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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第一章 ギルド
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まさかの再会



 家に帰ると、丁度ギルが納屋から出て来るところだった。


「あ。ギルただいま~!見て見て!」


 じゃじゃーんと手元のパンフレットを掲げて見せれば、それをちらりと見たギルが片眉を上げる。


「学校?」

「そ。受験しようと思って」


 納屋から運び出した壺を抱えたギルが、くいっと顎で家を指す。


「とりあえず中入れ」

「は~い」




 手洗いうがいを済ませた私達は、机を囲んでギルと向かい合った。


「で?」


 ギルが一音で先を促す。私は学校の詳細を話そうとして、すんでのところで思いとどまる。

 いや、違うな。別にギルは学校について聞きたいわけではないか。


「……合格したら、家を出ようと思う。後1年くらい先の話しだけど」

「そうか。分かった」


 あっさり頷いたギルが、アルの方を見る。


「お前は?チセと一緒に受験するのか?」

「あ、えっと、うん……。僕も姉さんと家を出るつもり」


 そう答えながら、アルが何か言いたげに隣りをちらちらと見る。しかし、私はその視線に気付くことなく、パンフレットをわくわくとめくる。


「見て見て!個室の寮もあるんだって。え、食堂ひろっ!大学みたい……行ったことないけど」

「金かかってんなー。敷地面積どうなってんだ。もはやテーマパークだな」


 身を乗り出して、一緒に学校案内を眺めるチセとギル。そんな二人を、アルは複雑そうな表情で見つめていた。




 話しが一段落し、「そうだ、技名改良しないと」とフェレットを抱えて二階へ上がって行くチセを見送った後。


「それで、何か俺に言いたい事でもあんのか」


 パイプをくわえて煙を吐きながら、アルを横目で見遣るギル。

 視線を受けて、アルは膝の上で握っていた拳を解いて、ギルを見上げる。


「姉さんは何も言わなかったけど、養子縁組の話しが来てて……。姉さんは合格するためなら、その話しを受け入れるつもりだよ」

「そうか。そりゃあ良かったな」


 家を出ると話した時と同様、あっさり頷くギルに、アルは眉を寄せる。


「ギルはそれでいいわけ?何でそんなに二人とも――」

「アル」


 ギルがふぅと煙を吐き出し、アルの言葉を静かに遮る。


「お前、俺とチセの関係を勘違いしてるだろ。俺達が家族だとでも?」

「……違うの?」

「違う」


 ばっさりと切り捨てたギルは、三白眼を眇めてアルを見下ろす。


「俺とチセは、大家と借主。それ以上でも以下でもない。奴が自立するまでこの家に住まわせてやるという契約で、家賃代わりに生活の手伝いをさせていた。一緒に暮らしていた理由なんぞ、それだけだ。チセがどこの子供になろうと、俺の関与する話しじゃねえ。あいつもそれが分かっていたから、養子の話しを省いたんだろ」


 冷たくさえ感じる声音で、ギルは突き放すようにそう言った。

 話しは終わりとばかりに立ち上がったギルを睨み、アルは問う。


「それ、姉さんの前でも同じように言えるの?」

「……どういう意味だ」


 鋭い三白眼が、アルを射抜く。しかし、目を反らさず寧ろ睨め付けるアルを見て、ギルが愉快そうに口角を上げた。


「――そうだな。チセが、これ以上契約更新を望むっつーなら……、同じように言ってやるさ」


 そうニヤリと笑い、ギルは席を離れた。


 アルはいつの間にか詰めていた息を吐き出し、目を閉じる。

 ……チセもギルも、本当にそれが本音なのだろうか。どうにも腑に落ちない気持ちを抱えつつも、そのあっさりとした態度が二人らしいと納得してしまう部分もあって、アルは一人苦笑を漏らした。






