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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第一章 ギルド
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推薦



 グオオオオオッ!!


 地鳴りのような雄叫びを上げて突っ込んでくる恐竜の様な魔物。私はルシナンテに向かって叫ぶ。


「ルッシー!“キラキラビーム”!」


 ヒヒーン!と言う嘶きと共に、ルシナンテの額にある角から光線が放たれ、恐竜を貫通する。しかし、動きを鈍らせはしたものの、致命傷には至らなかったようで、闘志に燃える赤い目は未だにギョロリとこちらに向いている。


「見た目はステゴサウルスだけど、歩き方はティラノサウルスみたい……。間を取って、サウルスかな」


 命名が終わったところで、サウルスが再び動き出す。威嚇するようにガアアアアッと叫んだ後、真っ直ぐルシナンテに向かって突進する。


「ルッシー、“ミニハリケーン”!」


 ルシナンテが風魔法で起こした竜巻をサウルスにぶつける。サウルスの体が強風でふわりと浮き上がったのを確認し、ルシナンテの頭にちょこんと乗っかっているフェレットに向かって指示を飛ばす。


「フェレット!“大地の雷(グランドサンダー)”」


 フェレットが前足を天に掲げたそのタイミングで、私は魔法を発動した。


 地面がグラグラと揺れる。異変を感じたサウルスが下へと視線を向けたその瞬間、地面が割れ、鞭のようにしなる蔦がいくつも飛び出し、ビュンッと鋭い音を立ててサウルスを貫いた。



 動かなくなった魔物を見上げて両手を合わせ、ルシナンテ達の元へ駆け寄る。


「ふたりとも、お疲れ様。ありがと」

『随分固い個体だったな』


 地面に下りて猫のように伸びをしたフェレットが、訝しげにサウルスを見上げる。

 私もその視線を追いかけながら、確かにと頷く。フェレットの力でルシナンテの魔法は常時底上げされている。なのに、瞬殺とはいかなかった。


「防御力の高い魔物なのかも」


 そう分析しながら、ふとルシナンテが静かな事に気付き、横へ視線を移す。


「ルッシー?どうかした?」

≪……やつは≫


 どこか愁いを帯びた瞳で、ルシナンテが呟く。


≪奴は、我と同じだ≫

「? それって……」


 ――魔物が増える過程には二つある。一つは、繁殖。もう一つは、契約不履行による “はぐれ” 。

 正式な手順を踏まずに契約が切られた魔獣は、理性を保つことができずに魔物となる。それが “はぐれ” だ。


 ルシナンテと同じと言う事は、このサウルスは “はぐれ”――。それも、成立するはずのない召喚によって呼び出された挙句、術者の力量不足で “はぐれ” に堕とされた魔物ということか。


 フェレットが言っていた。術者の魔力と吊り合わない魔獣が召喚されることは、本来あり得ないと。それなのに、ルシナンテに続いてまたしてもそんなことが……?


