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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第一章 ギルド
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捕縛任務



 幻獣種。それはいわゆるURの魔物だ。神話に出てきたり、強大な力を持つ魔物がそこに分類される。ちなみに超級魔物がSSR、上級はSR、中級R、低級Nってとこ。


 だからもちろん、『禁断の森』に幻獣種の魔物はいない。






「んっふふ~ん。ふっふふ~ん!」

「あ!チセちゃん。久し振りね」

「あ、ウーグィスさん。ちわーっす!」


 ここ数ヶ月で仲良くなった受付嬢のウーグィスに、笑顔で手を振る。

 アルが、ウーグィスに依頼状を渡すと、内容を確認したウーグィスは軽く目を見張る。


「幻獣種の捕獲依頼……。そっか、アル君Sランクに上がったから、チセちゃんも一緒に受けられるのね」


 そう、アルが言っていた捕縛任務は、Sランクの仕事だった。しかし、パーティー内で上位ランカーの数が下位ランカーと同数以上であれば、上位ランクの仕事も受けられる。アルとチームを組めば、Aランクの私もSランクの仕事を受けられるってわけだ。


「すごいわね本当。史上最速、最小年のSランカーだってギルド長が言ってたわよ」

「そうなんだ。すごいな~アルは」


 ウーグィスとそんな会話をしていれば、苦笑したアルが依頼表の一文を指差す。


「ところで、ウーグィスさん。この『先発ランカーとの共同任務』というのは?」

「あ、そうそう。実はこの捕縛任務、すでに一人対応中なんだけど、苦戦しているみたいなの。だから、増援要請も兼ねて依頼を出し直したのよ。今回は、その先発メンバーと合流して任務を完遂してほしいの」


 なんと、先輩がすでに対応中でしたか。ふむ、と頷き、コテンと首を傾げる。


「んじゃ、早速行っちゃいます?」

「そうだね」

「気を付けてね~二人とも。聞いた限り、凶暴な魔物ではなさそうだけど、面倒な魔法を使うらしいから……」

「面倒?」


 頬に手を当てたウーグィスが、少し思案気に視線を空中に向ける。


「どうやら、姿を消すらしいのよ、その魔物。霧に消えるみたいに。だから捕縛が困難なんだって」






 指定された場所は国境付近の村だった。陸地を行けばここから優に10日はかかる。しかし、こんな時の便利アイテムがあるという。


「転移陣だよ」


 去り際にウーグィスから受け取った紙を、懐から取り出すアル。ひょいっと覗き込めば、円形に複雑な幾何学模様が描かれている。


「転移陣?」

「うん。この模様は魔陣って言って、魔力を込めれば模様に込められた術式が発動する仕組みになってるんだ。で、これは件の村まで一瞬で移動できる転移陣」

「え、瞬間移動できるってこと?」

「そういうこと。……って言っても、僕も転移陣は初めて使うんだけど」

「ふーん。これって往復?」

「ううん。帰りはこっち」


 アルはポケットをポンポンと叩く。なるほど、切符みたいなもんか。


 私達は早速手を繋いで、魔陣に触れる。


「……あれ、魔力を込めるってどうやるんだ?」

『手伝ってやろうか?』

「フェレットできるの?」

『こういうのは精霊の方が得意だろ』


 そうなんだ。じゃあ、お願いと言うのと同時に、私達は気付けば見知らぬ土地にポツンと立っていた。



「「え?」」


 アルと顔を見合わせる。


 周りを見回せば、そこは畦道の真ん中だった。前方にポツポツと家が見える。これは、成功と言う事で良いのだろうか?


