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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第一章 ギルド
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一角馬



『おい』

「ん~」

『おい、起きろバカ』

「んー?ん、うぅ……」

『バカ、ハゲ、アホ、マヌケ』

「むにゃむにゃ」

『……』


 ――――ガリッ。


「ぎゃぁああああ!!痛い何すんじゃぼけえ!?」

『起きろ!現れたぞ』


 現れたって何が……とそこまで考えて、そう言えば魔物を捕まえるために待機していたんだと思い出す。

 フェレットに引っ掛かれた頬を押さえつつ周りを見回すと、辺りはだいぶ暗くなっていた。いつの間にか木の上で寝てしまったらしい。


「あれ、アルたちは?」

『とっくに撤退したぞ』

「え、私を置いて?」

『ああ』


 な、なんてこと……。


「一言くらいあっても良くないか!?」

『声ならかけてたぞ。お前が起きなかったんだろうが』

「……おっほん。それでなんだって?出たって?」


 パッと見それらしい姿は見当たらない。首を傾げつつ眼下を見回す私に、フェレットが対角線上の森の奥を指す。


『もう少しで現れる。間違っても騒ぐなよ。すぐ逃げられるぞ』

「うっす」


 じっとそちらを見つめていると、それは空気に溶けるように現れた。


 白い霧を纏い、その霧を掻き分けるように歩を進める一匹の白馬。額には巻角。背中には立派な翼が二対。言われた通りの見た目だ。


「綺麗だね~」

『言ってる場合か。……見た感じは魔物だな』

「あ、本当だ。黒い靄が出てる。じゃあ、操られている説は無しかな」


 馬はゆっくりと泉に歩み寄り、そのまま()()を歩き始めた。そして、泉の真ん中で立ち止まると、頭を下げて水を飲み始めた。


「え?ってか、沼に全然足とられないじゃん」

『陸地を移動する時も若干浮いてるみたいだな』

「完全に地面に足を付くことがないってこと?まじか~」

『油断するな。どっちにしろ姿を見せてる今がチャンスだぞ』

「そ、そっか。よし、ひとまず捕まえよう。話しはそっからだ」


 とは言え、姿を消されると面倒だ。一発で確実に捕まえなければ。今回は捕縛が優先されるため、浄化は使えない。

 少し考えて、フェレットに話しかける。


「周りに人の気配はない?」

『ああ』

「じゃあ、水属性縛りでやる必要はないか」


 恐らく空中歩行のタネは風属性の魔法だろう。ブルムントが、一角馬は光と風の属性を持っているって言っていた。


「風に強いのは、火」


 火の檻をイメージし、しっかりと形を練り上げる。


「フォローよろしく」

『任せろ』


 パッと手を前に出した瞬間、ボッと一角馬の周りに炎が立ち上り、異変を感じ取った一角馬が水面から顔を上げた時には、炎の檻の中だった。


「よし。確保完了!」


 木の上から飛び降りながら、火の檻を泉から地上に移動させる。いつまでも水面に触れさせていては、威力が弱まっちゃうかもだし。


 檻の近くに行くと、一角馬は静かにこちらを見ていた。その目からは理性を感じる。


『元々かなり理性の強い魔獣のようだな。魔物化してるが、ある程度の知性は保っている』

「そうか。じゃあ、話せば分かるかも。……あの~すみません~」


 檻に近付きながら声をかけた瞬間だった。


 ガンッ!


「え、ちょ、ちょっと!!」


 ガンッガンッ!!


 一角馬が突然、自身が火傷するのも厭わずに檻に向かって突進を始めた。もちろん、それじゃあ破れないが、体が傷つく一方だろうに。


「ちょっと!理性保ってんじゃなかったの!?」

『いや、ある意味賢いやり方だ。こっちに殺す気が無いことを知ったうえでやってやがる。光属性を使えるのに自己治癒しないのが良い証拠だ』


 フェレットに言われて見てみれば、確かに火に焼かれてダラダラと血を流す体を治す素振りはなく、体の傷は増え続けている。


 つまり、「おらおら、このままじゃおいら死んじまうぜ~?いいのかよおい?」ってことか!

 ど、どどどどうしよう!?


