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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第二章 学校
36/40

センチメンタル



「――巡回中、急に暴れだした?」

「はい。あの路地に入った瞬間、モーブ団員が急に豹変し襲い掛かって来ました」

「なるほど。そして、追い詰められたところに彼女が現れたと」


 ――騎士団駐屯所内、取調室。

 二人の視線が一斉にこちらを向く。ぼけーっと椅子に座っていた私は、突然注目されたことにびびって肩を跳ね上げた。


「あ、はい。えっと、そこの人が切られそうになっているところに丁度居合わせたので、咄嗟に魔法で拘束を――使い魔が」


 最後を強調して答える。あ、そう言えばウトオトには闇属性以外使えるのバレてるんだった……。折角、目立たないように技名まで考えて対策したのになぁ。

 ま、引き続き学校では “隠れ蓑大作戦” を実行する予定だけれども。


 ふふっ、そう学校。何て言ったって、私はもう合格しているのだからっ!!


「ふふふっ……へへ」

「チセさん?聞いてますか?」

「へ、あ、はい。私は大丈夫です!」

「……聞いていなかったんですね。いいですか、これからはこういったことがあっても安易に関わらず、すぐに騎士団員か治安部隊を頼ってください」

「……はい、すみません」


 言っていることはごもっともなので、神妙に頷く。


「ところで、王都ではこう言ったことがよくあるんですか?」


 王都って治安悪いのな~と思って何とはなしに質問してみたのだが、帰ってきたのは沈黙だった。ウトオトも団員さんも、難しい表情で黙り込んでいる。


「え、えっと。何かまずいこと聞きました……?」

「いえ、そうですね。チセさんはこれから王都の学校に通うわけですから、知っておいたほうが良いかもしれません」


 深刻そうにそう言ったウトオトに、ゴクリと生唾を飲み込む。

 も、もしかして……。夜な夜なチェンソーを持った男が街中をうろついているとかそういう!?


「実はですね、最近王都で――」

「王都で……?」

「通り魔事件が多発しているんです」

「やっぱり、チェンソーですか!?」

「チェ……何です?」


 違うらしい。しかし、通り魔とは……。確かに非常に物騒である。


「騎士団員にも何人か傷害被害が出ているのですが、未だに犯人が見つけられていないのです」

「傷害……。殺されてはいないって事なら、その襲われた人は犯人を見ているんですよね?」

「ええ。しかし、犯人は毎回違うのです」

「犯人が違う……?」


 雲行きが一気に怪しくなった。眉を寄せて聞き返せば、ウトオトも厳しい表情で頷く。


「皆、よく見知った人に襲われたと言うのですが、どうやら犯人らは何者かに操られていたようなのです。丁度、先程チセさんが体験したように」

「あ!」


 なるほど、そういうことか。隣りに座る団員さんを見ると、悔しそうな表情で唇を噛み締めていた。

 先程まで隣りで笑い合っていた人が、いきなり豹変して刃物を振りかざす。まるで、噂の通り魔のように。


「……怖いですね」

「ええ。騎士団も真犯人を追って調査してはいるのですが、未だ手掛かりは掴めていません。ですので、チセさん。どうか、無暗に首を突っ込んだりしないように。くれぐれも気を付けてください」


 真剣な表情でそう諭すウトオトに頷き返し、私は駐屯所を後にした。






「ふ~。さてと、王都での用事は無くなっちゃったわけだけど、これからどうしますかね」


 大きく伸びをして、晴れ渡る青空を見上げる。まさに合格日和ってね!いやぁ気分爽快、今の私は空をも飛べるぜ!リアルにね!

