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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第二章 学校
37/40

入学式



『爽やかな風が頬を撫でる今日、私たちは国立魔導騎士学校に入学いたします。本日は私たちのために、このような盛大な式を挙行していただき誠にありがとうございます。新入生を代表してお礼申し上げます』


 厳かな雰囲気の中、壇上にて落ち着いた様子で代表挨拶を読み上げる新入生。

 ライトに照らされ、淡く光る金色の髪に、鮮やかな碧い瞳。絹の様な白い肌に影が落ちるほど長い睫毛。スラリとしたスタイルを新品の制服で包み、堂々とし立ち姿は13歳の少年にしては貫禄があり、見ている者の背筋まで伸ばすオーラがあった。

 挨拶を聞く人々は、うっとりとその美しい姿を見つめ、スラスラと述べられる挨拶に感嘆の吐息を吐く。


『――新入生代表、アル』


 最後の締め括り。家名を述べないことで、彼が貴族ではなく平民であると知った人々は驚愕の表情を浮かべた。多くの者が、彼のことを貴族の子息に違いないと思っていたからだ。


 綺麗にお辞儀をして壇上を下りた彼は元の席に着くが、何故か隣が空席だった。誰か体調不良で欠席でもしているのだろうか。入学初日から出席できないとは可哀想にと、まだ見ぬ新入生に同情の目が向けられたその時――。


「遅くなりました!!」


 バンッと後ろの扉が開き、何事かと会場内の人々が振り返る中、一人の少女が中に飛び込んで来た。

 絹の様な銀色に輝く髪をなびかせて、会場の中に駆け込んだ少女は、壇上に誰も立っていないのを見て、近くの生徒に掴みかからん勢いで詰め寄る。


「アルは!?アルの代表挨拶はまだ!?まだだよね……!?」

「え、ええ!?い、いや丁度今――」

「丁度今から!?」

「い、いえ。丁度今終わったところで……」

「え、嘘。終わっちゃった、の?」


 甘く煮詰めた蜂蜜のような金色の瞳を潤ませ、音がしそうなほど密度の濃い睫毛を瞬かせた様子のおかしい美少女は、その場にガクリと崩れ落ちた。


「嘘、嘘だ……。折角のアルの晴れ舞台を、私は――!!」


 くっ……!と唇を噛み締め俯く少女に、何事かとざわめきが広がる。教師陣が少女の傍に駆け寄ろうとした時。一人の生徒が立ち上がり、少女に近寄る。


「――姉さん」


 他でもない、先程代表挨拶をしていたアルという少年だ。少女の肩に手を置いて静かに声をかける。


「アル!ごめん、アルの晴れ姿だけは死んでもこの目に焼き付けたかったのに……。あの顔面凶悪野郎っ!!」

「落ち着いて姉さん。一旦席に着こう?挨拶なら、ほら。式が終わったらもう一回やってあげるから」

「……本当に?絶対?約束してくれる?」

「うん、もちろん。だから今は大人しくできる?」


 少年はコクリと頷いた少女を立たせると、周りに「すみません」とお辞儀をしながら彼の隣りの席へと少女を座らせる。……そう、あの空白だった席だ。


 会場内の人々の関心が良くも悪くも二人に集まる中、中断された式は司会の『え、えー。では改めて――』という声で、再び何事もなかったかのように再開されたのだった。


 




 ――遡る事、数刻前。マガフィア邸にて。


「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」

「ひええ……」


 一糸乱れぬお辞儀と共にお出迎えされ、私は震えた。震えすぎて頭の上のフェレットが『あぁあぁあぁ』ってなってた。


 ……ギルと離れるのが寂しすぎて、マガフィア邸に移るのを入学式当日まで粘ってしまったのは、確かにやり過ぎたかなとは思う。マガフィア邸の場所も到着した今知ったくらいだ。でも、まさかマガフィアの家がこんな大豪邸だとは思わなかったと言いますか……。王族とは聞いていたけど、あの見た目だし……。なんかもっとアンダーグラウンド的な場所に住んでるんじゃないかとか思ってましたすみません。


