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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
序章 転生
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説話



 創世当時、この世界には魔獣、精霊、人間、そして神の遣いである『7人の魔導師』がいた。彼等は平和に共存していた。


 当時の人間は精霊が見えていて、魔獣は人間と意思疎通ができた。だけどある日、一人の魔導師が怪我した魔獣を助けるために、精霊を犠牲にするという禁忌を犯した。その罰として、魔獣は理性を失い魔物となり、人間は精霊を見る目を失った。


 理性を失った魔物が世界に溢れ、後に『魔獣の暴走』と呼ばれる大災害が起こった。人を喰らい自然を荒らす魔物の群れ。6人の魔導師達は、総力を挙げて魔物を異界の狭間へ封印し、禁忌を犯した魔導師の命を代償に、神は世界を再構築された。そうして、魔獣は世界からいなくなり、その代わりに亜人と呼ばれる新たな種族が生まれるようになった。


 時が経ち、亜人、人間、精霊、そして魔導師が共存する世界で、再び禁忌は犯された。

 世界は均衡を失い、その歪みで異界の空間も開き、封印されていた魔物が地上に雪崩れ込んだ。2回目の『魔獣の暴走』である。


 魔導師達は、再び魔物を異界へと封印した。そして、世界を再構築するために、一人の少女の命が神の前に捧げられた。その少女は、神に願った。もう二度と同じことが起こらないように、二度と世界の均衡が崩れないようにしてくださいと。神はその願いを受け入れ、世界の調和を執成す『世界樹』を地上に植え、その守護者として『神子と聖騎士』を新たに召命された。






「……んー、分かるようで分からん」


 リビングのソファに寝転びながら、この世界の成り立ちについて書かれている本を読み漁っていた私は首を横倒す。


「所詮は御伽噺だしなぁ。結局、精霊についてもよく分かんなかったし」


 ――あ、皆さんこんにちは。早くも、8歳になりました。チセです。子供の成長って早いですね。


 今日は外が雨だ。水魔法で頭上にフィールド張れば傘要らずで濡れなくて済むんだけど、雨の日って気分的に外出たくなくなるんだよね~。


 と、言うことで。私はその日、手持ち無沙汰に本でも読んでみようかとなったわけだ。

 この世界の成り立ちについて書かれている『創世説話』は、前世で言うところの『桃太郎』とか『日本書紀』と一緒で、子供大人問わず読まれているポピュラーな御伽噺らしい。私も、『創世説話』はこっちの世界の言葉や文字を覚えている時、教材として読んだことはあった。

 あの時は内容云々より、文字覚えんのに必死だったからよく読み込めてなかったけど、改めて読んでみると、なるほど。やはりよく分からない。


「精霊について書かれてるやつないかな~」


 この森で生活を始めて、魔物と魔法についての知識は深まった。だけど、精霊についてだけは全てが謎のままだ。

 亜人にも会った事はないが、ギルの説明でだいたい想像できた。曰く、人間の姿形に、角やら水掻きやら尻尾やらがくっついる者を亜人と呼ぶ。亜人は平均的に魔力量が高いのも特徴の一つで、身体能力も人間より高い。その異質さから差別を受けていた時代もあったようだが、それも一昔前までのこと。


 亜人の社会的地位は、『世界樹』が出現した頃から徐々に認められるようになり、差別もそれに合わせて無くなっていったとギルから聞いた。今では、亜人も人間と遜色無く生活しているようだ。


「って、亜人のことは良いんだって。精霊だよ、問題は」


 本にも大したことは書かれていない。ギルも、精霊については碌に説明してくれなかったし……。「見た方が早い」って言ってたけど、私たぶん、


「精霊見る才能、ない気がする」


 ギル曰く、見える人には見えるらしい精霊というものを、私は未だに影も形も見たことがなかった。比較的森とか自然の中にいることが多いってギルに聞いたんだけどなぁ……。

 実際それがどんな姿をしてるのかは知らないけど、でもきっと見たら分かると思うんだよね。「見た方が早い」ってそういう意味だと思うし。


 うーん、気になる。精霊。ぶっちゃけ魔法とか魔物とか亜人とかより気になる。


 今、ギルは月に一度の街への買い出しで家を空けている。最初それを聞いた時「ついて行きたい!」と主張した私を、ギルは出来の悪いペットを見るような目で見て「待てができるようになったらな」って、結局連れてってくれなかったんだよなぁ……。


「いや、待てができるようになったらって、どゆこと」


 本をサイドテーブルに放り、ソファにぐでんと凭れかかる。ついでに大きな欠伸を一つ。


「ふわぁあ。……あ、そう言えば雨の日に探し回ることはなかったな」


 ふと、外へ目を遣る。基本、雨の日は引きこもりデーと決めていた私は、天気の悪い日に森を歩いたことがほとんどない。


 だけどもし、精霊を見るのに特殊な条件が必要なのだとしたら……?


