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救世主と精霊王  作者: 小林あきら
序章 転生
10/40

迷子



 この世界(ほし)は、いつか確実にピンチを迎える。

 しかも私の生きている、ここ数十年の内に。そして、それを知るのは私だけ。


「なんて、ごめんなんだよね」

『だからって、俺を巻き込もうとするな』


 呆れた風にそう言いつつも、私の転生前から今に至るまでの話しを大人しく聞いてくれたフェレットに、私はパンと手を合わせる。


「そんなこと言わずにさぁ!別に一緒に世界救ってくれと言ってるわけじゃないんだよ。私だって、これからの人生がっつり全部、そっちの方向に極振りするぜ!ってつもりはないし」

『じゃあ一体何が目的だ?』

「そんな、人を悪代官みたいに……。ただ情報が欲しいだけだって。私よりずっと前から生きてたわけでしょ、フェレットは。この世界で、これから先起こるピンチに心当たりあったりしないの?」


 フェレットを連れ帰った翌日。私は、悩みに悩んだ末(その間5秒)、フェレットを味方に引き入れることにした。


 恐らくギルは、私が転生した理由とか、そこら辺の事情を詳しく知っているはずだ。しかし、突っ込んで聞き出そうとした途端、口が堅くなってしまうのだ。


 だから、ひとまずこちらの世界に生きる者を一人、仲間にする。

 この先、私が世界を救う決断をするかどうかなんて、未来の私にしか分からないことだ。でも、その時「救う」と言う決断をしたとして、その手段が無ければ詰んでるわけだ。

 悔いのない人生を生き抜く。これはスローライフだろうと世界救済コースだろうと変わらない、私のポリシーだ。

 だから、今の内にやれることはやる。無駄に行動力だけは良いのだ。思い立ったら即行動。私はフェレットに全てを包み隠さず話した。


 信じてくれようがくれまいが、どうせフェレットは私から離れられないらしいしね。否が応でも巻き込む気満々だったわけだが、フェレットは案外あっさりと私の荒唐無稽な話しを信じてくれたようだった。


『滅亡一歩手前ってのは、割と何回かあったぞ。――つっても、2回だけか』

「え、2回もあったの」


 早速の有力情報に、目を見開く。

 それは随分、ガバガバな世界設定と言うか何と言うか……。地球ってもしかして滅茶苦茶高尚な星だったのか?


『魔獣の暴走って聞いたことねえか』

「え、それって御伽噺のやつだよね。確か禁忌を犯して、今まで2回起こったっていう……」

『御伽噺、ね。まあ内容はともかく、魔獣の暴走は本当にあった史実だ』

「まじっすか」


 まさかの、あの非現実的な御伽噺。ノンフィクションなんっすか。

 唖然とする私は、そこではたと閃いてしまった。え、つまりなんですか。


「じゃあ、世界のピンチって、もしかしなくても “魔獣の暴走” がまた起こるって事なんじゃ――」

『いや、それはねえだろうな』


 やだ、私ったら天才!と思った矢先、フェレットにばっさり切り捨てられる。思わず床をバンバン叩いて抗議する。


「なんでよ!今の流れそうだったじゃん!」

『今は世界樹があるだろうが。アレがある限り、もう二度と魔獣の暴走は起きねえよ』

「世界樹ぅ?」


 ああ、でも確か御伽噺の終盤で、そんなこと書いてあったような……。でも、詳細には書かれてなかった気がする。

 「世界樹って――」何?と食い気味に訊こうとした時だった。


「チセっ!!ドタバタうっせーぞ!」


 ガンッと部屋のドアを殴るギルの怒鳴り声に遮られた。やべっ、ここ2階だから床叩くと階下に響くんだった。

 さっきフェレットに抗議した時、バンバン床叩いたのがマズったらしい。


「す、すんません……」


 ギルは騒がしい音があんまり好きではないのだ。反省……。

 でも、月一頻度で聞ける名前呼びを頂いたので、良しとする。


 すぐに機嫌を直すと同時に、直前まで話していた内容もどっかにすっ飛ばして「散歩行きますよ~フェレットちゃ~ん!」とルンルンで部屋を出るチセ(ばか)を前に、フェレットは早くも体を捨てたくなったのだった。






「お気に入りの場所、第3弾~!」


 さて。家を出た私が、フェレットを連れてやって来たのは大パノラマの広がる海辺。

 白い砂浜、青い海!はい、テンション上がる!

