表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第二章 学校
34/40

入試



 ――ガヤガヤと、興奮冷めやらぬ人々で溢れ返る、魔騎学のバカでかい校門前。

 そこに、どこか悩まし気な雰囲気を漂わせた美少年が、周りの視線を一身に浴びながら、門の柱に寄り掛かるようにして立っていた。


 女子の熱い視線にも、男子の好奇の視線にも全く無反応だった美少年が、頬に影を落とすほど長い金色の睫毛をふと上げて、何かに気付いた様に視線を前に動かす。


「――あ、姉さん。お疲れ様。どうだった?」

「……」

「姉さん?」


 訝しげに首を傾ける美少年の視線の先には、銀色に煌めく髪をはためかせ、ずんずんと無言で近付いてくる、これまたとんでもない美少女が一人。

 少年の前まで辿り着いた少女は、その可憐な見た目から想像できない粗雑な動作で、ガシリと少年の肩を掴み、真剣な表情で言い放った。


「バレた」

「は?」




 試験を終えた私達は、学校から騎士団駐屯所の借部屋に一旦戻る。

 私は、ベッドに座り込んで、顔を手で覆った。


「――とりあえず。試験の手応えはどうだった?」

「……筆記試験は、とりあえず全部埋めた」

「え、すごいじゃないか。模擬試験の時でさえ半分も埋められなかったのに。それじゃあ、実技試験で何かあったの?」

「……――れた」

「? なんて?」


 私の隣りに腰かけたアルが、耳を近付ける。私は前髪をぐしゃりと掴み、唸るように告白した。


「水属性以外も使えるって、バレちゃった……」

「ええ!?」


 なぜだ、どうしてこうなった……。何度思い返しても分からない。先程から脳内で繰り返し再生されている実技試験の情景を、私は再び思い起こした。




 ――いよいよ本番。筆記試験は、受験番号ごとに各教室に割り振られ行われた。

 アルとはクラスが分かれてしまったものの、何とか問題を解き切り、受験生は続いて基礎体力測定をするために体育館のような場所へ移動となった。

 各教室ごとに引率がつき、上手く混み合わないようにローテーションで身体測定を行っていく。私も順調に測定を終え、再び教室へ戻ると、「続いて魔力値測定と特殊能力測定を行います。順番に呼びますので、呼ばれた方から試験会場に向かってください。終わりましたらそのまま帰っていただいて大丈夫です」と説明され、呼ばれた者から順々に教室を出て行く。


「――受験番号004988、チセさん」

「はい」


 試験会場へはご丁寧に矢印が貼ってあって、その指示通りに進む。そうして辿り着いた部屋の前、病院の待合室のように「次の方どうぞ」と呼ばれて、最後の試験を受けるべく、足を踏み入れた。



 中には長机が一つあって、三人の試験官が腰かけていた。

 一人は、長く伸ばした紫色の髪を緩く三つ編みに結んだ、血色が非常に悪い男性。もう一人は白い口髭をちょびっと生やし、丸眼鏡をかけた温和そうな小太りの男性。


 そして、もう一人は――……。


「あ」


 最後の一人と目が合って、思わず声を漏らす私にニッコリと微笑んだ()は、掌を差し出す。


「昨日振りですね、チセさん。どうぞ、こちらへ」

「えーっと、救世主……じゃなくて、ウトオトさん」

「はい。ウトオトです」


 促されるままウトオトの前に立つと、机の上に置いてあった二つの機具の内、一つを渡される。握力計に似たこれは、魔力値測定か。


 模擬試験の時は、なるべく強く握らないようにして魔力を流してみたのだが、結果を聞けば「チセの魔力値は平均より少し多いくらい」と言われた。「魔力量があれば学科の選択肢が増えるけど、なくても不合格の要因になることはないから」とナトリは言っていたから、今日も模擬試験の時みたく、あまり力込めずに握っておこう。

 周りの反応から、自分の魔力量が多いことは何となく分かってる。でも、目立ちたくないし。ここで好成績を修める必要もないだろう。平均値前後の結果が出るように調整しなければ。


