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第13回「攻撃開始」

 チャンドリカ城の広場に出て、プラムと僕は防衛の準備が整うのを待っていた。すでに接近されている以上、万全の備えとはいかないが、さすがに最低限の状況すら確認できずに飛び出していくのは早計だった。


「柿食わずとも、鐘が鳴るなり、チャンドリカ」


 思わず口をついて出たのだが、プラムが横目で見てきた。


「詩の才能がまるでない」

「今のはパロディだからね。いや、言い訳にしかならないか」


 実際、鐘は鳴っている。遠く、低く。あれはアクスヴィル聖王国の軍が歩調を合わせるため、軍鐘を鳴らしているのだ。

 音というものは古代の戦場から、長く有効活用されてきた。それは命令を迅速に伝えるためでもあれば、士気を高揚させるためでもあり、同時に敵を萎縮させるためでもあった。それらは現代においても突撃ラッパや勇壮な軍歌として、その役目を担い続けている。

 チャンドリカが走り寄ってきて、親指を立てた。


「こちらの準備はできたっす。お気をつけて」

「ああ。戦況が好転するまで耐えてくれ」

「耐えるのには慣れてるっす。神様を信じて戦うっす」


 僕は魔力を込めたアイテムをいくつか渡した。せいぜい手榴弾くらいの役割しか果たさないが、無いよりはマシだろう。

 あとは、やるべきことをやるだけだ。速やかに城を出て、聖王国軍の主力とかち合わないように森の中を進んでいく。


「プラム、もし敵に遭遇しても、君は自分の身を守ることを考えるんだ」

「当たり前だ。私は私の仕事がある。神も神の仕事をしろ」

「いい言葉だ」


 神には神の仕事があるというわけだ。存分に集中させてもらうとしよう。

 とりわけ、この森にはすでに別働隊が入り込んでいる可能性が高い。遭遇戦になってしまったらそれまでだが、できれば機先を制したかった。そのため、やや慎重に進んでいく。ギリギリまでチャンドリカへの負担を減らしてやりたかった。

 ある地点で、立ち止まる。


「敵がいるぞ」


 僕はプラムにうなずいてやった。もちろん、僕も知覚していたのだ。敵の輪が狭まっていること、これがわかるだけで充分だった。


「プラム、魔法防御を展開しておいてくれ。無差別で広範囲の睡眠魔法を行使する」


 プラムは何も答えず、しかし、言う通りに障壁を展開した。

 いい子だ。一息ついたらアメちゃんを買ってやろう。

 僕は静かに目を閉じ、脳内で究極の速さの呪文詠唱を行い、解き放つ。音もなく紫色の霧が広がり、たちまち辺りを包み込む。ほのかに感じていた敵の気配が、抗えぬ眠気の前に消えていくのを確かめる。


「すごいものだ。口だけの神ではなかったんだな」

「これで一角の攻撃力を削ぐことができただろう。あまりやり過ぎると、僕の存在がバレるし、何よりロンドロッグの確保が間に合わなくなる。早々に離脱しよう」


 その時、砲声が響いた。着弾する音が後ろから聞こえる。

 音圧が強い。見えていた以上に数を揃えてきたらしいな。


「あちらも始まったようだ」

「ああ、かなりの火力だ。いや、待て。もう一働きしていこう。雨を呼ぶ」


 今度はわずかに口元を動かし、確かに術式を紡いでいく。天候を変える術は神に近い御業である。見た目以上に魔力を消費するのだ。

 青空に黒雲が現れ、それはやがて一面を覆い尽くす。雲の中には雷が走り、不穏な気配を辺りに漂わせる。

 ここだ。

 僕はさらに術式を重ね、念ずる。ついには雨が降り出した。

 プラムが数歩前に歩み出て、手を広げる。雨粒が彼女に当たる。まるでこの変化を楽しんでいるかのようだ。


「神は何でもできるんだな」


 そう言って振り返った彼女は、かすかに笑顔に見えた。


「これでも一時期は賢者と言われた身さ」

「まったく、私は雨が嫌いだ。憂鬱になる。あまりにも経済じゃない」


 笑顔は幻へと消え、いつもの仏頂面が支配している。


「そうか。僕は結構好きだよ。ぜひ雨の良さを知るといい」

「雨に良さなどない。服は濡れる。本は湿る」


 僕はとうとう雨音に任せ、叫んだ。

 雷よ、走れ。

 その叫びに応じて、猛烈な勢いで雷鳴が起こった。

 次の瞬間、爆発音が遠くで響き、人の悲鳴や馬のいななきが重なった。


「雷が自然に落ちることだってある」


 にやり、と僕は底意地の悪い笑みを浮かべてみせた。プラムはこれにどうという感想を抱いたわけではないらしく、外套の雨粒を手で払っている。


「さすがにバレるだろう」

「ああ。高位の術者には、ここで何者かが魔法を行使したことがすぐにわかるだろうな。よし、ロンドロッグへ向かうぞ」


 雨がいっそう強まる中、僕はプラムとともに走り出した。

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