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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第一章 ギルド
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模擬試験



「え、ちーかまちゃん。2代目神子様のお名前、知らなかったのぉ?」


 キョトンと首を傾げるモユクに、ぶんぶんと頭を振る。


「知らない知らない!まさか同名だったなんて……」

「ええ~。てっきり、ちーかまちゃんの名前は2代目神子様が由来だと思ってたんだけど、違うの~?」

「違いますよ!ってか、そう言うのってアリなんですか?聖人の名前をそのまま付けるとか」

「うん、当時は結構流行ってたみたい。まあ、それも随分昔の話しだから、今はそんなに聞かなくなったけどねぇ」


 ははん。つまりチセって、この世界の人からすれば、馴染みはあるけど「一昔前の名前」ってイメージなのか。


「それにしても、一般常識にも疎かったちーかまちゃんが、ここまでできるようになるなんて、頑張ったんだねぇ」


 そう感嘆して、採点した紙をこちらに渡したモユクは、両手で大きな丸を作る。


「すごぉい!満点!生物学はもう問題なさそうね~」

「よっしゃああああ!!」


 ガッツポーズを高々と掲げた私に、周りにいた冒険者達がわらわらと集まってくる。


「よお、チセちゃん。勉強は順調か?」

「え、すごいじゃない。もうこんな難しい問題解けるようになったの!?」

「毎日頑張ってるもんなあ。これは本当にもしかすると、もしかするかもしれんなぁ」


「いやあ、勉強教えてくれた皆のおかげだよ~。ありがとね!」


 えへへ~と頭を掻く私。その後ろから、呆れた声が聞こえた。


「こらこら。もう合格したような雰囲気だけど、試験まで後一月しかないんだから。油断してたら足元掬われるよ?」


 振り向けば、ナトリが半目でこちらを見ており、その横には苦笑したアルが立っていた。


「姉さん、お疲れ様。ナトリさんから、試験についてお話があるみたいだよ」

「ん?分かった」


 机に広げていた教科書やノートをまとめて、勉強を見てくれてたモユクに頭を下げる。


「見てくれてありがとうございます!」

「いいえぇ。頑張ってね~」


 にこにこと手を振るモユクに私も手を振って、アルとナトリのもとに駆け寄る。


「それじゃあ、教室に移動しようか」


 教室――、マガフィアが私達に授業をしてくれていた部屋だ。

 私達はナトリの言葉に頷くと、すっかり歩き慣れたルートを辿って教室に向かった。






「さて、さっきも言った通り、いよいよテストまで一月を切った。そこで明日、本番をイメージした模擬試験を行います」

「おおっ!」


 懐かしい響きに、思わず声が出る。

 模試かぁ。いっつもテスト中に爆睡しちゃって、先生によく怒られたなあ……。


「えー、前にも話した通り、特別入試は午前中に魔法学・教養学・星史学の3科目、午後に基礎体力測定・魔力値測定・特殊能力測定の3部門で試験が行われます。模擬試験では、基礎体力測定を除く全ての内容を、当日と同じ流れで実施します」

「ナトリ先生、質問です!」

「はい、チセさん」


 ピシリと挙手をした私に、ナトリが一つ頷く。


「午後の実技試験?は、全く対策してないですけど、具体的に何をするんですか?」

「え、ギルド長に聞いてないの?」

「聞いたんですが、準備は必要ないと言われました!」


 ピシリと敬礼する私に、ガクリと肩を落とすナトリ。


「まあ、それはそうなんだけど……。まず、基礎体力測定は健康診断みたいなもんだね。多少跳ねたり走ったりはするだろうけど、測定結果が悪くてもそこまで合否に影響があるわけじゃないから、別に気負う必要はないよ。……魔力値測定と特殊能力測定も、受験者の魔力量と属性を、魔道具を使って測定するだけだから、こちらが何か用意して挑むようなものではないんだ。ただ、属性を調べる特殊能力測定で、多少の質疑応答があるかもしれないけど……。まあ、それも大げさに考えないで、測定結果の不明点に答えるぐらいの心積もりでいれば問題ないよ」