「例えば、雨の日の昼間限定、とかね」


 ポツリと呟き、ソファーから身を起こす。


 正直に言いましょう。暇なんです。


「出かけよう!」


 勢い良く立ち上がり、私はそのまま何の雨対策もせずに外へ飛び出した。その瞬間、ザーザーという音が鳴り響く。土砂降りだ。まあ、関係ないけど。

 自分が濡れない程度の範囲、頭上10cm上空にフィールドを張る。すると、傘をさしている時のように雨がパラパラと音を立てて頭上で弾かれた。


「オッケー成功!んじゃ、行きますか」


 目指すは、「お気に入りの場所シリーズ」その2!鍾乳洞だ。






 雨と言うこともあって、鍾乳洞の中はいつにも増してひんやりと涼しい。


 この洞窟を見つけたのは、今日のような雨の日だった。まだ魔法を使い始めて日が浅かった私は、一人で出歩く許可は出たものの、森にも慣れてなかったし、その日は迷子になってしまった挙句、急に降り出した雨で濡れ鼠のようになっていた。そんな矢先、この鍾乳洞を見つけ、雨宿りしたのがきっかけだ。



 洞窟の中は観光地のようには整備されてないし、ライトアップもされていないから暗く、歩き辛い。だから、体を浮かせて地面すれすれを滑るように移動する。同時に手元に火を出現させて、周りを照らす。


 洞窟入り口から狭い通路を進むこと数分。急に開けた視界に、いつものことながらほっと息を吐く。

 ちょっと息が詰まるんだよね、ここに出るまで。目の前に広がった光景を見下ろし、思いっきり伸びをする。


 まるでそこだけ綺麗にくり抜かれたような、巨大空間。上からはツララのようなものが不規則に乱立し、陥没したように抉られ、遥か下に見える地面には、様々な形に変形した岩が芸術品のように並んでいる。まさに自然の美術館だ。


「うわっほーい!」


 崖のようになっているその下へ、バンジージャンプよろしく飛び降りる。テンション高く叫んだ声は、必要以上にグワングワンと洞窟中に響き渡った。


 ぐんっとすごい勢いで下へ落ちる自らの体に風魔法を発動させて、落下速度を下げる。ストン、と着地した底は、建物で言えば地下何階に当たるのか。全く光の射さない場所ってこんなに暗いんだと思うほど、辺りは黒く塗りつぶされていた。手元の火だけだと心許ないくらいだ。


「ってことで、サーチライトに切り替えますかね」


 イメージは車のヘッドライト。ちなみに前世では免許持ってました。一発で試験は受かったんだけど、教習所では割と問題児で、あの時の担当教員の方には迷惑たくさんかけたなあ……。良い思い出だ。


 それはさておき、自分の目がそのままサーチライトになるイメージで、魔法発動。目を開けば、自分の見たところが明るく照らされた。


 この魔法、思い付いた時は「神じゃね!?」って思ったんだけど、長く使うと眼精疲労がやばい。後で来る。初めて使った時は、調子乗って長時間使用して、しばらく充血で苦しんだものだ。

 だから本当に必要な時だけ使う。しかも数分が限度。まあ別に使い続けても死ぬわけじゃないけど、酷使して失明したら嫌だし。


 目からビーム状態で鍾乳洞を進んで行く。すると、壁に新たな道へ続く穴があった。この穴は前回見つけたものの帰る間際だったので、次来た時に探検しようと思って未開拓だったのだ。つまり、ここから先は初潜入!


「テンション上がるぅ!」


 気分はトレジャーハンターだ。こっちの世界観に合わせるなら、ダンジョンってやつ?

 宝物があれば万々歳。精霊に会えれば大金星。


「いざ、出陣!」




 新たなルートを進み、しばらくして。


「ん?何だ……?」


 気のせいか、前方から淡い光が漏れているようだ。出口か……?



 さらに進むこと数分。細く暗い通路を抜けた先、そこにあった物に、思わず息を呑んだ。


「すっご……。これ、全部宝石?」


 切り立った岩壁に囲まれた、小部屋程度の広さの空間。そこに踏み入った瞬間、キラキラとまばゆい程の光が目に入って、慌ててサーチライトを解除する。


 右を見ても左を見ても、キッラキラ。どうやら岩壁と同化している結晶が光を放っているようだ。その色も、青、赤、緑、黄色とカラフルで。よく見れば虹色のものまである。

 どういう原理で発光してるのかは分からないが、その光源は辺りを問題なく見回せるほど明るい。乱反射しているのか、水晶がない場所もキラキラと輝いているようで、その結果この空間全体に光が溢れていた。


