に面白いものである。

 裏を返せば、ここが弱みにもなり得るので、その点には注意しなければならなかった。

 もっとも、サマーがいるという事実が大きい。彼女が手綱を握っていてくれる限り、容易に勝手な真似はしないだろう。


「そこで、君には引き続きこの拠点に必要な人材の情報、さらにはその他の重要な情報を上げてほしい。迷宮師スワーナ・ボロメオについてはすでに聞いた通りだが、他に何かあるか」

「どんな人材がここに必要かによるね」

「そうだな……」


 僕はいくつか考えを巡らした。いてほしい人材は無数にいるのだが、順番が重要だ。まずはダンジョンの造成、ならびに生きている人員の福利厚生を強化できるタレントを揃えたい。


「ダンジョンを実際に作れるやつらの情報がほしい。設計図だけじゃ、どうしようもないからな。それと、この城を金融拠点にできたら運営もスムーズに進むだろう。優れた商人の情報があればありがたい。あと、料理長もいたら嬉しいかな」

「料理長だって」


 サリヴァが疑念の声を発した。彼女にとっては意外だったのかもしれない。

 だが、僕の考えでは、美食という分野は極めて重要である。これは人間にとっても魔族にとっても変わらない。彼らの欲求の根源にあるのは変わらず睡眠欲、性欲、そして食欲なのだ。この原始的欲求を満たせる人材は早急に確保すべきである。


「そうだ。料理長だ。まあ、別に見習いコックでもいい。料理が上手くて、環境への順応に問題がないやつ。どれも種族は問わない」

「すると、料理人か」


 天井に目をやったサリヴァが、また僕を見た。


「情報収集のために、『蜘蛛』を使っても構わないか」

「僕らの機密さえ漏らさなければ、どうぞご自由に」

「いいのか、神。サリヴァの言う『蜘蛛』が何かわかっているのか」

「いいや、ちっとも」


 制止の声をあげたプラムが、僕を冷たい目で見てきた。ちょっと傷つく。


「私は単純生物、つまり動物を媒介して情報を集めることができる。諸国の情報に通じていたのはこのためよ。それが蜘蛛の巣的に使っているから、『蜘蛛』と呼んでいる」

「そういうことなら、構わない。どんどん使ってくれ」

「料理人の情報は、現時点ではない。これから集める。ダンジョンを作るための人員ということなら、うってつけのやつらがいる。テイラーの街を知っているか」

「もちろん知っているさ。あんなに有名な街もないだろう」


 それはこの世界で実に奇妙な街で、何でもかんでも住民の直接投票によって決めるのである。それなのに代議士制も同時に採用しており、親人類のモントレール党と親魔族のプルドム党が二大政党として存在している。

 勢力圏としては魔王軍の支配範囲の中にあるため、モントレール党が政権を取っている時にも、決して独立を宣言したりはしない。そもそも、魔王軍の庇護下に入り、魔族などの別種族との共生を決めたのはテイラーの住民なのである。今では人類と魔族の混血も進んでいるという風聞が届いていた。


「じゃあ、プルドム党も知っているな。その代議士にエタン・ロンシャンという男がいた。さっきまでの私ほどじゃないにせよ、なかなかいい中年の男さ。元は鉱夫をやっていて、実際に付近のダンジョンの建設にも携わっている」

「それは願ったり叶ったりな人物だ。ぜひここに迎え入れたい。だが、議員か」

「元、議員だ。彼は先日、汚職で議員資格を剥奪された。不正な金品の授受ということだが、本人はそれを陰謀だと否定している。今は自分の邸宅でのんびり暮らしているらしいが、野心は持っているだろう。彼の支持者には鉱夫連がついていて、最近はほとんど仕事がないから、ロンシャンによる公共工事の増加に期待していた。そうしたところの綱引きもあって、彼らの一団はかなり街に不信感を抱いているらしい」


 面白いな。愚連隊であるところのチャンドリカに染まりそうな逸材だ。


「よし、丸ごといただいてしまおう。迷宮師スワーナがいるコンドンと、そのテイラーは行ったことがないから、それぞれスカラルドから向かうことにする。……プラム」

「行ったことがない。私はほとんどスカラルドにいた」


 プラム・レイムンド。君の認識はまさしく箱入りお嬢様で間違いなさそうだ。それにしては口が悪いが。


「わかった。では、その通りに」

「商人についての情報もあるぞ、兄弟」


 サリヴァが言葉を続けた。得意になったのか、さっきよりも弾むような語調だった。チャンドリカに馴染んでくれたと考えるならば、それも悪くない。といっても、コンスタンティンの皮を被っていたころから馴れ馴れしかったから、あまり変わらないか。


