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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
序章 転生
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異世界生活



 私が、ギルバードと運命的な出会い(?)を果たしたあの日から、2年が経った。



 目覚めたあの日。あの時の私は生後5ヶ月程だったらしい。ちなみに女の子。性別は正直どちらでも良かったんだけど、この2年間のことを思うと、男の子であった方がメンタル面のダメージは少なかったのかもしれないと考えずにはいられない。特に1歳になるまでの数ヶ月は、もう羞恥と忍耐の連続だった。


 「あーん」もそうだけど、何より恥ずかしいのはオムツ替えの時だ。いくら見た目赤ちゃんでも、中身は立派な乙女(アラサー)。……もうあの頃の事は思い出したくない。黒歴史として記憶の奥底に封印することに決めた。


 立ってヨロヨロと歩けるようになったのは約3ヶ月後――つまり生後8ヶ月くらいだった。結構早い方だってギルバードは驚いてたな。そりゃそうだ。早く1人でトイレに行けるようになりたくて、めちゃくちゃ頑張ったんだから!


 あ、そうそう。歩けるようになる1ヶ月前くらいに、私は簡単な言葉を話せるようになった。かなり舌っ足らずだが、何とか言葉らしい言葉を紡げるくらいには舌が発達してきたらしい。毎日「あー」とか「うー」とか発声練習をしていた私は、段々と発生できる音のレパートリーが増えていくのを実感していた。


 私が初めて「ぎる」と発音した時のギルバードの顔は見物だった。まさに、鳩が豆鉄砲を食ったような顔でこちらを凝視していたっけ。発声練習していたのはいつもギルバードがどこかに出かけた後だったから、まさか私がある程度、発音できるようになっているとは気付かなかったらしい。あの時は、私もかなりのドヤ顔をかましてやった。


 「ど」の発音がどうしても難しくて、せめて「ギル」だけでも頑張ろうと練習を重ねた。ついでに「ギルバード」と全部言おうとすると、「ぎるばーろ」になってしまう。それを見かねたギルバードに、「ギルでいい」と言われてからはずっと「ギル」と呼んでいる。2歳になった今ではもう、ギルバードって言えるんだけどね。今更だし。


 私がある程度喋れるようになった頃から、ギルバード――ギルはこの世界の言葉を教えてくれるようになった。


 そう、世界。結論から言うと、私が転生したのは地球じゃない、まさかの異世界だったのだ。確かに十字郎は、転生先について異世界とも地球とも言ってなかった。でも異世界が存在するなんて御伽噺だと思うじゃん?そう言う夢見るお年頃はとっくに終わってたし、だからこそ人間に転生できない可能性は考えていても、地球である前提だけは完全に疑っていなかった。


 でも、同時に腑に落ちたこともあった。世界を救う云々ってやつだ。あの条件を最初聞いた時は随分抽象的なことを言ってくれると思っていたが、異世界となると勇者になって魔王を倒すとか、何となくそういう系かなって想像はできる。まあ、やるかは別の話しだし、変わらず抽象的な内容であることには変わりないんだけど。



 この世界の言語は万国共通。マスターすれば言葉に不自由する事はないと言われ、俄然やる気になったのは言うまでもない。発音は日本語にある音とほとんど変わらなかったので、後は言葉と文字を覚えればいいだけだった。


 まあ、そうは言っても英語の成績が壊滅的だった私には辛かったんだけど。それでも1歳になる頃には、ギルと単語で会話できるくらいには言葉のバリエーションも増えていた。

 ギルがこの世界の事とか、いろいろ教えてくれるようになったのは、確かこの頃だ。まだ私がこっちの言葉を完全に理解できるとこまでいってなかったため、説明は日本語でしてくれた。


 その説明によると、ここはRPG的な世界――『ウホマトンケ』と言う星であることが分かった。


 『ウホマトンケ』には五つの大陸が存在する。私とギルが住んでいるのは、東大陸で一番大きな国『ケダトイナ王国』の森の中。私も一応この国の民となるらしい。実感はわかないけど。


 ケダトイナ王国は、どうやら世界的に見ても豊かな国らしく、気候も一年通して安定しており、恵まれた土地と豊かな物流、加えて由緒深い王属騎士団ってのが有名で、軍事力でも他国を圧倒しているんだとか。まあ、これだけ好条件揃ってれば、発展しない方がおかしいよね。


 そして、一番愕然とした事実――。この世界には、魔法やら魔物やら精霊やらが存在する、らしい。実際、まだ見たことはない。ギルはこれらについての説明を省いた。習うより慣れろ、百聞一見に如かずとのこと。


 だけど、ちょっとだけ教えてくれたこともある。まず魔法について。

 魔法には、火・水・風・地・無・光・闇の7属性があって、この世界に生まれた人は必ず一属性は適性を持っているらしい。人によっては複数の属性に適性を持つ者もいるのだとか。


 だけど、魔法を使うには一定の魔力量が必要になる。これは先天的に決まるものらしくて、大抵の人はその値に満たず、実際に魔法を使える人はそんなに多くないらしい。魔力量は、遺伝で受け継がれることが多くて、貴族とか王族は魔力の多い者を子として残すことに執念しているから、魔法が使えるのはほとんどが上流階級の人達で、一般国民にはほとんど魔法を使える人はいないのが現状なんだとか。


 その説明を聞いて、「貴族とか身分制度とかあるのか。面倒だな」って呟いたら、ギルも「そこは同感」と頷いていた。珍しく意気投合した瞬間である。


 ちなみに私は魔法を使えるの?とギルに訊いたところ、「使える」と言われ驚いた。だって別に私は上流階級でも何でもないし……。あれ、違うよね?フラグとかじゃないよね?



