チュートリアル
翌日。私達は言われた通り、お昼にギルドへ到着した。
「あ、チセにアル君。こっちこっち」
キョロキョロと周りを見回していると、裏口から顔を出したナトリが手招きする。
「いやあ、今日は暑いね~。天気も良いし、絶好のチュートリアル日和だよ」
外へ出てそのまま歩きだしたナトリが、空を見上げながら陽気に言う。そしてこちらを見下ろして、不思議そうに首を傾げた。
「えっと、もうそのまま現場に向かうんだけど、ギルドで着替えるつもりだった?装備とか」
「? いえ、このままで大丈夫です」
アルがパチリと瞬きをしながらそう言うと、ナトリはキョトンとした表情の後、ヘラリと笑った。
「いやぁ、さすがと言うべきかな。魔物討伐にそんな軽装で来る子は初めてだよ」
ナトリの言葉に、アルは苦笑だけを返して前を向いて歩き続ける。アルも私も、服は普段着と遜色ない。私に至ってはワンピースだし。アルは腰に昨日買ったナイフをさしているけど、装備と言ったらそれくらいだ。
「あ、私もフェレットを装備してた」
『……一応聞いてやるが、その装備はどう使うんだ?』
「餌」
『囮じゃねえか』
「チセの使い魔は見た事ない種類だな。何て言う魔獣?」
手持ち無沙汰にフェレットと会話していると、ナトリが興味津々と言った様子でフェレットを見ながら聞いてくる。
「フェレットっす」
「精霊?」
「あ、精霊じゃなくて、フェレットって言う種類なんです」
「精霊に分類される魔獣?幻獣種ってこと?」
……くっ、誰だこんなややこしい名前を付けた奴は!私だ!
「フェレットって言うのは……泳ぎが得意な猫、みたいなもんっす」
真面目な顔でそう答えると、ナトリは案外すんなりと納得してくれた。
「なるほど。じゃあ、水属性なんだね」
「え、あ、そう……なりますかね~」
そもそもフェレットって魔法使えんのか?この前海に飛び込んだ時は泳げないみたいだったから、少なくとも水属性じゃない事だけは確かだけど。
私の無言の問いを、フェレットは正確に読み取って頭の上から答える。
『魔法は使えねえ。精霊に魔力はねえからな。代わりに魔素を操って自然万物に干渉する力はある。水の動きを操ったりとかな』
え、すごい。今度、やってみてもらおう。フェレットを使い魔と詐称する以上、それっぽいことができないと困るし、私もそれを把握しておく必要がある。
「って、ちょっと待って。じゃあ、あの時泳げなくて私にしがみついてたのは一体……?」
ハッと思わず呟いた私に、頭の上から返って来たのは沈黙。おい、黙んな。
「アル君も、魔法は使えるんだったね。属性を聞いても?」
「はい。水属性です」
「チセは?」
「私も水属性使えます、サー」
嘘ではない。水属性は使える。他の属性も使えるけど。色んな属性が使える人ってほぼいないみたいだから、あまり公にしない方が身のためだろう。私が澄ましてそう答えると、ナトリは少し困ったように眉を八の字に下げる。
「二人とも水属性か~。偏ってるな。『禁断の森』には相性悪い属性の魔物もいるだろ?どうやって対処してたんだ?」
純粋に疑問に思ったらしい。世間話程度の軽さでそう聞かれて、迷うようにチラリとこちらを見たアル。私が全属性を使えると公言したくないことを汲んでくれているのだろう。
「……物理で」
「物理?」
「こう、ガッバシュッドドンッ的な」
「的な?」
ナトリが真顔でこちらを見つめる。私も負けずに、脇を締めてパンチをシュッシュッと繰り出して見せながら、真っ直ぐ視線を返す。曲げないぞ。何と言われようとこれで押し通す!そんな私の気迫を感じ取ったのかは分からないけど、ナトリは不意に視線を反らした。
「ま、実践を見れば否が応でも分かるからね。楽しみにしてるよ」
「……」
あれ、もしかしてハードル上がった?
