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第55回「丸猫亭はどこへ消えた」

 転移魔法を発動し、ピアソン地区へと移動。丸猫亭の前へと到着する。


「閉まってる」


 プラムが開口一番にそう言った。


「まだ夕方なんだがな。ランチタイム限定のお店かな」


 僕は戸惑った。昼頃のにぎわいとは打って変わって、店はいかにも閉店している様子だったためだ。入り口の窓にもカーテンが掛かっていて、中の様子を窺い知ることはできない。ただ、閉店の札だけが扉に下がっている。

 そう、予想としてはまだまだ盛況な店の中を悠然と歩くつもりだったのだ。きっと酒を飲んでいる者もいるだろう。そういう喧騒をかき分けて、戦勝報告を届けるつもりだったのだが。


「開いています」


 サマーが扉を開けた。特に罠もないようだった。そうだ。罠だ。ここで僕は自分の失敗に愕然とし、同時に何もないことで安堵した。彼女に危ない橋を渡らせてしまったことを反省し、しっかり先導しなければと気を引き締める。


「入ってみよう」


 中に入る。

 明かりも灯されていない店内は、窓という窓のカーテンが引かれていることもあって、非常に暗かった。僕が明かりを灯して初めて、ようやく辺りの様子を見て取ることができる有様だ。


「おかしい。まるで何年も前からこんなだったみたいだ」


 プラムが机の上の誇りを指で取って見せ、さらには棚に置いてあったグラスや皿にも手を付けている。よくよく目を凝らせば、部屋の隅には蜘蛛が巣を作り、天井からもネズミが運動会を開いているような音が聞こえる。

 なるほど、もう閉業して何年も経っているかのようだ。それにしてはやや室内が綺麗にも思えたが、誰も入っていない場所などこんなものかもしれない。


「化かすのは狐か狸か……」


 ジャンヌ・ダルクを名乗るあの少女が、妖狐か化け狸のように思えてきた。このあたりは僕の感性がふんだんに含まれている。いつだって人間を化かすのは、頭のいい妖怪たちだ。とはいえ、この世界で妖怪などいるかどうかはわからない。しかし、人も魔も恐れさせる何かがいるとしたら、それはきっとジャンヌのような存在だ。


「リュウ、貴方の名前が」


 サマーが僕に何かを差し出してきた。


「手紙ねえ」


 手紙だった。封書への僕の宛名書きも、中に入っていた文書も、非常に懐かしい字体だった。この世界では容易に触れられぬ、機械的なフォント。そう、この手紙は僕にとって、ワードソフトで編集してプリントアウトしたものとして捉えられた。

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