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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第一章 ギルド
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探索任務



「やばい、私天才的なこと思い付いちゃった」


 ――場所、『禁断の森』にて。


 ちょっとした開けた広場にルシナンテを呼び出し、私とフェレットの三者は円を囲んでいた。

 ちなみにアルは、今日もせっせとギルドにお金を稼ぎに行っている。


 さて、護衛任務後の引きこもり状態から脱した私が、なぜまたこうしてアルと別行動をとっているのかと言うと……。


「おーごっほん。さて、ルシナンテ君。これから行動を共にする君には、こちらの事情を共有しておかなければならない」

≪ほう≫

「ルッシーの言葉はフェレットと違って、皆にも聞こえちゃうようだから、ここでしっかり口裏を合わせときたいんだよね」


 雰囲気作りでしていた正座を解き、胡坐をかいた私は、早速フェレットにした時と同じ様に、地球から転生してきた話しや、近い未来世界の危機が訪れること、そして将来のスローライフのために極力目立ちたくないことをルシナンテに告げた。


≪なるほど。フェレット殿は精霊ではなく、使い魔ということになっているのか≫

「うん。精霊連れてる人なんて見たことないって言われてさ……」

『もう目立たないってのは諦めたらどうだ?』

「何を言う!……と言いたいところだけど、確かにその目標に対しては今まで空回ってきた感はある」


 しかし!と、私は胸を張って、ドンと拳を打ち付ける。


「うっごほごほ……。さっきも言ったけど、ごほっ、天才的なこと思い付いてっゲホゴホ!」

≪噎せたか?大丈夫か?≫

『ふわぁああ』


 水でも飲むか?と、首から下げている私のポシェットを鼻先で探るルシナンテに、寝そべってボリボリと腹を掻きながら欠伸をするフェレット。


 ……もうちょっと、興味持ってくれても良くない?


「名付けて、隠れ蓑大作戦ー!!」

≪チセ、水だぞ≫

「あ、ありがとう。……ぷはっ」


 ドンッと水筒を地面において、私はキリッとした表情で二匹を見遣る。


「説明しよう!今までは私自らが戦いに身を投じてきたわけだが、これからは諸君らが私の前に立ち、代わりに注目を浴びて欲しいのだ!」

『結局、目立っちまってんじゃねえか』

「ちっちっち。あくまで目立つのは君達。私は君達を隠れ蓑にしてスポットライトから外れる。すごいのは使い魔達で、私自身は大したことないですよ~とアピールするのだ!どうだ、この完璧な作戦!」


 そう、私はポケモ〇トレーナーならぬ、魔獣トレーナーになるっ!!


「と、言うわけで。ちょっと技名とかいろいろ考えてきたから見てくれない?」

≪ふむ、どれどれ≫

『俺、めんどいからパス』

「だめだめ。この “ミラクルパーフェクトウルトラアタック” はふたりの協力技なんだから!」

『技名だっせ』


 やる気がゼロどころかマイナスなフェレットを叩き起こし、私は二匹に技を伝授した。


 ≪長く生きてきたが、こういうのは初めてだ≫とルシナンテは割と乗り気で、驚きの速さで技をマスターしてくれた。


「いけ、ルッシー!聖なるウィンドバリア!」

 ヒヒ~ンと光の壁を出現させるルシナンテ。


「フェレット、そこで大地の恵み(グランドアース)!」

『おい、俺は魔法使えないぞ。しかもそれ地属性使うんだろ?俺は水属性って設定だろうが』

「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれた。そこもこの隠れ蓑大作戦のポイントなのです!」


 腰に手を当ててふんぞり返れば、『……グランドアース』と呟き後ろ足で砂を飛ばしてくるフェレット。違う、大地の恵み(グランドアース)は地割れを起こして大木を生やす大技で――って、砂口に入った!ぺっぺっ!


