手が届かないという美徳
美味しそうだけど、食べたらまずかった。
宝くじが当たったのは夢だった。
壊れていると思っていた時計が意外と動いた。
勉強はしてみると意外と楽しかった。
謝ってみたら相手は気にしてなかった。
天気予報での雨は嘘だった。
イチゴは食べたらすっぱかった。
私の宗司との恋もそんなものだ。
初めてのキスはタバコの味だった。
最初はそれにさえも大人びたものを感じ、キュンと胸を弾ませた。
家は予想より汚かった。
最初は片付けてあげている事実さえ嬉しかった。
セックスは下手くそだった。
いつもカッコイイ宗司がどぎまぎしてるのが可愛かった。
今となっては、付き合う前の方がよっぽどかっこよく見えていたことに気づく。前はかっこよくない所も様々な方法でカバーしていた。
今となっては、私の中のその機能は使えなくなった。
もしかしたら、彼も私に同じことを思ってるのかもしれない。
こちらを不思議そうに見つめる宗司は少し疲れて私の隣に寝転んだ。
頭を撫でてやると嬉しそうに眠っていくのは悪くは無いものだ。
変わっていく価値観の中に私は溺れて流され続けている。
きっとこれからもそうなのだ。
けれどその価値観の中で、少し歪んでいるかもしれないけれど、確かに、大きな愛という積み木だけは崩されないで積み上がり続けてることに今は縋っておこう。
雲だって食べてみたらきっと不味いものだ。
けれど空が青くて綺麗な事実、その中に美しいコントラストとして雲が一役買ってることに変わりはないのだ。