 魔力測定器を握って、魔力流れろ~と念を送った後、ウトオトへそれを返す。ウトオトはチラリと数値を見た後、隣に座る紫の髪をした不健康そうな試験官にそれを渡す。すると、そのマッドサイエンティストじみた試験官は、カッと目を見開いて測定器を凝視し、「平均値だと!?ありえない……」とブツブツ呟く。


「え?」

「いえ、気にしないでください。ところで、現在契約されている使い魔はいますか?いる場合は、種属を教えてください」


 有無を言わさない笑みを向けられ、ブツブツ呟いている紫髪の男を気にしつつも素直に質問に答える。 


「はい、2匹います。一角馬とフェレットです」

精霊(フェレット)?」

「新種です」


 ピクリと眉を動かしたのは、今まで黙っていた三人目の試験官だ。眼鏡をカチャリと上げ、口髭を撫でながら試すようにこちらを見遣る。


「それは本当に新種なのかい?個人の判断では――」

「新種です」

「いや、しかし――」

「し ん しゅ です」

「う、うむ……」

「……なるほど、分かりました。それでは、お次にこちらの測定機を」


 数度頷いたウトオトが、今度は属性を調べる石板を示す。


 いよいよ来た。さてさて精霊さん方、お願いしますよ~。水属性だけ反応させるんですよ~。闇属性だけは絶対反応させちゃだめですよ~。

 模擬試験の時同様、見えない精霊に念を送りつつ、石板の上に手を置く。






「――――そしたら、闇属性以外の全属性が反応しちゃいました」

「なんで?」


 アルが真顔で首を傾げる。いや、それ私が一番聞きたい。


『精霊の数が少なかったのかもな』


 空間が歪んで、にゅっと顔を出したフェレットが『よっこいせ』とアルの頭に飛び降りながら、そう言った。


『前にも言っただろ。契約している精霊となら緻密な意思疎通が可能だが、契約をしていなければその精度は落ちる。加えて、肝心の願いを聞く精霊が少なければ、さらに悪くなる。……試験会場にはあんま精霊がいなかったみてえだな。“闇属性を反応させたくない” っつー願いしか通らなかったんだろ』


 あっけらかんと言われ、いやいやいやと首を横に振る。


「でも、模擬試験の時はちゃんと聞いてくれたじゃん!そんなにギルドと此処とで精霊の数が変わるもん!?」

『さあ。まあ基本的に人が多くいる場所に精霊はあまりいねえからな。他にも原因があるとすれば――陰の気を纏った奴が、その場にいたとかじゃねえか』


 フェレットの言葉に一瞬浮かんだのは、マッドサイエンティストじみた試験官の姿。

 ……いや、でも見た目で人を判断するのは良くないよな。いかにもな感じだったけど、まさかな。


『まあ、闇属性だけでもバレなかったんだからいいじゃねえか。そもそも合格するかも分かんねえしな』

「そこ言います?事実だけど」

「大丈夫そうなの?」


 フェレットの言葉が分からないアルが、上目遣いで首を傾げる。なにそれ可愛い。


「――まあ、とりあえず結果次第かな。合格発表は3日後だよね?」


 ぼすんとベッドに寝転びながら問えば、アルが頷く。そう、たった3日で結果が分かるらしい。魔法の力は偉大である。


「もう開き直って、打ち上げしよう!テスト終わった記念にさ!」

「それって、合格した後にやるもんじゃないの……?」

「それはそれで別にやる!」




 それから2日間は、騎士団の訓練の見学をしたり、騎士団のお兄さんとチャンバラごっこをしたり、城下町を観光したり、毎夜打ち上げと称して酒場に行き、グラマラスなお姉さん方に奢ってもらったりした。あ、もちろんジュースだよ?


