魔物討伐依頼
「ふ~。これで、終了ッと」
最後の魔物を倒し、一息つく。
今回の獲物はネズミ型の魔物だった。一匹当たりの攻撃力は高くないが、奴等は集団で行動する。数の暴力は侮れない。人里に下りては畑を荒らしたり、民家に入り込んで食物を駄目にしたりと、生活を脅かす魔物だ。依頼ランクはCだが、その被害は割と深刻だった。
「姉さん、終わった?」
「うん、問題なし」
「じゃあ、戻ろうか」
別の依頼をこなしていたアルと合流して、二人ギルドへと戻る。
――ギルドでチュートリアルをこなしたあの日から、早くも一月が経ち、私達は地道に依頼をこなしてBランクへと無事に上がっていた。
二人で依頼をこなすこともあれば、今日みたいに別々に依頼を受けることもある。より、効率的に資金を稼ぐためだ。
このひと月で、12歳にしては結構な額を稼ぐことができたんじゃないかと思う。ギルドの依頼は少なからず肉体労働だし、危険も伴うものが多い。しかしその分、その辺のバイトよりも賃金は弾むのだ。しかし、12歳でギルドに登録する者はあまりいないようで、いたとしてもやはり子供。実力が伴わずにEランクか、せいぜいDランク止まりで、報酬の安い依頼しか受けられない。それなりの収入を得るなら、やはりCランク以上の実力が無いとギルドで生計を立てるのは難しいのだ。
だけど、私にとったらこんなに楽な仕事はない。新種の魔物に出会えて、ファンタジー要素を堪能できて、しかも稼げる。天職なんじゃないかとすら思う。
「Aランクまでは、後どれくらいだっけ~?」
「Bランクの依頼をあと2つ、3つ受ければ上がれるはずだよ」
「よし。じゃあこの後、何か一緒に受けようよ!まだ時間早いし」
ルンルンとスキップする私に、アルも頷く。
「そうだね。体が鈍らないようにしときたいし」
「魔物討伐系が良いってこと?」
「それか、探索系とか」
探索系の依頼は、依頼主が直接行けないような危険な場所であることが多い。A~Bランクの仕事だ。しかし、その分経験値は積めるというもの。
「おけ。探してみよう」
アルの希望にグーサインを送り、私達はギルドの扉を潜った。
「ガギがBランカーだって?」
「そうなんだよ、兄貴。どんな手使ってんのか知らねえが、昇級の速度が半端なくて……」
「はっ、それはそれは。調子に乗らねえように、俺達が教えてやらねえとなぁ?」
ギルド内。ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる2人組に、周りの者が呆れた視線を向ける。
「出た。メイジー兄弟。また新人にちょっかいかける気か」
「標的ってあの子達でしょ?可哀想だわ」
「だが、メイジーの奴等に睨まれると面倒だしな……。アイツら、蛇みたいにねちっこく絡んできやがる」
「でも、このまま放っといたら……」
周りで同情的な声が上がる。それをジロリと見回したメイジー兄弟は、ギルド中に響き渡るような大声を上げた。
「なんだぁ、やけに今日は蠅共がうるせえな」
「キヒヒッ、Bランク以下の雑魚共の言う事だ。気にする必要ねえさ。それよりその件のガキ共だけどよ……」
その時、カランカランとギルドの入り口のベルが鳴り、二つの小さな人影が中に入って来た。
「さぁて、何か良い依頼はあるかなッと」
ギルドに帰って来た私達は、依頼の終了報告をした後、早速掲示板を見上げていた。
張り出されている紙を順番に端から眺めていると。