ナトリに付いて歩くこと暫く。着いたのは、少し開けた花畑だった。
「まずは薬草採取だ。君たちにはこの花畑で、“鬱金香の球根” を3つ見つけてもらいます」
「鬱金香?」
聞き返すと、ナトリは私が鬱金香を知らないと思ったようで、花畑に咲いているチューリップに似た花を指さす。
「あれが、鬱金香だよ。あれの球根を3つ取るのが今回の課題だ」
ニコリと微笑むナトリに、アルと顔を見合わせる。
声には出さなかったがお互いに「そんなことでいいの?」と言う顔だった。それを正確に読み取ったナトリは、内心ニヤリと笑む。
花の球根を取って来いと言われたら、普通その花を引っこ抜けば良いと思うだろうが、それがこの課題の罠だった。鬱金香はただの花ではなく、自身を傷付けようとする者に攻撃をしてくる。触れなくてもこちらの気配を察知して、酸性の粘液を飛ばしてきたり、茎から毒棘が出てきたり、蔓が伸びて絡み取られたりとその方法は様々だが、とにかく地味にダメージに来る攻撃をしてくる。そのため、素手で採取するようなことはしてはいけない。命に支障が出るような攻撃こそないが、採取には骨が折れる薬草だった。ただし、その球根は万病に効く薬の材料となる。
ギルドの依頼では鬱金香の球根採取はDランクの仕事だ。チュートリアルにはもってこいの課題だった。これに手こずるようでは、Eランクからのスタートとなる。どれだけ素早く正確に、状態の良い球根を採取できるか。その程度がスタートランクの判断基準となる。
どうやら、この少年少女は鬱金香を知らないらしい。大抵は小さい頃に親から「触ってはいけない危険な物」として教えられるはずだが、育った環境は人それぞれだ。知らないなら知らないなりに、やり方はいくらでもある。
さて、高みの見物と行こうかと、足元の切り株に腰を下ろしたナトリが視線を上げたその先で、チセが何の躊躇いも無く、両手に一本ずつ鬱金香を握って一気に2本を引っこ抜いた。
「――は?」
目を擦る。パチパチと瞬きをする。
あれ、見間違いか?今、素手で鬱金香を引っこ抜いたように見えたんだが。
さらに、その向こうでアルがチセと同じく素手で鬱金香を一本引っこ抜いているのが見え、ナトリは糸目をカッと見開く。何を、どうやったんだ……?
一方、その頃。
「これじゃ、ギルのお遣いと変わんないね」
両手に鬱金香を握り締めながら、同じく鬱金香を無造作に引っこ抜くアルへ歩み寄って肩を竦める。
鬱金香の性質は良く知ってた。何だったら、普段ギルに「取って来い」と犬か何かに言うように命令されて取りに行くこともしばしばある。『禁断の森』には群生ポイントが何カ所かあるし、見慣れた植物だ。
最初見た時は滅茶苦茶テンション上がったなあ。「すごい!異世界植物じゃん!楽しい!!」って蔓に巻きつかれながら爆笑している私に、ギルがドン引きしてたっけ……。
採取するのに素手では触れないけど、手袋しても酸吐き出されたら溶けちゃうしで、試行錯誤した末に編み出したのが水魔法を使う方法だった。
鬱金香が反応する範囲より外から、水の膜で鬱金香を覆う。そうすれば棘で傷付くこともないし、酸を吐き出されても水に吸収されてこっちに飛んでくることはない。蔦が伸びてきたら膜の内側に水流を発生させてこっちに絡まないように調整もできる。
アルは、小さい範囲での水流の調整が苦手なため、蔦が伸びない鬱金香を選別して抜くようにしている。『禁断の森』で採取する内に気付いたのだが、花の色によってその攻撃パターンがある程度決まっているみたいなのだ。一番良く見る赤色や黄色の花は棘や粘液攻撃をしてくることが多い。種類の少ない白色の花は蔦を伸ばしてくることが多い。
