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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
序章 転生
13/40

第1回作戦会議



「え、12歳になったら親離れすんの!?」


 とある日の夕飯時、ギルがふと思いついたように、「そういや働き口はどうするつもりなんだ?」と言葉にしたのが始まりだった。


 アツアツの煮物をハフハフと頬張りながら首を傾げれば、何とこの国の子供は、だいたい12歳で将来の働き口を決めて、見習いになったり弟子志願したりするものらしい。そして手に職をつけていくのだ。


 ここにずっといられるわけではないことは、この世界に転生して意識を取り戻した初日から分かっていたことだ。ギルはあくまで私が独り立ちするまでの繋ぎとして世話してくれているだけであって、親ではない。自身が居候の身であることも承知している。


 ……でも、12歳って早くない!?12歳なんて子供じゃん!ヒーローごっこしててもまだ許される年齢じゃんっ!!


「はい!」

「はい、チセさん」

「私、街に行ったことないので、どんな職があるかも分かりません!」

「何でその年になって街に行ったことねえんだ」

「ギルが禁止令出してたからっす!サー!」

「とっくにそんなもん時効に決まってんだろ。察しろ」

「ウソだろ……」


 机にガンッと頭を打ち付ける私を尻目に、アルへ視線を移すギル。


「お前はどうするつもりだ?」

「僕は、冒険者になります」


 ピンと背筋を伸ばし、緊張気味にそう答えたアルに、ギルはあっさり頷く。


「ま、そんなところだろうな。他の職と違って、冒険者なら身分証も必要ねえし」

「え、そうなの。ってか私も、そういう身分証がいらない職じゃないとダメなんじゃね」

「ま、そうなるな」

「ちなみに冒険者以外だと、私に選択肢は……?」

「――奴隷?」

「冒険者になります」


 冗談でしょ。この世界、奴隷とかいんの?

 即答した私に、アルが苦笑する。


「奴隷なんて前時代的な考え方は、もうないよ」

「え、なんだ」


 ほっと息を吐く私に、テーブルの上で木の実をかじっていたフェレットが顔を上げる。


『案外、冒険者っつーのはありかもな』


 フェレットがそんな事を言うなんて何だか意外で、その円らな瞳を見つめ返す。


『冒険者は依頼を貰えば色んな場所に出向くことになる。世界滅亡の手掛かりも掴みやすいだろ』

「!」

『お前、そのこと忘れてただろ』


 カッと目を見開いた私に、フェレットが半目になる。いやだな、まさか。まさかそんな重大なこと、忘れたりしたりしなかったりしませんよっ。


「……フェレットの後押しがあったので、私も冒険者になります」

「何だ、お前たち結局一緒か」


 なるべくきりっと表情を作って宣言してみれば、面白くなさそうに頬杖をつくギル。むしろ何を期待してたんだ。横をチラリと見れば、嬉しそうにこちらを見るアルが。はい、可愛いー。正義―。


「姉さんが一緒なら、僕も心強いよ」

「ぅえっへっへっへ。私もアルと一緒なら頑張れるよぉ」

『笑い方きっしょいな……』

「一番近いギルドなら、大きな町の方に出ないと駄目だな」

「え、ギルド!?」


 RPG感を醸し出す単語に身を乗り出す。それにギルがさり気無く身を引きながら、鷹揚に頷く。


「冒険者も商業も、ギルドに登録しなけりゃ下手したら違法になる。そうだな、12歳になったらつれてってやる」

「あざーっす」


 びしっと敬礼して、残りの夕飯を掻きこんでいた私は、アルが何やら思案顔で俯いていることには気づかなかった。




 その後、アルが無言で自室に引っ込んでしまったため、私も自室に戻ってフェレットと今後の作戦会議をするため、ベッドに腰かけていた。


「と、言うわけで。“第4回世界滅亡を良い感じに回避しよう大作戦会議” を始めまっす!」

『3回分の記憶どこいった』

「発言は挙手をしてからお願いします」

『俺とお前しかいねーだろーがっ!』


 フェレットがボスボスと、短い脚で布団を踏み鳴らす。


「まあまあ、落ち着きたまえ。そうだな、まず前回のおさらいで……。前、どこまで話したっけ?」


 あの日――何だかんだもう2年くらい前の話しになるのか――フェレットに全てを打ち明けた記念すべき日。

 確か、フェレットに『魔獣の暴走』について聞いた気がする。これまで2回も『魔獣の暴走』によって世界が滅亡しそうになって、それなら今回も近い未来に『魔獣の暴走』が起こるってことなんじゃね!?って思ったら、それはないってフェレットに言われたんだったか。そうだ、『世界樹』の存在があるからって言ってた。