「よぉ、嬢ちゃんたち」
後ろから声をかけられると同時に、影が差す。
振り返ると、大柄な男2人組がニヤニヤと笑みを浮かべながら立っていた。そろって蛍光色のようなドきついピンク色の髪をしている。加えて、見分けのつかない全く同じ顔。双子だろうか。
「何っすか?」
首を傾げつつ答えれば、なぜか一瞬怯んだように目を見開く双子。しかしすぐに元のニヤケ顔に戻り、口を開く。
「随分活躍してるみてえだな。Aランクももうすぐだって話しじゃねえか」
「はあ」
「そこでだ。Aランクの先輩として、特別に俺達が指導してやろうと思ってな」
「Aランクとパーティー組めば、Bランクのお前らでもAランクの仕事ができるんだぜ」
「え、そうなの?」
何事かと隣りにやって来たアルを見ると、少し眉を寄せながらも頷かれる。
「確かにランチャーに書いてあった。パーティー内で上位ランカーの数が下位ランカーと同数、もしくは上回っていれば可能だって」
つまり、今回で言えばAランクの依頼を受けるのに、Aランクの双子とBランクの私達二人。同数揃っているからAランクの依頼を受けられると。
「もうすぐAランクに上がるんだろ?だったら、Aランクの仕事がどういったもんか、体験するにはいい機会じゃねえか?」
双子の言う事には一理ある。実際、Aランクの仕事には興味がある。もちろん、何やら企んでいる様子なのは気付いているが、正直Aランクの仕事をやってみたい欲の方が強い。
「分かった、いいよ」
「姉さん」
何か言いたげなアルに、パチリとウィンクを返し、双子に向かって真面目な顔でビシリと敬礼する。
「ご指導おなっしゃーす!パイセン!」
双子が再び唖然とした顔で固まるのと、アルが額を押さえながら溜息を吐くのは同時だった。
心配そうにこちらを見つめる受付嬢――ウーグィスさんと言うらしい。私達が初めてギルドに来た時に対応してくれた人だ――と、ニヤニヤと嫌な笑みでこちらを見下ろす双子に挟まれながら、魔物討伐依頼書にサインをした後、私達は依頼が来ていた村に向かった。
道中、アルがこそっと囁く。
「姉さん、本当に大丈夫なの?あいつら、何か企んでるっぽいけど」
不安げに眉を寄せるアルに、チッチッチと指を振る。
「いいかい、アル君。どんな部活でも、嫌な先輩ってゆーのはいるもんなのさ。そんでもってそういう人達は、いくらこっちが喚いたところで態度は良くなるどころか悪化するもんなの」
「ぶ、ぶかつ?」
「そーゆー先輩に絡まれた時の一番の解決策は、仲良くなること。これが結局、一番手っ取り早い」
「仲良くって……姉さんもしかして、あの二人と友達にでもなるつもり?」
「そう。今回のミッションは魔物を倒すことにあらず。ゴールはあの二人の心のドアをこじ開ける事。扉を開けて~一緒に遊びましょ~ってね」
いやあ、中学時代を思い出すなあ。帰宅部だったけど、いろんな部活の助っ人に呼ばれることが多かった私は、飛び入り参加する際の処世術を自ずと身につけていった。
飛び入り参加の助っ人に、必ずしも皆が好意的なわけじゃない。真剣に部活に打ち込んでいる者、ただ単に新入りが気に入らない者、理由はそれぞれだけど嫌な顔をされることは多かった。でもそう言う時は、悪意を返すのが一番こじれる。無視するのもあまり得策ではない。チームワークに支障が出るからだ。
結果、一番効果があったのが、あえてそう言う人達に取り入る事だった。
