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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第二章 学校
38/40

ビリクラス



 入学式後、一斉に移動すると混雑するとのことで、座っていた席ごとに順番にクラスへ移動していた私達。

 アルと別れ、他の生徒も段々と減っていき――。


「チセさんは、ここ。8組ね」


 ポツンと一人だけ残った私を振り返り、先生がにこやかに告げる。廊下の一番端っこに位置するその教室は、なんだか他のクラスより日当たりも悪く暗く見えた。


「それじゃあ、後は担任の先生が来るまで教室で待機していてね」

「あ、はい」


 先生は最低限の情報だけ告げると、逃げるように立ち去ってしまった。何だろう、この違和感。

 首を傾げつつ、教室のドアをガラリと開ける。


「こんちわー。チセと言います。よろしく」


 最初が肝心だと、しっかり挨拶を決めて深々と頭を下げる。顔を上げると、数人の生徒と目が合った。

 教室内には6人の生徒がいて、こっちを見ている生徒もいれば、何やら自分の世界に没頭している生徒もいる。まず手前の一番前の席。俯いてぶつぶつ何か呟きながら、熱心に書き物をしている女子生徒。その隣の列の真ん中に、机に脚を上げて椅子をぐらぐら揺らしながらこちらを睨むように見ている赤髪の派手な男子生徒。彼の後ろに隠れるように座っている前髪の長い男子生徒。更に隣の列の一番後ろには、背筋をピンと伸ばしてツンと澄ました女子生徒が一人。またまた隣りに飛んで、一番前にはニコニコと人当たりの良い笑顔を浮かべてこちらに手を振る男子生徒。そして最後の窓際の列にも一人、机に突っ伏して寝ている、パーカーのフードを被った性別不明の生徒が一人。


 なかなか濃いメンツだな、と皆の様子を観察しながら、一先ず人当たりの良さそうな一番前に座る男子生徒に近寄る。


「席は自由?」

「ああ。隣り空いてるぜ」

「ではでは、遠慮なく」


 窓際、一番端の列の一番前に席を決め、鞄を置く。

 教室は大学の講義室のように段々になっていて、机と椅子がその段ごとに備え付けられていた。机は一席ずつしっかりと区切られている。椅子は地面に固定されて動かせないが、座面が360度グルグル回る珍しい造りになっており、赤髪の派手な生徒がやっているように、上下に揺らすこともできる。やろうとは思わないが。


「俺はホラスキー・アトラス。ホリーで良いぜ、よろしく」

「どうも。私はチセ」


 隣りの朗らかな男子はホリーと言うらしい。家名があると言うことは貴族か。握手を交わしてから、ホリーが好奇心に瞳を煌めかせながら身を乗りだす。


「チセは、あの代表挨拶していたアルって奴と姉弟なのか?」

「うん。血は繋がってないけどね。8歳の時に出会って、それからずっと一緒だよ」

「じゃあ、孤児って言うのは本当だったのか。ああ、変な意味じゃなくてな?只者じゃない空気感醸し出してるから、アイツらなにもんだって噂になってんだよ」

「やだなぁ。顔が美しいだけのただの平民だよ~」


 あはは、と笑った後、ふと思い直す。


「あれ、私はもう平民じゃないのか?」

「なんだ、その自問自答」

「ギルド長の養子になったから、一応身分的には貴族になったのかと思って」

「ギルド長?」

「うん。マガフィアって名前なんだけど」


 王弟らしいし、皆は知ってるのかなとホリーの方を見ると、笑顔のまま固まっていた。ふと周りを見回すと、教室内が沈黙に包まれて、刺すような視線が幾つかこちらに向いている。


「え、なにこの空気……。はっ!そうか。いや確かに、子供に好かれる容姿ではないかもしれないって言うか、顔面凶悪すぎて子供育てるって言うより子供を攫う側なんじゃないかとは私も思うけど――」