 こちらを安心させるように微笑んだナトリだったが、すぐに「あれ?」と首を傾げる。


「チセ、大丈夫かい?顔色が悪いけど」

「あ、はい……。大丈夫です、あはは……」

「そう?それじゃ、明日は当日と同じ開始時間に模擬試験を開始するから、遅れないようにね」






「……で、どうすんの。姉さん」


 家へと帰る途中、アルがチラリとこちらを見る。

 アルの横をトボトボと歩いていた私は、うわああっと頭をかき回した。


「知らなかったんだよぉ!魔法属性の測定があるなんて……!どうしよぉおおお!!」

「まあ、僕も言わなかったのは悪かったけど」

「え、アル知ってたの!?」

「いや、あと一月だよ?むしろ、今の段階で知らなかったことが驚きだよ……」


 すっかり、ギルド長から聞いているものと思っていたらしい。

 ……まあ、ここでアルに当たるのは筋違いである。深呼吸を一つして、焦る気持ちを落ち着かせる。


「属性を測る魔道具って、どんなやつか知ってる?」

「たぶん、石板に手を置く簡易的なやつだと思う。それぞれの属性に反応する7つの石が嵌めこまれてて、魔力を流すことで石が光って属性が分かる仕組みだったはず」

「魔力から属性を読み取る魔道具ってことか……」


 じゃあ、やっぱり特定の属性だけを反応させないようにするとかは難しいか……。


 道中、アルも一緒に突破口がないか考えてくれたが、結局家に辿り着くまでに良いアイデアは思い付かず。

 こうなったら、全属性持ちだとバレるの覚悟で挑むしか――と半ば諦めかけた、その時だった。



『魔道具ってことは、魔陣で動くんだろ?それなら、精霊(おれ)でも弄れるぞ』


 帰宅中、ずっと鞄の中で寝ていたフェレットが、起きぬけにそう言った。


「え!?何、詳しく!!」

『魔道具っつーのは、魔陣が組み込まれてて、そこに魔力を流し込んで道具を動かすってのが基本の仕組みだろ?その魔力の流れを弄って、魔陣の一部が反応しないようにすれば、特定の属性だけ反応させるのも可能だ』

「え!?よく分かんないけど、天才!!」


 つまり、フェレットなら測定結果を操作できる、と――。

 勝った。これは勝った。


 ふふふっ、と腰に手を当て笑い出した私を、引いた様に見ていたフェレットがボソリと呟く。


『まあ、俺は傍にいれねえだろうから、“精霊の加護” 頼りになるけどな』

「え?傍にいれないって、どういう……」

『試験中は、筆記用具以外持ち込み禁止なんだろ?魔獣も例外じゃねえだろ』

「あ」


 そうか。試験中は机の上に、消しゴムとペン以外は出しちゃいけないのが鉄則……。もちろん、フェレットを置いておくのもNGだろう。完全に失念していた。


「ど、どうしよう……。フェレットは魔獣ってことになってるけど精霊だし。ルッシーみたいに引っ込んでてもらうわけにも――」


 一難去ってまた一難。おろおろしながら呟いた言葉に、待てよと口を閉じる。


「あ、良いこと思い付いた」


 そうじゃん。ルッシーみたいに引っ込んでてもらえばいいんだ。

 私は早速ルシナンテを呼び出し、フェレットも一緒に異界へ行けるのかを試してみる。


「気分はどう?」

『少し酔うが……。許容範囲だ』

≪精霊が異界に渡るという事例はないが、案外上手くいくものだな≫


 空間の歪みから頭だけ出したルシナンテが、その頭にフェレットを乗せて異界から行ったり来たりを繰り返す。うん、特に問題はなさそうだ。


 明日と入試当日もよろしく、とルシナンテを異界へ還し、フェレットに向き直る。


「で、属性測定の時は『水属性だけ反応させたい』って思ってれば大丈夫と?」

『ああ。魔陣の操作くらいなら、わざわざ俺がやらなくても、そこら辺の精霊で容易くできんだろ』

「ふーん?」


 理屈はよく分からないが、とりあえずこれで問題点は全て解消された。


 大きな欠伸を零したフェレットが『もうひと眠り』と、ベッドに潜り込むのを横目に確認しながら、私は「さて」と勉強机に向かう。


 実技試験は何とかなりそうだけど、専らの問題は筆記試験だからね。

 明日の模試で、私の合格率はほぼ確定する。ちゃんと準備して臨まないと……!