「わあ!ちーかまちゃん、強いですね~。中級の魔物を一人で倒しちゃうなんて」


 パチパチと拍手する音に、ハッと我に返る。振り返ると、モユクがこちらに手を振っていた。


「いえ!すごいのは使い魔達です。私自身は全然!」

「そうなの~?魔獣をそこまで操れるなんて、相当な使い手だと思うけどなあ」


 不思議そうに首を傾げるモユクに、「いやいやほんと私自身は大したことないでほんとまじで」と念押ししながら、フェレットを抱き上げてルシナンテの上に跨る。


「もうそろそろ、集合時間ですよね。行きましょうか」

「うん、そうだねえ」




 集合場所には、すでにアルとブルムントが着いていた。


「あ、お疲れよー!」

「お疲れ様~」


「よかった、何事も無く終えられたようだね」

「お疲れ様です」


 お互いの健闘を称え合った私達は、ギルドへの帰路の中で報告会を行う。


「ええ!?山賊いたの!?大丈夫だった――から、ここにいるんだろうけど、怪我が無くて良かったよ」

「ああ。アル君が大活躍でね。頭領を追い詰めた時の雄姿、チセ君にも見せてあげたかったなあ」

「ちょ、何言ってるんですか。ブルムントさんがいなかったら、そもそも洞窟の奥まで辿り着けなかったですよ……。姉さんの方は、危険なかった?」

「うん。私は森に慣れてるし、モユクさんも鑑定できるから、調査もばっちり!」

「ちーかまちゃんが魔物を全部倒してくれたので、私は鑑定に集中できたんです~。ちーかまちゃんの使い魔さん達、とーっても格好良かったですよ」

「ち、ちーかま……?」

「あ、でもぉ。正直、技名はネーミングセンスないなって思いました」

「え、モユモユ?どうした?突然毒吐くじゃん」

「分かります」

「んん?アル君?」


 え?そんなことないよね?と振り返った先で、ブルムントがすっと視線を反らす。


「……」

『事実だ。受け入れろ』


 止めとばかりに、フェレットがふんと鼻を鳴らす。


 なによ皆して!まるでほんとに私のセンスが死滅してるみたいじゃないっ!!






「――ああ、やっと自覚したんだ?」

「嘘だろナトリン……。私のどこがネーミングセンスないって!?」

「そういうとこだよ」


 呆れたように溜息を吐いたナトリは、手元の紙束を見下ろす。


「まあ何はともあれ、任務ご苦労様。調査結果も上々だよ。報告ありがとう」


 探索任務から帰った私とアルは、ナトリに呼ばれてギルドの応接室にいた。


 ブルムントがまとめてくれた今回の探索任務の調査報告書をペラペラとまくったナトリは、満足げに数回頷くと、パサリと紙束を机に置く。


「さて……。話しは変わるんだけど」


 ここからが本題か。わざわざ私達を呼び出したのは、探索任務の報告を聞きたかったからではないらしい。


 背筋を伸ばして身構えると、ナトリは徐に一つの封筒をこちらに差し出した。


「?」


 キョトンとしながらも封筒を受け取り、中に入っている冊子を取り出した私は、そこに書かれていた文字を読み上げる。


「国立魔導騎士学校のご案内?」


 隣りで私の手元を覗き込んでいたアルが、驚いたように息を呑む。

 ナトリは私達の反応を見て、ニヤリと笑った。


「ああ。君達、学校に通ってみる気はない?」



 ――国立魔導騎士学校。通称、「魔騎学(まきがく)」。

 創立から約100年の歴史を誇る、ケダトイナ王国随一の教育機関である。


 13歳からその門戸が開かれ、実力次第で飛び級も可能。3年間の教育カリキュラムの中で、魔術士・騎士・研究者等、あらゆる専門職への道が拓かれる、マルチ人材育成に特化した学校だ。

