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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第一章 ギルド
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ギルド登録



「登録をしたいんですけど」


 ベギンの街に到着してすぐ、「え、あの店なに!?あ、あっちにも変なのある!すごいすごい!」とはしゃぎまくる私を一切無視して、真っ直ぐギルドへ向かったアル。


 「ここがギルド!?レトロな市役所って感じで可愛い~!ヒト多っ!すごいすごい!」と相変わらず大騒ぎな私の腕を引っ掴み、アルが受付に話しかけると、こちらをポカンとした表情で見ていた受付嬢が、ハッとしたように瞬きをして、あわあわと一枚の紙をこちらに差し出した。


「あ、えっと。この紙に必要事項を書いてください」


 ぺらりと渡された二枚の紙を持って、一旦受付を離れ、空いている机に二人で腰掛ける。


「えー、なになに……」


 上から、名前・性別・生年月日・年齢・特技(スキル)・職歴・ギルド登録の動機……。履歴書みたいだな。

 それと、一番下にアンケートのような項目もある。題目は「希望しない仕事」。項目は、討伐系・採取系・警護系・探索系・庶務系・その他。


「うーん。特技かぁ。アルは何て書く?」

「魔法、かな」

「あ、そっか。魔法って皆が使えるわけじゃないんだっけ。じゃあ、私もそう書こうっと」

『“精霊の加護” も書いとけ』

「ああ、そんなのもあったね。でも――」

『心配しなくても、 “精霊の加護” 持ちならざらにいるぜ。“精霊の加護” 持ちである事と、精霊と契約している事は、必ずしもイコールってわけじゃねえからな』

「へえ、そうなんだ。じゃあ、いっか。“精霊の加護” っと」

「武術も書いとけば?」

「えー、あれはまだ実践段階じゃないからなあ」

魔物(クマ)をふっ飛ばす威力があるのに、実践段階じゃないって……。姉さん、一体何を目指してるの……」

「いやあ、そんなこと言って。井の中の蛙だったら恥ずかしいじゃん」

「……むしろ姉さんの実力なら、ギルドの討伐依頼はどれも簡単すぎるんじゃない?」

「え~、そう?ちょっとそれは褒め過ぎじゃなぁ~い?」

『って言いながら、結局書くんだな』


 でへへへっと笑いながら「武術」と書く私に、フェレットがボソッと呟く。



「あとは……、動機か」


 アルが紙を見下ろし、ペンを弄びながら呟く。

 動機、ね。まあ、無難に生活費を稼ぐためって書いとくかな。


『世界樹についても書いときゃいいんじゃねえか。それ関係の仕事が来るかもしれない』


 フェレットが机の上にベタンと降り立ち、ぐでんと寝そべりながら欠伸混じりにそう言った。


 ……確かに、本当の動機はそこにある。未来に起こる世界のピンチの、そのきっかけについて情報を探る。様々な情報が寄せられるギルドでなら、何かしら掴めるかもしれない。

 私は少し悩んだ末(その間1秒)、「生活費を稼ぐため」と書いたその下に、小さく「世界樹について知るため」と書き足した。


 アンケート部分は、私もアルもチェックを入れることなく、受付に紙を提出する。



「アル様と、チセ様ですね。それではこちらで登録手続きをさせていただきます。一刻後に説明会がございますので、そちらに参加いただき、本登録となります」

「はーい!」


 受付嬢に元気よく返事をした後、アルの腕を引っ張る。


「んじゃ、時間まで観光しよう!観光!」

「観光って……。別に見るようなものなんて何もないよ?」

「私にとってはテーマパークなの!ほら、はーやーくー!!」

「てーま……?あ、ちょっと姉さん!分かったから、引っ張らないで!」


 待ちきれずに、アルの手を引いて勢い良く外へ飛び出した私は、全く気付いていなかった。


 ギルドのフロア内にはそれなりに人がいたにも関わらず、自分達がギルドに入った瞬間から外に出るまで、誰一人として口を開く者がいなかったことに。






「……ありゃあ、どこのお貴族様だ?なんで、こんな下町のギルドにいやがんだ」

「いや、少なくとも坊ちゃんの方は貴族じゃねえぞ。あの、『禁断の森』に住んでる男がいるだろ?あいつと一緒に町へ来てたのを見たことがある」

「あんなちっこいガキが『禁断の森』に……?ははっ、冗談だろ。あそこは上級魔物の巣窟だぜ?」


「――“精霊の加護” っつってたぞ」

「……まあ確かに、雰囲気はあったけどな」

「子供の戯言だろ」

「そうよ。加護持ちかは、判定できる者すら少ないもの。言ってるだけよ」


「えらく綺麗な見目した嬢ちゃんだったな~。あれ、本当に人間?」

「そう言えば、文献で読んだ “魔導師” の特徴に似てた気がする」

「でも、世界樹の出現から “魔導師” は生まれてないんでしょ?」

「そのはずだけど……。まさかね――」


「あの齢で、魔獣を使役してたぞ。見た事のない種だったが……幻獣種か?」

「熊をふっ飛ばしたとか何とか言ってなかった?その魔獣の力かな?」

「バカ、はったりに決まってんだろ。真に受けてんじゃねえよ」


「――――まあ、子供の言う事だしな」

「いくらなんでも、あり得ないよね」


 ギルド内全員の注目を一挙に集めた一組の姉弟。天使と見紛うほど麗しい少年に、妖精の如く美しい少女。そして、少女の肩に乗るしなやかな体躯の見知らぬ魔獣。

 尋常ならざる雰囲気を醸し出すその御一行の登場に、皆が二度見、三度見――いや五度見し、その会話に耳を済ませた結果、ギルド内はかつてないほどの静寂に包まれたのだった。