悪意に善意を、暴言に称賛を、嘲笑に微笑を。そうしている内に、不思議と向こうの方が苦しくなっていくのだ。
恐らく今回も、出る杭は打たれるじゃないけど、調子に乗ってるガキどもにちょっかいかけてみるかってとこだろう。
「大丈夫、大丈夫。お姉さんに任せなさい」
ドンッと胸を叩く私に、アルは何故か余計に眉を下げたのだった。
乗合馬車での移動中、メイジーと名乗った双子から今回討伐依頼が出ている魔物について聞く。
「ディロフォンドラゴン?……ドラゴン!?」
「ああ、火属性の上級魔物だ。山から下りてきて村を襲っているらしい」
「本来なら騎士や魔術士が派遣されるところだが、田舎はギルドに依頼した方が対応が早いからな。今回俺らに回って来たってわけだ。まあ、お前らは水属性で相性も悪くないし、俺達もいるから大船に乗った気持ちでいればいい」
私がビビっていると勘違いをした双子が、言葉とは裏腹に意味ありげな視線を交わすその先で、私はドラゴンと言う単語に目を煌めかせていた。
ドラゴン!初見だ!ついにファンタジー界を代表する魔物に出会えるのだ。これでテンションが上がらないわけがない。
「アルは見た事ある?どれくらいの大きさなんだろ。やっぱり飛ぶのかな?火とか吹くのかな?」
「いや、ディロフォンドラゴンって言うのは……」
アルが何か言いかけた時、それを遮るように双子がギャハギャハと耳障りな笑い声を上げる。
「嬢ちゃん、ビビりすぎだぞ。そんなんでAランクになろうなんて、まだ早いんじゃねえのか?」
「Aランカーの俺等にとっちゃあ、ディロフォンドラゴンの討伐なんて、準備運動にもなりゃしねえよ」
「こんくらいの依頼でビビってるようじゃ、先が思いやられるなあ」
アルがチラリと横を見ると、双子の言葉なんぞ耳に入っていない様子で、興奮冷めやらぬチセがずっと何やらブツブツと呟いている。大声で自慢話を始める双子と、独り言が止まらないチセに挟まれて、アルは半目で一つ溜息を吐いた。
「遠路はるばる、よくお越しくださいました」
件の村に到着した私達を出迎えてくれたのは、杖を震わせながら眼をしょぼしょぼと瞬かせる年老いた村長だった。
「いやあ、私がもう少し若ければ、お力になれたものを……。こう見えても、昔は “慟哭の剣士” なんて呼ばれておりましてな」
「はぁ、咽び泣きながら戦うスタイルだったんですか」
「魔物と聞けば、例え火の中水の中――色んな所に飛んで行ったもんですよ。しかし、今そんなことしたら一足飛びに天に逝っちまいますがな。うぉっほっほっほ」
「あの、すみません……。老人の自虐ネタってまじで笑えないんで。反応一番困るんで、勘弁してください……」
「おい、爺さん。くだらねえこと話してねえで、その魔物がどこに出んのか教えろ」
真面目に村長に応対していたこちらを見兼ねたのか、尊大な態度で双子の片方がそう言えば、村長は震える手で髭を撫でながら、杖の先を私達の後ろに向けた。
「この村に来る途中に平原があったじゃろう。そこを住処にしておるようなんじゃ」
「ちっ、戻るのかよ」
二度足だと文句を垂れる双子だったが、すぐに何やら思い付いたようにこちらを見てニヤリと笑う。
「そんじゃ、俺等は少し準備があるから、先に向かって様子を見てきてくれないか」
アルと顔を見合わせる。アルは半目で「言わんこっちゃない」と言う表情だ。しかし、私としては願ってもみない申し出だ。
「喜んで!」
((よ、喜んで……?))
