第1話 『目が覚めたらそこは異世界だった!?』
第1話 『目が覚めたらそこは異世界だった?!』
チュンチュン,チュンチュン
コケコッコーッ!
鳥達のさえずり,鶏の鳴き声が響く中,翔はベットの感覚のなか目を覚ました。
窓からは光が差し込み,幻想的な情景を浮かび上がらせているのだが,残念ながら翔はそこまで繊細な感性を持ってはいなかったようである・・・。
「ぅう〜ん・・・,ここは・・・?」
眠そうな目を擦りながら翔は辺りを見回す。
目の前にはゲームに出てきそうな本棚,タンス,ベットが置かれたこじんまりとした部屋だった。
「ぅ〜ん,こういう部屋も悪くないなぁ・・・。」
翔は寝ぼけているのかそんな的外れなことを言いながら起き上がった。
そのまま階段を降り,居間へ入っていった・・・。
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「あっ,おきましたか,おはようございます。」
翔を出迎えたのは同い年ぐらいの少女,髪は金髪,目は青という人目で外人と分かる容貌をしていた。
「ああ,おはよう。・・・ってちょっと待て,君は誰だ,そしてここはどこだ?」
やっと頭が動きだしたのか,もっともな疑問を口にする。
「ああ,ここはポーン村ですよ。貴方はこの近くの森に倒れていたんです。」
「ポーン?森?倒れてた?どういうことだ?」
翔は意味が分からないというように首をかしげた。
「だから,そのままの意味ですよ。」
金髪少女は『何を言ってるんだ?』とでも言うかのように言った。
「ちょっと待ってくれよ,ここは陽青市じゃないのか?」
「???何です,その陽青市って?」
「だから,陽青市だよ,陽青市!」
「だからなんですか,その陽青市って?」
「・・・」
(陽青市を知らない?大体俺もポーン村なんて知らないな・・・。)
「なあポーン村なんて俺は知らない,いったいここは何処なんだ?」
「・・・寝ぼけているんですか?顔でも洗って着たらどうです?」
そういわれて翔は質問の答えを得ることは出来ず,洗面所へと送り出されていった・・・。
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翔が戻ると,
「お腹すいてるでしょう?ご飯にしましょう。」
といいながら金髪少女は料理を机の上へと並べていった・・・。
「ってそうじゃなくてさ,何で俺がここに居るんだ?」
翔としては当然の疑問を投げかけた。
「知りませんよ,私は森で倒れてた貴方を助けて,ここまでつれてきたんです,お礼の一つでもないんですか?」
少し怒気を含んだ少女の声に,
「そうか,それはすまなかった,ありがとう。ってちょっと待て,俺が倒れてただって?」
「そうですよ,森で倒れてたんです。」
当然のように言い切る少女にさすがの翔も異常に気がついたようだ。
翔の頭の中はいますごい速度で回転していることだろう・・・。
(どういうことだ?確か葵とか言う奴を助けて,それから・・・,そうだ,光に包まれたんだ,それで,ここに?,この少女の言うことからして俺のいた世界じゃないと考えるほうが妥当だな。ってことは何らかの力でこっちの世界に飛ばされたってことか?)
翔が考え事に耽っていると,
「あの〜,ちょっといいですか?」
と少女が話しかけてきた。
「何だ?」
と短く翔は言い放つ,が,少女は動じることも無く,翔にとっては自分の理論を打ち砕く言葉を言い放った。
「この家任せていいですか?私は魔法の練習に行って来ますから。」
「!!!,なんだって!魔法!そんなものがあるのか!?」
「何言ってるんですか?そんなこと珍しくないでしょう?」
翔のいた世界ではそんなものあくまでゲームや漫画の世界だったのである,そんなものが突然あるといわれても納得できないのが当然である。
「・・・じゃあ,俺にその魔法とやらを見せてくれ。」
「いいですけど私は回復魔法しか出来ないよ?」
「いいさ,見せてくれ。」
「うぅ〜ん・・・,まぁいっか。」
そう少女はいうとなにやら呟きだした。
指も小刻みに震えている。
どうやら紋章を描いているようだった・・・。
「〜〜,〜,〜〜〜.ヒール!!!」
そう少女が言うと翔の周りに青白い光のようなものが発生し翔の身体を包み込んだ。
「どうです?」
少女は自信満々にそうに言った。
実際,このレベルの魔法を使う為には5年は修行が必要なのである。
「こっ,これは・・・。」
「だからあるって言ったでしょ。」
翔が呆然としているとそこに
(予想よりもこの世界に転移されるのが早かったようだな・・・。)
翔の頭の中に声が聞えてきた・・・。
(お,お前は・・・,聖剣と魔剣・・・。)
(呼びずらいだろう,「光華」と読んでもらっていいわよ)
突然女の声が聞えてきたので翔は驚いた,が
(驚いているようね・・,でもこれが本当の私よ?今までのは表の口調と声だっただけ。)
(・・・そうか)
まだ納得していない翔だったがこれ以上長引かせるわけには行かない,と思いとりあえず納得することにした。
(で?ここは何処なんだ?)