「とったどー!」
「姉さん、遊んでないで早く球根切り落として」
「あ、はい」
アルにナイフを差し出されて大人しく球根を刈り取る。そうすると、棘や粘液攻撃にせっせと励んでいた花がしんなりと首を垂れた。この瞬間だけは、生き物の死って感じが生々しくてちょっと罪悪感を抱いてしまう。
そっと花を地面に置いて合掌してから魔法を解く。なむなむ。球根頂いていきます。
「ナットリ~ン!」
切り株に腰かけて、なぜかいつもより目をカッと見開いたまま固まっているナトリの元へ二人で駆け寄る。
「はい。球根3個」
そう言って差し出せば、ナトリはハッと我に返ったように球根を受け取る。
「……ケガは大丈夫?」
「うん」
「僕も、大丈夫です」
ナトリは何とも言えない表情で球根と私達を見比べた後、腰のポーチに球根を仕舞って、取り繕うようににこりと笑った。
「うん。文句なしの出来栄えだよ。すごいね」
「いえ~い」
アルの肩に腕を回してピースサインを向ける。それに苦笑を返したナトリが踵を返す。
「じゃあ、次は魔物討伐と行こうか」
花畑から山道へと入って行きながら、ナトリがこちらを伺うように見る。
「さっきの鬱金香、素手で引っこ抜いたように見えたんだけど……」
「うん。水魔法を使ったんだ。水の膜で鬱金香を覆って引っこ抜いた」
「水の膜か。なるほど、植物に対する水魔法攻撃は基本的に相性悪いから使わないけど、鮮度を保つ薬草採取には有効な手法かも……。詠唱は独自で?それとも魔力調整だけで範囲を狭めたの?」
「詠唱?呪文のこと?私、唱えない派だからな~、よく分かんない」
「唱えない派……?魔力調整だけでコントロールしたってことか……?」
絶妙にかみ合っていない二人の会話を黙って聞いていたアルは、戸惑っている様子のナトリに内心激しく共感していた。
チセは詠唱をせずに魔法を使う。しかし本来、それはかなりの魔法上級者しかできない方法だった。そもそも、己の想像を魔力により形にすることを魔法だとチセは思っているようだが、魔法とは『魔術書』に書かれている決まった術式を詠唱することで発動するものだ。それを一つも知らずに、自分の思うように魔法を創造するチセのやり方は、信じられないほど常識外れな方法だった。
しかし、アルはその事をまるっと黙っていた。チセが目立ちたくないと言っていたこともそうだが、自身もあまり公にしたくない出自だ。己の近辺を探られるのはアルとて本意ではない。
「あー、楽しみだなあ。新種の魔物だと良いな~。森の魔物はもうコンプリートしたっぽいから、新種に飢えてたんだよね」
これから魔物討伐に向かうとは思えない程、ご機嫌にルンルンとスキップするチセを見ながら、ナトリがこそっとアルに声をかける。
「……君のお姉さん、いつもあんななの?」
「――残念ながら」
前を行くチセの、綺麗に煌めく銀色の髪が跳ねるのを二人で見つめながら、ナトリとアルはどちらともなく溜息を吐いたのだった。
山道を進むこと数分。見えてきたのは結構大きめの洞窟だった。
「この中に入ります」
ナトリが先頭になって洞窟を進む。
『――魔物の気配だ』
「え!」
フェレットの声に反応して、思わず声を上げる。丁度その時、目の前の視界が開け、大きな水溜まりのある空間に出た。
洞窟の中なのに明るい。上を見上げると、ぽっかりと穴が開いていてそこから空が垣間見えた。水溜まりに一筋の光が射している。映えスポットってやつだな。地球にこんなところがあったら “神秘の泉” とか銘打って観光地になってそう。
「そろそろ出てくるよ。心構えはいいかい?」