 ――そうして3日後。合格発表の日。


 早朝、コツコツと何か固いものがぶつかる音で、ふと目を覚ます。半分しか開かない目を擦りながら体を起こした私は、音がする方向――窓へ視線を動かす。すると、すでに起きていたアルが窓を開けるのが見えた。


「なぁに?誰か小石でもぶつけてんの~?ドライブのお誘い~?」

「どら……?いや、通知用の伝書鳩だよ」

「はと?」


 裸足のままペタペタと窓際へ移動し、アルの手元を覗き込む。そこには、金色の折り紙で作られた小鳥が2匹いた。雀くらいの大きさで、宝石のように赤い瞳が煌めいている。


「……私の知ってる鳩じゃない」

「魔道具だから、本物の鳥じゃないよ」


 アルが私の方に掌を向けると、鳥の一匹がぴょこんと肩に飛び乗って来た。そして耳元でクシャクシャと言う音がした後、ヒラリと一枚の紙が手元に落ちてくる。

 アルの掌の上に乗っていた鳥も、クシャクシャと音を立てて形を崩し、紙の形に変貌する。


「合否通知だね」

「え!?」


 慌てて手元の紙を見る。上から下まで嘗めるように見て、顔を上げる。


「まずはアルからどうぞ」

「……合格したよ」


 ピラリと紙をこちらに向けるアル。そこにはでっかく「合格」の文字が。


「え、合格?」

「うん」

「え、ええええ!?おめ、おめでとうっ!!すごいじゃん!やったぁああああ!!」

『何の騒ぎだ……』


 大声で叫ぶ私に、まだ寝ていたフェレットがのそりと頭を起こす。


「で、姉さんは?」

「不合格」

「そっか、まあ何だかんだ言って姉さんも――……。え、不合格?」

「うん。不合格」


 アルを真似るように、ピラリと紙を見せれば、アルがまじまじとその「不合格」の文字を見て、一つ頷く。


「うん。確かに不合格だね」

「ま、手応えなかったしね~。予想通りと言いますか」


 肩を竦めてアメリカンポーズを決める私を見ることなく、アルが難しい表情で紙を睨む。


「じゃあ、次は一月後の一般試験か。そうなると――」

「養子縁組の話しを受けなきゃね」


 話しは早いと、帰る準備を始める私を見て、アルは何か言いかけるように口を開いたが、結局何も言うことはなかった。






 騎士団の皆に挨拶をして、早速家路を戻る。

 行きは4日間かかった道のりだったが、帰りは急ぐことなくゆっくり帰ったため5日かかった。



「皆の者!殿の帰還じゃあ!ひれ伏せいっ!!」


 ギルドの扉をバンッと開けて『ただいま(殿様ver.)』を叫んだ私に、ウーグィスが気付いて立ち上がる。


「アル君、チセちゃん!お帰りなさい~!」


 ウーグィスの声に、周りの人もこちらに気付いてわらわらと囲まれる。


「おうおう、どうだったんだ?え?」

「迷子にはならなかっただろォなァ?ああ?」

「もちろん、合格したんだろ?おおん?」


「ぐえっ、く、苦しい……。ね、姉さん助け……」

『うおっ!尻尾を掴むんじゃねえ!!』

「詰め寄り方がヤ○ザなんよ。なんでそんな治安悪いんだよ」


 潰されているアルを救出し、なぜかライオ○キ○グのように掲げられているフェレットを回収しながら、群がる大男達をしっしと追い払う。


「散った散った。あたしゃあ忙しいんだよ」

「ってこたぁ、チセはまだ試験が残ってんだな。落ちたのか」

「ドンマイドンマイ。まあ、人生そんなもんだ」

「で、アルはどうだったんだ?」

「う、受かりました」

「おおおおっ!!聞いたか!?アルが合格だとよっ!!」

「なにい!?」


 一人が大声で叫び、ギルド内にいた人々の視線が一気にこちらに向く。


「合格!?アル君が!?」

「おいおい、本当にやりやがった!!」

「俺はアルならやってくれると思ってたぜ!」

「この町の誇りだなあ!ええ!?」

「ぐっぐぅ……!だから、潰さないでって……!」


 再びもみくちゃにされるアルに、やれやれと溜息を吐き、早々にその場を離れる。そして、成り行きをニコニコと見守っていたウーグィスのもとへ。


「あら?助けなくて良いの?」

「これ以上の邪魔は野暮だからね。……ナトリンは?」

「裏にいるわよ」