「……結論から申しますと、フェレットは水属性の他に、地・無属性も持っていたことが最近判明した――ということにします」

『無理矢理すぎねえか?』

≪いや、案外得策かもしれんぞ。人間は魔獣の生態を把握しきれていない。フェレット殿が幻獣種と思われているのなら尚更、新事実が発覚したとしても違和感はないだろう≫


 ルシナンテの言葉にうんうんと頷いて、ズビシッと人差し指を上に向ける。


「そんで、フェレットを隠れ蓑にして私が水・地・無属性の魔法を堂々と使えるようになるって寸法よ!」

『……光・風属性の魔法は、ルシナンテの影で使えるしってことか。お前にしては考えたな』

「はわわっ!めずらし……フェレットのデレ!」

『――グランドアース』

「っぷっぺッ!ちょっ、だからそれ砂かけ技じゃないって!!」



 ――こうして私達は、技の練度を高める猛特訓を始めた。

 ルシナンテは元々できる魔法に加えて、フェレットの精霊の力で威力を高める練習。フェレットは私の繰り出す魔法にそれっぽい動きを付ける練習。そして私は、魔法発動時のモーションを最小限の動きに抑える練習。

 特訓を始めて数日後には、さらにコンビネーションの練習。


 うんうん、皆いい感じ!

 ずばり、目指すは夢の平凡(ぱんぴー)ライフ!頑張るぞーえいえいおー!!






「ただいまんぼ~!」

「あ、おかえり。姉さん」

「アル!帰ってたんだ」


 洗濯物を畳んでいたアルに駆け寄れば、ご飯を作っていたギルがこちらを振り向いて思いっきり眉を寄せる。


「お前……、泥だらけじゃねえか。12歳でその汚れ方は笑えないぞ」

「ふふん。努力の証しと言ってくれ」

「風呂入って来い」

「あ、はい」


 連日の特訓でぐったりしているフェレットを抱え、すごすごと風呂場へ向かう私の背中を、アルのクスクス笑いが追いかけた。




「姉さん、特訓の成果はどう?」

「もう完璧に近い!後は実践あるのみかな~」


 ギルの得意料理、「猪の丸焼き」を頬張りながら、ね?と無心で枝豆を剥いているフェレットを見下ろす。(ちなみに、剥かれた豆は全てギルが食べている)


「そっか。じゃあ、今度パーティー組んで探索任務受けてみない?」

「探索任務?」

「うん。森林開拓のための実地調査。ブルムントさんに誘われててさ」

「ブルルンか!あれからも仲良くしてんだ~。ま、もうそろそろ復帰しようと思ってたしね。全然オッケー!」

「じゃあ、姉さんも参加って伝えとくね」


 ふぅ、いよいよデビュー戦か……。フハハ、今までの私達とは違うってとこ、見せつけてやるぜっ!






「そこのけそこのけ、お馬が通る~」


 ルシナンテに横座りし、足をプラプラ揺らしながら鼻歌を歌っていれば、すぐ横を歩いていたブルムントが苦笑を漏らす。


「相変わらずだな、チセ君は」

「ん?はい、変わらず元気一杯っすよ!ブルルンもお元気そうで!」

「ぶ、ぶるるん!?」


 雷に打たれたかのように動きを止めたブルムントに首を傾げつつ、私は前を向いて声をかける。


「どうっすか?ルッシーの乗り心地」

「ほわ~。お馬さんって乗ってみると案外視線高く感じますねぇ」


 私の前、ルシナンテに共に腰かけている女性が、頭に生えている茶色い丸耳をぴくぴくと揺らして答える。

 狸亜人のモユクさんだ。彼女もアルやブルムントと一緒のSランカーである。おっとりとした雰囲気に似合わずばりばりの戦闘系、凄腕の斧使いらしい。さすが女性でSランクまで上り詰めるだけある。


 馬に乗るのは初めてらしく、周りの景色をほわほわと楽しんでいるモユクの狸尻尾をモフモフと抱き締めながら、ブルムントの後ろを黙々と歩くアルを見下ろす。


「アル、大丈夫?こっち座る?」

「このくらいじゃバテないよ。女性に歩かせて男が休むなんて、紳士じゃないしね」

「じぇ、ジェントル!ジェントルマン!ちょっ、モユモユ!うちの弟かっこよすぎん!?」

「もゆもゆ……って、私のことです?」

「そ、そうか。変な呼び方されてるのは俺だけじゃないのか……。良かった……」


 アル、ブルムント、モユク、そして私。今回のパーティーメンバーはこの4人である。


 私達が今いるのは、ギルドのあるベギンの町から、隣町に行く途中にある森の中。アルから聞いていた前情報通り、この森を開拓するための実地調査っていうのが依頼内容だ。どんな素材が採れるのか、水場はどこにあるのか等の地理調査から、山賊が出ないか、どんな魔物が巣食っているのか等の危険度調査まで、その内容は幅広い。依頼内容の濃さから、今回の探索任務はSランク3名以上と高ランクに設定されていた。