 周りを確認して、その先に進む道がないか探してみる。……うん、ここで行き止まりみたいだ。

 休憩がてら、岩壁にもたれかかるように座り込み、幻想的なその光景に暫し見惚れる。


 この洞窟にこんな場所があるなんて。正直あんま期待はしてなかったんだけど、もしかしてこういう所になら、精霊がいるかもしれない。


「精霊さーん出ておいで~。出ないと目玉をほじくるぞー」


 国民的召喚文言を口ずさむ。……何も反応ないな。あれで出てくんのは黒煤だけなのか。


 チッと舌打ちすれば、その音は割と大きく響いた。


「んだよ、私とはお友達になりたくないってか」

『いや、目玉ほじくるとか言うような奴と関わりたくないだろ普通』

「ん?」

『あ?』


 クルリ、右を見れば、顔のすぐ近くに青白い炎のようなものが――……。


「ぎぃやぁあああっ!?出たぁあああッ!?」


『うぉおい!?何だ急に!情緒不安定か!!』


 虫を払うように手を振り回せば、フワリとそれを華麗に避けて、空中へ逃げる炎もどき。

 ドキドキと心臓が音を立てる。それを押さえるように胸元を握りながら、岩壁にピッタリ体を張りつかせる。


 な、なななに、何あれ!?いや、どう見てもアレじゃん!人魂じゃんっ!!


「この洞窟で死んだ落ち武者の魂とか!?いや、落ち着け私。ここは異世界。武士じゃなくて騎士……、お、落ち騎士!?」

『あ?お前俺のこと見えてんのか?』

「喋ってるぅう……。話しかけてくるぅ……」

『まさか、言葉も解してんのか……?まだそんな人間がいたとはな』


 人魂が何か言ってる。憑りつく算段でも立ててるのか!?に、逃げなきゃ……。こんな美少女の体、乗っ取られたら何に悪用されるか分かったもんじゃない!


 脳内大混乱のまま、スタートダッシュを決めようと足を動かす。いける。最速のスプリットタイムを叩きだすのよ、私。


『まあ待て。お前、俺と契約しないか?』

「……え、私魔法少女になるの?」

『魔法少女?闇魔法使いのことか?』

「ん?……はっ!まさか、闇魔法が使える人に憑りつきたいと!?ますます不穏……!」

『……会話が噛み合わねえな。ここ数千年で言語体系が変わったのか?』


 呼び止められてスタートダッシュが不発に終わった私は、いつでも逃げられるように腰を浮かせたままで、恐る恐る人魂を見上げる。


「あんた何?ここで死んだ人?」

『はあ?確かに体は失ったが、まだ死んでねえよ。そもそも精霊には死ぬって概念がねえからな』

「うんうん、確かに死んでたら死ぬって概念も…………。ん?」


 はた、と言葉を切り、人魂を凝視する。

 精霊?……今この人魂、精霊って言った?


『他の奴らは体なんぞいらんっつーが、俺は魔素を流すだけの歯車に甘んじるつもりはねえ』

「ちょ、ちょっと待って」

『なんだ、契約は初めてか?まあ、まだガキだしな。安心しろ、魔獣と違って強い縛りは必要ねえから魔力消費も――』

「いや、そうなんだけど、そうじゃなくて」


 勝手に話しを進める人魂に待ったをかける。ゴクリと唾を飲み込む音が洞窟に響いた。


「あんた、精霊なの?」


 ふるりんと、青い炎の先が揺れる。


『何今更な確認してんだ。どっからどう見ても精霊様だろうが』

「……なんか、思ってたのと違う」

『ああん?』


 しかもガラが悪い。思わず半目になる私に、人魂――改め精霊はその炎ボディを揺らして抗議する。


『人間は精霊に夢見すぎなんだよ。勝手に幻滅される身にもなれってんだ。こちとら体が無けりゃあただの魔素の塊なんだ。そこに何か期待されても困んだよ』

「魔素って何?」

『あ?……ああ、人間は魔力って一塊で呼んでんだったな。魔素っつーのは、魔力のさらに根本にある “力” のことだ。魔素が無けりゃあ魔力は使えねえ』


 ふむ?ってことは、魔素って言うのは電磁気力みたいなもんか?


 中学の理科教師の言葉を思い出す。

 曰く、重力同様、世界を形作る根本的な構成要素の一つに「電磁気力」って言うのがあって、これがなければいくら電子や原子が頑張っても電気は流れない。

 いつもは寝てる理科の授業だが、電磁気力について語った時の教師の熱量は、眠気を飛ばすだけの勢いがあったから覚えている。大学で専攻していた分野だった、と言うどうでもいい情報も添えて熱く語ってたなあ。


 ……話しがずれた。つまり、魔力と魔法が電気と電化製品だとしたら、魔素は魔力を動かすための力、つまり電気を創り出すための電磁気力みたいな、根本的な力であると。ふむふむ。



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