「あれ、やけに騒がしいね。何かあった?」


 件の姉弟が去った後、ギルド内は堰を切ったように騒がしくなった。話題はもちろん、先ほどまでこの場にいた御一行について。


「あ、ナトリさん!ちょっと聞いてくださいよ~!さっき超絶美少女と激カワ美少年がギルド登録に来てですね――」


 裏で作業をしていたギルド職員――ナトリが、やけにザワザワと騒がしい表の様子を見てキョトンとしていると、それに気づいた受付嬢のウーグィスが、興奮した様子で先程の一部始終を語って聞かせた。


「――へえ。精霊の加護に、使い魔まで」

「そうなんです!小さいのにすごいですよねえ。あ、これ。その子たちの登録書です。この後の説明会に来るので、ナトリさんもその時見れますよ!本当に二人とも可愛いくって!!」

「はいはい。どれどれ~……」


 ウーグィスから二枚の紙を受け取ったナトリが、その内の一枚を見た途端、口を噤み表情を消した。


「ナトリさん?どうかしましたか?」

「……いや、僕も会ってみたいなって」


 言いながら、ナトリは口角を引き上げた。視線は、紙に固定されたままだ。

 そこに書かれているのは、子供らしい歪な文字で綴られた一文。


『世界樹について知るため』


「――興味あるなあ」


 ナトリはそう呟くと、不思議そうに首を傾げるウーグィスに、ニコリと笑んでみせた。






 ここら辺で一番大きい街、ベギン。ギル曰く、『王都に比べれば全然田舎』とのことだが、私からしたら十分栄えて見えた。

 と言うか、生まれてこの方、木々に囲まれた生活しかして来なかったため、建物が立ち並んでいるのを見るだけで謎の感動を覚えてしまう。


 もうさ、西洋風の景色ってだけでテンション上がるよね!全てがお洒落に見えると言うか。しかもここは異世界。歩いている人達も、地球とは一味違う。例えば、今すれ違った女のヒト。その頭には狐みたいな大きな三角耳と茶色のフサフサな尻尾が付いている。


「あれが、亜人……?」

「姉さん、ちゃんと前見て歩かないと人にぶつかるよ」

「はーい」


 くいっとアルに手を引っ張られて、慌てて前に向き直るものの、その数秒後にはまたキョロキョロと首を動かしてしまう。見るもの全てが新鮮で、目移りしちゃうのだ。


「あ、あれ本屋?」

「うん。ギルもいつもあそこで本を買ってる。行ってみる?」

「ぜひ」


 本の絵が描かれた看板の店に、アルと一緒に入る。


 レトロな趣のある店内。本が雑多に積まれ、そこかしこに山を築いている。古本屋だろうか。

 アルは、迷うことなく一直線に隅の棚へ向かっていった。手に取った表紙には「剣技について」と書かれている。


 私もゆっくりと店内を見て回る。


『何か欲しい本でもあるのか?』

「世界樹について書かれた本があればなって思ってね」


 フェレットと小声で会話しながら、表紙に視線を走らせる。

 雑多に置かれているだけかと思ったが、どうやらある程度は棚ごとにジャンル分けされているらしい。専門分野の学術書から子供向けの絵本まで、種類は豊富だ。これなら期待できるかもしれない。


「……ん?」


 ふと目に留まった本に手を伸ばす。タイトルは『世界樹信仰』。

 パラパラとまくってみるが、小さな文字が羅列されていて、すぐにパタンと閉じる。


『どうした?』

「……論文系、読むの苦手なんだよね」


 自慢じゃないが、国語の成績は英語の次に悪かった。

 小説読解ならまだイケるんだけど、説明文とか随筆とか、大の苦手。古文漢文は言わずもがな。


「あーあ、まさか学校に行きたいと思う日が来るなんて。こういうの教えてくれる場所って無いのかな~。とてもじゃないけど読む気起きないわ。誰かに要約して教えてもらいたい」

『学校か。まあ、あながち見当外れでもねえかもな』


 冗談半分で言った言葉だったが、意外にも頭の上から賛同の声が上がった。

 そう言えば、この世界の学校事情ってどうなってるんだろう?