「よし、ここら辺でばらけようか」


 森の中腹辺りに辿り着いた私達は、ブルムントの言葉に頷く。調査範囲が広いためエリア毎に各自調査を進めようと、出発前に話し合って決めていた。チーム分けは分かりやすく、男チームと女チーム。


「それじゃあ夕の刻に森出口で落ち合おう。何か緊急事態が起きたら、狼煙を上げること」

「はーい!」


 それぞれ健闘を祈り、私達は二手に分かれた。




 有事に備えてルシナンテから下り、斧を担ぎ直したモユクに首を傾げる。


「とりあえず、ここら辺ぶらつきながら生態調査から始めます?」

「そうだね~。チセちゃん……あ、私もあだ名考えた方が良いかなぁ?うーん、ちーちゃんとか?」

「え!あだ名で呼んでもらえるの、初めてです!」

「そうなの?じゃあ、私が初めてもらっちゃお~。ふふっ」

「ぜひぜひ!ちーちゃんでも、ちーぼうでも、ちーかまでも、お好きなように呼んでください!」

「じゃあ、ちーかまちゃんって呼ぶね」


 あははうふふと、しばらく獣道を進むこと数分。


「違うそうじゃないっ!調査方法!!」


 危ない危ない。なんかモユクさんと話してると、会話がふわふわとどこかに飛んで行っちゃうんだよね。出発前にモユクさんが自己紹介した時も、得意分野の話しから、嫌いな異性のタイプの話しにいつの間にかすり替わってたし……。

 ちなみに嫌いな異性のタイプは、「女性に蛇や蛙を投げつけてくるような方はちょっと」とのこと。やけに実感のこもった声だったけど、投げつけられたことあんのかな……。


「……モユクさんの得意分野って、素材鑑定でしたよね?」

「うん。ちーかまちゃんは魔獣使いだよね。私、斧使いなんだけど、魔法は使えないから広範囲攻撃は苦手なの」

「じゃあ、魔物とか出たら私が対処しますね!動植物の生態調査はモユクさんにお任せしていいですか?」

「もちろん」


 早速しゃがみこんで草むらを掻き分け始めたモユクを横目に、ルシナンテの鬣にしがみついて爆睡しているフェレットをわしゃわしゃと撫でる。


「仕事だぞー!起きろー!」

『ううっ……。ふがっ!ちがう……それはポニーじゃなくてロバ……』

「どんな夢見てんだ」

 ってか、精霊って夢見んの?


 何やら魘されているフェレットに溜息を吐き、ルシナンテの首を軽く叩く。


「ルッシー、魔物の気配とかって探れる?」

≪ああ。フェレット殿より精度は劣るが、可能だ≫

「じゃあ、魔物が接近したら教えて!」

≪承知≫


 さて。お仕事開始だ。






 ――その頃、男チームでは。


「なんだあ?てめえら」

「この森が、我ら “宵闇の獣” のテリトリーと知っての狼藉か!」


 わらわらと、洞窟の入り口から湧いて出てくる山賊達を眺めながら、アルが真剣な表情でブルムントに囁く。


「ネーミングセンスが姉さん並み……と言う事は、単純思考の脳筋連中ですね。小難しい策略を練るタイプではなさそうです。正面突破しましょう」

「……そう、なの?」


 ブルムントが戸惑っている間に、アルはスタスタと洞窟へ近付いて行ってしまう。


「あ?なんだよ、子供じゃねえか」

「おい、見張りぃ!たかがガキ一匹で、いちいち騒ぎ立てんじゃねえよ!」

「随分小綺麗な坊ちゃんだなあ?」

「売れればそれなりに値が張りそうだ」


 下卑た笑みを浮かべる山賊達に臆することなく、アルはずんずんと歩みを早める。


「おいガキ、止ま――」

「【氷結】」


 ピシピシ、と。聞き慣れない音が森に響き渡った。

 何の音だ、と周りを見回していた山賊達が、何かに気付き一斉に足元へ視線を移す。


「な、なんじゃこりゃあ!?」


 慌てて両足をバタつかせるが、時すでに遅し。どこからかせり上がってくる氷が、猛烈な勢いで全身を凍らせていく。

 わずか数秒。洞窟から出て来た山賊達は一人残らず氷漬けにされてしまった。


「何度見ても惚れ惚れしてしまうな」


 そう感嘆するブルムントに、アルは洞窟の中へ視線を向けながら、どこか上の空で呟く。


「まだまだ改善の余地ありだな……。完全に凍らせるまでのタイムログももっと抑えたいし、魔力消費の配分にもムラがある。拘束魔法として使うなら、無詠唱でも発動できるように……」