「急すぎて何か実感わかない。すごいな、魔陣……」

「とりあえず、家が見える方に行ってみよっか」


 アルが広がる畑を見つめて目を細める。


「荒れているね」

「ん?」


 言われてみれば、確かに畑は枯れた草が生えるばかりで、どこにも作物は実っていない。


「もしかして、魔物の影響?」

「たぶんね」


 これは確かに、早急に解決しなければ村の存続にかかわる問題だ。気を引き締め直したところで、後ろから声をかける者があった。


「君達、ギルドから来た増援か?」


 振り返れば、そこにいたのは剣を腰に挿した美丈夫だった。


 なんか、RPGのゲームに出てくる勇者みたいな奴だな。格好こそ冒険者然としているが、主人公顔と言うか、陽キャオーラが滲み出ていると言うか……。


「こんにちは、勇者さん」

「え?ゆうしゃ?」

「姉さん、奇行に走るの早すぎ」


 勇者(仮)はこちらの顔を見るなり一瞬目を見開き、私の言葉で口もポカンと開けた。


「仰る通り、僕たちがギルドから派遣された冒険者です。アルって言います。こっちが姉のチセと、その使い魔のフェレットです。彼女はまだAランクなのですが、僕より強いので力になれるかと」

「……ん?ねえねえ、フェレット。スルーしそうになったけど、さっきアル変なこと言ってなかった?奇行がどうとか」

『事実しか言ってねえけど』


「――お名前を伺っても?」


 アルが促せば、固まっていた勇者(仮)がハッと瞬きをする。


「あ、ああ。ブルムントだ。よろしく頼む」

「名前も勇者っぽいな!」

「あ、あの。さっきから勇者とは?」

「……気にしないでください。姉さんの言葉はほぼほぼ聞き流してもらって大丈夫です」

「アル君?」


 おかしい。なんか最近、アルが冷たい気がする。

 はっ!も、もももしかして、第二次反抗期ってやつか……!?


 あわあわと右往左往する私を、ブルムントはちらちらと気にしながらも、アルの言葉に「分かった」と律儀に頷き、村の方へ矛先を向ける。


「ひとまず移動しよう。こちらの状況も共有しときたい」


 私達は言われるままブルムントについて行きながら、状況説明を受ける。


「まず、我々が追う魔物だが、白い一角馬だ」

「一角馬……!?かつて『不屈の魔導師』が使役していたという?」

「え、なになに?」


 いっかくば?ふくつの?なんじゃそりゃ。


 キョトンとなる私に、ブルムントが丁寧に説明してくれた。


「額に巻角が一本、四枚の翼を持った白馬の姿をしている魔物で、元の属性は光と風を持つ。魔物となった今は、加えて闇属性を持っているから三属性を操れる。世界樹が現れる前、この世界の調整者として君臨していた『魔導師』の内の一人、『不屈の魔導師』の使役獣として長年契約を結んでいたことで有名な魔獣だが、『不屈の魔導師』の死後は異界に還ったはずだった。しかし最近、ここ一体を荒らしている魔物がその一角馬だと判明した。誰かが召喚して契約に失敗し、“はぐれ” となったのか……。経緯は不明だが、とにかく厄介な相手であることに変わりはない」


 ブルムントの説明を聞きながら、私は叫び出さないようにギュッと唇を噛み締めるのに必死だった。


 きた、きた!ファンタジーっぽい要素きたー!!