最も気になっていたことを翔はこの「光華」に聞いた。
(異世界よ,特に名前なんか無い,でも私達,導具の中に眠る力の存在たちは「エクラス」と呼んでたわ)
(そういえば井上は?)
(・・・残念だけどこっちの世界に来てるはずよ,ただ何処に飛んだのかはちょっと・・・。)
(さっきの早かったって言うのは?)
(ああ,それは貴方がこの世界に来ることは決まってたのよ,シンから私を貰ったあの時からね)
(・・・いったいどういうことだ?)
(簡単なことでしょ?貴方達一族は魔導具を受け継いできた,そしてシンが魔導具を初めて呼応させてから私が生まれた,まぁ,正確には私が呼ばれた,のほうが正しいんだけどね。)
(・・・じゃあ,親父は死んだのか?)
(ああ,心配しないで,シンの意思で貴方に私が渡されたんだから。)
(何故親父がこの世界のことを知っている?)
(20年ほど前,『エクラス』の人間が世界的な実験を行ったの,その呪文はまだ未完成だった『アナザーチェンジ』,俗に言う空間転移だったのよ・・・。シンはその実験に巻き込まれて『エクラス』に来てしまったのよ。そして私と出会い,その呪文を完成させ,元の世界に戻ったのよ。)
(・・・なるほど,じゃあ戻る方法があるんだな?)
(ええ,あるにはあるけど今の時代にまだ記録が残ってるとは限らないわよ。)
(どうすればそれを調べられる?)
(そこに居る少女にでも聞いてみたらどう?)
(・・・そうするか。)
光華のどこか嬉しそうな声を翔へと送りながらそう言った。
翔は釈然としないまま,しかし言われた通りに目の前に座っている少女へと視線を送った。
少女は翔が考え込んでいる姿を見て当惑しているようだった・・・。
「なぁ,ちょっといいか?」
このままでは進展がないと踏んだ翔は少女へと声をかけ,
「君,「空間転移」の魔法って使える?」
「・・・は?空間転移?そんなの使えるわけ無いでしょうがっ!」
ものすごい勢いで反応した少女をみて一瞬驚いた翔だったが,
「・・・そうか,残念だ・・・。」
「だって空間転移は第零級魔導具がないと発動することが出来ないんだよ?管理局の最高責任者しか持ってないんだから無理に決まってるじゃない!」
「魔導具,か。君も持ってるのか?」
「持ってるわよ,でも第三級だし,私のは『効銃』だもん,戦闘用よ。」
「『効銃』っていうのは?」
「色々な現象を生み出す弾丸を打ち出す銃のことよ,青龍士程度の力しか発動できないけど・・・。」
「なるほど。第三級,ね。」
(確かにそんなことも出来そうだよな〜,『光華』みたいな力ならさ。)
(あら,失礼しちゃうわね,私も第零級なんだからっ!)
(なんだって?じゃあ空間転移呪文も使えるのか?)
(あはは,実は使えたりして・・・)
(・・・先に言ってくれよ・・・。)
まったく,人騒がせな魔導具だった・・・。
(まぁ,いいじゃない,今すぐ帰るわけにはいかないでしょ?)