ビシッと敬礼して見せれば、何とも言えない表情を浮かべる双子。
居ても立っても居られない私は、アルの腕を掴んでさっさと村を後にした。
「どっらごーんどらごんごん……よーいよいっと」
平原に到着し、鼻歌混じりに周りを見回す。と、ボンヤリと向こうに蜃気楼が立ち昇っているのが見えた。
「もしかして、あれか!?」
はっと目を凝らせば、何だか土煙を上げながら近付いて来る群影が……。
って、待って。ちょっと待って。あれって……。
「エンマキトカゲじゃん」
聞いていた話しでは一匹だけとのことだったが、こちらにドコドコと近付いて来る影はどう見たって10はいる。
炎を顔の周りにぐるりと纏いながら、なかなかなスピードで走る魔物。間違いない、エンマキトカゲだ。
アルを振り返ると、すっと視線を反らされる。
「ねえ、エンマキトカゲだよね?」
「……姉さんがそう呼んでるだけで、あの魔物は一般的にディロフォンドラゴンって呼ばれてるよ」
「どらごん」
もう一度、先ほどよりも一匹一匹が良く見えるくらいには近付いて来た魔物の大群を見る。
炎を顔の周りに揺らめかせる、二足歩行のトカゲ。
ゆっくりとその場にしゃがみ込み、地に手を付く。
「トカゲじゃんんんんっ!!」
『おい、言ってる場合じゃねえぞ』
冷静なフェレットの言葉と共に、アルが険しい表情で詠唱を唱えると、水弾を連射する。弱点の水をぶっかけられたエンマキトカゲは、一瞬動きを止めるものの、再び威嚇するように地面を踏み鳴らしてじりじりと距離を詰めてきた。
「……どうやら先輩方は、まだ到着しないみたいだね」
チクリと棘のある言い方で、淡々と言うアルに溜息で答える。
「まあ、そこは端から期待してなかったけど……だめだ、一気にやる気なくした。ドラゴンへの期待値高すぎて……。あれだ、誕生日プレゼントにゲームソフト頼んだのに、いざ買って来てくれたの見たら一個前のバージョンだったみたいな。あの時と同じ気持ち。そんな12の夏」
「あ、じゃあ少しやってみたいことがあるから、姉さんは見ててくれる?」
「……試したいこと?」
頭の上に乗っていたフェレットを腕に抱え直しながら、前に立つアルを見ていれば、打っていた水弾がピシピシと音を立てて凍り始めた。
「あ、それ」
「うん。この前の姉さんの戦い方見て、参考にさせてもらった。水属性の派生で氷魔法を僕も使えないかなって。ここ最近、密かに練習してたんだ」
言いながら、止めどなく水弾を放つアルは、小さく溜息を吐く。
「だけど、やっぱり凍らせるまでに時間がかかっちゃうな。実践で使えるようになるには練習が必要かも」
少し息を荒くしながらそう言うアルに、ふむっと考え込む。
「……水が氷になるのってさ、水分子が動かなくなるからだって、聞いたことがある」
「? 水分子?」
「水って動いているものってイメージだけど、氷は反対なんだよ。流動的なものが動きを止めたら氷になる。アルは水属性の魔法使う時に、魔力を流動的に使ってるでしょ?でも氷は、その魔力の流れを留めて固めるってイメージなんだよ」
「魔力の流れを、止める」
アルがふと、脱力したように腕をだらりと下げた。あわせて水弾の攻撃が止み、右往左往と逃げ回っていたエンマキトカゲが、一斉にこちらを見た。そして今がチャンスだとばかりに、一気に突進してくる。
しかし、私は座り込んだままアルを見守っていた。アルは何かを探る様に目を閉じたままじっとしている。
――――エンマキトカゲの大群との距離、残り5m。
アルが徐に顔を上げて、右手を上に掲げた。同時に浮かび上がるのは水――じゃない。たくさんの、煌めく氷の刃。
アルが天へと翳した右手を振り下ろすと、氷の刃は勢い良くエンマキトカゲの大群へと飛んで行き、ドスドスと地面へ突き刺さった。
降り注ぐ鋭い刃に、エンマキトカゲの大群は徐々に数を減らし、やがて全滅した。
「っはあ、はあっ」
「すごいじゃん!アルは飲みこみが早いなあ」
「はあっ、姉さんの、教え方が、上手だったからっ……だよ」
かなり魔力を消費したらしいアルが、私の横にドサリと腰を下ろしながら深呼吸を繰り返す。
ふぅっと息を吐くアルに、手をグーにして突き出す。
「お疲れ」
「……ん」
それに、フワリと笑んだアルが、同じく拳を作って私の手にぶつけた。
結局先輩たちが到着したのは、それからさらに数分後の事だった。
「は?一匹じゃなかった?」
「しかも倒したって?」
「っす。アル君が全部」
「全部」
「一人で」
「ひとりで」
ポカンとした顔で復唱した双子は、倒れ伏したエンマキトカゲの大群を呆然と眺めていた。どうせ、てんやわんやしている私達が見れるとでも思っていたのだろう。そう、内心溜息を吐くが、警戒したように周りを見回し始めた双子の様子に首を傾げる。
「? どうかしたんっすか?」
「魔物の死体は更なる上位魔物を呼び寄せることがある。これだけの死体が一か所に固まっているのはまずい」
口早に双子の片方がそう言った時だった。
――――グギャァアアアアッ!!
