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第25回「そいつはいったい何者だ」

 夜、人形だらけで不気味な部屋の中、さすがに疲れを覚えて寝ようとしていた時のことだ。チャンドリカがやってきた。ドアもないので直接やってきて、僕の方を揺するんだ。なんでも、どうしても僕にすぐ会いたいという捕虜がいるらしい。もちろん、チャンドリカも明朝にするように言ったのだが、非常に強情で話を聞かないという。挙句の果てには、駄々をこねて音を立て、他の者の安眠を妨害しかねないというのだ。


「正直、もう寝たいんだが」

「いやあ、その、自分も悪いとは思ってるんすけど、どうしても会いたいって言って聞かないもんだから」

「そいつが僕の名前を出したんだな。でもなあ、コンスタンティンなんて知らないぞ。そんな大仰な名前なら忘れるはずがない。ムーハウスを解放した時にその場にいたって言ったって、僕に会ってないんじゃわかるはずもないし」


 その捕虜は僕がムーハウスを解放した時、間違いなく立ち会ったという話だった。あれは僕がまだシャノンたちとともに冒険しているころの出来事だ。ムーハウス共和国の首都ムーハウスは、魔王軍の将であるサリヴァとエディンに支配されていた。僕らは密かに抵抗を続けていた人間たちと連絡を取り、二人の将軍を討ち取って街を解放した。

 これはかなり大きな影響を与え、以後、僕らの名前は結構な田舎でも通じるようになった。専用の船をもらうこともできたし、一気に旅の範囲が広がった分岐点として鮮烈に記憶している。

 だが、やっぱりコンスタンティンなんて人物と会った覚えはないのだ。そう考えると、この人物が偽名を使っているとか、風聞で知っているだけで現地にはいなかったとか、これらの可能性を考慮しなければならなかった。


「会いに行くだけ行ったらどうだ。ここで押し問答をしても変わらないだろう」


 プラムの声がして、振り返ればそこにいた。先程まで壁に寄りかかって寝ていたと思ったのだが、僕たちの会話で起こしてしまったのかもしれない。

 いや、彼女の性格を考えると、ずっと起きていた可能性のほうが高いか。


「君も寝てなかったのか」

「私は可能な限り神の行動を記録するのが仕事だ。神よりも早く起き、神よりも遅く起きているのは当然だろう」


 献身的な妻みたいじゃないか。


「貞淑なことだ。よし、向かおう」

「ありがたいっす」


 僕はプラムと歩調を合わせ、チャンドリカの後に従った。


「もしかして、僕の熱烈なファンかな。女の子なら嬉しいな」

「おっさんっす」

「やばい。もう帰りたい。夢の中で猫を抱いて眠りたい」

「夢でも寝るのか。ぐうたらなやつめ」

「現実には猫の代わりに美少女しかいないからな」

「誰だ」

「君だよ」


 プラムは何も言い返さなかった。

 いやはや、とチャンドリカの方から声が掛かった。


「リュウさん、横で聞いてると結構アレっすよ」

「楽しいぞ。プラムはこういうのに弱いんだ。もう何年もこうして遊んできた気さえする」

「神」


 プラムの声が、幾分小さくなったように感じた。


「はいよ」

「美はいらない。ただの少女でいい。その呼び方が経済だ」

「おかしな妥協の仕方をしたよ。どう思うかね、チャンドリカくん」

「そうっすね。自分の評価をどこに定めるかを考えた挙げ句、とりあえず当たり障りのないところに着地しつつ、同時にリュウさんの言うがままにはならないぞって主張したい感じっすかね」


 プラムはチャンドリカと僕を交互に見て、明後日の方向に目線を放った。まるで拗ねたように見えた。


「私の周りには性格が悪いやつばかりが集まってくる。そのことは何回でも記録に書き残してやる」

「僕らは仲間だからな。同じような性質で惹かれ合うんだ」

「そうそう。素直じゃないところなんてわかりやすい共通点っすよね」


 おや、おかしい流れだ。


「待て。それは僕に対する揶揄も含まれてないか。だとしたら誤解だぞ。僕はこの戦い終わった後のなんとも言えないけだるげな空気を解きほぐすために、あえて発言しているんだ。そこのところを勘違いしてもらっちゃ困るな」

「自分も素直じゃないもので、『そういうもんですかねえ』とはぐらかしておくっす」


 くくく、とチャンドリカが忍んでいない忍び笑いを漏らした。つまりはわざと聞かせているということだ。


「なあ、プラム。この城、性格悪いぞ」

「神、私はもう黙る」


 おいおい、遠藤周作か。

 そんなことを思いもしたが、僕もこれ以上言葉を重ねると藪蛇になりそうだったので、一時の休止を挟むことにした。

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