 まさに王族といった豪邸に、数十人の使用人。装飾は派手ではないが、素人目でも高級と分かる調度品が廊下に並んでいる。


「お嬢様の部屋はこちらになります」

「うっ……。ひろ……」


 ロマンス・グレーな執事に案内された部屋は、ギルの家のリビングより広かった。軽く2倍はあるだろこれ……。


「あ、あの私こんな広い所じゃなくても……。屋根裏とかで十分なんですけど……」

「ぶふぉっ!うぉっほっほ!屋根裏とは……!お嬢様は可笑しなことをおっしゃりますなあ!」

「え、今そんな面白い事言いました?」


 戸惑う私を振り返った執事さんは、部屋の扉を抑えながらニコニコと笑う。


「ささ、お荷物を置いたらこちらへ。旦那様がお待ちです」

「え、ギルド長いるんですか!?」

「ええ。この日のために仕事を調整されていましたから」


 それは何だか、悪いことをしたな。こちらの都合に合わせてくれたらしい。荷物を部屋に放り込むと、急いで執事の後を追って廊下に出る。

 歩くこと数分。てっきり執務室のような場所に通されると思っていたのだが、出たのは中庭だった。


「来たか」


 訓練場も兼ねているのか、整備された芝生が敷き詰められた開けた場所にマガフィアは立っていた。なぜか、手に木刀を握り締めて。


「……これからお世話になります」


 木刀を凝視しながらも、ひとまず挨拶は大事だろうと頭を下げようとしたところで、ポイと放り投げられた木刀を慌てて受け止める。


「あの……?」

「言っただろう。俺は才能ある若者を育てるために養子を取ったのだと」


 ぴっと向けられたのは、マガフィアが腰に挿している真剣だ。もちろん抜き身。


「手合わせだ。構えろ」


 私は額に手を当てて、天を仰いだ。頭に乗っていたフェレットが『うおっ』と地面に飛び降りるが、今は気にかけている余裕はない。一旦タンマと掌をマガフィアに向ける。


「すみません、私これから入学式で、準備しないといけないんです」

「ああ。知っている」

「……アルが代表挨拶するので、絶対遅刻したくないです」

「ああ。急がないとな」

「…………手合わせって、そっちが真剣で、こっちが木刀っておかしくないです?」

「殺そうとしてくる相手に、有り合わせの武器でどれだけ対抗できるのか知りたい」

「単なる手合わせなんですよね!?」


 これはどうしても相手にしないといけない流れじゃん……。仕方ない、アルの晴れ姿を拝むには、ここで無駄にごねて時間を浪費するより、さっさと相手して学校に向かった方がロスはないはず。

 木刀を構えて、マガフィアと向かい合う。フェレットは執事の腕に抱えられて後ろに下がった。使い魔に頼らない、私自身の力を試したいってか。

 単純に力の差だけで言えば子供と大人でこちらの不利は一目瞭然。必然的にこちらは魔法に頼る戦法を取らざるを得ない。つまり、私がどこまで魔法を使えるか、どんな属性を使えるのか見極めようとしているのか。


 学校には闇属性以外使えるってバレてるけど、ギルド側にはまだバレていないはず。でもなぁ、正直水属性だけでマガフィアに勝てるイメージが湧かない。いや、魔法だけで戦うならやりようはいくらでもあるけど、木刀を渡してきたってことは、魔法に頼り切った戦い方が見たいわけではないのだろう。

 マガフィアが何の属性なのか、そもそも魔法を使えるのかさえ知らないけど、SSランクの実力は伊達じゃないだろうし、出し惜しみしている余裕はないだろうな。


「――はじめ!」


 執事の合図で、即座に木刀をしなる木の鞭に変えて、マガフィアの剣を絡め捕ろうと腕を振る。一瞬目を見開いたマガフィアだったが、体を反らすだけで鞭を避けて剣の一振りで伸ばした枝を切り捨てる。

