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第1回「レベル9999の賢者は強すぎた」

 僕にはわかっていた。シャノンが僕を呼び出した理由、つらそうな表情をしている理由、ここにメルもロジャーもいない理由。すべてを見通すことができた。それはレベル9999の賢者で、とっくの昔に身につけた読心魔法を使ったからじゃない。あらゆる可能性を検討して、これしかないだろうという結論に達したからだ。


「なあ、リュウ。話があるんだ。俺たちのパーティーから抜けてくれないか」


 シャノンはとても苦しそうに、僕にそう切り出した。


「いいよ」


 僕は即答した。

 それが彼の苦しみを軽減する唯一の方法のように思えた。

 いや、違う。

 本当は彼にもっと苦しんで欲しかった。僕という逸材を放出するのだ。もっと苦しみ抜いて、さらには深い後悔の海に沈んで欲しかった。

 すると、シャノンは少し驚いた顔をして、でも、すぐにより暗い表情になった。彼は悟ったのだ。僕が何もかも見通しているという現実に。


「いいのか、そんなあっさりと答えちまって。理由も聞かずに」

「理由はわかっている」

「そうさ、わかっているだろうさ。お前は賢者だからな。レベル9999の、史上最強の賢者だ。勇者の俺でもレベル300をやっと越したところだっていうのに、一人だけ図抜けている。いったいどういう成長力をしてるんだよ」


 それは経験値の使い方を知っていたからさ、と僕は心の中で答えた。

 だけど、そんな言説が何にもならないことはわかっていたし、何よりシャノンにはもっと苦しんで欲しかった。僕の心を醜いと思うなら、思えばいい。いつかこういう日が来るのはわかっていたさ。それでも、気分のいいもんじゃないんだ。


「シャノン、君が勇者としての責任を感じていることはよくわかっていた。僕に負い目を感じていることもだ。だから、僕がいなくなることでパーティーの結束が深まるんなら……いや、確実に団結するだろうと考えているからこそ、喜んで身を引こう。もしも悲劇があったとするならば、それは君が善人すぎたことだよ。思い悩むことはない」

「すまん」

「謝ることはないんだ。だって、僕は今から退職金の相談に入ろうと思っているからね。いいだろう、わかった。君たちのパーティーからの追放を快く受け入れよう。だけど、この事実が流布したら、君は大層困ったことになるだろうね。僕は外面だけはいい風に装っているから、名声もそこそこ悪くない。レベルが限界を超えて高いということも、知っている人間は知っている」


 シャノンは怯えているようだった。今や人類でも屈指の勇者であるはずの彼が、仲間の一人にこうもやり込められているなんて、他の人には絶対に見せたくない姿だろう。勇者なんてのは人気商売だ。誰からも嫌われた勇者は、そこらへんの腕利きのならず者と変わりはしない。


「わかっている」


 どうにか絞り出したって感じだね。さらに畳みかけることにしよう。


「何より、僕はこの世界の人間ではない。こことは異なる世界から召喚された存在だ。そうだよ。僕はかつて小学校にすらまともに行けない落ちこぼれだった。親の虐待のせいで下半身不随になった。必死に知識を貯めた。考えるということの重要性を知った。あの日、そうだ、僕が大洪水に飲み込まれて死ぬ瞬間、この世界の名だたる召喚士たちが僕を呼び寄せてくれなかったら、今頃は虚無の中に消えていっていただろう」

「そうだ。本当はお前こそが真の勇者になるはずだった。俺の父親が上級貴族でなかったならば。国王を脅して勇者の地位を奪わなかったならば。お前こそが魔王討伐の任を与えられていただろう」


 ここで、笑う。

 僕は今だけ、どんな生命をも救う慈母の顔になる。


「恨みこそあれ、感謝する意味はない。わかるね。そんな僕を懐柔するために必要なのは、金だ」

「いくら欲しい」

「必要だと思った金額をテーブルに出してくれ」

「わかった。全財産だ。お前という最高で、なのに一緒に旅するにはつらいやつには、これを捧げるしかない」


 シャノンは本当に全財産を机の上に出した。僕には彼が自暴自棄になっているようにしか見えなかった。僕がそんなに悪辣で強欲に見えたのだろうか。だとすると、多少狙ったとはいえ、少々心外だと言わざるを得ない。

 ふう、と息をつく。

 それから、銀貨を1枚だけ手に取って立ち上がる。

 その銀貨をすぐにシャノンの目の前に置き、彼の耳元でささやく。これは手切れ金だよ、と。


「僕は無駄金を持たない主義でね。じゃあ、さようならだ。みんなによろしく」


 そう言って、立ち去る。

 僕がやったことはこれだけだ。

 しかし、たったこれだけで、彼のプライドはズタズタになったと推測している。僕にとって、彼らとの友情は銀貨1枚程度の価値しかなく、さらには手切れ金を渡してでも決別したかったんだよという意思表示。そのように捉えているはずだった。あるいは、金貨1枚さえも価値を認めようとしない僕の峻烈な意志、とも理解した可能性がある。

 本当のところ、僕はどっちでも良かった。どうでも良かったのだ。勇者シャノンも、戦士メルも、義賊ロジャーも、今この瞬間から僕の仲間ではなくなった。世界のすべてのことは、僕の手から離れたのだ。

 さて、田舎でゆっくり過ごすとしようか。なあに、こんな時代だ。人がいない場所なんていくらでもあるさ。

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