彼の『死に方』
とある都市伝説だと思っていた話ですが私は実際に彼の仕事を知って、確信しました。
彼は普通じゃないと。
そして、彼を見て思いました。彼は悲しみと大きな後悔を背負って生きているんだと。これはあくまでも私の体験したことであって、主観が混じることと多少の脚色をご容赦いただきたい。
それでは、本編を始めます。
十一月二日
私は今日彼氏と別れた。そして、かなりショックを受けていた。
もういっそ死んでしまいたいほどに。そして、ずいぶん前に吏加に聞いた死に方専門店の噂、私はその話を思い出し吏加が言っていた店に行ってみた。その喫茶店はあくまでも普通の喫茶店だった。しかし一つ不思議なのが一つだけテーブル席に鎌のシール(?)が貼ってあったことだ。だから、私はこの鎌のシールのあるテーブルに座った。
メニューの端にあったココアをホットで注文。
やはり、これはうわさでしかなかったのか。
私は落胆した。
しかし、さっきの接客してくれた店員とは違う人が来た。ネームプレートには店長と書いてある。
「あなたは《美しい死に方》とはなんだと思いますか?」
店長はいきなり私にこう尋ねてきた。
これは、うわさではなかったようだ。
「さあ、分からないです。だから聞きに来ました。」
「なるほど。それでは、この契約書に名前をお書きください。そうすれば解答の手助けをいたします」
「お願いします。ここで話すんですか?」
「知らないんですか?うちは仲介ですからこの後渡す地図の場所で依頼を達成しますので……あ、書けました?ありがとうございます。それでは、」
店長はエプロンのポケットから地図を取り出した。そこは私が小学生の時につぶれた塾のビルだった、いまは廃ビルなんじゃなかったか、まぁいい。
「この場所に十一月二日、二十三時十七分に来てください。よろしいですか?」
「今日、ですよね?」
「はい、しかしそういう決まりですので。」
またのおこしを、と店員の笑顔に見送られて私はこの喫茶店を出た。
そして、時間がたつのを待ち今は二十三時十六分だ。
私は小学生の時につぶれた、私が前に行っていた塾の懐かしい扉をくぐった。
二階に上がると、月明かりに照らされてパーカーを着た高校生くらいの青年が見えた。
「あんたが、依頼者か?」
突然彼は結構な低くいい声で私に尋ねた。
「はい、幹谷遥です。」
「そうか、それじゃああんたに言いたいことが二つ。まず時間に十一秒遅れたこと、そして、一人で来たかという確認だ。時間に遅れるとか、調子のってるのか?」
「すみません。あとちゃんと一人で来たんで大丈夫です。」
「そうか、そんじゃ本題だ。まず、質問が三つ、本当にいいのか。なぜそう考えたか。燃える、沈む、どっちがいい?この三つだ。」
「最初は……いいです。二つめは、彼氏に振られたこと。三つめは、どういうことですか。」
「やけにちゃんと答えるじゃねえか、死に方の話。水死と焼死どっちがいいってことだ。あと優等生タイプの奴に多い動機だな。ちょくちょく目を動かすところとかは大方、ここに通ってた生徒といった所か?」
「正解です。それで、この質問の意味は?」
私は少しイライラしていた。この青年は名前も名のらず、ずけずけと質問してくるしそして心を読んでくる。
第一印象、最悪。チャラチャラしてるわけでもないがイケメンでいい声しててなおかつ知的。
なんかむかつくタイプの好きになれないタイプの人だ。
「理由か。それはもちろん確認だ。それと最後の質問に答えろ。」
「それを教えてもらいに来たんですよ。《最も美しい死に方》を」
「一応聞くが彼氏に振られたってことは付き合ってたってことだ。どれくらいだ?」
「約一年半です。」
「そうか、同情はする。年齢は?」
「高2の十七です。」
「俺の一っこしたか。成績は上位の恋愛経験が少ない十七歳。おそらく彼氏は学校の同級生、振られた理由は愛が重いから、友達は少なく親友がいる。親と親友からの重圧もストレスに感じていて、きょう死を決意した。なんか間違っていたところは?」
「……ない。」
何なのよこの人、ほんっと最悪。ちょっとイケメンだからって調子に乗ってるタイプ、あなたも死んだらどうなの。
「それじゃあ、本題に入るか。《最も美しい死に方》っていうのは何だと思う?」
「それは死体の状態が良いとかじゃないですか?」
「それも一つだな。でも、それは死ぬ直前までが苦痛だ。胃の中を空っぽにしとかんとならん。」
「じゃあ、なにが最も美しいんですか。」
「さあ、俺もしらねーな。でも考え方を変えたら見つかるかもな。たとえば、《最も美しい殺され方》とはなんだと思う?」
「それこそ、状態の良さじゃないですか?」
「まぁ、それもあると思う。でもな、人によっては死に面かもしれんな。」
何が言いたいんだこの人は、本当に教えてくれるのかな。
「まぁいま言ったことから俺が思うのはな、最終的に《最も美しい死に方》って人によって変わるってことじゃないかってことだ。」
「つまりどういうことですか?」
「まぁきけ。全部聞いたのちに質問しろ。」
「わかりました。」
「まず死に方っていうのは誰が死ぬのか、誰から見て美しいのか。それは死んだそいつ自身だ。だからさ、死体がどうとかそういうのは完全な他者から見た『死』だ。そんなもの関係ないだろ。自分の死に方は自分自身がどう思って死ぬかだ。だから必要なのは……幸せだ。」
彼は、自身の死に方についてどのような考え方を持っているのか。それが疑問だったけれど私は彼の出した結論を知りたかった。どこか彼の目は死んでいった人の深い後悔と苦しみを見て来たかのような目をしていたから。彼の目はまるで深海のように黒く、透き通っていてそして美しかった。
「つまり、俺が言いたいのはな人が死ぬときに後悔がある死は美しい死じゃない。ぜんぶぜんぶ納得した上での死が一番美しいってことだ。動機が苦しみであるのなら、後悔が残るから。お前はまだ、死ぬべきじゃない。」
「それが、あなたの結論ですか。」
「ああ、質問したければすればいい。結論を聞いた上で死にたいなら道具の手配をしてくれる奴を紹介する。」
「いえ、私は正直とても難しくてよくわからなかったです。それでも、あなたが言った言葉は真理を表していると思いました。」
「そうか。それじゃあ、俺の仕事は達成だ。話はこれで終わりだ。」
彼の言ったことは全て感情論だ。全く論理的じゃないことだ。でも彼は、あくまでも自論を言っていただけなのに、私は感動した。
考えていることなんて全く分からないし、そのくせ人の考えていることは言い当ててくる。顔は格好良くて声もよくて知的な、私の嫌いなタイプの人なのに。私は彼に好意を抱いている。
「最後に聞きたいことがあるのですが、あなたにとって『死』とはなんですか?」
彼は一瞬ためらってぽつりと一言
「…………苦しみだ。」
と、答えた。
日記 十一月二日 曇りのち晴れ
私は今日死についてある人から教わった。彼にいったい何があったのか、私は知りたい。
初投稿作品です。
多少重い内容ですが次回作も読んでいただければ幸いです。
文法ミス、誤字などがありましたら報告お願いします。
感想お待ちしています。