4.ハギラ 02
梅雨入りした割に雨は降らず、代わりに蝉が鳴き始め、「もうすぐ夏かぁ」なんて呟いてみたりする、今日この頃。
こんにちは。葵枝燕でございます。
『きみとてをつなぐ』、第四話でございます。二ヵ月以上更新止めてしまって、すみません。色々連載を増やした代償ですね……。
実は、この第四話のWordデータが破損し見られなくなるという悲劇がおきまして……(詳しくは、二〇一六年六月九日(木)付の活動報告をご覧ください)。まあ、こうして投稿できたということは、生きているデータがあったということなのですがね。いや、バックアップは大切ですよ、本当に。読者の皆様も、気を付けてくださいね。
というわけで、第四話、ようやく投稿できます。次話更新は、きっとまた数ヵ月後になるでしょう。でも、頑張って終わりまでもっていく所存ですので、気長に付き合ってやってください。
それでは、第四話、スタートです。
血の臭いが充満している。そんな空間で、俺は静かに呼吸を繰り返すしかできなかった。周りで息絶えているのが、かけがえのない存在の者達であることはわかっている。それなのに、弔うとか埋葬するとか、そんな気が全然起きなかったのだ。
「レイ……」
幾度目かの呟きを零す。その名前の持ち主がここから去って、一体どれほどの時間が過ぎただろうか。
レイを恨もうとは思わない。しかし、簡単に赦せるわけでもない。親仁殿を、みんなを、奪われた事実は変わらない。俺が独りになってしまった現状も、時間が巻き戻らない限り変わらないだろう。
レイがこの惨劇を引き起こしたのも、本人がああ言ったのだから、間違いではないのだろう。それでも俺には、心の底からレイを憎むことができなかった。
彼女の言うとおり、彼女を憎み、彼女を恨み、彼女を呪う――そうしてしまうことは、正しい行為なのかもしれない。独りになったこの感情を、彼女への憎しみが薄れさせてくれるかもしれない。それでも、レイと刻んだ日々達までも、消してしまいたくはない。息絶えているみんなと、息の根を止めたレイと、過ごした日々は確かに輝きに満ちていたのだ。
それに俺は、復讐に生きることが無意味だと知っている。それは、自分自身を救うどころか、新たな火種を生む感情だ。何も生みだせはしない。仮にレイを殺したとして、みんなが戻って来るわけなんてない。だから俺は、そんなものに身を委ねることは二度としたくない。
なあ、レイ。俺には、お前を殺すなんてことはできやしないんだよ。そんなことをしたいとは思っていない。
「親仁殿」
呼びかけに応えてくれるはずはない。
「みんな」
俺の声はもう、届きはしない。
「ごめんなさい」
残酷に殺された彼らは、俺の答えをどう思うだろう。落胆するだろうか。敵意のこもった目で睨むのだろうか。「敵を討て」、と言うだろうか。「レイを殺せ」、と言うだろうか。たとえそうだとしても、俺は自分の答えを貫きたい。みんなの望まない答えでも、これが俺の結論だ。
「俺はレイを、殺したいとは思いません」
「あやー、これはすごいですねぇ」
不意に聞こえたそんな声。扉の方を見ると、まだ少女といってもいいような見た目の女が立っていた。顔はよくわからないが、かろうじて眼鏡を掛けているようだということだけはわかった。
「テーンさん、ティラさん、すごいですよ。こんな風に、人って殺せるんですねぇ」
「どこがすげーんだよ。奴は人じゃねーんだ、こんくらい余裕だろ」
「あ、そっか。それもそうですね」
少女の後に住処の中を覗いたのは、金髪の男だった。黒いタンクトップから出る腕は、鍛えられた筋肉に包まれている。どこかの炭鉱にいそうな風貌だった。
「それにしても、ひでぇな。暴走にもほどがあるぜ」
血の臭いを嗅がないようにか、男は鼻を押さえて辺りを見回す。この場で唯一の生存者だろう俺には気が付かなかったらしい。
「でも、いつかこうなるはずだったんでしょ? ちゃんと管理してたら、こんなに多くは」
「テーンさん、ティラさん」
静かな声が、少女の声を制する。真っ直ぐに俺の方を見つめる視線とぶつかった。
「生存者がいます。不用意に言葉を並べないでください」
彼らは何だ。なぜ、人里離れたこの洞窟にやってきたのだろうか。レイの何かを知っているのだろうか。俺が知らないレイの秘密を、過去を、知っているのだろうか。それはきっと、俺が知りたくないことなのだろう。それでも俺は、それを知りたい。知らなければならない。
新たな濁流に飲み込まれそうな、そんな気がした。
『きみとてをつなぐ』第四話、今回の主役はハギラさんです。
さて、新キャラをいっきに三人、出してみましたが……。彼らについてはまたいずれ、(来るかは謎ですが)彼らが主役となったときにご紹介します。
ハギラさんはハギラさんで、レイちゃんの望まない答えを出していますね。彼にとって、レイちゃんは大切な存在ですからね、恨むとかほんと、しないと思いますよ。いくら家族を奪った存在だとしても、彼はそれが無意味だと知っていますからね(それは彼の過去に起因するのですが……その過去も書く日は来るのか。書きたいところですね、いつか後々)。それに、レイちゃんが「(ハギラに)殺されたい」と望んでいることを、ハギラさんは知りませんしね。
さてと、次回ですが、主役をどうしようか悩んでいます。レイちゃんでいくか、今回出てきた新キャラさん達の誰かでいくか、それとも他の誰かでいくか。悩みながら、答えを出していきます。
また更新止まると思いますが、最後まで、彼らを見守って頂ければ幸いです。
読んでいただきありがとうございます。