ナトリがこちらに振り返ってニコリと笑う。それに目を輝かせてブンブン頷く私と、冷静にナイフに手をかけるアル。
『チセ、あの光のとこにいるぞ』
不意にフェレットが声を上げた。慌ててそちらへ目を遣ると、水溜まりの上に浮かぶようにして、薄らボンヤリと浮かび上がるシルエットが。
霞がかる光の中に浮かんでいたのは、半透明の羽をはばたかせる大きな蝶だった。羽をはばたかせるたびに水面が段々と波立って行く。蝶の周りをキラキラと舞っているのは鱗粉だろうか。思わず見惚れてしまう程、綺麗な光景だった。その体から鱗粉と共に舞い上がる黒い靄が無ければ、だが。
「し」
「し?」
「新種だ~!!」
歓声を上げた私に、アルが途端半目になる。
「……少し遊ぶ?」
「うんっ」
アルの方を見ずに深く頷く私。それに溜息で答えたアルは、ナトリと一緒に壁に寄り掛かる。
「あれ、どうしたの?リタイア?」
「新種の魔物を見つけたら、姉さんが満足するまでは手出ししないことになってるんです」
「新種?いや、別にあの魔物は新種とかじゃないけど……」
後ろでそんな会話が聞こえるが、そちらに反応することなく、私は目の前の魔物をガン見する。
「風属性かな?さすがに物理攻撃はしてこなそう。鱗粉が毒だったりする?」
『毒だとしても問題ないんじゃねえか。精霊の加護で効かねえだろ』
「強バフかよ」
軽口を叩きながらも、一先ず遠距離攻撃で様子を見るかと適当に魔法を繰り出そうとして、ハッとする。
「……フェレット、さっき言ってたさ、水を操れるってやつ。ちょうど水場だし、見せてよ!」
『ああ?別にいいけどよ、自然現象に近いことしかできねえぞ?』
「分かってるって。例えば、あの波を蝶の方に返す事とかできる?」
『それくらいなら』
言うが早いか、ザブンと水が揺れて大きな波を作り、蝶の魔物が波の壁に飲み込まれる。
「すごいじゃん!やればできる子!」
『絶妙にイラつく褒め方すんじゃねえ。集中が乱れるだろうが』
「あ、でも蝶々ピンピンしてんな」
水しぶきの向こう、波が落ち着いた先に見えたのは先程と変わらない様子で水辺に浮かぶ蝶の姿。まるで効いていないようだ。
「風属性に有効なのは火属性だっけ?」
ギルが買って来てくれた本に書かれていた知識を思い出しながらも、うーんと首を傾げる。
なんか、さっきからあの蝶々、光の中から動こうとしないんだよなあ。もしかして、暗闇じゃ動けないとか?
「フェレット、あの天井に開いてる穴を水で塞いだりできる?」
『それは魔法の領域だな』
「了解。じゃあ、私がやるか」
言って、手を前に突き出す。途端、水がスライムの様に地面から切り離されて浮き上がり、穴に合わせて丸い形状に変化すると、空へと繋ぐ穴をぴったりと塞いだ。
光が屈折して折曲がり、光の筋が蝶々からずれる。
――――と。
「チセ、今すぐ水を元に戻すんだ!」
後ろから固い声が飛んできた。振り向くと、ナトリが険しい表情で壁から体を離しながら、背中に背負っていた剣に手をかける。
「ナトリン?」
「あの魔物はフウリンチョウ。日の中にいる間は比較的大人しくて討伐しやすい低級魔物だが、夜――つまり、日の射さない場所に出ると……」
背中から抜いた剣を構えるナトリ。彼の視線の先を追うように、蝶の方へと視線を戻す。
「――フウリンガに姿を変える。中級魔物だ」
半透明だった羽が、自身から発せられる靄を吸収するように真っ黒に染まっていく。体が一回りでかくなり、目の部分が鈍く赤色に光る。ブワリと、はばたくことで起こる風の威力が、先ほどと段違いに上がっているのが分かる。
「し」
「し?」
「進化した~!!」
何それ!何それ!!おもしろすぎる。楽しすぎる!