「アル~」


 一旦本を置いて、武術書を熱心に眺めているアルの所へ行く。


「アルは学校行かないの?」

「学校?」


 不思議そうに首を傾げたアルは、ふと考えるように本の表紙に視線を落とす。


「そうだね……。この国は騎士団が有名だから、騎士学校には興味があるかも。でも通うってなると、お金がかなり必要になると思う」

「ほうほう」


 まあ、確かに。どちらにせよ、学校に通うにはお金がいる。稼げるようになったらスローライフに向けて貯金していくつもりだったが、シフトチェンジして学校へ通うための資金繰りとしても良いかもしれない。


「姉さんは、学校に通いたいの?」

「あ、うん。ちょっと勉強したいことができてさ」


 フッと微笑して髪をかき上げる私に、アルは「ふーん」とだけ返して、持っていた本をレジに運ぶ。


「あれ、それ買うの?」

「うん。値段もそんなに高くないし。ギルからお小遣いは貰ってるから」

「え。お姉ちゃん、お小遣いなんてもらったことないけど」

「あ、しまった。お小遣いのこと姉さんには内緒だった……」

「ちょっと何。どういうこと?ねえ!?」


 ギルめぇえええっ!!姉の私を差し置いて、アルにはお金を工面していたとは……。なぜだ!私だって普段お手伝い頑張ってるのに!お前に渡す金はねえってか!


 むくれる私を横目に、会計を済ましたアルはちょっと視線を泳がせて、取り繕うように繋いだ手を引っ張る。


「ええっと。ほら、僕は買いたい物があったから。ギルに言ったらお金をくれたんだよ」

「……買いたいもの?」

「ナイフが欲しくて」

「ナイフ?持ってなかったっけ?」

「普段使い用のナイフじゃなくて、戦闘に使えるモノが欲しいんだ」


 言いながら本屋を出て歩きだしたアルについて行くと、到着したのは武器屋だった。

 RPG感溢れる内装に、先ほどまでの不機嫌はどこへやら、あっという間にテンションが上がる。


「うわぁ。鎧もある!あ、これは何だ?呪いのネックレス?」

「そりゃあ闇属性の魔力を底上げするアイテムだ」

「ほほう。……ん?」


 くるりと後ろを振り返る。と、目の前には壁――いや、これは人だ。


 恐る恐る上を見遣ると、全身に刺青とピアスをしたスキンヘッドの巨漢が、すぐ傍に立っていた。

 咄嗟に悲鳴を飲みこんだ私を誰か褒めてくれ。


「闇魔法使いだってんなら売ってやっても良いが、嬢ちゃんは違うんだろ?」


 ぎろりと、濁った灰色の三白眼がこちらを睨むように見る。聞かれた意味はよく分からなかったが、条件反射でコクコクと頷き、そっとアルの影に隠れる。


「ひぃいいっ。まだこっち睨んでる……!店員さん、だよね?外見が接客業に不向きすぎん?せめて陽気なアフロの鬘でも被ってくれてたら……いや逆に怖いか。でも親しみやすさって大事だと思うんだよ私は。コンビニの入り口に不良溜まってたら店に入りたくないじゃん。それと一緒だよ」

「……姉さん。店の狭さに対して独り言の声量がでかすぎるよ。多分、全部聞こえちゃってるから」

『あーあ、俯いちゃったぜ。見ろよあれ、完全に落ち込んじまってるわ。可哀想に』


 見れば、大男がトボトボとカウンターへ引っ込んで行く所だった。背中に縦線が見える。心なしか空気がどんよりと重い。あ、溜息吐いた。


「あ、いやその!ご、ごめんなさい。つい心の声がポロッと……。あ!そ、その腕の所の刺青とか、お洒落ですね!ミジンコですか?」

「……ドラゴンだ」

「あわわわわ」


 終わった。いやでもだって、ドラゴンには見えないって……!どう頑張ってもタツノオトシゴ止まりだって!!――だめだ、これ以上喋っても、更なる亀裂を生むだけな気がする。関係修復は諦めて撤退しよう、そうしよう。


 ブルブルと小刻みに震える私から、アルの頭に避難したフェレットが、呆れたようにこちらを見てフンッと鼻を鳴らす。


『ミジンコって』

「うわぁあああ!やめて!私が全面的に悪かったから、掘り返さんといてっ!」

『ミジンコ……ぶふっ』

「やめてぇえええっ!」

「姉さん、落ち着いて。傍から見たら動物に向かって叫んでるヤバい奴だから。ほら、蹲ってないで立って。行くよ」


 フェレットを頭に乗っけたまま、アルが「すみません、お騒がせしました」と店員に会釈をする。


「ううっぐす……。ん、あれ、ナイフは……?」

「質は良いんだけど、予算が足りなくて。お金が貯まったらもう一回来ようかなって。ひとまず有り合わせの物でいいや」


 武器屋を出た後、アルは路上に並ぶ露店をしばらく物色し、手頃な戦闘用ナイフを買うと、それを腰のベルトに挿した。


「よし。そろそろ良い時間だし、ギルドに戻ろうか」

「お、もうそんな時間?」



 もうすぐ、ギルドの説明会が始まる。

 私達は手を繋ぎ、再びギルドへと向かった。



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