 気合を入れ直し、パッと開いた教科書のページ。そこには、2代目聖騎士と神子の内容が書かれていた。


「……」


 あのメイジー兄弟との会話で、2代目神子の名前が自分の名前と一緒だったことが分かって、確かに驚いた。

 だけど、あの時私が衝撃を受けたのは、それだけじゃない。


 2代目聖騎士、チアキ。彼もまた――。


「弟の名前も一緒って、そんな偶然ある?」


 ――前世の、双子の弟の名前と一緒だった。


 もしかして、その2代目神子様って私の前々前世ってやつじゃ!?と、ギルに聞いてみたりもしたのだが、「2代目の事は大して知らん」と一蹴されてしまった。嘘センサーは反応しなかったから、本当に知らないらしい。

 マガフィアにも聞いてみたが、「2代目について試験で問われることはない」とのことで、こちらも大した情報は得られなかった。


「まあ、知ったところでどうってことも無いしね……」


 でも、単なる偶然の訳がない。やはり、十字郎が()をこの世界に転生させたのは、意図的なものだったのだ。


 キャンペーンなどと謳って話しを持ち掛け、ギルに赤子の世話を頼んだりと手を回してまで、この世界に私を転生させた十字郎。……改めて考えてみると、怪しさ満点じゃないか。

 はてさて、十字郎は何の意図があってそこまでしたのか。それを暴くことに意味があるのかは分からない。だけど、良いように転がされてるようで、単純に気に食わない。


 ふぅと溜息を吐き、ペンを持つ。いかんいかん。受験のストレスかな……。あの貼り付けたような営業スマイルを思い出すだけで、何だかイライラしてきた。

 頭を振って、グルグル回るにこちゃんマークを追い払い、パンと自分の頬を打つと、明日の準備のため、私は問題集に向き直ったのだった。






 ――翌日。

 昨日と同じ部屋にやってきた私達は、席に着いてナトリを待っていた。


「お、時間厳守で素晴らしいですね~」


 教室に入って来たナトリが、持っていた紙束を教壇に置く。それから私の方を見て、少しだけ驚いた様に目を丸くした。


「あれ、すでに使い魔も送還済み?チセにしては用意が良いね」

「先生!一言余計です!」

「はは、いやね。使い魔の持ち込みはもちろん禁止されているから、そのことを説明しなきゃと思ってたんだけど。手間が省けて良かったよ。当日もそれで頼むね」

「は~い」


 返事をしながら、まあフェレットは魔獣じゃなくて精霊だから、ルシナンテと契約してなかったら詰んでたけど……と考え、それから(あれ?)と首を傾げる。


 もしかして、一定距離以上離れられないっていう制限も、異界では適用されないんじゃ……?



「それでは!これより試験を始めます。まずは筆記試験三科目、各1刻ずつ。間に小休憩時間を挟む形で行います。質問は?」

「……あ、はい!三科目の順番は?」

「当日まで知らされません。今日も、同様の形式で行うため、その質問には答えられません」


 なるほど。つまり、配られた問題を見るまで分からないと言う事か。


「他に質問はないですね?では、問題を配ります」


 机に紙束が置かれる。書かれていた文字は、『教養学』。


「――それでは、始め!」






 カラン、と机の上に鉛筆を転がす。ぐっと伸びして、深呼吸を一つ。


「っ終わったー!」


 しゃんなろーっ!と叫ぶ私を、アルが呆れたように見る。


「姉さん、お願いだから当日は終わった瞬間に叫んだりしないでよ?」

「わーってるって!ちょっと久し振りだったから、ついね!」

「……久し振り?」


 いやあ、やっぱりこの試験が終わった瞬間の解放感は、何物にも代えがたい充足感があるな!