 翌日、私とアルは早速ナトリに報告するため、ギルドを訪れていた。


「たのもー!!」


 道場破りスタイルでドアをばーんと開け放てば、こちらに気付いたウーグィスがヒラヒラと手を振る。


「あ、チセちゃんにアル君。やっほ~」

「やっほー!ウーグィスさん、ナトリンいる?」

「ナトリさん?裏にいると思うけど、呼びましょうか?」

「うん、お願いします」


 ウーグィスがナトリを呼びに行っている間、暇潰しに壁に貼り付けられている依頼表をアルと眺める。


「あ、SSランクの依頼!……うげ、ボンドへの潜入調査だって。さすが、最難易度」

「確か、SSランクって一人しかいないはずだから、実質その人専用の依頼ってことか」

「どんな人なんだろうね~」


「会わせてあげようか?」


 不意に、後ろから声がかけられた。振り返ると、ニヤリと笑みを浮かべたナトリが立っていた。


「やあ。昨日の答えを聞かせに来てくれたのかな?」

「うん。私達は――」

「おっと、続きは場所を移してからにしよう。立ち話もなんだし、それに……会わせたい人もいるしね」

「会わせたい人?」

「いやあ、タイミングばっちり。手間が省けたよ」


 意味ありげにそう笑ったナトリは、昨日とは別の部屋に私達を案内する。階段を上がって幾つか角を曲がり、廊下を進んだ先にある部屋だ。応接室にしては、随分奥まった位置にある。

 重厚な趣のある扉をガチャリと開き、ナトリがこちらを振り返る。


「さあ、どうぞ」


 促されるまま入室した私達は、一歩部屋に入ったところで、ピタリとそろって歩みを止めた。


 中には、すでに先客がいた。

 部屋の中央に置かれている二組のソファ。その片方に、腕を組んで座っている男が一人。恐らく2メートルはあるであろう巨体に、全身の刺青とジャラジャラ付けられたピアス。そして、一発で鬘と分かるモフモフの真っ赤なアフロ頭。


 うぐっと喉が鳴った。頭の上に乗っていたフェレットが『んあ?』と間抜けな声を出す。

 目を見開いて固まる私達の横をするりとすり抜けて、ナトリが男の横に腰かける。


「大丈夫、こんな見た目だけど怖くないよ」


 男を凝視したまま動かない私達を手招きして、ソファを勧めるナトリ。そこでやっと我に返った私達は、促されるまま席に腰かけ、恐る恐る向かいに座る男を見つめる。すると、濁った灰色の三白眼と目が合い、びくりと肩が跳ねた。


