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終焉の種  作者: 犬井猫朗
一章 入学
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四話 三人の侯爵家

 






 王立魔術学院高等部・フユキ。




 ケルウス王国の都、ヒシカに建つその学院には国中から王国の未来を担う若者たちが集う。


 蒼月暦560年に設立されたこの学院は、ケルウス王国に()()()優秀な人材――魔術師を育てることを目的とした教育機関である。


 優秀な魔術師を育てる事を目的としたこの学院は、魔術の才能が高い国民であれば身分に関わらず誰でも入学資格がある。


 優秀な魔術師は国の兵力であり、武力である。


 だからこそ、各国は優秀な魔術師を確保するために尽力を尽くしていた。




 ――――――蒼月暦740年。


 また、新しい優秀な魔術師の卵達がフユキに足を踏入れた。





 入学式会場に入ると、新入生が溢れていた。


 多くは既に、同じ派閥か学院の仲間同士で固まっている。


 一学年200人程度であることを考えると、既に半数は来ているだろう。


 ユカとスノウは、席を確保するため、会場を見渡す。



「――――――後ろの方、空いてないかな?」


「どうかなぁ? 結構埋まってるみたいだし……」



 探してると、一人の男子生徒が近寄ってきた。


 脂汗の酷い、緑髪を真ん中分けにしている脂肪の塊。



「―――久しぶりぬな、スノウ。

同じ門をくぐったもの同士、仲良くしようぬぇ」



 彼はスノウを舐め回すように視線を送ると、手を握ろうとする。



 ――――バチンッ!



 その手を、ユカが叩き飛ばす。



「っ! 何をする伯爵家の女が!」


「ケンリー・ライド――貴様と仲良くだと?

貴様がスノウにしたことを忘れたとは言わせないぞ!」



 彼は北のフギール領を治めるライド侯爵の長男―――ケンリー・ライド。


 ケンリーは2年前、成功こそしなかったがスノウを欲望のまま“愛玩具(オモチャ)”にしようと画策し事件を起こした。


 更にあろうことか、倒れていたスノウが起きたとき事件など起きていないと言い聞かされた――つまり、隠蔽。


 これは、ライド家だけでは隠蔽など出来ない。


 何を取引したかはわからないが、この隠蔽にはフルール家の助力がなければ成立するはずかない。


 逆に事件があったと主張する、ユカとスノウがおかしくみられたのだ。


 それ以来、スノウは家族に不信感を抱いている。



「……何のことぬぇ?

変なことを言うなよぬぇ、無礼だぞユカ!」


「しらを切るか、ケンリー?!」


「………ユカ。落ち着いて、私は大丈夫よ。

――ケンリー、いいわよ仲良くしてあげる。

まさか、侯爵家ともあろう御方が、手に入らないからといって、拘束して、人形遊びするなんてしませんものね♪ふふふ」



 熱くなっているユカを宥め、スノウは目の笑っていない笑みで手を差し出す。



「………貴様、僕を馬鹿にしてるぬぁ!

いいさ、それも今のうちさ、学院を卒業する頃には僕のモノになるんだからぬぁ♪ヌェヘヘ」


「―――この変態ロリ蛙が!!」


「………変態ロ、!――この煩い低級の蝿が、僕を侮辱するぬぇ

――――《絡め($*£*¢※)》」



 ケンリーは“鍵言”――魔術を行使する時に、己の魔力を覚醒させる文句を発した。


 緑色の液体が、腕から伸びユカに迫る。


 ユカは動いていない、避けられないだろうとケンリーはほくそ笑む。


 次の瞬間にでも、“粘水(緑色の液体)”が生意気な女を絡めとり床に這わすだろうと。


 だが、ケンリーの表情は驚愕の表情にかわる。


 粘水は何も捉えず、ユカがいたはずの空を切り床に落ちた。


 そして、己の首筋にヒヤリとした感覚が伝わる。


 一瞬の出来事だった。


 ケンリーの前にいたユカはいつの間にかケンリーの背後をとっており、その首もとにいつ抜いたのかもわからない短剣を突き当てている。


 周りも何が起きたのかわからず、騒然としていた。



「………魔術師としてなら、私の方が上よ」



 ケンリーの耳元で囁く。


 その声は機械じみていて、冷たかった。


 ケンリーは慌てて離れる。


 そして、何かにぶつかった。



「………ちゃんと前みろや!」


「僕になんて口を………イクス・ロドリクス!」



 そこには金髪の短髪をオールバック風にした、不良然な男子生徒がいた。


 東のクリンド領を治めるロドリクス侯爵の次男――イクス・ロドリクス。


 イクスはケンリーに興味はないらしく、雑に退かすとユカに歩み寄ってくる。


 その瞬間、あれほどの喧騒が嘘のように収まり、会場が静まり返った。


  確かな足取りでユカに向かうイクスから、誰もが目を離せない。


 彼の「クククッ♪」という含み笑いがやけにハッキ リと響く。


 その研ぎ澄まされた、猛獣のような雰囲気が見る者を釘付けにする。



「ユカといったか?お前面白いな!