 国内外で活躍する要職者のほとんどが、この学校出身ということもあり、魔騎学の卒業生と言うだけで将来を約束されたも同然とのこと。


「だけど、それだけ入学するための条件は厳しい。入試での好成績はもちろん、面接や実技試験では、潜在能力の高さや家柄の良さも合否判断の材料となる」

「家柄?じゃあダメじゃん」


 姉弟そろって、平民どころか国籍すら危うい立場である。ナトリだって、私達が大した身分もない平民であることは知っているだろうに。


「……そこで、だ」


 す、と。背筋を伸ばしたナトリが、真剣な表情で私達を見つめる。


「とある御仁が、君達を養子に迎えてもいいと仰っている」

「!」


 想像の斜め上の提案に、思わずアルと顔を見合わせる。

 私達を養子に……?とある御仁って、一体誰が――。


「この話しを受けるなら、少なくとも家柄の件は解決できるよ」

「……少し、考えさせてほしいです」


 無意識にギュッとアルの手を握って俯く私に、ナトリはふと表情を崩して頷く。


「もちろん。……ただ、入試までもう1年を切っている。早めの決断を、お勧めするよ」






 アルは、横を歩くチセをちらりと窺う。ギルドを出て家へと帰る道中、チセはずっと無言だった。

 先程からフェレットがチセの頭の上から肉球パンチを繰り出しているが、それにすら無反応で、ひたすら学校案内のパンフレットをパラパラとめくっている。


 ――チセとギルに、血の繋がりはない。……いや、アルを含めた三人とも、元々は赤の他人だ。お互いの事情も然程知らない。突けば崩れてしまいそうな、ひどく歪で、脆い関係性だ。


 しかしチセは、ギルのことをとても慕っている。それはアルの目から見ても一目瞭然で。

 チセがギルとの絆を断ち切る選択をするとは思えない。恐らく、今回の提案は断るつもりなのだろう。


 アルはいつの間にか俯けていた視線を上げて、『禁断の森』に入って行くチセの背中を見つめる。

 

「姉さん」


 森に入る手前で、アルは歩みを止めてチセを呼び止めた。

 ピタリ、黙々と足を進めていたチセの足が止まり、ゆっくりとアルを振り返る。木々の影を映して、銀糸の髪がサラリと揺れた。


「僕は、養子になるよ」


 いつもより色濃く見えるチセの金色の瞳を、アルは真っ直ぐ見返した。


 ひゅるりと、風が二人の間を吹き抜ける。

 しばらくの沈黙の後、チセがゆっくりと口を開いた。


「それって、学校に行くため?」

「うん。でも、姉さんは養子になる気はないでしょ?」

「なくはないけど」

「うん、だから僕は――」


 ――……?

 パチリ、一つ瞬きをする。


 ひゅるるりと、再び風が吹き抜けた。


「…………なくは、ない?」

「まあ、養子になるのも選択肢の一つとしてはアリかなって。学校には行きたいし」

「……姉さん、意味分かって言ってる?ギルじゃない人が親になるんだよ?」

「え、うん?まあ、元々お金貯まったらギルの家からは出て行くつもりだったし。それがちょっと早まっただけだから……、そのことは別に良いんだけどさ」


 うーんと首を捻ったチセは、唖然としているアルへ指をパチンと鳴らす。


「問題あるのはアルの方じゃん?」

「え?」

「あ、えーっと……。ほら!アルは事故でたまたまここに来ちゃっただけで、元々住んでる所があったでしょ?なのに、ここで養子になっちゃったら、故郷との縁が切れちゃうじゃん。それは困るでしょ?」


 それで考えたんだけど、とチセはパンフレットをパラパラとめくる。


「ココ見て。特待生制度ってのがあるみたい。一般入試や推薦入試よりさらにハードル上がるけど、選考内容が筆記と実技だけ。面接が無くて、成績さえ良ければ家柄関係なく合格がもらえる制度らしい。これなら、養子にならなくても学校通えるでしょ?しかも、学費免除の特典付き!」


 ……先程までの沈黙は、このことを考えていたからだったのか。

 アルは呆然と、チセが差し出すパンフレットを見下ろす。


「私もできれば特待生で入りたいけど、実技はともかく、筆記は全然自信なくて……。もちろん、やれるだけやってはみるけどね。でも、アルならきっと特待生になれる!なんたって、私の弟なんだから」


 ふふんと自慢げに胸を張ったチセが、満面の笑みでアルに手を差し出す。


「ね。だから、一緒に学校行こう!」

「……っ」


 ぱっと顔を俯かせ、グッと唇を噛んだアル。

 ややあと、ふっと息を吐き、チセの手をギュッと握り返す。


「僕だけ合格しても、恨みっこなしだよ」

「ふふっ。じゃあ、これからはライバルだね」



 手を握り笑い合う姉弟を見下ろし、フェレットがどこか呆れたようにフンッと鼻を鳴らした。



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