表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第一章 ギルド
22/40



「あ、フェレット置いてきちゃった」


 休憩室を飛び出した後、ソファで寝ていたフェレットをそのままにしてきてしまったことを思い出す。


「ま、大丈夫か。そんな距離も離れてないし」


 厨房が休憩室と同じ階にあることは確認済みである。

 カチャカチャシュッシュと騒音を立てている部屋の前に辿り着き、扉を遠慮がちに開ける。


「すみません~」

「なんだぁ?」


 厨房にひょこっと顔を出すと、料理人達が忙しなく動き回っているのが見えた。そりゃあそうだ。これから食事会なのだから、その準備でてんやわんやなのだろう。

 私の声に反応しながらも、足や手を止めることはしない彼等に申し訳なく思いつつ、声を張る。


「何か摘まめる物を貰えませんか?朝ご飯を食べていなくて……」


 嘘だ。めっちゃ食べた。おかわり2回した。

 後ろからトムの視線がビシバシと突き刺さるが、ちょっと黙っていてくれ!どれだけ哀れを誘えるかがミソなんだ!


 私の切実さが伝わったのか、一番近くにいた芋を剥いている少年が料理長らしき人物へ声をかける。


「まかない、余ってましたよね?あげて良いっすか?」

「ああ」


 振り返りもせずに端的に答えた料理長に、少年が立ち上がって金属の棚(恐らく冷蔵庫だ)を漁ると、二枚の皿を持って近付いて来た。


「これで良いか?悪いけど、今は忙しくて。軽食を用意できる時間が無いんだ」

「大丈夫です!ありがとうございます!」


 わーいと子供らしく両手を上げて、ニコニコと皿を受け取る。見ると、魚のムニエルらしき料理が乗っていた。美味しそうである。


「ご飯、楽しみにしています!」

「……ありがとう」


 ルンルンで皿を掲げる私と、それを見て苦笑する少年。そんな二人の様子を、トムはじっと眺めていた。






 屋敷での食事会は、厳かに執り行われていた。


 神子と町長が穏やかに会話しながら食事を進めるのを、スンとなりながら壁際で眺める私とトム。


 貰ったまかない、美味しかったなぁ。……食事会のご飯も、美味しそうだなぁ。アル達はもう食べてるんだろうなぁ。いいなあ。


 次々と運ばれてくる料理を未練がましくジッと見ていれば、頭の上のフェレットが身動ぎした。


『おい、チセ』

「?」

『今、運ばれてきたあの、茶色い食いもん』

「ああ、オニオンスープかな?美味しそうだねぇ~。あ、ダメだよ。上に浮いてるクルトン食べたいとか、エビサラダの時みたいに言い出さな――――」


『毒入りだ』




「なっ!ちょっと、貴女。いきなり何をするんですか!」


 いきなり飛び出してきた私が給仕の手からスープの皿を取り上げたものだから、一気に注目がこちらへ向く。


 私は、眉を顰めた町長が声を発する前に、口を開く。


「いきなり申し訳ございません。ですが、これは毒入りです」

「何だと!?……おい、毒味役を呼べ!」

「は、はい」


「なぜ、これが毒入りだと?」


 トムが近寄って来て、訝し気に問う。


「私の使い魔が教えてくれました。鼻が利くんです」


 フンッとフェレットが鼻を鳴らす。


「旦那様、毒味役を連れてまいりました」

「あれ、君は……」


 連れて来られた毒味役は、厨房でまかないを渡してくれた少年だった。


「お前はこのスープを食べたのだな?」

「はい。特に症状は出ていません。私が食べた物に毒は入っておりませんでした」


 あれ、と瞬きする。

 ズキン、と頭が鳴る。今の感覚。


 ――――彼は、嘘を吐いている。



 咄嗟に声を上げそうになって、寸でで思いとどまる。

 闇属性の特性で、少年が嘘を吐いていることは分かった。でもそれを公言したら、私が闇属性を使える事がバレてしまう。それは恐らく良くない。


「どういうことだ。毒味の後に、毒が混入されたのか?」


 町長が困惑したように声を上げる。神子も強張った顔でスープを見つめている。

 ピリついた空気が流れる中、少年がチラリとこちらを見る。


「私がもう一度、そのスープを食べてみましょうか?それで何もなければ、その女が嘘を吐いていると言う事になります」

「!」


 不味い流れだ。少年が嘘を吐いていると言う事は、恐らく毒を混入したのも少年の仕業なのだろう。

 しかし、自ら毒を食べるなどと言い出すとは。神子を殺すための毒を入れたのだとしたら、いくら彼に毒耐性があったとしても無症状とはいかないはずだ。一体どういうつもりで……?


『奴は闇属性を持っている。魔法で毒を生成しんたんだろ。自身で魔法生成した毒は、自らには害を成さないからな』


 ああ、だからあんなに自信満々なのか。しかし、そんな奴が毒味役なんて、本末転倒じゃないか!雇用時にそういう可能性を考慮してちゃんと調べとけよ!!