「違う違う。んな不敬な事……チセは恐れ知らずだな。間違ってもマガフィア様をそんな風に言えないって」


 慌てたように首をブンブン振り、否定するホリー。その後に続くように、敵意むき出しの声が割りこんできた。


「恐れ知らずじゃなくて、単に頭が足りてねえだけだろ」


 ハッと鼻で嗤う声が聞こえ振り返れば、赤髪の男子生徒と目が合う。相変わらず椅子をグラグラさせながら、こちらを睨んでいる。


「拾ってもらった分際で、感謝の欠片もねえのかよ。何でこんな奴が選ばれたのか……。今回ばかりはマガフィア様も判断を間違えられたな」


 眉を寄せてこちらを睨みつける赤髪を横目に、ホリーにこそっと聞く。


「……誰?」

「ウルフライク・レべリオン。初代聖騎士ローアル・スクリムを祖先に持つレべリオン侯爵家の長男だ」

「ほう」


 ホリーとこそこそ話していると、ウルフライクが吐き捨てるように言う。


「この学校生活で、マガフィア様も考え直すだろうなぁ?てめえじゃなくて、俺を養子にするべきだったとよ」

「? それってどういう――」


「ほんと、見てられないわ」


 特大溜息と共に、苛立ちを含んだ声が響く。ウルフライクがぐらぐら揺らしていた椅子をガタリと戻し、ジロリと後ろを振り返る。


「ああ゛?」

「底辺の分際で何を吠えてるの?名前の通り犬みたいな奴ね。負け犬がいくら吠えても、人間にはなれないのだから、貴方が選ばれなかったのは当り前じゃない。何をそんなに悔しがっているのかしら?」


 机に頬杖を突いて赤髪を睨み返したのは、一番後ろに座っている育ちの良さそうな女子生徒だ。勝気な性格なのか、長身のウルフライクにすごまれても怯えた素振り一つ見せない。