 戸惑う私達の様子を知ってか知らずか、ナトリは底抜けに明るい声で男に掌を向ける。


「それじゃあ改めて、こちらSSランクの冒険者であり、うちのギルド長でもある、マガフィアさん。件の、君達を引き取っても良いと言ってくれている御仁だ」

「ええ!?」


 思わず叫んで立ち上がった私を、ナトリが驚いた様に見上げる。

 呆けたまま言葉の続かない私を見兼ねて、アルが代わりに口を開いた。


「その……、()()()()()です」


 マガフィアにぺこりとお辞儀するアルに、ナトリが首を傾げる。


「あれ、もしかして初めましてじゃない?」

「はい。と言っても、会ったのはギルドではなく武器屋だったので……」


 言いながら、アルがチラリとマガフィアを窺う。


「まさか、ギルド長だったなんて。知りませんでした」



 ――そう、マガフィアは私が初めてこの町を訪れた日に出会った、武器屋の店員だった。



「……あの、学校の話しなんですけど」


 突っ立ったままの私の手を引いてソファに座らせたアルが、緊張した面持ちでナトリとマガフィアを見る。


「僕も姉さんも、学校には行きたいと思っています。ただ、養子縁組のお話は一旦保留にさせていただきたいです」

「そうか、特待生制度で受験するつもりなんだね」


 ナトリの言葉に、アルは目を見張った後、ゆっくり頷く。


「はい。まずは自分たちの力でできるところまで、やってみようと思います」

「……良い心掛けだ。だけど、特待生で入るとなると、現状ではかなり厳しい状況だよ?合格はほとんど絶望的とも言っていい」


 真面目な表情で諭すように言うナトリに、アルは言葉を詰まらせて口を噤む。

 ぎゅっと握り締めた拳。その上に、不意に温もりが加わった。


「――ゼロかイチかって大きな違いですよね?可能性が少しでもあるのなら諦めたくないです。私達は、()()()ですから」


 ギュッとアルの手を握り、私はマガフィアへ頭を下げる。


「縁組のお話、嬉しいです。でも、特待生制度で挑戦すると決めた以上、不合格を前提にした話しはできません。なので、もう少し返事は待ってもらえますか?」


 暫く沈黙が続いた。


 ややあと、地鳴りのような低音が響く。


「……誰でも良かったわけじゃない。将来有望だと思ったから、養子にと声をかけた」


 そろりと顔を上げた私を感情の読めない灰色の瞳で見つめた後、マガフィアがニヤリと口角を上げた。


「俺の目に狂いはなかった。いいだろう、返事は待とう」

「「あ、ありがとうございます!」」


 アルと一緒に、再びがばりと頭を下げる。


 震える唇を噛み締めながら、私は心の中で絶叫した。

 ――――やっぱり、顔こええええっ!!






「ええ、姉さん。そんなこと考えてたの……」

「いや、不可抗力なんだってほんと。なんかダメなんだよ。こう反射的に、恐怖心が煽られると言うか、身構えちゃうと言うか……。良い人だって言うのは分かるんだけどさ」

「そんな、天敵みたいに……」

『一周回って、相性良いんじゃねえか?』


 ボソリと呟くフェレットをスルーして、私は隣を歩くアルの肩を組む。


「ま、とりあえず一件落着ってことで!」

「大変なのはこれからだけどね」


 苦笑するアルに、ふと帰り際ナトリに言われた言葉を思い出す。




 部屋を出た私達を出口まで案内しながら、ナトリは入試の詳細について教えてくれた。


「特待生制度の特別入試は、一足早く始まる。今からざっと10月後かな。筆記は、大まかに魔法学・教養学・星史学の3科目。実技は基礎体力測定・魔力値測定・特殊能力測定の3部門。特殊能力測定が実質、特別入試の面接みたいなもんだね」


 ナトリの説明を聞きながら、じとりと冷や汗が滲む。


「やばい、やっぱ無理かも」

「ははは!まあ、こっちもできる限りのサポートはするさ。今回の話しを薦めたのは俺だしね。ああ!そうだ。試験用の問題集があるんだ。持って帰って見てみると良い。後で渡すよ」

「ありがとう。勉強も教えてくれる?」

「講師役はギルド長が引き受けてくれてる」

「え゛」


 ビシリと固まる私の背中をぐいっと押しながら、アルがナトリを見上げる。


「そう言えば、マガフィアさんは何で養子を求めていたんですか?跡継ぎとかですか?」

「それは、君達が養子になると決まったら、教えてくれると思うよ」


 なるほど、それなりの事情がありそうだ。


 そう言えば、マガフィアは貴族なのだろうか……?

 ナトリが「養子縁組の話しを受ければ、家柄の件は解決できる」って言ってたから、それなりに高い身分なんだろうけど……。さっきはいろいろと衝撃的なことが多すぎて、詳細を訊き忘れた。勉強教わるついでに今度聞いてみようかな。

 マガフィアが、先生かあ……。そっかあ……ふぅ。



 こうしてナトリから問題集を受け取った私達は、一旦帰路に着いたのだった。


『実技は “精霊の加護” がありゃあ余裕だろ』

「そうなの?まあ、私も問題は筆記の方だと思ってるけど……。えっと、魔法学は魔法のこと、教養学は要するに国数理か。じゃあ、星史学は社会?」

「星史学は、世界の成り立ちとか神話論とか世界樹信仰とか、そういったやつ。暗記系かな」

「オワッタ」


 遠い目をする私に比べ、アルは問題集をめくりながらポツリと呟く。


「うん、これくらいなら、何とかなるかも」

「え、やだカッコイイ……。小悪魔キャラと思わせて秀才キャラだったの……?」

「何言ってんのか分かんないけど。僕も教えてあげるからさ、一緒に頑張ろうよ」


 アルがそう言って、私の肩を組み返し、ニコッと笑う。


「一緒に学校、行くんでしょ?」

「か、かわっ!小悪魔!やっぱり小悪魔だ!!」

『うるせえ』


 全力で萌えを叫ぶ私の両目に、フェレットの肉球パンチが直撃した。



武器屋の店員?そんなんいたっけ…?と言う方のために▼

P.15「ギルド登録」で初登場。ドラゴンの刺青をミジンコに間違えられた、可哀想な大男です。

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