 そこで、はっとブルムントを振り向いたアルは、誤魔化すように笑みを浮かべた。


「あ、いえ、すみません。洞窟探索、行きましょうか」

「……そうだな。中にも賊が残っているだろうし、気を付けて進もう」

「はい」


 ブルムントは横を歩くアルをちらりと見下ろす。二人並ぶと、身長差が際立った。頭二つ分は差がある。当たり前だ、彼はまだほんの12歳なのだ。


 アルとブルムントは一角馬の捕縛任務の後も、度々パーティーを組むことがあった。アルは最年少でSランクとなっただけあり、冒険者歴の長いブルムントから見てもかなりの実力者だった。魔力量に恵まれており、魔法技術は12歳のものとは思えないほどの精度で、最近は水属性の派生属性である氷属性も操り、高ランク任務を軽々と片付けている。


 彼は間違いなく天才だ。だが、アルは周りからの讃辞に、時折ひどく複雑そうな表情を見せる。お世辞とでも思っているのか、どうも本気にしていないようなのだ。


「アル君。君は間違いなく天才だよ」


 唐突なブルムントの言葉に、アルは首を傾げながらも苦笑する。


「どうしたんですか、いきなり」

「本心だよ。さっきの氷魔法だって、あんなに短い詠唱で、しかも複数いる対象を同時に拘束するなんて、並みの魔術士じゃ到底できない芸当だ」

「……ありがとうございます」


 ほらまた。笑みを浮かべてはいるが、明らかな愛想笑い。ブルムントの褒め言葉を本気にしていないのが透けて見える。


「君は謙虚すぎるな」


 眉を寄せるブルムントを驚いた様に見上げたアルは、しばらく沈黙した後、「もしかして……」と口を開いた。


「ブルムントさん、僕が自分を卑下してるって思ってます?」

「違うのか?」

「違……うんですけど、確かにそう思われても仕方ないか」


 後半は独り言のように呟いたアルは、うーんと腕を組む。


「僕の魔力量が他人(ひと)より多い事とか、同年代に比べて魔法の扱いに長けているっていうのは、ちゃんと自負してますよ。ただ、僕が目指している目標には程遠くて、今の自分に全然満足できないんです」

「目標?」

「はい。僕の理想は、姉さんなんです」


 アルの姉、チセのことか。ブルムントは彼女と初めて会った時のことを思い起こす。


 彼女の第一印象は、「可憐」だった。

 光の反射で七色にも輝いて見える銀髪に、宝石のように煌めく琥珀色の瞳。その神秘的な容貌に一瞬、人ならざるものが見えているのかと錯覚したほどだ。


 そして、彼女はその中身も何と言うか……予想外で。言うなれば「奇怪」。

 外見から想像していた性格とはまるで違う、お世辞にもお淑やかとは言えない言動に、理解不能な思考回路。幻獣種の魔獣二体と契約できるほどの膨大な魔力量に加え、「精霊の加護」まで持つという規格外な能力(スキル)


 なるほど。彼女を目標としているのなら、アルが現状に満足していないと言うのも納得できる。


 しかし、ブルムントはチセの実際の実力は然程知らない。捕縛任務の時は、魔物の警戒を解くために、チセの「精霊の加護」の恩恵は受けたが、実際に彼女が魔法を使っているところを見たわけではなかった。


 そのため、ブルムントからすれば、やはりアルは自己評価が低いと思わざるを得ない。

 彼が「程遠い」と自評するほど、二人の間に実力差があるとは……どうにも信じ難い。


「君は、天才だよ」

「ブルムントさん?それ、二回目ですよ?」


 怪訝そうに見上げてくるアルの頭を、ポンポンと撫でる。


「努力の天才だ」


 ふと吐息を零すように笑ったブルムントに、アルは一瞬目を見張った後、ふいと顔を反らす。


「……ありがとうございます」


 先程の愛想笑いとは打って変わり、照れたように頬を掻き、年相応の笑みを浮かべるアルに、ブルムントがさらにくしゃくしゃとその頭をかき回す。


 ――と、洞窟の奥から話声が聞こえてきた。

 二人は顔を見合わせ、瞬時に仕事の顔へ戻る。



「洞窟探索の前に、賊の掃討が先みたいだな」

「ですね。……行きましょう!」



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