第一話
油で汚れたエアコンが部屋の隅でガウガウと唸っている。
まぁ、漫画喫茶のエアコンに最新型のエアコンがあるなんて、はなから期待していないし、今の俺にはそんなものを使う資格などないと思う。
俺には油だらけのポンコツで充分だ。
エアコンを十秒程見つめていると、電車の音が聞こえてきた。あの音は嫌いだ。何だか自分が死刑の執行を待つ囚人のように思えてくる。
そんな理由なんて自分の非を認めないための言い訳に過ぎない。だが、言い訳はしたい。
とか言うように無限ループしていく、自虐。
こんなことばかり考えてるのも馬鹿みたいなので、日記でも書いてみるかと、買ったB五判のノートを机に広げる。そして書き始めた。タイトルは『自分の失敗』
だが、自分の手は一向に震える一方で、字が書けたとしてもその字は滲んでノートは汚くなるばかりだった。
あまりにも上手くいかない作業にイライラを感じ、ノートをちぎってそれで鼻をかむ。手で涙をぬぐう。まるで幼児のようにつたない作業。
目の前のテレビには今話題の新商品の家具を開発した研究者、かつての同僚が出ていた。そしてそのテレビには薄らと真っ赤に充血した目の俺の顔がうつっていた。
後頭部に異様な硬さを感じて目を覚ます。どうやら俺は椅子から船を漕いだ調子に滑り落ちたようだった。目が痛い。腕時計を見るともう10時だった。
これなら家に帰ってもバレないだろうと考えて、ドアを開け、目の前の受付で会計を済ませ自動ドアを通った。
通らなければ良かったと思う。だが、そんなことは
今頃言っても意味が無い。
娘の塾から家の帰り道。
今の時間帯、俺は駅からの道にいなくちゃいけない。
なのに俺は今、漫画喫茶から出てきた。
娘は友達と笑いながらリュックに手を伸ばそうとした。
そして娘は俺の方を振り向く。
娘と俺は必然的に目があった。
娘は一瞬、口を開いた後、友達と走って行った。
あぁ、やってしまった。
その時はそう思った。
だが、俺を待ち受けてる地獄は、いや、未来はそんなもの、比じゃなかった。