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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
第一章 ギルド
14/40

12歳



「はぴばすでーとぅーゆー!アル~私~!」

「毎年思ってたんだけど、その歌どういう意味なの?」


 あの定番ソングを熱唱する私に、ギルがパチパチと適当な合いの手を入れ、アルが笑顔で今さら過ぎる疑問を呈する。


「誕生日おめでとうって意味だよ。12歳おめでとう!アル」

「ありがとう。姉さんも、12歳おめでとう」


 二人で笑い合う。そう、私達は今日晴れて12歳になった。


 元々私の誕生日は、「こんくらい」と言うギルのアバウト判定でしか決まってなかったので、この際だからとアルと日付を揃えてしまうことにしたのだ。


「ケーキ、美味しそう!食べて良い!?」

「どうぞ」


 この数年で少し背が伸びて、雰囲気も柔らかくなったアルが微笑んで頷く。なぜ、アルがOKを出すのかと言えば、街へお遣いに行ってきたついでに、ケーキを買って来てくれたのがアルだからだ。


 フルーツがふんだんに使われた、綺麗なホールケーキをカッティングする。ギルと、アルと私と――それとフェレットの分。


『ベリー多めのとこくれ』

「もー、私達の誕生日ケーキなんっすけどー」


 短い脚でトテトテと近付いてきたと思ったら、切り分けたケーキを値踏みしてベリーの多く乗った皿を指し、これが良いと訴えてくる。それに溜息を吐きながらも言う通りその皿を置いてやれば、器用にその手足を使ってクリームを掬い、ハグハグ食べ始めた。別に食べなくても生きていける癖に、割と食通と言うか、舌が肥えているというか……。好き嫌いが激しい。


「ほんと、その姿だから許されてんだからなぁ」


 と、横からぬっと腕が伸びて、もう一皿が消える。その腕の先を辿れば、何食わぬ顔でチョコレートプレートの乗ったピースの皿を、ギルが自分の方へ引き寄せていた。


「ちょっ、遠慮とは!?チョコレートプレートは主役のもんでしょうが!」

「年功序列だな」

「親しき中にも礼儀あり!」

「まあまあ、姉さんはどれがいい?僕は余ったヤツでいいから」


 苦笑したアルが、執成す様に言う。アル……、あんたって奴は……。


「おおっ、我が家の良心よ……。ちょっとそこの一人と一匹!アルを見習えよ!!私達に謝れ!」

「おー、アルは偉いなー、すごいぞー」

『さすがアル』

「せめて手元のケーキから視線を上げろよ!!」


 バンバンと机を叩く私に、ギルが顔を上げて一言。


「行儀悪いぞ。やめろ」

「あ、はい。すんません」


 ……あれ、おかしい。何で私が謝ってんだ?




「で、結局出発は今日にしたのか」


 チョコレートプレートをワイルドに噛み割ったギルが、私じゃなくてアルに視線を向ける。


「うん。早く自分で使えるお金が欲しいし」

「そうか。ここからだと結構歩く。もたもたしてっと日が暮れるぞ」

「そうだね。姉さん、早く食べちゃって」

「あれ?誕生日ケーキだよね、これ?私、祝われてんだよね?」

「いつまでも浮かれ気分でいるんじゃねえ。誕生日だからって甘えんな」

「理不尽!理不尽の極みっ!」


 結局私は、丼を掻きこむようにケーキをほぼ丸呑みで消費することとなった。おえっ……。






「さてと、気持ちを切り替えて、出発進行~!」

「姉さん、そっちじゃないよ」


 家を出て早速右へ曲がろうとすれば、ぐいっとアルに手を引かれる。


「姉さんは街に降りた事ないんでしょ?余計な事はせずに、今日は僕の後ろからついて来てよ。余計なことはせずに」

「何で今二回言った?」

『お前が普段、余計な事しかしねえからだろ』

「んな馬鹿な」


 いくらなんでも、そんなことは、ない、はず。きっと、たぶん……。


「ま、まあ道が分からないのは確かだしね!今日のところはアルに任せるとしましょうか」

「うん。念のため手を繋いでいこう」


 きゅっと有無を言わさず握られた手。

 ん、何だろう。いつもなら嬉しいんだけど、すごい複雑な気分。


「そうだ!道教えてくれたら、私の魔法でバビューンと空飛んでっちゃえば……」

「姉さん、余計な事は?」

「あ、はい。しません」


 黙って付いて来いってことっすね。うっす。



 何だかんだ街へ行くのは今日が初めての私に比べ、さすがと言うべきかアルは迷うことなくすいすいと森を進んで行く。


 目的地は、ギルドのある街『ベギン』。目的はもちろん、ギルド登録からの冒険者デビューだ。本来ならギルが連れて行ってくれるって話しだったんだけど、何度か『ベギン』へ行ったことのあるアルが「道順なら分かる」と言うので、二人だけで向かうことにしたのだ。