「カランデンテ諸王国にブラーゾ藩王国がある」

「知っている。知り合いの故郷だ」


 いい巡り合わせだ。ヴィセンテ塔で助けた衛兵、ダヴィ・ラマッティーナの故郷がかの国だった。別大陸の戦乱から離れたかの王国群では、今まさに好況が訪れているという。ならば、優秀な商人を確保することもできるかもしれない。

 もっとも、景気がいいということは、バカでも稼げる可能性があるということでもある。商人の見定めは慎重に行わなければならないが、サリヴァの情報なら信じるに値するだろう。


「そこにデ・レオ社という大商会がある。主に鉱石の取引でのし上がり、多くの企業を買収して急拡大している会社だ」


 これも知っている。僕の世界のデ・ビアス社みたいだなあと思ったものだ。南アフリカに拠点を置くデ・ビアス社は、アフリカのナポレオンことセシル・ローズによって設立され、ロスチャイルド家の支援を受けてより大きくなった。ダイヤモンドの流通を支配する巨大企業で、世界有数の資源メジャーとしてカルテルを組織している。

 デ・レオ社の場合はもっぱら武具や魔法具の素材となる鉱石を豊富に所持しており、やはり世界の供給量の大部分を握っている。それでも列強や魔王軍の介入を逃れられているのは、彼ら自身に経営を任せることで得られる利潤の方が大きいからだ。デ・レオはブラーゾ藩王国の企業というよりは、もはや諸国の財布を握っている大商人と考えるべきなのである。

 さらに、もう一つ大きな理由がある。藩王国というだけあって、彼らには宗主国が存在する。そこが強大であるという部分もまた、各国が手出しを控えている大きな原因だろう。


「デ・レオには優秀なやつもいるだろうが、果たしてここに来てくれるかな」

「巨人は案外脆いもんだよ、兄弟」


 サリヴァは口の端を吊り上げた。とても嬉しそうに。彼女はこういう策謀が好きなのかもしれない。


「話すと長くなるが、どうするね。スカラルドからじゃ長旅になるだろう」

「ああ、その通りだ。スカラルド、コンドン、テイラーでの用事が終わったら、また帰ってきたいからな。詳しくはその時に聞こう。人員計画は以上だ。サリヴァ、引き続き料理人の情報収集を頼む」

「わかった」

「他に何かある者は」

「いいっすか」


 チャンドリカが手を上げた。僕は彼に発言を促す。


「ロンドロッグのメドラーナの選挙が迫っているっす。再選は問題なさそうだったんすけど、最近、やたら人気のある対立候補が出てきて」

「そいつはまずいな。メドラーナの基盤が揺らぐなんて、結構なことだと思うが」

「ロリンダ・プールっていう、自分から見れば演説が上手いだけの女なんすけど、やたらごつい資金源を持ってるみたいで、手当たり次第に買収攻勢を仕掛けているみたいっす」


 潤沢な資金を持つ対立候補。メドラーノにとっては一番分が悪い相手と言えるだろう。やや長期政権になりつつあるところも、住民の「飽き」を呼んだのかもしれない。民衆というのはどれだけ優れた指導者を抱いていても、「たまには新顔が見たい」と思うものなのである。また、そうして逆張りする自分をかっこいいと思う連中も存在する。

 もっとも、彼らの気持ちは僕にもわかる。流行に逆らう自分がかっこいい。まだ見出されていない人材に早くから注目していたらすごい。そういう欲求は誰にでもあるものだ。


「選挙期間まではまだ日があるっすけど……」

「スカラルドから帰ってきたら対応しよう。他には」

「もう一つあるっす。できれば、リュウさんとの連絡役が欲しいっす」


 連絡役か。それは僕としてもいた方がありがたかった。チャンドリカで危機が生じた際にすぐに駆けつけられないと、大変なことになる恐れがある。魔王アルビオン直属のエロイーズのような便利屋が理想だった。

 本当なら転移魔法を使えれば一番だが、あれは魔法としては高等なため、使える者は限られる。並の者では魔力の消耗も激しい。何より、移動する対象を目標とするには不適格だ。やはり高い運動性能を持つ者をリクルートした方がいいだろう。


「サリヴァ」

「あいよ、探しておこう」


 頼りになる情報担当が手に入ったものだ。あまり依存しすぎるのも危険だが、せいぜい働いてもらうとしよう。


「では、解散しよう。僕らはこれからスカラルドでの魔王との接見、およびコンドンとテイラーでの勧誘活動に向かう。急ぎの案件があれば、スカラルドに使いを出してくれ。サマー、その時には君が来てくれるのがいいだろう」

「何もないことを望みましょ」


 サマーの答えを最後として、全員がそれぞれの行動に移った。

 僕らの理想郷はいよいよ動き出しつつある。既存の世界の形を破壊し、新しい未来を創り出すことができるか。それはまだ不透明だ。

 ともかく、やるべきことをやろう。

 さあ、魔王アルビオンの待つ、スカラルドへ。

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