 ……木じゃ駄目だな。早々に今度は炎の鞭に変えてもう一度振るが、これも避けられる。なるほど、遠距離攻撃で向こうの出方を見ようと思ったが、やはり剣の技術はあちらが上手か。これじゃあキリがない。

 ――少し、無茶するか。


 ふっと短く息を吐いて、体を跳ねさせると、一気に間合いを詰める。すぐさま迫ってくる剣先を潜る様に避けて、そのままマガフィアの剣を握っている方の手に飛びつき、足を絡ませた状態で木刀をマガフィアの手首に打ち付けようとするが、察したマガフィアに木刀を掴まれてしまった。ちっと舌打ちをして、マガフィアの腕を蹴って上に跳ね上がると、木刀を掴んだマガフィアの手を捻る様に反対側に飛んで、再び距離を取る。


 うーん、やっぱり一筋縄じゃいかないな。長期戦覚悟で、と言いたいとこなんだけど。


「式に遅刻するわけにはいかないっ!」


 木刀を構え直すと、私は再びマガフィアに向かって突っ込んで行った。




 執事のズーマイルは、マガフィアとチセの戦いを見守りながら、表情には出さずとも内心非常に驚いていた。

 マガフィアが養子をとろうと考え始めた時から、ズーマイルを始めとする使用人一同、どんな子供を連れてくるのかと様々な想像を膨らませてきた。


「絶対、非凡な子供だと思うの。だって、旦那様が気に入られる子供よ?私達の想像じゃ追いつかないほど突拍子もない子供を連れてくると思うわ」


 これは使用人一お喋りなルルリの言。


「非凡って、例えばどんな?」

「貧民街で悪ガキ束ねてるガキ大将とか、幼くして暗殺のプロとか、ボンドのボスの子供とか!」

「なんで全部()()()()なのよ……」

「でも、ルルリの言いたいこと分かるかも。私達じゃ手も付けられないほど荒れてる子供とか来そう」

「そうそう!だってあの旦那様よ!」

「その、旦那様がどうっていうのやめなさい」


 使用人達の会話を思い出しながら、ズーマイルは目の前でマガフィア相手に渡り合っている子供を改めて眺める。

 ルルリの言うような犯罪臭のする子供が来ることはなかったが、非凡という点では満点だろうと、ズーマイルは口元を緩めた。


「あー!もう、いい加減終わりにしないと時間になっちゃう!」

「だったら、さっさと終わらせてみろ」

「私が終わらせんじゃなくて、あんたが終わらせろって言ってんだけど!?」


 息を切らしながらも、まだ元気にぶんぶんと木刀を振り回す少女チセ。その木刀は魔法で伸ばしたり燃やしたりしていたにも関わらず、渡された時のまま欠けている箇所は少しもない。剣を持ったマガフィア相手に、木刀を壊さず全ての攻撃をいなしている。

 そもそも、ズーマイルはこの勝負は一瞬でつくものだと思っていた。恐らく、マガフィア自身も。しかしこれは――……。


「――マガフィア様。そろそろ」

「ああ」


 ズーマイルの言葉に、マガフィアが一瞬剣先を下に向けた。その時。

 いきなり突風が吹き、その勢いに乗って木刀が飛ぶ。マガフィアが咄嗟に剣を振るう、その隙にチセが一気にマガフィアの間合いに入り込み、手元に持っていた()()()()の木刀を思い切り振り、マガフィアの剣を弾き飛ばした。

 カラン、と中庭に乾いた音が響く。一瞬の沈黙の後、チセが諸手を上げて飛び上がる。


「勝ったー!むふふ、マガフィア殿。一瞬の油断が命取りですぞ?」


 折って二つにした木刀を拾い上げ、自慢げにゆらゆら揺らしながらふふんと顎を上げるチセ。ズーマイルは、マガフィアが負けたと言う事実に驚愕しながら、こっそりと主人の様子を窺う。