「アルは小遣い稼ぎでギルの手伝いしてたから、街に降りたことあるんだよね」

「まあね。でも、行く所はだいたい決まってたし、ギルと二人で観光なんて柄じゃなかったから、街自体の事はあんまり知らないんだけどね」

「いやあ、そんなこと言って。絶対モテモテでしょー。道行くたびにお姉さんに声かけられちゃってるんでしょ~?」

「……隣りにあの強面のギルがいるんだよ?話しかけられたことなんてないよ」


 アルが苦笑交じりに言う。


 うーん、まあ確かに。ギルってまごう事なきイケオジなんだけど、雰囲気が堅気じゃないって言うか、話しかけた瞬間『あ゛あん?』ってメンチ切られそうな見た目してるもんね。

 常に怒っているように見える顔なんだよなぁ。まあ、私はそんなとこもワイルドで好きなんだけどっ!


「そう言えばさ、姉さんとギルって血は繋がってないんだよね」


 アルが視線を前に向けたまま、そう聞いて来た。

 今まで触れないことが暗黙の了解みたくなってたけど、別に隠すようなことでもない。


「うん、そうだよ~。森に捨てられていた私を、ギルが拾ってくれたんだ。だから、本当の親が誰かは知らないし、知ろうとも思わないかな。今となってはそんな興味もないし」


 嘘は言っていない。しかし、本当のことも言わない。いきなり「天使が~」なんて言われても、信じられないだろうし。私も説明がめんど――ぅおっほん。


「そっか。……姉さんは、この先ずっとあの家にいるの?」

「ううん。お金貯まったら出て行くつもり。どっか田舎町に家を買ってスローライフを満喫するんだ~。そう言えば、アルは何で冒険者になりたいの?」

「……強くなりたいから」


 前を向いたまま、アルがポツリと呟く。

 そう言えば、前もそんなことを言っていた。守れるようになりたいとか何とか。力を付けたいってことかな?


