あなた好みの美少女が恋をしない理由
「多くの場合、アニメやマンガに出てくる美少女には恋愛経験が無い、何故か?」
アニメ関連の専門学校の教室で、特別講師の男が生徒に問うた。
生徒たちは顔を見合わせ、自分の見解を述べるが、発表しようとする者は現れない。ざわつくだけの教室を見渡し、講師は最前列に座る男子生徒を指さした。
「君の答えを聴かせてもらおう」
「えっ? 僕ですか……。えっと、ビッチは嫌だからです」
素直なコメントに拍手が起きる。
「なるほど、一理ある。ちなみに先生は、ビッチは好きだぞ。すぐにヤラせてくれるし、後腐れなくて面倒じゃない。だが、君のような意見は少なくないだろう。むしろ、多いと断言する!」
ドンッと講師が教卓を叩く。
「しかーし、今日の講義で問いたいのは、視聴者側の都合ではない。あの二次元美少女たちに恋愛経験が無いことを真面目に考えたら、どうなるかである。ロボットが合体するのは、動力源が繋がることで出力を増す為だとか。最初から合体していないのは、移動を考慮してのものだとか。“そういう設定”を考える講義である。断じて、玩具会社の都合と言ってはいけない」
再び教室内がざわつく。
「改めて問おう。二次元美少女に恋愛経験が無い理由は? はい、君」
最後列の男子生徒が指される。
「女子高育ちとか、家が厳しいとか……」
「確かに、そういう理由で男と縁が無い人もいるだろう。だが、そんなことには屈せずに、恋を謳歌している若人は多い。設定としては弱い。次は、君」
中程の列にいる男子生徒が指される。
「ド田舎で、女しかいない学校だとか……」
「田舎を舐めるなよ、都市部より結婚が早いんだからな。学校に男がいなければ、学校の外で普通にくっつくぞ。歳の差なんか気にせずに。はい、次」
後ろで立っている男子生徒が指される。
「幼い時に主人公と交わした約束があって、それを守る為とか……」
「君は幼稚園時代に発した言葉を覚えてるか? 覚えていないだろう? 子供の頃に言ったことを一言一句覚えてるのは、並みの記憶力じゃない」
講師は溜め息をつくと、生徒たちに背を向けた。
「なかなか面白い設定が出ないので、私が考えたものを話そう」
ホワイトボードに“陰謀”と書く。
「二次元美少女に恋愛経験が無い理由は、ズバリ陰謀である」
「どんな陰謀ですか?」
手を挙げずに、最前列の生徒が質問する。
「理想とする美少女に育てあげる陰謀である。考えてもみたまえ。今まで、どんな男を見ても恋に落ちなかった二次元美少女達が、何処にでもいそうな平々凡々とした主人公に惹かれてしまう。もはや、誰かに仕組まれているとしか考えられないではないか」
恐る恐る、数少ない女子生徒が手を挙げる。
「はい、君」
「あの、陰謀と言われましても、いったい誰の陰謀なのでしょうか……。具体的には、どんなことを……」
「それについては、これから説明する」
講師は“陰謀”の文字の右隣に“洗脳”と書き、二つの言葉の間に×と付け足す
「まずは方法だ。端的に言えば洗脳。カタカナならマインドコントロール。恋をしないよう、彼女たちは洗脳教育を施されてしまっていたのだ。あぁ、何たる悲劇か!」
バンバンと教卓を叩く。
「しかし、その洗脳は主人公によって解かれるのだった。街角での衝突、交錯時のボディタッチ、着替えを見られての決闘……。そういった儀式は、洗脳を解くための行為として、洗脳時にインプットされていたのだ。催眠術で言うところの、催眠が解けるキーワードになる。これなら、冴えない主人公がモテる理由も納得いくだろう。彼女達にとって、主人公は洗脳が解けて初めて見た異性、刷り込み的に惚れる。いや、その解除の儀式を行った者に惚れるという洗脳が施されている可能性もある」
生徒たちは微妙な顔をしているが、講師は気にしないで話す。
「では、この洗脳を施すよう指示した黒幕は誰なのか。そう考えるとき、もっとも疑わしきは、これによって利益を得る人物である。つまりは主人公になるわけだ。大した苦労もなく、美少女のハートをゲット。まだ恋を知らない、うら若き蕾を刈り取れるのだ。挙句には、彼女たちをチョロイン呼ばわりする始末。奴こそが黒幕、悪の権化……」
そこまで言って、講師は大きく息を吐いた。
「と、言いたいところだが、恋愛経験ゼロのまま成長させ、美少女にするには、早い段階からの洗脳が必要になる。となれば、息子の将来を心配した親が怪しい。主人公が金持ち設定だった場合、両親は未来の花嫁候補に、早い段階から洗脳を施していた可能性がある。親こそが真の黒幕。何たる外道」
そこまで言うと、講師はホワイトボードの文字を消して言った。
「しかし、その親の非道を越えるケースも考えられる。それは主人公が冴えない中年男性だった場合だ。目ぼしい幼女に恋愛できない洗脳を施し、美少女に成長したところで、洗脳を解除してゲット。もしくは、ハーレムを形成。どうかね?」
最前列の生徒に感想を聞く。
「羨ましいです……」
「だろう? さて、二次元美少女が恋をしない理由を考えてきたわけだが、これは二次元に限った話ではない」
ゲスい笑みを浮かべ、講師が生徒に呼びかける。
「やろうと思えば、現実に出来ることなのだ。その為の金と技術があればね。興味がある者は出資して欲しい、私のクラウドファンディングに!」
講師が諸手を挙げたところで、教室に女性講師が入ってくる。
「その講師は偽者よ!」
言われるや否や、それまで熱弁を振るっていた講師は、窓を開けて外に飛び出した。一階なので、落下の心配もない。
「なんて逃げ足の速い……」
女性講師が逃げっぷりに舌を巻く。
そんな彼女の袖を最前列の生徒が引っ張って訊く。
「あの人、先生じゃないんですか?」
「そうなのよ。特殊メイクでゲスト講師になりきって、関連学校を回ってるらしいわ」
「お金を集める為にですか? 学生なんて、お金が無いのに……」
「なんか、出資した人を晒すのが目的らしいわよ。危ない発想の持ち主を紹介みたいな感じで……」
危ないところだったと、生徒は冷や汗をかいた。
その仕草を横目で見ながら、女性講師は教卓へと向かう。
「本物のゲスト講師が気絶してるので、代わりに私が授業をします。あの偽者は、他の先生が何とかしてくれるでしょう……。え~、この間のモンタージュ理論の続きをやります。まずは、戦艦ポチョムキンを観てもらいましょうかね」
女性講師の授業が始まり、生徒たちがヒソヒソ話を始める。
偽者の方が面白くなかったかと……。