「そもそも、世界樹って何なの?」


 根本的な質問をする私に、フェレットは器用に前足で腕組みしながら、これまた器用に人間のように体を折り曲げて座る。


『世界樹は俺が体を失った後に出てきたもんだから、成り立ちの詳細は分からんが、この世界の “調整” を一手に担うもんだ。この世界は元々、人間・魔獣・精霊の三要素でバランスを取っていたが、1回目の魔獣の暴走で、魔獣は異界に封印された。三要素の一つが欠ければ世界は滅ぶ。そこで魔獣の後釜として生まれたのが、亜人だ』

「亜人……。まだ見たことないけど、獣人みたいなイメージで良いのかな」

『魔獣と人間の間って見た目だな。亜人が生まれることで三要素のバランスを保った世界はそのまま存続したが、再びその均衡が崩れ、2回目の魔獣の暴走が起こった。その頃には、俺はすでに体が無かったから仲間(精霊)から聞いた話だが、亜人が人間に差別され、迫害の末に急激に数を減らしたことで、三要素の均衡が崩れ、異界との狭間に歪みが生まれちまったらしい』

「……どこの世界にも差別はある、か」


 その当時の亜人には同情するけど、だからと言って差別した者を “ひどい” と言うことはしない。差別とか人生観とか価値観とかって、環境が作り出すもんだと思うから。


『異界の歪みから溢れ出した魔物は、魔導師によって再び異界へ封印されたが、2回も同じ事が起きれば改善策も打たれる。それが世界樹ってわけだ。今までの “三要素でバランスを取る” という世界の法則を、世界樹が一手に担うことになった』

「つまり、世界樹さえあれば世界滅亡の危機は二度と訪れない、と」


 でもそれだと、私の転生キャンペーンミッションと矛盾する。

 頭をポリポリ掻きながら、ベッドの上に胡坐をかく。


『だが、世界樹が出現してから新たに起こった弊害もある。世界樹が植えられたことで、世界のバランスが取れるようになったわけだが、それは逆に魔物がある程度増えても、世界が耐えられるようになったということだ。その結果、魔物が地上で繁殖するようになっちまった』


 そこまで聞いて、ふと疑問に思う。


「待って、そもそも魔物って異界に封印されてるんだよね?じゃあ、何でこの森にわんさかいるわけ?」

『異界に封印されたっつっても、使役目的の召喚はできる。俺と契約した時、使役契約の話しをしただろ?異界から召喚された魔獣は、人と契約している使役期間中のみ理性を取り戻すことができる。だが、途中でその契約が()()()()切られた場合、途端に魔獣は理性を失くし、元の異界に戻ることもできず、この世界に留まることになる。人間は “はぐれ” と呼んでいたな。この地上にいる魔物は、だいたいがその “はぐれ” だ』


 ちなみに、『魔獣』は理性がある状態、『魔物』は理性を失った状態、と呼び分けているらしい。

 理性があれば『魔獣』、理性がなければ『魔物』。ふむふむ。


「なるほどね。それで、世界樹が出来たことで、その “はぐれ” の魔物たちが今度は繁殖するようになって、現状に至ったと。……あ、そうやって魔物が増えすぎて世界滅亡、とか?」

『まあ、大量発生しないとは言えねえが、それで星ごと無くなるっつーのは考えにくいな。過去の魔獣の暴走みたく、一気に同じタイミングでどばっと襲われたら一溜りもねえだろうが、この時代の魔物がそんな統率取れた行動を起こすとは思えねえ』

「数の暴力ほど怖いものは無いからね~」

『……そういやあ、地上に出てきて気付いたが、昔に比べて魔物一個体のレベルが上がってる気がすんな』


 ふと思い出したように、フェレットが呟く。


「え、凶暴化してるってこと?」

『まあ、元より理性のねえ奴等の事だから気のせいかもしれんが、魔力量は増してるように思う。ちょいと光魔法が使える程度の魔術士じゃあ、この森にいる魔物を浄化すんのは無理だろうな』

「え、そうなの?光魔法使える人なら、問答無用で浄化できるもんだと……」


 でも確かに、ゲームでもレベチ相手だと相性関係なく負けるもんな。そういうことか?