地面を揺らすような鳴き声が、存外近くで聞こえた。頭上に暗い影が落ち、咄嗟に空を見上げた私達は揃って目を見開いた。
「あ、あれは……!」
「サラマンダーだっ。何でこんなところに!?」
「くそっ、逃げるぞ!!」
慌てたようにクルリと踵を返した双子だったが、上空に現れた真っ赤な体躯の、切れ長の瞳がぎょろりとその二人を捉えた。
ギュンッと急降下する魔物――サラマンダーが、雄叫びを上げながら突っ込んでくる。
「っうわあああ!」
そのあまりの速度に、双子が悲鳴を上げる。サラマンダーのかぎ爪が、その背に届きそうになる、その刹那。
「ドラゴンきたぁああっ!!」
「ギャウンッ!」
いきなり地面から土壁が現れ、双子とサラマンダーを隔てた。サラマンダーは土壁に突き飛ばされるように再び上空へ飛びあがる。
「かっこいい~!かわいい!いいなあ、飼いたい!」
興奮気味に両手を振り回す私の後ろ、土壁の向こうで慌てたように逃げていく二つの足音。おうおう、逃げろ逃げろ。
「……姉さん。サラマンダーは上級の更に上、超級魔物だ。さすがに、今回は逃げた方が良い」
アルが硬い声で私の肩を掴む。
「えー、前は “もう逃げない” 的な事言ってたくせにぃ」
「今回は冷静に言ってるんだよ。とてもじゃないけど二人で相手するような魔物じゃない」
「そうなんだ、じゃあアルだけでも逃げて」
「……姉さん、本当に今回は危ないんだ」
「だからこそだよ。私達が此処で逃げたら、このドラゴンはどこに行くと思う?」
それはアルも分かっているのだろう。苦い顔をしたものの、肩から手を退けることはない。
しかし、そうしている間に、サラマンダーは体勢を立て直し、胸を膨らませると、勢い良くこちらに炎を吐き出した。
アルが水の盾を作るが、炎の熱量が高すぎて押し負けそうになるのを、慌ててサポートする。アルが作り出した盾に魔力を合流させて、何とか炎を防ぎきる。
しかしすぐに第二陣がくるだろう。アルはさっきの戦いでの魔力消費が激しく、まだ回復していない。
「……フェレット」
『んあ?』
「あの魔物に、私勝てると思う?」
フェレットはチラリと空中に浮かぶ赤い魔物を見上げる。しかし、それも一瞬だけで、フェレットの体をした精霊は大きな欠伸を一つ零す。
『何、心配してんのか知らねえが。余裕だろ、あんなん』
「よしきた」
先程の水の盾で限界が来たのか、膝を突き苦しそうに呼吸をしていたアルが眉を寄せて叫ぶ。
「姉さん!駄目だ!」
「大丈夫だって。そこで見ててよ」
言いながら、手を空中に上げる。
こちらにターゲットチェンジしたサラマンダーが、再び急降下しようとしたが、それはできなかった。
なぜなら、その体が突如、水の球体に閉じ込められたからだ。苦しそうにもがくサラマンダーに合掌しながら、私は同時に光魔法を発動した。
「安らかにお眠りください」
ジュワッと空中に浮いていた水球が蒸発していくのと同時に、サラマンダーは一瞬動きを止めた後、水と一緒に空中に霧散した。
シャワーのように降り注ぐ水を浴びながら、アルに振り返りVサイン。
「終わった」
「……」
私の戦いをいつも森で見ているはずなのに、この時のアルはなぜかこちらを “信じられない” と言う風に、驚愕した表情で見上げていた。
その理由に気付くのはもう少し先になるのだが、私はあまり気にせずにアルに肩を貸しつつ、その場を後にした。
――――その一部始終を見ていた者がいたことに、気付くことなく。