(そうだな・・・,葵を探さないと・・・。)
(まぁ,何かあったら力を貸してあげるから言いなさいよ?)
(ああ.頼りにしてるよ。)
翔はそういうと光華との会話?を終わらせた。
「で,その『効銃』っていうの見せてくれないか?」
翔がそう言うと,
「うぅ〜ん,いいけどこの町の人には内緒にしててね。」
「うん?ああ,分かった。」
実際翔は何のことか全く分かっていなかったがそういうと,
「じゃあ出しますね,『効銃』出てきて。」
そういった瞬間翔の半分ぐらいの少女の手に銀色の拳銃が握られ,輝いていた。
「ふぅ〜ん,すごいな。一回撃って見せてよ。」
「危ないですよ,ここで撃ったら。」
「じゃあ,俺が倒れてたっていう森に行こう。」
そう翔は言うと強引に少女を外へと連れて行った・・・。
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場所は変わってポーン村付近の森・・・
「もぅ,離してください,いきなりなんなんですか!」
無理やり連れ出した翔に少女は怒りを隠しきれないようだった,が,
「ごめんごめん,すまなかったって,でもどれほどの威力があるか知りたいじゃないか。」
翔は全く悪気を感じていないような(実際全く感じていないのだが)口調でそういった。
今翔たちの居る森は年中草木に覆われ,太陽の光ですらまともに入らないような所だった。
「迷いの森」,と言う言葉がしっくりくる,そんな空間での会話はその空間での恐怖を紛らわせる為のようにも思えた。
「もうっ,仕方が無いですね。でも魔導具の効果って魔法と違ってそう簡単に見れるものじゃないんですよ?」
「 ,そうなのか?全く知らなかった・・・。」
予期せぬ返答に翔は一瞬驚いたが,
「じゃあ,見れる俺は幸運なんだな。」
「・・・はぁ,まあいいですよ,危ないですから離れて下さい。」
少女は翔の言動に少し困った顔をしたがすぐに気を取り直してこういった。
「おうっ,わかったぞ。」
珍しく翔も大人しく言うことを聞き,少女の少し後ろに下がった。
「じゃあ,何を出して欲しいですか?私の魔導具はまだあまりレベルが高くないので4大元素程度しか使えないんですけどね。」
4大元素とは火・水・土・風のことを指し,初級魔法に多い元素である。
・・・まあ,その理由が元素自体を呼び出しやすいことにあるのだが,残念ながら理由までは解明されていないようだった。
「4大元素って?」
残念ながらナレーションは翔には聞えないのでもう一度説明せねばならないだろう,まったく,二度手間である。
「うぅ〜んとね,要するに火・水・土・風のことですよ,それぞれ能力が違うんです。」
少女の説明を聞き,しかし尚理解に苦しむような顔で翔はこう言った。
「ふぅ〜ん,良く分からないが,とりあえず何かやってくれよ。」
せっかくの少女の説明だったが,翔には理解できなかったようだ。
少女は苦笑しながら,
「そうですね,じゃあ,火は危ないので土でいましょうか。」
そう少女は言いながら第3級魔導具『効銃』の引き金に指をそえると,一気に3回引き金を引いた。
効銃から吐き出された,エネルギーは銃身の向けられていた大木にたて続けに命中した。
「なっ!!!」
翔が驚くのも無理は無い,そのエネルギーが大木に命中した瞬間,破壊されると思っていたそれは急成長を開始した。
その成長が止まった頃には,この森で1番高い所まで成長しているのだった。
「こ,これはすごい!なるほどこんなことまで出来るのか!」
翔は興奮気味にこういったが,
「ック,ゴホッ・・・。」
少女が苦しそうに咳き込み,前のめりに倒れていった・・・。
「お,おい!大丈夫か?」
翔は何とか少女と地面の間に身体を滑り込ませた。
少女を見るとなにやら拾う困憊しているようだった・・・。
「いったい何があったってんだよっ!」
(とりあえず家に運んだほうがいいわね。)
光華にそういわれ何があったのか分からないながらも,翔の行動は速かった。
少女を背負い,少女が落とした『効銃』を拾いながら,
(いったい何だってんだ・・・。)
と心のなかで愚痴をこぼすのだった・・・。