 汚染も少ないようで、とにかく水が綺麗。海の底が見えるのだ。


「チセ選手、いっきま~す!!」

『あ?おい、待てまさかっ……!!』


 ちょうど崖になっている場所目がけて勢い良く走りだせば、頭に乗っていたフェレットが焦ったような声を出す。が、もう遅い。


 推定高さ10メートル。眼下には岩に当たって銀色に弾ける波しぶき。()()デンジャラスな飛び込みを楽しみたいという人に、おすすめのスポットである。

 崖から勢いよく空中に踊りでれば、私の髪の毛を必死に掴んでしがみ付いているフェレットが、声なき悲鳴を上げた。


 一瞬の浮遊の後の、あの内臓が浮く感覚。そして落下。


「いやっほ~いっ!!」

『……ッ!!~っ!?』


 風魔法を駆使して上手く岩場に当たらないように、水中へ。その直前に傘の時の要領で、自分の周りの空気ごと閉じ込めるように360°のフィールドを張る。ドボンッと派手な音と共に沈むが、膜のおかげで水の影響は受けない。視界に映るのはユラユラ揺れて輝く水面と、淡水魚の群れ。天然の水族館だ。


 ただ、このフィールド内の酸素にも限度があるので、長くは沈んでいられない。飛び込んだ反動で沈んだ体が、今度は水面に引き寄せられるように浮かび上がる。そのタイミングでフィールドを解除すれば、一気に服が海水を含んで、冷たさが地肌に染みる。


「あっはっはは!!あ~、楽しかった~」

『こ、んのじゃじゃ馬がっ!!体手に入れて早々に死ぬかと思っただろうがッ!!』

「え、フェレット泳げないの?フェレットなのに?」

『そういうこと言ってんじゃねえよ!!』


 私の頭の上でわーわー喚いているフェレットが、パシパシとその短い脚を打ち鳴らす。うん、肉球で別に痛くは無いんだけどさ。足の位置が丁度、私の目に当たって地味にダメージ。


「すまんすまん。でも楽しかったっしょ」

『二度と御免だ』

「あー、フェレットは絶叫ダメなタイプかー。把握」


 じゃあ、これから慣れてもらわないとね!

 平泳ぎで砂浜の方へ泳ぎながら鼻唄を歌う私に、ぐったりしたフェレットが力なく声を上げる。


『……人間が死んでるな』

「――なんやて?」


 あまりにさらっと言うから、一瞬聞き間違いかと思った。

 フェレットと同じ方、砂浜の方向へ目を凝らせば、確かに人影らしきモノが、半分海水に浸かった状態で倒れているのが見えた。


「や、やややばいじゃんっ!」

『お前の方がやばい奴だ』

「だぁから、悪かったって。……さては根に持つタイプ?」

『ああ、俺も知らなかったがそうみたいだな』


 投げやりな返答に、こやつ段々ギルみたいになってきたな……と思いながら、ジャブジャブと打ち上げられている人影へ近付いて行く。


「お~い!大丈夫か~?」


 足が砂を踏む。水を掻き分けながら駆け寄ってみれば、それは確かに人だった。しかも子供だ。

 ぐったりした子供に、前世の死に際を思い出す。この前出会ったコカと言い、ピンチな子供に何かと縁があるな。

 とりあえず体温低下は危険だ。水に浸かっている部分を砂浜へ引き上げ、頭の上のフェレットを引っ掴んで、子供の体を拭う。


『って、おい』

「非常事態ですから」


 えーっと、後は脈を確認しなきゃ。首元に手を添え、胸元に耳を寄せるが、心肺停止状態のようだ。まずい。まだ死んでないことを祈って、人工呼吸と心肺蘇生法を繰り返す。しかし、心臓マッサージは子供(今の私)の力じゃ難しい。ただの低酸素による心停止であれば良いけど……。あ、こういう時は声をかけ続けてくださいって、何かで言ってたな。


「おーい、がんばれ!戻って来い!このまま死んじまったら、どこぞの天使に利用されるぞ!」

『お前も結構根に持つ性質だろ』


「ッガ……ゴホッ!!」

『「!」』


 息を吹き返し、水を吐き出した子供に、急いで呼吸回路を確保するべく身体を横向きにさせる。

 何度か咳と嘔吐を繰り返し、息が落ち着いた頃には弱いながらも脈も戻り、ほっと息を吐く。良かった……、生きてた。


 ぐったりしたまま、体力尽きたように再び倒れてしまった子供の上に、湯たんぽ代わりのフェレットを置いて、風魔法で自分ごと浮かせて、急いで家へ戻る。


「ギル!子供が死にそう!」


 家の外で薪を割っていたギルに叫びながら地面へ下りれば、こちらをチラリと見遣ったギルは汗を拭いながら、親指を家の方へ向ける。


「寝かして回復魔法でもかけてやれ」

「回復魔法って何!?」

「あー、あれだ。元気にな~れっておまじないかける感覚で魔法使えばイケる、たぶん」


 雑っ!……あ、あとすみません。「元気にな~れ」って部分、もう一度リピートいただいてもよろしいでしょうか?