 腰に手を当てて、わはは!と高笑いをして少しの沈黙の後、やけに静かなフェレットを頭の上から降ろす。


「どうした?さっきからずっと黙ってるけど。体調悪い?」


 滑らかな白いボディを撫で回すと、鬱陶しいと言う風に尻尾で手を叩かれる。


『ただ陰の気に当てられただけだ。すぐ戻る』

「陰の気……もしかして、路地に入った時から?ごめんごめん、無茶させちゃってたか」

『ちが……、うっ、気持ち悪ぃ……』

「いったん宿に戻るか。さっきのパン屋にでも行こうかと思ってたんだけど」

『……パン屋行く』

「え、いやいや。一旦休んどきなよ」

『行く』


 ……ま、食欲あるなら大丈夫か。精霊の癖に食欲あるってどうなのって思うけど。

 フェレットを腕に抱え直し、なるべく揺れないよう気を付けながら道を急いだ。




「は~、良い匂い。パンの香りってほんと食欲増進させるよねえ」


 数分後、到着したパン屋の扉を押し開けると、カランカランと涼し気な音が鳴って、香ばしい匂いに全身が包まれる。


「いらっしゃいませ~」


 焼きたてのパンを並べていた店員さんが、明るい声で来店を知らせる。接客マナーのお手本のように元気な声だ。私とそんなに年が変わらなそうに見えるけど、しっかり働いてて偉いな~。

 店内には数人のお客さんがいて、夕方と言う微妙な時間帯にも拘らず繁盛しているようだった。


「うわぁ、美味しそう。全種買うか」

『賛成』


 パンの香りで吐き気もマシになったのか、身を起こしたフェレットがつぶらな瞳を輝かせて鼻をヒクヒクさせる。よーしと腕まくりをして宣言通り全種盛りにしたトレイをレジに持って行くと、店員さんが驚いた様に目を見開いた。


「こんなにたくさん、ありがとうございます!でも、そんなに日持ちはしないですよ……?」

「あ、はい。大丈夫です。今日全部食べるんで」

「今日、全部!?あ、大家族とかですか?」

「そ……んなもんのような気がしないでもないような感じです、はい」

「そうなんですね!私も兄弟多いのでお揃いですね~」

「――このパン屋さんは、ご家族で?」

「はい。私、将来このパン屋さんを継ぎたくて、今は見習い中です。……王都は初めてですか?」

「2回目で」

「やっぱり、外から来られたんですね!こんなに可愛い子がいたら、王都中で話題になってますもん」

「いやいや、お姉さんも十分可愛いじゃないですか」

「ええ、いえいえそんな」

「いやいやいや」


 言いながら、手際よく会計をしてパンを包む店員さん。お金をぴったり会計台に置くと、笑顔でパンパンになった袋を渡してくれた。


「ありがとうございました!また来てください」

「はい、また寄ります」


 私も笑顔を返して、店を後にする。いやあ、何だか久し振りに、人とまともな会話をした気がする。


「美人な子だったな~」

『人間の美醜には興味ねえ。それよりパン!』

「……まともな会話って難しい」


 溜息を吐きつつ、素敵な出会いに気分は上々だ。鼻歌を歌いながら宿に帰り、早速袋の中身を並べる。


「あ、私これ食べたい!」

『待て、俺もそれ狙ってたんだ!』

「ええ……。じゃあ半分こね、しょうがないなあ」

『――おいバカ、お前それ、半分じゃねえだろ!明らかにチセの方が多いじゃねえか!』

「あらあら、この子ったらやぁねえ。隣の芝生は青く見えるって言うでしょ?」

『じゃあ、逆でも良いな。交換しろ』

「いただきま~す」

『……ああ、そうかよ。お前がそのつもりなら、こっちも考えがあるぜ。――くらえっ、目潰し!』

「ぎゃ、ぎゃああああ!!目が、目がぁあああ!!」

『ふんっ』


 ずざざぁと崩れ落ちた私を見下ろし、鼻を鳴らしてこれ見よがしにパンに食らいつくフェレット。くそこいつ……すっかり元気じゃねえか……。

 フェレットを横目に睨みながら、半分こしたパンにかぶりつく。ふわっとした柔らかさとほのかに甘い食感。こ、これは――!