 ギルは続けて魔物についても、ちょこっと説明してくれた。


 魔物は主に森とか谷底とか……そういう、人があまりいないような場所に生息しているらしい。その凶暴性によって低級から上級に分けられていて、低級なモノほど数が多く、知恵を持つモノは少ない。唯一の対抗法は魔法なんだけど、いかんせん、魔法を使える人は限られている。まあ、熊みたいなもんで、基本的に人里へ下りてくることはないらしいんだけど、住処を奪われたりすると街に下りてきて人を襲うこともあるらしく、その時は魔術士や騎士といった職業の人達が討伐にあたるんだと。


 ってことは、この森にも魔物いるんじゃね?ってギルに言ったら、当たり前のように頷かれた。と言うのも、私とギルが住むこの木造一戸建ては深い森の中に建てられているのだ。地図を見るとその森の大きさがよく分かる。東大陸の上半分がケダトイナ王国、その中の凡そ三分の一をこの森が占領していた。


 魔物がこの家の中に入って来ることはないとギルは言うが、つまりそれは、家を一歩出れば魔物の巣窟ということだ。私の顔から血の気が引くのを見て、ギルが少しだけ眉を上げた。


「いるにはいるが、種類は限られてる。対処法さえ身に付けとけば、問題ねえだろ」


 その言葉にホッとした私は、続いた次の言葉に、今度こそ卒倒しそうになった。


「ま、この森にいるのは全部、上級以上の魔物だがな」



 何でも、この森は人々から『禁断の森』と呼ばれて敬遠されているらしい。危険な魔物がいるのはもちろん、まず面積が広すぎてただでさえ迷い込んだら抜け出せない上に、いたずら好きの精霊が、迷い込んだ人間に幻影を見せて更に惑わせたり、遭難して死んだ人の霊が彷徨っているとか、あの世とこの世を繋ぐ聖域だとか……そう言った噂が噂を呼んで、いつからか森は立入禁止区域となった。だから現在、この森に住んでる人間は私達くらいらしい。


 ちなみに、精霊についてもギルに訊いてみたんだけど、あまり説明してくれなかった。これは見た方が早いって。見えるもんなの?って訊いたら人によるって言われた。「見えない奴に説明できるような存在じゃない」んだって。だから、精霊については一旦保留中だ。


 ギルの説明から仕入れた異世界情報はこんくらいで、理解できることもよく分からないこともあったが、一つだけ言えることは。


 ――とんでもないとこに来ちゃったなあ。


 確かに?転生先について何も訊かなかった私にも落ち度はありますよ?でも、こういうのって説明義務はあると思うんですよね。事故物件は情報開示が必須とかあるじゃん。完全にこれ、事故物件ならぬ事故()件じゃん。

 やっぱり、あの時感じた不安感は正しかったんだ。奴は天使じゃなくて詐欺師だったのだ。転生後に記憶あった件も含めて、ちょっと一発殴らせてくれないかな。



 ……まあ、そんなこんなで。私は、自分がどういう世界にいるのか、あらかた理解した。


 それからの情報収集の源は、専ら本だった。ギルと会ったその日、欲しい物は遠慮なく言えと言われていた私は、1歳を過ぎた頃からギルに本を乞い、少しずつ知識を蓄えていった。


 ギルは一日に何回か外に出かける。主に食料となる植物や動物を狩っているようだが、時たま私のために新しい本を入手してきた。どこから得てくるのかは謎だがありがたい。


 1歳の頃の私は、歩行練習をした後はひたすら読書に耽る毎日を送っていた。本はいい。言葉を覚えるのにも役立つ。分からない所はギルに訊き、読み終わった本を模写することで書く練習もできる。


 それをひたすら繰り返すこと1年。分からない単語もだいぶ減り、2歳児にしては結構博識になったんじゃないかと思う。喋るのはまだ舌っ足らずなところもあり、片言だが、それでもギルとちゃんと意思疎通が取れるくらいにはなった。



 ……ギルといえば。私とギルの関係もこの2年でだいぶ変わったように思う。たった2年、されど2年だ。


 最初、義務的に私の面倒を見ていたギル。私も別に、それに対して何の異論もなかった。そもそも、その頃の私は羞恥心を耐えるのに必死で、ギルが冷たいだとかそんなことに不満を感じる余裕もなかった。


 何ヶ月か過ぎ、ギルとの生活にも慣れてきた頃には、既にギルの義務的な態度や言動にも慣れてしまい、特に何を感じることもなかった。でもいつからか、ギルは常時装備していた眉間の皺を若干緩め、様々な表情を見せてくれるようになった。これは良い兆候だ。


 私が自立するまでとは言え、それまでは一緒に暮らすのだから、お互いに線を引いた関係は気を遣う。それにワイルドな男前に冷たくされたら、いくら慣れたと言っても少なからずクるものはある。……あ、いや萌えるとかそっちじゃなくて。落ち込むって意味だから。マゾとかじゃないからほんと!



 とにかく、2年経った今。私は何だかんだ、快適な日々を送っている。まあ、まだこれからの長い人生を思うとたったの2年なんだけど。


 それに、ギルとの共同生活もなんだかんだ楽しいし!ワイルドイケメン最高っ!!……え、それが本音かって?そうだよ、悪いかっ!!



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