 ぐーぱーと剣を握っていた方の手を開閉していたマガフィアが、やがて肩を揺らし始める。


「……くっ……ははは!!」


 やがて大声で笑い声を上げたマガフィアに、チセはずざっと後退りながら恐怖で顔を引き攣らせる。無理もない。ズーマイルでさえ、久し振りの主人の笑顔は凶悪過ぎて、思わず顔を反らしそうになってしまった。我が主人は少々――野性味溢れる人相をされているのだ。


「よくやった。やはり俺の判断は間違っていなかった」

「そ、それはどうも。これで、もう入学式に行っても……?」

「構わん。ズーマイル、チセを風呂に」

「御意」

「ええ!?いや、服着替えて髪梳かすくらいでいいって!悠長に風呂なんて入ってる時間ないよ!」

「汚れている。腐っても王族の端くれが泥だらけで礼典に参席するなど言語道断」

「だ・れ・のっ!せいだぁああああ!!」


 チセの怒りに満ちた咆哮が中庭に響き渡る中、ズーマイルは準備のため踵を返しながらほくそ笑む。やれやれ、これから騒がしくなりそうだ。






「――ってなわけでさぁ、入学式遅刻するし最悪だよ」

「そうだったんだ。仲良くやってるようで良かったよ」

「アル君。話し聞いてた?」


 入学式も終わり、各教室へ案内される途中でアルに愚痴る。


 あの後、あっと言う間にメイドさん達にえっさほいさと風呂に放り込まれて全身を磨かれ、髪をつやつやになるまで洗われ揉まれ結われ、魔法のような素早さで制服を着せられ、懇切丁寧に見送られた。

 入学式が終わる前に滑り込めたのは、ひとえにメイドさん達が優秀だったからだ。本日のMVPである。


「アルは大丈夫だった?ギルの家出てから途中で分かれたから――」

「うん、僕は特に……。やけに色んな生徒に話しかけられたけど」


 苦笑しながら頬を掻くアルに、まあこんな美少年いたら誰でも仲良くなりたいと思うでしょと半目になる。ギルドでも、冒険者のおっさん達に可愛がられてたもんな。老若男女を魅了するとは、さすが王子様。


 暫くは寮生活になるからギルドに行くこともないけど、今日挨拶に行ったら皆総出でお見送りをしてくれた。用事のない人達までギルドに押し掛けて、軽くお祭り状態だった。ルイジー兄弟がいつものツンツンとした態度で「ま、頑張れよ」って声かけてくれた時は思わず笑っちゃったけど、嬉しかったなぁ。


 それに比べてギルときたら随分あっさりとしてて、パイプをぷかぷかさせながら「元気でな」と言ったっきり新聞に視線を落としてしまって、見送りさえしてくれなかった。冷たい奴だぜ。ギルらしいけど。


 ギルは、親と言うにはお互い割り切った関係だったけど、私は彼のことが大好きだ。この世界で唯一、私の事情を全て理解してくれている存在なのだから、ギルがどう思っていようと、私はこれで関係が切れるだなんて思っていない。

 なんなら、長期休暇になったら友達の家に遊びに行くノリで、突撃訪問してやろうとこっそり思ってる。


 だけどアルからしたら、やっぱりあんまり納得できなかったみたいで。


「最後、あんなあっさり……。ギルには情ってもんが無いのかな」


 少し拗ねたようにそう言うアルが可愛いのなんの。アルにこんな顔させるなんて、全くギルめ!罪な男だな!!


「今度王都のお土産持って、ギルの家に押し掛けよう!」

「はは、うん。今からお休みが楽しみだ」


 ――なんて、笑い合っている内にクラスに到着した。1年1組、アルのクラスだ。

 そう、私達はクラスが分かれてしまった。


「それじゃあ、姉さん。暴れ回ったりしないでね」

「私は猛獣か」

「お昼、一緒に食べよ」

「食べるっ!!」


 全力で手を振り返して、くるりと後ろを向く。

 と、こちらに注目していたらしい生徒たちが、慌てたように視線を反らした。やべ、うるさかった……?ま、今さらか。


 私は先生の指示に従って、他の生徒たちと共に自分の教室に向かってルンルンと廊下を進んだ。



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