 どうしたもんかな。仕組みは分かったが、後はどうそれを説明するかだ。「この人が闇属性持ちだって使い魔が言ってます~」はもう信じてもらえないだろう。そもそも、私は被疑者になっているわけだ。周りが私の言葉を素直に信じてくれるとは思えない。

 何か、何か客観的に証明できる方法はないか……。


 と、そこで。私はふと顔を上げた。あ、そっか。別に証明しなくても良いんだ。

 要するに、彼が毒を食べて倒れたという状況を作り出せばいい。


「じゃあ、お願いします」


 す、と皿を彼に渡し、私は彼から距離を取る。

 そして、彼がスプーンでスープを掬い、口に含んで嚥下した、その一瞬後。


「!? かはっ!」


 ガシャンと皿が彼の手から零れ落ち、少年がその場に崩れ落ちる。

 喉を掻きむしり、苦しそうに地面を転がる。


「なっ!」

「やはり毒がっ」


 周りがザワリと騒がしくなり、慌てたように少年へと駆け寄る使用人たち。


 私は、少年が意識を失ったのを確認して、こっそり魔法を “解除” する。


『ああ、奴が吸った空気中の酸素を毒にしたのか』


 フェレットが感心したように言うのを素知らぬ顔で流しながら、内心べっと舌を出す。もちろん致死性はない毒だが、数日は下痢が止まらないだろう。目には目を、闇属性には闇属性を、だ。




「申し訳ございません、神子様。不徳の致すところです……」

「貴殿のせいではない。顔を上げてくれ」


 応接室にて、頭を下げる町長に、神子はソファに座りながら首を横に振る。その後ろにギルドの護衛一同が待機していた。犯人が見つかっていない今、厳戒態勢で警護する必要がある。まあ、私の中では少年が犯人だって目星は付いてるんだけど、証明できないしね。まったく、闇属性だって言えれば一発で済むのに。それを公にできないなんて……。本当、面倒な差別思想だな。


 町長はこれから関係者に詳しい事情聴取を行うらしく、しきりに恐縮しながら部屋を出て行った。


「さて」


 オーダンが険しい表情で、一同を見渡す。


「犯人が捕まっていない以上、こちらも気が抜けない。この屋敷内に神子様を狙う者がいることは確実だ。しかし、今外に出ることもあまり得策とは言えない」

「なんで?」

「犯人の顔はちゃんと割らないと、ってことよ。ここで有耶無耶にされたら、後々面倒になるかもしれないから」


 ネアゴがふぅと溜息を吐く。


「今夜はこの屋敷に泊まることになりそうね。女性陣は部屋内。男性陣は屋敷内の警護でいいかしら?」

「ああ、総員で行う。各自配置についてくれ」


 それぞれが頷き、一斉に動き出す。



 私とネアゴは神子と一緒に客室へ戻り、神子の就寝準備を手伝う。


 神子はあれから一言も喋らずに、すぐにベッドに横になった。

 不測の事態に備えて、今回は寝室内にも一人警護として立つことになった。ネアゴが寝室内、私は寝室外――客室内での警護となる。


 私はソファに腰かけて、フェレットを膝の上に乗せる。


「犯人、捕まるかな?」

『さあな。操っちまった方が早いかもな』

「操る?」

『闇属性の魔法で、催眠をかけて自白させんだよ』

「え、え!?そんなことできんの!?いや、うーんでもそれはさすがに……」


 犯罪臭がすごいというか……。私の倫理観に引っ掛かるというか……。


「やるか」

『やるのかよ』

「ちょっと聞きたいことがあるんだよ、犯人にさ」


 フェレットを腕に抱えて、寝室のドアを控えめにノックする。カチャリと小さく扉が開いて、ネアゴが寝台の方を向いたまま、横目でこちらを伺う。


「ネアゴさん、すみません。私、ちょっと引っかかることがあって。あの毒味役の子に話しを聞いて来ても良いですか?」

「事情聴取なら町長と、オーダンが進めてるわよ?」

「はい、私も調査の役に立てるかなって思って」

「――無線は持って行ってね」

「了!」


 詳細を聴かず送り出してくれたネアゴに感謝して、私は静かに頷き外に出る。


「あれ、姉さん?どうしたの?」


 ドアを開けると、なんと部屋前の警護はアルだった。それともう一人、神殿騎士が立っていて、何かあったのかと強張った表情でこちらを見ている。そんな二人に「大丈夫。中は異常なし。ちょっと私だけ外にでるけど、すぐに戻るから」と曖昧に返して、そそくさと廊下を進む。


 しばらく歩いた後、周りに人気がないのを確認してフェレットに声をかける。


「あの少年、どこにいるか分かる?」

『ああ。この階じゃない。少し進むぞ』


 フェレットの言葉通りに進みながら、私は「ちょっと思ったんだけど」と声を落とす。


「もし、今回の暗殺が成功していたらさ、瘴気を浄化できる貴重な存在が減っちゃうわけじゃん?それって、結構世界的にヤバいよね?」


 浄化していない土地は新たな魔物を呼びよせる。その魔物を倒したとしても、魔物の死骸を浄化できる者がいなければ浮上の地は広がることになる。そういう事態が各地で起こればどうだろう。徐々に、じわじわと、世界は退廃していくのではないだろうか。


『まあ、そうなったら確かに人間の数は減るだろうが……。そんなんで滅亡までいくかぁ?』

「うん、それだけじゃ決定打にはならないだろうね。でも、フェレットが言ってた “神殿が怪しい” ってのに結び付けて考えると、なくもないと思うんだよねぇ」


 “浄化” を使える光属性の魔術士達が集う神殿。

 神殿の “お触れ” から広まった、闇属性持ちへの差別。

 神殿を目の敵にしている闇魔法使い達の巣窟ボンド。


 史実の一端で片付けられそうな、これらの出来事。だけどもしそこに、共通の黒幕がいるとしたら――――。


「世界の滅亡は、偶然か必然か……。探ってみる必要があるな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