 ユニコーン?ペガサス?何でも良い。今までのトカゲもどきとか、ナメクジもどきとかより、断然テンションの上がる相手である。


「むふっむふふふ」


「……あ、あの、彼女どうかしたの?」

「ほんと、気にしなくて大丈夫です。いつもの発作ですから」




 ブルムントに案内されて辿り着いたのは、彼が泊まっている宿だった。エントランスにあるソファに一旦腰掛け、ブルムントが広げた地図を三人で覗き込む。


「最初に発見されたのが此処、隣国の海辺だ。その後、この村に向かって、一直線上に目撃情報が出ている」


 ポツポツと並ぶ赤いバッテン印。それを線で結ぶとなるほど、確かに一直線だ。


「どこか目的地があって、そこに向かってるとか?」

「分からない。理性がない魔物だったらそれは考えにくいけど……。いや、むしろ本能的に何かを追っている可能性もあるか」

「魔物だったら……?魔物じゃない可能性もあるんですか?」


 アルの問いに、グッと眉を寄せたブルムントが少し躊躇った後、声音を落として言う。


「考えたくはないけど、操られている可能性はある。使役契約を結び、縛りを課せば、魔物の様に見せて街を襲わせることもできるだろう」

「そんな……。だけど、それは相当魔力を食うのでは?特に幻獣種ともなると使役だけでも相当の魔力を消費するはずです。それに、今は闇属性を持ってるんですよね?魔物化しないで属性がプラスされることなんてあるのでしょうか……?」

「ああ、使役魔獣である可能性は低い。だが、魔物の動きにしては不審な点も多い――だからこその捕縛なんだ。討伐ではなくてね」


 アルの質問に、ブルムントが神妙な表情で答える。真意を確かめることも任務の内と言う事だ。


 三人、顔をあわせて頷き合う。必ず真相を暴いてやる!






「どうやって捕まえるか、策はあるんですか?」

「君達はどちらも水属性だったね。俺は地属性が使えるから、地面を沼にして沈めることができれば、ヤツの姿を捉える事ができるかもしれない」

「姿を捉える……。やっぱり “姿を消す” って話しは本当だったんだ」

「ああ。どうやら光属性の魔法で姿を消すことができるようなんだ。だけど、何もいなくなるわけじゃない。見えなくなるだけだ。閉じ込めてしまえばこちらのもんさ」

「ふむ……。でも飛ぶんだよね、その一角馬って」


 私の言葉に、ブルムントが難しい顔で頷く。


「そう。だからチャンスはそう多くない」


 言いながら、ブルムントが案内したのは、とある泉の畔だった。


「最近、この周辺で目撃情報が相次いでいる。今はここを根城にしているらしい」

「もう移動した可能性は?」

「なくもないけど、可能性は低い。ヤツは確かに一直線上にどこかへ向かっているけど、必ずポイントごとに数日は立ち止まっている。休憩なのか……目的は分からないが、ここに来てからはまだ1日しか経っていないんだ。まだ、ここら辺にいる可能性が極めて高い」

「目星は付いてたわけね」


 目の前の泉を眺める。『禁断の森』にある湖ほど大きくはない。池くらいの大きさだ。


「泉の周辺なら、一角馬が地面に降り立つ可能性がある。だから、ここ一体を沼地に変えたい。俺が魔法で地面を柔らかくするから、君達は水魔法で底なし沼を作ってくれ」


 は~い、了解で~すと答える前に、頭上からボソッと声が降ってきた。


『魔力の残滓で余計近付かなくなるぞ』

「え?……あ!ストップストップ!ちょっとタンマ!」


 早速しゃがみこんで魔力を流そうとするブルムントを慌てて止める。戸惑ったように顔を上げたブルムントは、何故かアルの方を仰ぎ見て、頷くアルを見ると立ち上がった。いや、奇行じゃねえよ。