『ひとまず治してやれ』

「あ、そっか。私が治せばいいのか」


 慌てて「元気にな~れ」と治癒をかける。しかし、何だか治りが遅い。


『ああ、闇属性持ちは毒や病に耐性がある分、光属性の治癒魔法が効きにくいんだった』

「まじかよ~!」


 言ってる間に早くも、治癒の効果が怪我の数に追い付かなくなってきた。


「んー、じゃあこれでどうだ!」


 火の檻の下部分のみ解除し、地面を盛り上げて白馬の足を捕まえると、瞬時に土を固める。そうして身動きが取れなくなった一角馬に、治癒魔法をじっくりかけ、怪我を治す。


「ふぅ~。でもこれじゃあ連行はできないな~」

『契約しちまえばいいじゃねえか』

「契約?」


 どういうこと?とフェレットに訊けば、衝撃な事実を告げられた。


『異界の魔獣に限らず、魔物とも使役契約は結べるぞ』

「そうなの!?」


 え、じゃあ『禁断の森』にいる魔物達とも契約できちゃうってこと!?……いや、しないけど。


「契約しちゃえば、この子は使役魔獣になって正気に戻るし、捕縛任務も成功で一石二鳥よね?」

『ああ』

「よし!やり方教えてください、先生!」

『人間は陣を書くことが多いようだが……まあ詠唱だけでも大丈夫だろ。俺の後に続いて言葉を言え。俺と契約した時みたいにな』

「はぁい」



 ――我、チセの名の許に、汝と契約を結ぶ。

 古の盟約により、汝、此れに従う者なり。



『――おい、何うずくまってんだ』

「くっ、放っといてくれ……。あまりの厨二臭さに私の黒歴史が……」


 膝から崩れ落ちて一頻り悶えた後、そう言えば馬の方は――と顔を上げれば、理性的な金色の瞳と目が合った。


≪人間の子よ。感謝する≫


 脳内に直接語り掛ける声。恐らく目の前の一角馬の声だ。契約は成功し、無事理性を取り戻したらしい。よく見れば黒い靄も消えている。


「いえいえ。むしろ、無理矢理契約してしまって、すんません」

≪構わん。それしか手段はなかっただろう。正しい判断だ≫


 足の拘束を解き、火の檻も消した私は、改めて一角馬と向き直る。


「あの、私はチセです」

≪我が名はルシナンテ。盟約により、今宵からチセの眷属となろう≫

「本当に良いの?解いて欲しいって言うならそうするけど」

≪否、むしろ我々魔獣は人間に使役されることを喜びとするもの。不満はない、が≫


 ブルルンと不満げに鼻を鳴らしたルシナンテは、踵を鳴らす。


≪我を陥れた人間には、一言物申したい。あのような扱いは我も思う所があるぞ≫

「陥れた……?あ、まさか……えーっと、ルシナンテが神出鬼没な大暴れをしていたことに関係が?」

≪元々、我を呼び出した人間がいたのだ。しかし其奴の器量が我に吊り合わなかった故、契約は結ばれなかった。契約者の魔力量がまるで足りていなかったのだ。中途半端に召喚された我は理性を保つことができず、本能のままに原因であるその人間の後を追う魔物と成り果てた≫

『それはおかしな話だ。そもそも吊り合わないのならば召喚自体が成立しないはずだぜ』

≪おや、お前は……≫


 ルシナンテがそこでようやくフェレットに気付いたようで、目を瞬かせた。


≪精霊か。珍しいことがあるものだ。まるで魔獣の様に言を操る≫

「あ、やっぱ変なんだ」

『変って言うな。賢いと言え。……で、どうなんだ』

≪ああ、召喚についてだったな。どうやら、召喚陣を用意したのは召喚者ではなく別の者だったようなのだ。故に、用意された召喚陣と召喚者の魔力量が吊り合わず、我が召喚された時点で、召喚者の魔力はすでに尽きかけていた』

「召喚陣を用意した者が別にいた……?」

≪恐らく。……その後は説明した通り、召喚は成されたものの、契約するだけの魔力量が残っていなかった召喚者は、そのままその場を去ってしまった。召喚陣の効果が消えるまで、我は暫く身動きが取れず、召喚者を見失い、理性も保てず――≫