「めちゃくちゃ美味しい!学校行くようになったら通いつめよっと」

『ああ、うまいな』


 珍しい。フェレットがストレートに褒めるなんて。相当気に入ったようだ。一人と一匹で舌鼓を打ちつつ、夕日に輝く王都の街並みを見つめる。


「明日帰るか。もう少し滞在しても良いけど、またフェレットの調子が悪くなっちゃったら困るし」

『もう治ったけどな』

「はいはい、ようござんした。……皆にも、合格したって早く報告したいしね」


 ポツリと呟き、パンを口に詰める。うまうま。

 ちなみに、パンは7割フェレットに食べられた。






 翌日、早々に荷物をまとめて王都を出た。どうせ学校行くようになったら、王都なんて飽きるほど満喫できるだろうし。それより、今は早くアルやギル、皆に合格したって伝えたい!


 ルシナンテを飛ばして、行きよりさらに早く帰った私は、その足でギルドの扉を潜る。


「ごめんあそばせー!この(わたくし)が――――」

「ちいかまちゃん~!!合格おめでと~!!」


 『ただいま(お嬢様ver.)』を言い終わる前に、すごい勢いで駆け寄って来たモユクにガバリと抱き締められる。更にその後ろからブルムントがやって来て、苦笑しながら私の頭を撫でる。


「おかえり。まさか、繰り上げ合格とはなぁ。無駄足になっちまったな」

「え、なに。もう皆知ってんの!?なんで?」

「ナトリさんから聞いたの。すれ違いになってしまったんだってねぇ」


「そういうこと。王都に着いてすぐに誰かに教えてもらえたみたいだね、よかったよかった」


 裏から顔を出したナトリがヒラヒラと手を振る。その隣で、ウーグィスが満面の笑みで拍手する。


「おめでとうチセちゃん!よかった、ほんとに……」


 若干涙声で何度も頷くウーグィス。彼女の言葉を皮切りに、ギルド内の冒険者達が、いつぞやの時のようにわらわらと集まってくる。


「チセが合格!?」「何かの間違いじゃねえのか!?」「奇跡だ……。奇跡が起きた……」「俺は夢でも見ているのか?」「あ、すみません。明日の天気が崩れる可能性があるので依頼はキャンセルで……」


「――ちょっと皆、アルとの時と態度違い過ぎない?」

『むべなるかな』


 腕の中でうんうんと頷くフェレット。むぅと唇を突き出す。


「そりゃあアルに比べれば頭悪いけどさ~。私も頑張ってたんですけど~」

「はは、分かってるって。よく頑張ったな」

「ブルルン……!兄貴だ……兄貴と呼ばせてくれ!」

「遠慮しておくな」


「おいおい、兄貴の前に弟だろ。アルには報告したのかい?」


 誰かが茶化すように声を上げる。それに、はっとして周りを見回す。


「アル、ギルドにはいない?」

「ええ、今日はまだ来ていないわ」


 ウーグィスの答えに頷き、クルリと踵を返すと駆け出しながら皆に手を振る。


「家に帰って報告して来る!」

「……ああ。ギルド長は今不在だから、チセが帰ってきたって僕から言っておくよ」

「よろしくお願いします!」



 たったかと見慣れた道を走り抜ける。この道を通るのも後数回かと思うと、何だか感慨深い気持ちになる。ナトリンのチュートリアルを受けた時は、まさか学校に行くことになるなんて、思ってもみなかったんだよなぁ。人生どうなるか分からないものだ。二度目の人生でもそう思うんだから、何度経験しても、未来なんて成るようにしか成らないもんだと、つくづく思う。


「なんて、センチメンタルになったりして」

『いきなりどうした。ついに頭いかれたか?』

「……前から思ってたけど、フェレットの私に対するイメージどうなってんの?」

『やべえ奴』

「シンプルに悪口!」


 ――なんて言い合っている内に家に到着しました。

 何だか謎に緊張して、扉の前で立ち止まり一度深呼吸する。


「っし。こほん、ただい――――」


 ――パアンッ!!