 

「じゃあじゃあ、魔物の更なる凶暴化&増殖で、近い未来人間が押し負けるとか」

『……何百年も先の話しなら有り得なくもないが、少なくともチセが生きている間に滅亡ってことはねえだろ。精々、町が幾つか落ちるくらいじゃねえか』


 じわじわ来るって言うより、もっと決定的な事件が起きるってことか。ううむ。


「詰みか……」

『ま、いくら考えても憶測の域は出ねえな』


 ベタッとベッドに潰れるように寝そべったフェレット。確かに、今の時点では全て予想でしかない。

 でも、魔物のことを詳しく知れたのは大きかった。核心はまだ不透明だけど、世界の危機に魔物が全く関係ないとは言い切れないしね。


 それに、これは単なる勘なんだけど。世界樹って言うのも、無関係ではないと思うんだよね。だって、世界樹があれば万事OKって、それ逆に言えば、世界樹に何かあったら一発KOってことじゃん?


「ま、ひとまずはやっぱり、魔物の戦闘力が上がってんなら、こっちの戦闘力も上げとかないとねっ!」

『今できることも、そんぐらいだしな』


 しばらくの方向性も定まったところで、頭を使ったせいか眠くなってきた。

 ごろりとベッドに寝転がると、フェレットを抱え込んで目を閉じる。


『おい、離せ。俺は抱き枕じゃねえぞ』


 はいはい、良い子にお寝んねしましょうねぇ……。むにゃむにゃ。






「ギル」


 リビングで寛いでいたギルバードに、二階から降りてきたアルが声をかけた。


「何だ」

「相談、したくて」


 所在なさげに階段の前に立ち尽くし、緊張したように硬い表情を見せるアルに、読んでいた本から顔を上げて、ギルバードは顎をくいっと動かす。その仕草に、慌ててギルバードの目の前まで近づいたアルは、手を握り締めて真剣な表情で言う。


「お金が、欲しいんだ」

「何のために?」

「剣が、欲しくて」


 アルの言葉に、ギルバードがひょいっと眉を上げる。


「剣?使ったことがあんのか?」

「す、少しだけ」

「本物を?」

「い、いや。木剣だけど」


 アルの答えに、一つ溜息を吐いてギルバードは首を横に振る。


「お前の背丈じゃ剣は重すぎるし長すぎる」

「それはっ……、分かってるけど」


 俯いてしまったアルをしばらく見つめていたギルバードは、やがて静かに告げた。


「長物は森では使い難い。まずはナイフに慣れろ。今度街に出た時に買ってやる」

「え、いや。僕が自分で稼いで――」

「お前の年齢で働ける場所は限られる。加えて身元不詳じゃあ雇ってくれるところなんて、よっぽど危機感薄い店かヤバいことやってるトコくらいだろうな」

「うっ」


 グッと唇を噛み締めるアルに、話しは終わりだとばかりに本へ視線を移すギルバード。


「前貸しだ。ナイフで動物でも魔物でも捌いて売りゃあ金になる。稼ぐなら身になるもんで稼げ」


 ギルバードの言葉に、目を丸くして突っ立っていたアルだったが、すぐに子供らしい笑顔を見せた。


「あ、ありがとう」

「お礼なら前貸しの金返す時に添えてくれ」


 淡々とそう言うギルバードに、ぺこりと礼を一つして、タタッと軽い音を立てて階段を駆け上がって行くアル。


 静まり返ったリビングで、ポツリと落ちた声。


「――――もう10年か」


 そのどこか悄然とした響きに、気付く者は誰もいなかった。



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