「いやぁ、男の子だねえ」

『コメントがババくせえな』

「? フェレットなんて?」

「立派になれよ、だって。……ちょっ、フェレット痛い痛い!髪の毛引っ張んなこら!」


「あ、そうだ。フェレットと言えば」


 ふと思い立ったようにこちらを振り返ったアルが、私の頭の上に乗るフェレットを見上げる。


「フェレットが精霊ってことは、隠しておいた方が良いかも」

「え、なんで?」


 フェレットと一緒にキョトンとする。それに、アルは何故か一瞬呆れたような表情をしてから、溜息を一つ吐いた。


「姉さんは知らないだろうけど、精霊を連れてる人なんていないよ。魔獣と使役契約を交わして使い魔にしている人はいるけど」

「え」

『ああ、まあそりゃそうだな』


「あ、それにこの際だから言っとくけど、魔法属性全部使える人もそうそういないからね。少なくとも、僕は姉さんくらいしか知らないし」

「え」

『ああ、まあそれもそうだな』


「それと、上級の魔物を12歳そこらの子供が一人で退治できるって言うのも、本当は相当おかしなことだから」

「え」

『ああ、まあ間違いないな』


「あと」

「ちょっ、タンマタンマ!まだあんの!?」


 ひぇええっと手で顔を覆う私をチラリと見て、アルが何とも言えない、複雑な顔をする。


「……やっぱ、いいや。これは、別に大丈夫かもしれない」

「そんな、途中で止められると気になるじゃん!」

「じゃあ、言うけど……。姉さんのその顔、絶対街に下りたら騒がれると思うんだよね」

「顔?……ああ」


 美少女過ぎるってことね。

 これに関しては全面同意でうんうん頷くけど、そのまま「あれ?」と首を傾げる。


「でも、さっき別に大丈夫かもしれないって」

「……まあ、中身が、そんなだし」

『ああ、まあ中身がこれだしな』


 アルと、恐らく頭上のフェレットも、半目でこちらを見て同時に「はぁ」と溜息を吐く。


「失礼な。自覚はあるけど」

「あれ、何だ姉さん、中身が残念だって自覚あったんだ」

「あっ、あれアル君。私が自覚あるの、見た目と性格が一致していないってとこだけなんだけど。残念は初耳」

『ふっ、アルも言うようになったじゃねえか』

「おい、さっきから合いの手うるさいぞ」


 フェレットにそう毒づきながら、密かにショックを禁じ得ない。私ってそんなに爆弾抱えてたんだ……。


 私の目標は “悔いのない人生”。前世では誰かのために時間を使って来たけど、今世は自分のために生きるって決めていた。だから、世界滅亡も自分がピンチになるなら他人事じゃいられないってだけで、自分に関係ない事柄なら関わる気なんてなかった。


 だけど、私は前世の経験から知っている。出る杭は打たれる、なんて言うけど、出る杭は引っこ抜かれて別のところに利用されるパターンもあるんだって。


 突出した能力を持っていれば、“他人のために使え” と強要される。もしくは砂糖に群がる蟻のように、たかられる。


「アル、私さ。目立ちたくないんだよね」

「諦めた方が良いね」


 即答だった。相槌すらなかった。


「そ、そんなこと言わずに!お願い、私は平凡(パンピー)でいたいんだ!なにとぞ!!」

「……まあ、姉さんが黙ってたいって言うなら、協力はするけど」


 アルがチラリとこちらを見て、真剣な表情で重々しく一つ頷く。


「一般人って言う方が無理あるよ、その見た目じゃ」

「そんな!?」


 やめて、そんな哀れむような目でこっち見ないで!

 フェレットも『どんまい』って、じゃかしいわ。言っとくけど、非凡の一端はお前だからな?


「私のスローライフ計画が……」

「まあ、騒がれるだろうけど。そこまで深刻に考えなくても良いんじゃない?誰に何て言われようと、したいようにするのが姉さんじゃん」


 顔を上げる。アルが不思議そうにこちらを見ていた。「何をうじうじ悩んでんの?」とでも言いたげな顔だ。


「……アル、私のことそんな風に思ってたんだ」

「え、何か違った?」

「ううん。……そっか」


 そっか。


「あっははははははは!!」

『うおっ!?だから突然大声出す癖やめろって、まじで』

「ね、姉さん?だ、大丈夫?」

「はははっ!!愉快愉快!!そうか!やりたいようにやればいいんだ!」




 ――――前世で一度、クラスメイトに愚痴を零したことがあった。


『明日はテニスの公式戦。明後日はバドミントンの練習試合。明々後日は卓球の全国大会――の後に、先輩の実家のお好み焼き屋で欠員出たから、手伝い行かなきゃいけなくなった』

『お好み焼き……すごいな。全部ラケット競技だ』

『いや、つかさっち。お好み焼きひっくり返すアレはラケットじゃないからね?ヘラだからね、ヘラ』

『そこまで人に頼られるのも才能だと思うぞ、私は』

『……別に、頼られたいわけじゃないんだけどな』


 溜息を零す私に、クラスメイト(つかさっち)はパチリと一つ瞬きをして、少し考えてから納得したように一つ頷いた。


『まあ、千世は頼まれたら断れないからな』




 前世の私は、そう見られていた。そして、自分自身もそう思っていた。自他共に認めるってやつだ。


 だけど、そっか。今の私は、“したいようにする” って思われてんだ。


「嬉しいねぇ」

『なにニマニマしてんだ。気持ち悪い』

「姉さん、本当に大丈夫?今日、やっぱやめとく?」

「何言ってんの!行くに決まってるじゃん!むしろ絶好調だよ!」

「それはそれで問題だよ……」


 笑いが止まらない私を心配げに見ていたアルだったが、ふと視線を前に戻すと「あ」と声を漏らす。


「――――見えて来たよ」


 アルが、すっと前方を指さす。そちらを見れば、森の出口のさらに向こうに、建物が立ち並ぶ街が見えた。



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