「ごほんっ。……えー、我が使い魔から有難い助言があります」

『魔獣は魔力感知に優れてる。警戒心の高い魔物なら尚更、他者の魔力で耕された地面になんか、足付けねえだろ』

「――とのことです」


 私がフェレットの言葉をそのまま伝えると、ブルムントは難しい顔で腕を組む。


「なるほど。魔法を使うのは悪手か。策を練り直さないと……」


 そこで私はふと思い立ち、頭の上に乗っているフェレットを捕まえて、顔の前に持ち上げる。


「フェレットって、魔法は使えないけど自然現象に近い事象なら起こせるって言ってたよね?」


 ブルムントに聞こえないようにこそこそと聞けば、フェレットがふんっと鼻を鳴らす。


『まあな。だがその男の言ってた地面を柔らかくするって言うのは無理だぜ。魔法の領域だ』

「じゃあ、雨を降らすことは?」

『できるっちゃできるが……。ああ、なるほど』


 納得したように髭を揺らすフェレットを地面に下ろし、作戦会議をしている二人に手を振った。


「何とかなるかもしれません!」




「君の使い魔は優秀だね!まさか、大雨を利用して沼地を作ってしまうなんて」

「あ、はは……」


 未だにザーザーと降り続ける雨の中、大木の下で雨宿りをしていたブルムントが、満面の笑みで泉の方を眺める。それに苦笑いで答えながら、私はブルブルと体を揺らして水滴を散らしているフェレットを見下ろした。



 ――私が二人に伝えた作戦はこうだ。

 我が使い魔曰く、もう少しで大雨が来るとのこと。その雨の水分を利用して、()()()()()()()()()()()()


 “地面を柔らかくする” と言う工程を自然現象で起こし、ぬかるみを沼地化する工程を精霊に手伝ってもらえば、魔法を使わずに罠を設置できる。


「私、精霊の加護持ちなんで。精霊にお願いすれば、ちょちょいのちょいっす」

「せ、精霊の加護!?驚いた……、加護持ちなんて初めて会ったよ」


 え、そんな希少なの?ギルド登録の時にフェレット、『加護持ちならざらにいる』的なこと言ってなかった?


「加護持ちは精霊の助けを受けやすいと聞いたことはあったけど、本当だったんだね」

「え……。あ、はい!そうなんですよ~!いやぁ、偶然雨雲が近くて助かりましたねぇ、あはは!」


 使い魔が水属性だから雨雲センサーが働いたって態で誤魔化したが、実際は雨雲なんて近くには無かった。フェレットが精霊の力で雨雲を起こして雨を降らせたのだ。ちなみに、沼地化もフェレットがノーモーションでちゃちゃっとやってくれた。精霊(フェレット)様々である。


 正直「精霊にお願いすれば~」っていうのは適当に言っただけなんだけど、結果オーライだったな……。

 はははと乾いた笑いを響かせる私を疑うことなく、感心したように沼地を眺めるブルムント。


「“精霊の加護" か。聞いてはいたがすごい力だな……。助かったよ、チセ君。これで任務完遂も見えてきたな!」




 無事に罠が完成したので、私達三人はそれぞればらけた位置で、一角馬を待つことになった。


 私は西方向の木の上に陣取り、泉を見下ろす。


「加護持ちが、精霊の力を借りれるって言うのは初耳だったな~。別に加護持ってるからって、イコール精霊と契約してるとが限らないとか言ってなかったっけ?」

『ああ、よく覚えてたな。まあ、どっちも正しいぜ。加護持ちが、精霊の力を借りれるのは事実だ。だがそれはあくまで精霊の意思によるものだ。精霊の気分が乗らなければ力は貸さねえし、借りれたとしても極単純な願いしか叶えられない。そもそも、契約してなければ精霊と意思疎通はできねえからな』

「はは~ん。つまり、精霊と契約していない加護持ちって言うのは、強運バフが付いてるイメージか。高確率でラッキーが起こります、的な」


 そんで、精霊と契約している私は、こうしてフェレットと意思疎通ができるから、より緻密な指示を伝えることができ、確実にその事象を顕現できると。


 沼地に囲まれた泉を眼下に見下ろし、私は早速フェレットに()()()()()を出す。


「オッケーフェレット、周辺に一角馬の気配はある?」

『今、この周辺にそれらしいのはいねえな。近くに来れば分かると思うが』

「優秀!イイ子ですね~」

『おい、撫でまわすな。肉球を揉むな。腹を吸うな!』


 フェレットがズバシッと肉球パンチを繰り出すが、さっと避けて二へ二へと笑う。ふふん、その攻撃はもう見切ったZE!

 と思ったら、続けざまの尻尾ビンタがもろに直撃し、私は危うく木の上から落ちかける羽目となった。



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