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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第一章 ギルド
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ギルド説明会



 ギルドに戻ると、先ほどと同じ受付嬢が奥の部屋へと通してくれた。部屋の中には、私とアルの他にも数人いて、こちらをチラリと見ると視線を前に戻し、そしてなぜかまたこっちを見た。


 一番後ろの席に着きながら、思わずアルの方へこそっと顔を寄せる。


「あれ。な、なんかすごい見られてない?」

「今さら過ぎない?町に到着してからずっと見られてるよ」

「え、なんで。まさか、行く前に食べたケーキの生クリームが顔についてたりする?こびりついてカピカピになってたりする?」

「……まあ、それもあると思うけど」

「付いてるのかよッ!違うじゃん、今のは “姉さんが美少女過ぎるからだよ” って返すとこじゃんっ!何で教えてくれなかったの!?言うタイミング滅茶苦茶あったと思うんだけど!」


 口元をゴシゴシ、机をバンバン叩きながらアルに抗議していると、部屋の前方のドアから一人の男が入って来た。


「お、皆さんお揃いですね~。時間厳守で素晴らしい」


 手元に持っている本を肩に乗せ、軽い調子でそう言いながら、こちらをグルリと見回す。糸目のひょろっとした男だ。身長は175前後といったところか。腰まである若草色の長い髪を後ろで一つに結んでいる。


 男は教壇に立つと、抱えていた本を机に置いて、「それでは」と口を開いた。


「ギルドの説明会を始めます」




 男は、ナトリと名乗った。ギルドの職員兼、チュートリアル係を担っているらしい。


 ギルドでの仕事は基本、掲示板に張り出されている依頼表を見るか、受付でどんな仕事が入っているのか訊くかで確認することができる。また、パソコンみたいな物が置いてあり――ランチャーと言うらしい――そこから自分で探すこともできるそうだ。


 仕事はそれぞれランク分けされており、自身のランクより上のものは受けられない。ランクは難易度を表しており、A~Eランクに振り分けられている。私達のスタートランクは明日以降に行われるチュートリアルの様子から、ギルド職員が判定して決定するらしい。Eランクが一番下のランクで、上にあがるほど難易度は高くなり、比例して報酬額も高くなる。


 厳密に言えば、Sランク、SSランクというのもあるらしいが、その二つは依頼の成功を重ねることで与えられるランクで、成功報酬の他に月礼金――要するにボーナスが入るらしい。


 現状で、Sランクは6人、SSランクは1人しかいないのだとか。このギルドでの総登録人数が830らしいから、相当少ないことが分かる。


「ランクを上げる方法についてはランチャーで見れるので、後で確認してみてください。ざっくり言うと、EランクからDランクへ上がるには、Eランクの仕事を10件成功させること。DランクからCランクへ上がるには、Dランクの仕事を20件成功させる、とそう言った具合です。ちなみにSランク、SSランクへ上がるにはギルドの審査が入ります。気になる人はチェックしてみてください」


 他に、報酬の受け取り方や、注意事項を説明した後、ナトリが机の上の本を開いた。


「では、チュートリアルの希望日を伺いたいので、呼ばれた方は前に出てきてください」


 どうやら本だと思っていたのは名簿だったらしい。順々に名前を呼ばれ、ナトリと何やら話しては去って行く人達を見守ること数分。


「最後ですね。チセさんと、アルさん」


 呼ばれて、アルと立ち上がる。部屋の中にいるのは、ナトリと私達の3人だけ。あ、あとフェレット。



「チュートリアルの希望日はあるかい?」


 ニコリと笑みを浮かべるナトリに、アルと顔を見合わせる。


「まあ、明日で良いんじゃない?早い方が良いでしょ」

「そうだね。……明日で」

「了解。そうしたら、昼の刻にまたこのギルドに来てもらえるかな。初回は、薬草採取と魔物討伐を予定しているけど、大丈夫?」

「はい。大丈夫です」


 アルが頷く。私もその横で、頭の後ろに手を組みながら軽く頷く。


「魔物と言っても、低級のものだから心配いらないよ。……と言っても、君達はあの『禁断の森』に住んでるみたいだから、無用な心配かな?」


 ナトリが笑みを浮かべたまま肩を竦める。飄々とした口調だったが、前世で曲がりなりにも社会人をやっていた私は、その中に探るような響きがあることに気付き、片眉を上げた。


「……どうだろう。確かに、魔物は見慣れてるけど、それがどれくらいのレベルかは知らないからなぁ。低級でも手こずるかも」


 普段対している魔物は上級だとは聞いているが、実際にそれを外で確かめたわけではない。だから敢えてそう言ってとぼけて見せれば、ナトリはさらに口角を上げた。


「なるほどなるほど。ところで、チセさん」

「チセでいいよ」

「では遠慮なく、チセ。君のギルド登録の動機は、世界樹について知るためと書かれていたけど。具体的にはどういったことを知りたいのかな?」


 何だか面接でもされているみたいだ。もしかして、この説明会はそれも兼ねてるのか?いやだなぁ、面接。滅茶苦茶苦手なんだよなあ。誤魔化すのが下手と言うか、正直に答えすぎてしまうと言うか……ああっ、就活の黒歴史が蘇る……くっ!