キラキラと目を輝かせる私の肩を掴むナトリ。
「言ってる場合か!逃げるぞ。チュートリアルには不向きな相手だ」
グイッと後ろに引かれるが、フウリンガの方が早かった。
先程の微動だにしなかった様子からは考えられない速度で一気に間合いを詰めて突っ込んで来た。速度だけで言えば、今まで出会って来た魔物の中で一番早いかもしれない。
咄嗟に、近くにいたナトリを引き離すように後ろへ突き飛ばすと同時に、アルが私達の前に水の盾を発現させた。渦巻付きのやつだ。
真っ直ぐ突っ込んで来たフウリンガは、水の渦に巻き込まれてグルグル回りながら跳ね飛ばされる。しかしすぐに態勢を整える。なるほど、水盾は地に足が着いているタイプには有効だけど、浮遊系には効果が薄いのか、ふむふむ。
「アル!ナトリンのこと頼んだ!」
「わかった」
アルの返答に頷き、私はナトリの制止する声が飛んでくる前にフウリンガへ足を踏み出す。
「風属性って接近戦は危険なイメージあるけど、向こうから近付いてくんなら距離を取るだけ時間の無駄だよねえ」
先程と同じようにこちらに特攻を挑んでくるフウリンガに対して、私は自身の周りに無数の氷礫を出現させた。
「フェレット、風の動きは動かせる?」
『問題ない』
「よっしゃー!やったれー!!」
氷礫を押し出すように手を振る。フウリンガは飛んできた氷礫を弾き返そうと羽を動かすが、発生した風はフェレットの力で逆に利用され、さらに速度を上げた氷礫がフウリンガの体に突き刺さる。そのままの勢いで壁に磔にされたフウリンガが痙攣するようにぴくぴくと動いた。まだ生きてはいるらしい。
念のため、手元に氷の剣を出現させながら、ゆっくりとフウリンガへと近付く。
「まさに、生きた標本だなこりゃ」
近くで見るとかなりでかい。全長2メートルくらいあるんじゃないか?真っ赤な瞳が睨むようにこちらを見ている。
「あれ、口から管みたいの出てる。なんだろ――――うっひょい!!」
刹那、ビュンッと鞭のように飛んできたその管がこちらに伸びるのを、脊髄反射で剣を振って切り落とす。
ボトリと落ちた管とフウリンガを交互に見遣りながら、一歩後ろへ下がる。
「び、びびった~。最期の足掻きってやつ?」
『血でも吸い取ろうとしたんじゃないか』
「ひぃっ。きゅ、吸血蛾だったってこと?」
自分の体をギュッと抱き締める。管を切り落とされたフウリンガは、やがて力尽きたように動かなくなった。
ナトリの目があるから水属性しか使えなかったが、案外何とかなるもんだ。光属性以外で魔物を仕留めたのは初めてだったけど、“浄化” しないと死骸は崩れずに残るようだ。
「ありがとね、フェレット。私達、良いコンビになれるよ」
『不名誉極まりないな』
「もうっ、素直じゃないんだからん!」
ぶりっこしてみたら、上から『おえっ』とえずく声が。失礼過ぎないか、この精霊。
むくれながら、アルとナトリの元に戻る。
「お待たせよ~」
「お疲れ。フウリンガはどうだった?」
「強かったよ。最期の足掻きもなかなか気概を感じたし」
「魔物に気概って……」
呆れたように肩を竦めるアルの後ろで、呆然と突っ立っているナトリ。
「あれ、ナトリン?大丈夫?」
ひょいっとナトリを覗き込めば、頭が痛いと言う風に眉を揉んだナトリは、疲れたように息を吐いた後、ヘラリと笑う。
「一つ、いい?」
「うん?」
「僕の名前、ナトリンじゃなくて、ナトリね」
「……」
ナトリからの遠回しな「あだ名で呼んでんじゃねえよ」発言の後、忠告を無視して魔物に突っ込んでいったことに対する注意を受けた私達は、無事(?)にチュートリアルを終了した。
ギルドに戻って来た私達は、ナトリから登録の時に書いた紙を返却される。見ると、受領の判子と共に、大きく「C」の文字が。アルの紙を見てみると、同じく「C」と書いてある。
「……説明会では敢えて言わなかったけど、チュートリアルを終えた後割り振られるランクの一番上は最高でもDランクなんだ。チュートリアルで遂行するのは基本的にE~Dランクの仕事だからね。それより上のランクに相応しいかどうかはチュートリアルでは判断がつかない。でも、今回はイレギュラーながらも、中級魔物を僕の助けなしに倒した君達の実力を鑑みて、Cランクを与えることにした。……期待しているよ」
ナトリはそう言うと、今まで浮かべていた作り笑いを少し崩し、苦笑した。
それに私達はそろって敬礼を返した後、お互いに拳を突き合わせて、冒険者デビューを祝った。