目には自信あるんやが、全くみえなかったわ!」



 イクスはユカの前で立ち止まり、見下ろした。


 獅子を彷彿とさせる金色の瞳に、ユカを写す。


 180㌢を越える伸長から、見下ろされる視線にお前は下だと言われている気さえ起こさせる。


 何だこの沈黙は? 何故皆黙っている? 誰もがそう思い、しかし誰もが言葉を発せない。


 全員がイクスの異様な雰囲気に呑まれていた。



「…………お前のそれはホンマに速さか?」



 ユカはゴクリ、と唾を飲む。


 質問されているだけなのに、何だこの威圧感は。


 これは一学生が発していい空気ではない。


  カリスマ性とでも呼ぶべきか、圧倒的な強者の風格を備えている。


  あの日の『彼』のように……。



「……っ!」


「―――イクス様。お久しぶりです。

まさか、貴方が同じ学年とは思いませんでしたわ」



 二人の間に、スノウが割り込む。



「フルールん所の嬢ちゃんか。

それはこっちの台詞や!

………でもまあ、なるほど、この娘が嬢ちゃんの言うてた仲間か、なら俄然興味わいてきたわ!」


「貴方ならユカに目をつけるとは思っていました。

でも、貴方にユカは渡しませんよ♪ニコッ」


「……嬢ちゃんごと欲しかったんやけどな、まぁいいや。

これなら、学院生活も楽しめそうや、一月後の対抗戦楽しみにしてるで♪ククク」



 そう言い、イクスは踵をかえそうとした時。



「―――おい、僕を無視して話を進めないでくれぬぇ!」



 ケンリーの静かな怒声が割り込んできた。



「いいだろう、侯爵家が同じ学年に三人もいるぬぅだ。

誰が一番優秀か、1ヶ月後の対抗戦で決めようじゃぬぇか!」



 ケンリーはそう言い残し、スタスタと足早に去っていった。



「嬢ちゃん――」


「嬢ちゃんはやめて、私にはスノウって名前があるのよ」


「クククっ♪お前さんも変な奴に目ぇつけられとるな……気を付けるんやな、スノウ!」



 イクスが去り際に、そう言い残した。


 一部始終をみていた新入生達は、皆同じことを思った。


『とんでもない学年に入ってしまった』と。





「「……………はぁ」」



 その場に二人になった、ユカとスノウは溜め息をつく。


 当分は目立ちたくなかったのだが、結果は逆におお目立ち。


 これでは情報集めが難しくなってしまった。



「……ごめんね、スノウ。

私が余計な事してしまったばかりに……こんなことになるなんて」


「別にユカのせいじゃないわ。

貴女が怒ってくれて、嬉しかったの。

それに、イクスがいたのだからどうせ目立っていたわ」



 項垂れるユカをスノウが慰めている。



「………それより、席を探しましょ。

もうすぐ、入学式も始まるようですし」


「ありがとう、スノウ。

そうね、まだ最後方の席空いてるかな?」


「たぶん空いてるわ、行きましょユカ」







 運良く、最後方の席は空いていた。


 スノウとユカは端の二席に座ることにする。





 そして、時間になり―――



「――――王立魔術学院高等部フユキの入学式をこれより開会します」



 スキンヘッドの男性教諭が、壇上で開会を宣言した。












――――――――――――――――◆





「―――そろそろ入学式が始まったかな?」



 トラザー寮の屋上で、さらりとした白髪を靡かせ、ヤオト・グラザーは横になり、風を感じていた。


 ふと薄く目をあけ、会場となっている大講堂のほうに目をむけた。



「――へぇ、彼は入学式には参加しないみたいだね」



 彼――今朝此処で話した、隷魔のヴァン。


 大講堂の屋根の上で、大型犬に匹敵する体躯を伏せて周りを警戒している。


 敵意とは違う、複数の“視線”がヴァンに集中しているのを感知した。


 恐らく、“長”の座を持つものたちの値踏みの“視線”だろう。



「……彼も気づいてるみたいだね」



 “長”達は、彼をどう取り込むか考え、牽制しあっている。


 ヤオトとしては、どう展開が転ぼうが、自分の領域に手を出されなければよかった。


 それに―――



「…………そろそろ朝寝も終わりかな?」



 視線を上に向けると、すらりとした美脚とスカートの中身(黒いパンティ)がみえた。



「やっぱり、此処ですか………そろそろ新寮生の歓迎会の準備終わりますよ」


「………レイカ、その位置では下着がみえるよ」


「気にしません」


「気にしないって……」


「………それにヤオトさんなら」


「ん?なんか言った?」


「何も言ってません」



 腰まで伸ばした薄紫の髪を揺らし、ヤオトの頭上で仁王立ちする少女はレイカ・シュルフィック。


 貴族ではなく、平民出の学院二年生。


 トラザー寮の副寮長であり、トラザー寮のマドンナ的存在だ。


 学院でも指折りの美人と言われているらしい。


 

「で、どうしたの?」


「どうしたのではないですよ。歓迎会の準備を手伝ってください。

それと、書類の最終確認お願いします―――――“寮長”」














 


 



感想、改善点があれば是非教えてください。

お願いします(。>д<)

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