 午前中の筆記試験が全て終わり、満面の笑みを浮かべる私を見て、アルがふっと息を吐く。


「でも、その感じなら結構手応えあったんだね」

「いや、全然」

「……え?」


「はーい、お疲れ様~」


 ガラリと、テスト用紙を置きに行っていたナトリが戻って来た。


「それじゃあ、当日と同じくこれからお昼休憩となります――って言いたいとこなんだけど、もうこのまま実技試験に移っちゃいます」

「ええ!なんで!?お腹空いた!」

「僕の休憩時間がまだだから、先にこっち終わらせちゃおうと思って」

「私情!!」


 ぐうぐうと切ない音を立てるお腹を押さえて唸る私を無視して、何やらごっつい石板と握力計らしき物を教壇に置くナトリ(おに)


「では、これから魔力値測定と特殊能力測定を行います。……当日は恐らく、基礎体力測定の後に実施されることになるかな」


 言いながら、ガタガタと測定器の準備をして、ナトリがアルを見る。


「まずは、アル君から」

「はい」


 教壇の前に移動したアルに、ナトリが指示を出す。


「じゃあ、まず魔力値測定を。これを利き手で思いっきり握りながら魔力を流してもらえる?」

「分かりました」


 ナトリがアルに手渡したのは、握力計だった。アルが、右手でそれを握り、ぐっと力を籠める。

 すると、メモリが左から右にぐんっと動いた。


「……はい、ありがとう。それじゃあ、次は特殊能力測定ね。この石板に利き手を置いて、同じように魔力を流してくれる?」


 ナトリが握力計の数値をメモしながら、今度は石板の前にアルを誘導する。

 アルが右手を石板に置くと、5秒くらい経ってからナトリが頷いた。


「うん、水属性だね。はい、じゃあ次チセ」

「はいっ!」


 何だか妙に緊張してしまい、バクバクと鳴る心臓を抑えつつ、アルと入れ替わりに檀上の前に立つ。


「はい、これ握ってね~」


 握力計を渡され、ひとまず右手で、そこまで力を籠めないように測定器を握る。……で?魔力ってどう流すの。まあいっか。えっと、魔力よ流れろ~っと。これでいいのか?


「……終わりました」


 手を離して測定器を渡すと、それを見たナトリがぐっと眉間に皺を寄せた。しかし、何も言わずに握力計を教壇の上に置く。


 え、何?今の反応。もしかして魔力流せてなかった?いや、それなら言ってくるよな……?


「次はこっちに」


 促されるまま、存在感のある石板の前に移動し、私は無意識に息を詰めた。そう、問題はここからである。


 事前にアルから聞いていた通り、属性測定器には石が埋め込まれていて、それが所持属性に反応して光る仕組みのようだ。手前に測定者の手を乗せる窪みがあり、その上に7つの半透明の玉が埋め込まれている。そして、その上にはこちら側からは見えないように(ひさし)が付いており、測定者の反対側に立っている者――今回で言えばナトリにのみ、その結果が見えるようになっていた。


 私は、深呼吸を一つして石板に手を置く。そして、心の中で強く願った。

 精霊さん、どうか水属性だけを反応させてください……!


 ナトリが、庇に遮られた部分を見下ろし、目を見開く。


「……は?」

「ぅえ!?」


 ビクンと肩を跳ね上げた私に、はっとしたように顔を上げるナトリ。


「あ、ああ。ごめんごめん、えー……」


 どこか戸惑ったように、石板とこちらを見比べていたナトリが、測定結果を告げる。


「水属性、だね。うん。他に反応はなし」

「!」


 ばっと顔を上げる。思わずガッツポーズをかましそうになるのを何とか耐え、粛々と席に着く。


「……それでは、これにて試験を終了とします。お疲れ様でした」


 しばらく訝しげに魔道具を見つめていたナトリだったが、すぐに笑みを浮かべて仕切り直す。


「結果発表は明日します。責任をもって採点するから、楽しみに待っててね」


 ――こうして、模擬試験は無事に幕を下ろしたのだった。



 

次話より、いよいよ『学校編(アオハル編)』開幕――!

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