 憤怒を表すように、蹄を鳴らすルシナンテ。なるほど、それで本能のまま召喚者の後を追っていたというわけか。

 ルシナンテが地図上で移動していた一直線上の先に、恐らく件の召喚者がいるのだろう。


「その人って、まだ追える?」

≪いや。チセと契約をした時点で其奴との縁も切れた。今となっては残滓すら掴めん≫

「そっか……」


 ルシナンテを陥れたという不届き者も、捕まえてやりたかったな……。

 まあ、何はともあれ。一先ずギルドミッションは達成だ。


「――とりあえず、アルたちと合流するか」


 と、言う事で。

 私はキラキラとルシナンテを見上げる。


「乗ってみていい?」

≪もちろんだとも。我が主よ≫






「ってなわけで、捕獲任務完了です!」

「待て待て待て」


 ブルルンと鼻を鳴らすルシナンテに跨り、ビシッと敬礼する私。ブルムントは宿に戻って来た私達を唖然と見上げ、仰け反りながら頭を抱える。

 あれ、何でだろう。全然嬉しそうじゃない。


 アルは風呂上がりだったようで、濡れた髪をタオルで拭きながら、「ね?放っておいても大丈夫って言ったでしょう?」とブルムントに向かって肩を竦めている。


「一角馬と契約?君が?」

「? はい。ね、ルッシー」

≪いかにも≫

「る、ルッシー?」


 ブルムントが目を白黒させる横で、アルがちょちょいと手招きする。

 首を傾げつつルシナンテから下りてアルに近寄ると、ガシッと肩を組まれた。そしてグッと顔を近付かせたアルは、口元に手を当ててひそひそと囁く。


「姉さん、普通でいたいんだよね?」

「うん」

「だったら、捕獲はともかく、契約したのは失敗だよ。幻獣種と契約するには相当の魔力量が必要なんだ。それこそ一角馬と契約するなんて、この国一番の魔力量を保持してるって言ってるようなもんだよ」

「ええ!?まじで!?」


 聞いてない!フェレットを引っ掴んで揺らすと、がりっと引っかかれた。痛い……。


『聞いてこなかったから』

「おいこっち見ろ!おい!!」

「まあまあ。もうやっちゃったもんは仕方ないよ」


 ……確かに、アルの言う通りである。くよくよ悩まないのも、私の取り柄だ。

 未だ放心状態のブルムントに、溜息混じりに声をかける。


「とりあえず、ギルドに戻ります?」

「あ、ああ。そうだな……」

「あ、その前に」


 アルが外に出て、畑を指さす。そうか、まだ荒らされた土地がそのままだ。


≪それなら我に責任がある。任せてほしい≫


 ルシナンテは言うが早いか、上空に浮かび上がると光の粉を地へと降らせた。

 すると何と言う事でしょう!焼け野原の様になっていた土地に緑が芽吹き、枯れ果てた草花に元気が戻りました――。


「びふぉーあふたー……」

≪こんな具合でどうだろうか≫

「はっ!すごいよルッシー!ちなみに今のは光属性の魔法?」

≪ああ、治癒魔法の応用だ。人間には些か掴みにくい感覚のようだが、自然万物から生まれた我ら魔獣にとって、それらを回復させるのは容易い≫


 ほほう。治癒魔法を使って土地を蘇らせるって発想はなかったな……。でも考えてみれば、浄化もその一種か。


「ありがとうございます。ルシナンテさん」


 アルが丁寧に頭を下げる。育ちの良さが出ている。さすが我が弟である。


「俺は夢でも見ているのか……」


 あれ、まだ放心状態なんだけど。ブルムントさん。


 アルが懐から転移陣を取り出して、ブルムントの背をツンツンとつつく。


「では、今度こそ移動しましょう」

「あ、ああ。そうだな……と、一角馬はどうやって連れて行く?」

「あ、そっか。えっと、どうすればいいんだ?」

≪使役には二種類ある。必要な時だけ呼び出すのか、常時傍に置いとくのか≫


 うーん。ルッシーの大きさ的に、常時ってなると色々大変よな~。


「じゃあ、用事があったら頼んます。それまで自由時間で!」

≪あいわかった。いつでも馳せ参じよう≫


 ルシナンテはそう言うと、風に巻かれて一瞬で姿を消した。


 そうしてようやく、私達はギルドに戻るための転移魔陣を発動したのだった。






「Yeaaaah~!!チセ様一行のご帰還じゃ~!ひれ伏せ野郎どもおおおお!!」

「あ、お帰りなさーい」


 ギルドに戻った私達を、いつも通り朗らかな笑顔で出迎えるウーグィス。私は任務完了を示すために数秒前に別れたルシナンテを呼び出した。


「な、なななな……!!」


 ざわりと、空気が揺れる。ギルド内が騒然とする中、ブルムントとアルは「やっぱ驚くよな」とうんうん頷く。

 くっ、私の『ただいま(オラオラVer.)』には皆、無反応だったくせに……!!


 ゴホンと咳払いをした私は、神々しい光を放つ白馬に掌を向ける。


「と、言うわけで。捕縛任務完了です」

≪捕縛されたルシナンテだ≫


 ルシナンテが律儀にそう頷く。それをギルド内の人達と共にポカンと見つめていたウーグィスは、やがてずるっと椅子の背に凭れると、呆けた顔のまま呟くように言った。


「ほんと、チセちゃん達が来てから驚かされる事ばかりで、飽きないわ~」



 こうして奇しくも、私に新たな非凡要素が追加されたのだった。とほほ……。



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