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第16回「ロンドロッグ市長メドラーノ」

「君たちはどこから来た」


 市長室に案内され、受付嬢が退室してすぐの発言だった。秘書もいないんだなあと思っていたところに発せられたこの一言。茶色の髪が妙に似合う、人受けの良さそうな紳士。彼がこの街の市長、ブライアン・メドラーノのようである。


「マーカス管区から来ました」

「嘘はもういい。オブライエン管区長の使いでないことは、その服装を見ただけでわかる。それに、彼ならばもっと賢いやり方で急報を伝えるだろうからな。しかし、君は彼の名前を出した。そこに興味がある。私を強請りに来たのか、それとも別の目的か……」


 話が早いのは本当に助かるね。


「結構。では、こちらも端的に。この都市の兵権を譲っていただきたい」

「ほう」

「何もずっといただこうってわけじゃない。アクスヴィルの軍が近くに来ていることはご存知でしょう」

「庭先まであんな大所帯で来られて、キンキンと面白くもない歌を聞かされている。気づかない方がどうかしているのではないかね」


 そりゃそうだ。彼の立場になって考えれば、いい気がしないのも当然だろう。それに、その軍勢の矛先がロンドロッグに向かないとも限らないのだ。僕の世界でだって、十字軍はエルサレムを奪回するために提唱されたが、四回目の十字軍はまるで目的と違うコンスタンティノープルの占領を行ってしまった。その背後にいたのはヴェネツィアの商人だ。

 こうした動きはこちらの世界でだって充分にありうる。商業都市であるロンドロッグが凋落すれば、代わりに旨味を得る勢力なんていくらでもあるだろう。


「いやはや、全くその通り。僕としては、彼らを巣の中に追い返したいと思ってましてね。申し遅れましたが、僕の名前はリュウ。こっちはプラム。秘書のようなものなんで、気にしないでください」

「君がとてつもない力の持ち主であることはわかっているよ。受付の彼女は能力を見ることに関しては長けていてね」


 マジか。

 僕は久しぶりに驚いた。彼女からはそうした雰囲気というものを読み取れなかったからだ。まだまだ世界は広いということである。


「へえ、全然気づきませんでした。僕の人を見る目も衰えたもんだ」

「仕方ない。彼女は能力を見ること以外に関しては、ただの女の子だからね。受付には最適の人材というわけだ。だが、そういう一芸が未来を作ることもある。この街をもっと豊かにすることもできる。もちろん、私自身も」

「すばらしい。なら、僕はもっともっと貴方を豊かにできるでしょう」


 メドラーノが強欲な笑みを見せた。彼はこういう面にかけて「信頼」できそうだった。ならば、交渉を行うだけの価値があるというものだ。


「改めて聞こう。君はどの勢力だね」

「チャンドリカ」

「今まさに攻められているあの城か。君は魔王の手下かな」

「こいつは神だ」


 プラムが口を挟んできた。絶対的な中立を標榜しているかと思えば、たまにこうして顔を出してくる。完全に黒子には徹することができない性格なのかもしれない。それとも、僕を揶揄したかった可能性もある。また、ありえないとは思うが、僕に存在をアピールしたかった説もある。


「神、ね」


 メドラーノが腕を組み、思案している様子だった。僕という存在を値踏みしているのだろう。受付嬢が「能力高し」とした事実をどう処理しているのか、興味があった。


「強いて言うなら、魔王とは友人ですね」

「人類国家をすべて敵に回しては、私の豊かさは完全に失われてしまうだろうね。オブライエン管区長への『投資』も始め、様々な努力が無駄になってしまう」

「だから、貴方は被害者のままでいいのですよ。僕がやりたいことは二つだ。一つ、チャンドリカに攻め寄せている、聖王国軍を撃退できるだけの軍事力。二つ、チャンドリカからロンドロッグの地下までを含む、広大なダンジョンの建設。そして、それらは『破壊神の奸謀によって行われた』ことにする」

「私は人類として、一人の人間として努力したにもかかわらず、君の手からロンドロッグを守るのが精一杯だった。こういうことになるわけか」

「そうです。ロンドロッグの既存の軍隊はそのままチャンドリカで管理させてもらおうと思いますが、一方ではこの街の平和を守ることを約束しましょう。集団的自衛権とでも言えばいいかな。貴方は『魔王の手先に抵抗する名市長』であり続ければいい。それに、軍権をいただくといっても、傭兵たちだけだ。貴方が常備軍を揃えるのであれば、好きにすればいい」


 メドラーノが腕組みを解いた。


「この街は今、ラルダーラ傭兵団と契約している」


 それは誇り高い宣言のようにも聞こえた。実際に、ラルダーラ傭兵団という名前にはそうするだけの価値があった。


「ラルダーラ。『偽セドリックの災難』の」

「その通り」


 何しろ、プラムまでもが書記官としての仕事を忘れる程度には、「名声」を持っている集団だったためだ。

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