 関係者扉を通してくれたウーグィスにお礼を言って、ナトリが待っているだろう部屋に向かう。


『あの男の気配もあるな』

「誰?」

『お前の天敵』


 ……マガフィアか。まあ、いるよな。彼の養子になるべく、此処に来たんだし。

 辿り着いた部屋の前で深呼吸をして、コンコンと扉を叩く。


「どうぞ~」


 キィと軋む扉を開けると、中にはいつぞやの時のように、ナトリとマガフィアがソファに座って待ち構えていた。


「あれ、アル君は?」

「表で、もみくちゃにされてる」

「置いて来たの?」

「本日の主役だから。それに――」


 私は、二人に向かい合ってソファに腰かけた。


「言ってましたよね。本意は、養子になると決めた時に話してくれるって。だから、アルは置いてきました」


 肩の上に乗っていたフェレットを膝の上におろして、頭を下げる。


「マガフィアさん。私だけで良ければ、養子縁組のお話、謹んでお受けします」

「それでは、此処にサインを」


 すっと目の前に差し出される紙。私は暫しその紙を眺め、ゆっくり頭を上げる。


「……え?展開早くない?違うじゃん、“本当にいいのか?” とか、何かしら挟んでのコレじゃん?そんな……間髪入れずに契約いっちゃうもん?」

「サインを」

「はい」


 渡されたペンを受け取り、粛々と紙の一番下に名前を書く。答えはイエスかハイのみ、いえっさー。

 ペンを置くと、紙がスキャンされるように上から下に光り輝いた。なにこれ、魔法?


「僕が言うのも変な話しだけど、契約書読まずにサインするのはどうかと思うよ」


 マガフィアの隣りに座っていたナトリが、口をへの字に曲げてサイン済みの契約書を手に取る。


「え~、大丈夫ですよぅ。養子縁組の契約書に、そんな変なこと書かないでしょ~?」

「変な事と言うか……。まあ、もう簡単には取りやめにできないから、後悔しても遅いけどね」


 言いながら、契約書の写しを手渡してくるナトリ。それを受け取って中身を改めて確認した私は、とある文章を二度見した。


「あれ、ねえこれ誤字ってますよ」

「大丈夫、誤字じゃないよ」

「いや、ほらよく見て。ここ、ここ」

「うん。だから誤字じゃないよ」


 諭すように菩薩の如き微笑を浮かべるナトリを凝視し、紙をもう一度見る。うん、やっぱり。間違いなく誤字だよな。

 全然紙を確認してくれないナトリのために、仕方なくその文章を読み上げる。


「一、マガフィア・デ・ダンテ・ケダトイナ王弟殿下の養子としてチセ・ダンテ・ケダトイナの名を認め、之を王族の末席に加えることを許可する」


 滑舌良く、噛まずにハキハキと読み上げ、もう一度向かいに座る二人を見る。


「ね?誤字でしょ?」

「誤字じゃないよ」

「誤字だと言ってくれええええーっ!!」


 紙を放り投げてフェレットの腹に顔を埋め、思いっきり叫ぶ。

 嘘だああああっ!?王族!?ってなに!?だれが!?なんで!?


「えーでは、ごほん。改めまして、こちらにおられますのは、本ギルド長及び、ケダトイナ王国現国王の弟君であらせられる、マガフィア・デ・ダンテ・ケダトイナ王弟殿下です。はい、拍手~」

「待って。少し待って」

「で、チセは晴れて王族の仲間入りとなりました」

「待てと言っているっ!!」


「チセ」

「いえす、さー」


 すっとフェレットをおろして背筋を伸ばす。

 マガフィアが、真っ赤なアフロの鬘をガサリと揺らしながら、鋭い三白眼をジロリと向ける。


「王族と言っても、俺はとうの昔に王権を放棄している。よって、俺の子となるお前にも王位継承権は無い。俺が養子を望んでいるのは後継のためではなく、才能ある若者の未来を潰さないためだ」

「……」

「事実、お前は俺の養子にならなければ魔導騎士学校への道は途絶える。そも、学力や才能ではなく、出自を合格の条件とすることを俺は良しとしていない。しかし、今の風習を変えるには前例が必要だ」


 濁った灰色の瞳が、真っ直ぐにこちらを見る。


「お前が、その前例となれ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