「具体的に、ですか……。そう、ですねぇ~」


 組んでいた腕をそろそろと下ろし、思わず敬語で答えながら視線を泳がせる。


「その~、世界樹の真相と言うか、“魔獣の暴走” にどう関係しているのか、とか……?そう言うのが気になるっていうかぁ~」

「――魔獣の暴走と?」


 ナトリの糸目が薄く開かれる。その奥に除く新緑色の瞳と目が合った気がしたが、すぐに笑みの裏に隠されてしまう。


「知的好奇心ってわけね。確かに、ギルドには世界樹関連の仕事も寄せられるからね、情報収集にはもってこいだ。ただ、そう言った依頼は大抵Sランクに割り振られるから、依頼を受けたいならランクを上げなきゃだね」

「え、Sランク?」


 まじか。機密事項扱いってことか?そんなにランク上げとか興味なかったからそこら辺の説明流しちゃってたよ……。ちゃんと聞いておけば良かった。


「さてと。それじゃあまた明日、よろしくね」

「え、アルの面接は?」

「面接?……ああ、さっきの質問は単なる僕の興味。気にしないでいいよ」


 なんじゃそりゃ。胡乱げな目で見上げるこちらを流すようにヒラリと手を振ったナトリは、さっさと部屋を出て行ってしまった。


「行こう、姉さん」

「……おう」


 何だか釈然としない思いを抱えたまま、私はアルとギルドを後にした。






「ただいま~」


 家に帰れば、ギルが読んでいた本から顔を上げて、こちらを見た。


「登録できたか?」

「ばっちり。明日またチュートリアルに行ってくる」

「そうか。アル、こいつが問題起こさないようにちゃんと見とけよ」

「うん。任せて」

「ねえねえ、普通逆じゃん?姉に弟を託すもんじゃないの?」


 重々しく頷くアルの頭をガシリと掴んで「おいこら」と掻き混ぜる。……あらやだ。ふわふわ。


『真顔やめろ。アルが怖がってんぞ』

「ぎゃっ!ちょっフェレット、お願いだから眼球に向けて肉球パンチ繰り出すのだけやめて!?お願いだから!」

『ならセクハラをやめろ』

「セクハラじゃないしっ。ブラコンだしっ!ってか、そっちもパワハラやめてっ!」


 どさくさに紛れてギュッとアルを抱き締めれば、ギルが本に視線を落としながら口を挟む。


「アル、嫌なら嫌とはっきり言った方が良いぞ」

『コイツの言う通りだぜ。まあ、嫌っつってもやめねえだろうが、意思表示は大切だぞ』

「ちょっと、ギルもフェレットもひどいよっ。アル、別に嫌じゃないよね?ね?」


 アルは戸惑ったように目を白黒させながら、おろおろと口を開く。


「あの、とりあえず、姉さんは離れて」


 がーん。

 ドサリと床に手を付き項垂れる私に、呆れ半分でギルが溜息を吐く。


「アルももう12歳なんだぞ。思春期に構い過ぎる母ちゃんかお前は」

「うぐっ」

「べ、別に姉さんが嫌いなわけじゃないよ。その、子ども扱いしないで欲しいって言うのはそうだけど……」

「アルぅう!!」

『だから、すぐに抱き着こうとするんじゃねえ』

「べふっ……。あ、あのフェレット。肉球パンチもだけど、尻尾ビンタもやめていただけません?地味に痛いんで」


 床に座り込んだまま、フェレットを頭から抱き上げた私を横目に、ギルが気怠げに立ちあがる。


「アル、帰って来たばかりで悪いが、獣を捌くのを手伝ってくれ」

「あ、うん」


 出て行く二人を見送って、私もさて、と立ち上がる。



 二階に上がり、自室に入ってフェレットをベッドに下ろし、私もその横にボスンと寝転がる。そしてずっと気になっていたことを呟く。


「もしかして、世界樹の事、やばった?」


 ナトリの反応を思い出す。あれは、明らかに警戒されていた、よな。上手く表情を隠していたが、一瞬見えたあの深緑色の瞳は全然笑っていなかった。絶対、何か口を滑らしてしまったに違いない。余計なことを言ってしまった、とか。


「気のせいってわけじゃないと思うんだけど」

『あのナトリとか言う男、チセ以外の奴には、希望日聞いただけだったぞ』

「フェレット、他の人の会話も聞こえてたの?」

『ああ。魔素の流れで音も拾えるからな。視界に映る範囲ならギリギリ聞こえる』


 フェレットの前じゃ、ひそひそ話もできないってわけか。覚えておこう。ふむ、と神妙に頷く私に、フェレットはベッドの上でまるで人間の様に片肘を付いて寝そべりながら、腹をポリポリと掻いた。


『まあ、大丈夫だろ。そんなに嫌な感じはしなかったしな』

「嫌な感じ?」

『精霊は、悪意には敏感なんだ。奴がチセに悪意を持っているならすぐ分かる。だがそう言った感じはしなかった』

「ひゅ~。便利~」


 ――悪意ではない。しかし、警戒はされてるってことか。世界樹について聞かれたってことは、絶対そこら辺がネックになってると思うんだけど、フェレットも私もそこら辺の常識が欠けている。


 つまり、今の時点ではなぜ警戒されているのか分からない。


「ま、いっか」


 別に悪いことしてるわけじゃないし。恐らく、誤解されてしまっているのだ。だったら放っといてもその内覚えのない疑惑も解けるだろう。


 天井を睨みながらそう結論付けた私は、ぐぅ~と盛大になるお腹を押さえる。


「すっきりしたらお腹空いた。今日のごはんなんだろ」


 瞬時に食べ物の事で頭がいっぱいになった私は、待ちきれずにベッドから起き上がり、フェレットを鷲掴みにして部屋を飛び出す。


『ぐえっ』

「私にも何か手伝えることないか聞いてこよ~」


 腹が減っては戦はできぬ。しかし、働かざる者食うべからず。


 飯にありつくべく、私は仕事を求めて階下へ降りたのだった。



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