「彼女は、アリス・ローレンメリア。公爵家の長女で、見ての通り結構キツイ性格だな」

「ホラスキー、聞こえてるわよ」


 きっとこちらを睨むアリスに肩を竦めるホリー。貴族同士、二人は元から顔見知りのようだ。


「身分笠に着て偉ぶってんじゃねえぞ。てめえこそ、公爵家のくせにこんなクラスになっちまって、親が泣くなぁ!」

「別に、私は事実を言っただけよ。身分を気にしているのは貴方の方じゃなくて?平民に負けたからっていつまでいじけているつもりなんだか」

「……おい、女だからって手ぇ出されねえとでも思ってんのか?」

「あら、私を殴る?マガフィア様に選ばれなかった理由が知れたわね。女に手を上げる男なんて論外だもの」


 アリスが嘲笑し、ウルフライクがガタリと音を立ててのそりと立ち上がる。ヤバい雰囲気だ。

 そろそろ止めなきゃかなと口を開こうとした時、私の後ろから呑気な声が割り込んだ。


「ふわぁああ。……うるさいなぁ。何の騒ぎぃ?」


 不機嫌そうに頭を起こし、目を擦る生徒。大きな欠伸を一つ零し、気怠そうに教室内を見回す。


「まぁたウルフィーとアリスの喧嘩?寝れないから別の場所でやってよ」

「気色悪い呼び方すんな。てめえの枕引き裂くぞ」

「枕はダメ!」


 後ろの生徒が慌てたようにギュッと抱え込んだものをよく見れば、確かに枕だった。腕に隠れてて見えなかったが、教室に枕を持参していたらしい。寝る気満々だなおい。


「彼はネットシー・ブライアン。伯爵家の三男で、ウルフライク、アリスとは幼馴染なんだと」

「あ、男の子なのね。フードに隠れてて分からなかった」


 キャラ立ってんなーと苦笑しつつ、先程から引っかかっていたことをホリーに聞く。


「ところで、ホリー。さっきウルフライクが “こんなクラス” って言ってたけど、どういう意味?」

「あ、もしかして知らなかったのか?このクラスは――」


 ホリーが首を傾げて、何やら告げようとした時だった。



「おーい、クズ共ぉ。席つけ~」


 ガラリと教室の入り口が開き、大柄の男がのそりと入って来た。大柄過ぎて一瞬クマかと思った。


「あーあ、だりぃな。今年こそ辞めようと思てったのになぁ、俺は何をやってんだろうな」


 ブツブツ言いながら教壇に立った男は、教室内をぐるりと見回し、盛大に溜息を吐いた。


「おい、一人いねえじゃねえか。どうなってんだ」

「え、まさか先生ですか?」

「あ?」


 遠慮がちに問えば、半分しか開いていない目がジロリと向けられる。


「他に何に見えんだ。言ってみろ」

「正直言えば、先生というより傭兵って感じです」

「似たようなもんだろうが」

「ええ……」


 改めて担任の先生らしい男を見る。クマのような大きな体に無精髭、眠そうな半目にボサボサな髪。おまけに恰好は寝起きのまま来ましたと言った風な、ヨレヨレのシャツに使い古されたズボンというラフスタイル。


 ……これが担任?まじで?

 言葉には出さずとも、この時初めて生徒一同の心が一つになった。教室内に何とも言えない空気が流れた、その時。


「っす、すみません!遅れました!!」


 ガラリと教室の扉が開き、一人の女子生徒が飛びこんできた。高い位置で結われたポニーテールに、涼し気な目元。スラリと背が高く、クールそうな見た目だが、ペコペコと頭を下げながら席に座る姿を見るに、物腰柔らかな性格の様だ。


「遅刻の理由」

「え?あ、はい!小さい弟が寂しがって泣いていたのを宥めていましたら、遅れました!」


 教壇に立つ男の出で立ちに一瞬目を見開きつつ、圧に押されてビシリと敬礼した少女が馬鹿正直に理由を述べる。本人も言った後、恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めた。


「時間は厳守だ。次遅れたら、訓練場1000周してもらうからな」

「は、はい!」


 コクコクと頷く少女をジッと見ていた私は、「あ!」と勢いよく立ち上がる。


「パン屋の!!」

「え?」


 目を見開いた少女がこちらを見て、同じく「あ!」と立ち上がる。


「超絶美少女なお客様!」

「神対応の店員さん!」


 まさかの再会に、お互い満面の笑みで手を振り合う。


「えー、なんだここの入学生だったんだ~!」

「まさか、同じ一年生だったなんて!すごい偶然!」

「ね!しかも同じクラスってすごい!あ、私はチセ。ねえねえ何て呼べば――――」


 ニコニコと彼女の名前を聞こうとしたその瞬間、ガシリと握りつぶされそうな勢いで誰かに頭を掴まれる。


「い、いたたたたッ!痛い!!ちょっ、……先生!?」

「俺を無視してんじゃねえぞ。仲良しごっこはよそでやれ。今は俺の時間だ」

「暴君!暴君だ!!」


 頭を掴まれたまま、下に押されるようにして無理矢理席に座らされる。チラリと横を見ると、パン屋の店員さんもオロオロと心配そうにこちらを見ながら、慌てて自分の席に座り直す。


「いいか、お前等。知っての通り、このクラスは問題児の寄せ集めクラスだ」

「え、初耳です先生!」

「変人に、不良。訳あり、出来損ない、嫌われ者、社会不適合者、そして――」


 ぐっと乗せられたままの手で頭を押される。


「――平民と、ただのバカ」


 バカ、のところで頭をグルングルン回された後、パッと離れた手。


「そして、この最底辺クラスを毎年押し付けられてんのが、この俺。オルゴ・ルダンデレスだ」


 再び教壇に立った男――オルゴが、「よろしくやるつもりはねえ。覚悟しとけよ」とニヤリと笑う。


「最悪だな」


 ボソリとウルフライクが漏らすと、すかさずチョークが飛んで行く。見事にスコーンと、ウルフライクの額にクリーンヒットしたのを見て、廊下側の一番前に座っていた女子生徒――ずっとブツブツ言っていた変人だ――が、ぶふっと吹き出した。


「そんじゃ、俺の挨拶はこんくらいにして、今度はお前らな。名前と、特技・不得手、後はそうだな。このクラスで生き残る覚悟を聞かせてもらおうか」


 教壇に置いてある椅子にドカリと座り、オルゴが廊下側の列を顎で指す。


「ほい、そっちから。ぱっぱとやれよー」



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