「お帰り、姉さん!」

「遅い。いつまで待たせるつもりだ」

「!?」


 突然の破裂音に言葉も出ずに固まっていると、アルのエンジェルスマイルに出迎えられる。その後ろには、不機嫌そうに立っているギルの姿が。二人の手には、クラッカーが握られている。


「姉さん、合格おめでとう!!」

「さっさと手ぇ洗ってこい。飯が冷める」


 フワフワと髪を揺らしながら天使が抱き着いてくる。机の上にはパーティーと言って良いほど豪華な食事が並んでいた。


「……姉さん?」


 いつまでも動かない私を不審に思ったのか、笑みを顰めて心配そうに顔を覗き込んでくるアル。そして、ギョッとしたように目を見開いた。


「ね、姉さ――な、泣いてる!?ギル、チセが泣いてる!!」


 つーっと右目から流れた雫。驚いて叫んだアルが、ぎゅっと抱き締める力を強めて頭を撫でてくれる。


「どうしたの!?誰かに何か言われた?王都で嫌なことでもあった!?」


 慌てふためくアルに、料理を並べる手を止めて眉を顰めるギル。二人の視線を受けて、私の涙腺は限界を迎えた。


「う、うわああああんっ!!」


 アルにしがみついて号泣する。


 別に悲しくなんてない。もちろん、これは嬉し涙だけど、もっと複雑な感情も混ざりあって、何だかもう駄目だった。家に帰ってくる前に、センチメンタルな気持ちになってたのも、拍車をかけた。

 アルが弟になってくれて良かったなとか、勉強が大変だったとか、合格した嬉しさとか、ギルとの生活がもうすぐ終わる寂しさとか――、前世のこととか。


「ううっ……。アル大好き……」

「う、うん?」

「ぐすっ……。ギル愛してる」

「……恥ずかしい奴だな、お前は」


 苦笑しながら、ポンと私の頭に手を置くギル。この撫で方、懐かしいな。小さい頃以来だ。

 えへへ、と泣き笑いしながら、ずずと鼻をすする。


「二人とも、ありがとう。最高の合格祝いだよ」


 こちらの感動的なやり取りそっちのけで、一足先に料理にありついていたフェレットを追いかけ、席に着く。ギルの手料理を堪能した後、デザートでケーキが出て来た。アルとギルで飾り付けをしたと聞いて、またちょっと泣いた。




 夜、久し振りに前世の夢を見た。双子の弟、千明が大学に合格した時の夢だった。


 ――パァンとクラッカーの鳴る音が響く。


『おかえりー!そしておめでとー!桜満開めでたい!!』

『……びっくりした。ただいま』

『おかえり、アキ君。第一志望、合格おめでとう』

『父さんもありがとう。……うわ、これどうしたの』

『ふふん。二人で飾り付けしてー、ケーキ作ったんだ~!ケーキのデコレーションはほとんどダディーがやりました』

『自信作だよ、ポイントはこのお菓子の家の屋根なんだけど――』

『ああ、今日の予定やたら聞いてくると思ったら、そういうことだったんだ。父さん、体調大丈夫だったん?』

『ああ、今日は調子が良いんだ。一緒にこうしてお祝いできて良かったよ』

『……ありがとな。で、ケーキも嬉しいけどご飯は?』

『『あ』』

『……ケーキに夢中で忘れてたのか』

『た、たまにはピザとか頼もうよ!今日はパーティーなんだからさ!』

『そ、そうだね。ちょっと待ってて。ここら辺にチラシがあったと思うんだけど』


 ガサゴソと棚を漁る父の背を追いかけようとして、千明に呼び止められる。


『千世』

『ん?』

『お金、ありがとう。俺のためにその――』

『もうまたその話し?別にやりたくてやってるだけだから、お礼もいらないって。そもそも、私は勉強なんて向いてないし、早めに社会出て良かったって思ってるくらいなんだから』

『……絶対千世より良い会社入るわ』

『はは、生意気』


 その後食べたピザもケーキも本当に美味しくて、たくさん笑って騒いで――。

 懐かしいなぁ。パパも千明も、元気にやってるかな……。



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