『おい、何真顔で突っ立ってんだ』

「はっ!」


 急いで自分の部屋まで駆け上がり、子供をベッドに寝かして、言われた通り、元気にな~れと念じながら掌を子供へと向ければ、ほんわりと子供の体が発光した――ような気がした。そして、心なしか呼吸も穏やかになったような気がするような、しなくもないような……。成功したってことなのか、これは。


「ま、いっか」


 ふ~と溜息を吐きながら、椅子をガタガタ引き摺って来て座り、子供を観察する。


 身長は今の私と同じくらいだ。そうなると8歳くらいか?恐らく男の子だ。目の色までは分からないが、髪は綺麗な金髪。今はグシャグシャだが、ちゃんと梳かしたらフワフワした猫っ毛になるだろう。それと、左頬には泣き黒子。


「ゴダール王国の王子だな」


 コップを片手に、私の部屋へ入って来たギルが、子供を見下ろして呟く。


「王子様!?」

「海を挟んだ向こう側の、西大陸にある小国だ。最近、内戦で騒がしくしていたが……思ってたより事態は深刻みてえだな。王侯貴族内のいざこざが発端とは聞いていたが、形勢が悪くなって逃げて来たか」

「ど、どうしてこの子が王子様だって、ギルは知ってるの?会った事あるの?」

「ない。が、俺は元天使だ。そいつがどんな素性なのかは、見れば分かる。ゲームで言うスキルみたいなもんだな」

「初耳!」


 めっちゃ便利じゃんその能力。いいなー、私も欲しい。


「アルヴィン=ゴダール・ガイエ・ワトンカ」

「ん、何の呪文?」

「王子様の本名だ」

「ほう、ナマエ」


 だめだ、一生覚えられる気がしない。カタカナ、苦手です。


「ん?自分の国から逃げて来たってことは、亡命したってこと?親……王様とかは――」

「まあ、無事ではないだろうな。あくまで憶測だが」

「……」


 未だ意識の戻らない少年へ目を向ける。この年齢で、どういう経緯かは分からないが一人だけ他国へ流れ着いて、家族はもしかしたらもう死んでるかもしれないなんて――。


 少年の腹の上から枕元に移動したフェレットが、ふんっと鼻を鳴らす。


『中途半端な同情なら、しない方がマシだぞ』

「……うん」


 少年を少しだけ起こして、口元へ水を流し込むギルをボンヤリと見つめる。


「ギル」

「だめだ。どうせこいつをここに住まわせるとか言い出すんだろ」

「……と、トイレ覚えさせるから!」

「馬鹿の一つ覚えか。そこのちっこいのとは訳が違うだろ」

『犬猫みたいに言ってやるなよ……』


「ギルに迷惑かけない、面倒は私が見るから!」

「意味分かって言ってんのか?他国の亡命した王子だぞ。面倒事不可避だろうが」

「た、たしかに!」

『論破されちまってんじゃねえか』


「でも……、ほら。まだこんな小さいんだよ。子供が一人で、しかも知らない土地で生きていくなんて、できっこない。拾ったのは私だし、拾ったら最後まで面倒見なさいって動物保護団体の人も言ってたし!」

「孤児を保護してくれる団体なら町へ降りればいくらでもある。むしろココの方が、魔物も出るし危険だろうが」

「た、たしかに!」

『口論弱いな』


 ……分かってるんだ。ギルもフェレットも、正しいことを言ってる。


 中途半端な同情ほど、いらないものってないよね。ちゃんと分かってる。

 私も母親を亡くした時、周りのそういう気持ちが煩わしくて、仕方なかったから。


 でも、だからこそ。この少年を見捨てるなんて、私はできない。

 子供の非力さも、家族を失うことの辛さも。私は、知ってるから。


「ギル、じゃあ私も孤児院へ行くよ。この子と一緒に」

「……」


 始終、視線をこちらへ向けることのなかったギルが顔を上げた。赤茶色の瞳が、こちらを真っ直ぐ見る。


 しばらくお互い無言だった。

 瞬きすら我慢して、気合でギルをガン見し続けて数分。『そろそろ辛いっす』と眼球が限界を訴え始めてさらに数分。


「ふっ」


 無表情だったギルが、不意に口元を緩めた。


「本気、だな」


 少年へ水を飲ませるためにかがませていた姿勢を起こし、立ち上がったギルは肩を竦め、


「ま、面倒な奴がもう一人増えたところで大差ないだろ。好きにしろ」


 どうでも良さそうにそう言って、あっさりと引き下がった。


「え、えっ。いいの?」

「選ぶのはそいつだがな」


 それだけ言って、ギルは部屋を出て行った。


 力が抜けて、床にストンと腰を落とす。フェレットが、どこか呆れたようにフンッと鼻を鳴らして、しっぽでポフポフと少年の頬を叩く。


こいつ(チセ)に拾われたのが、運の尽きだな。新参同志、仲良くしようぜ』



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