表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉の種  作者: 犬井猫朗
一章 入学
5/6

参話 早朝[3]

 



 


「――――彼も入学したみたいよ」



 そうユカに話す時、スノウの表情がかわった。


 大人が、誰かに出し抜かれたときの様な、情けなさと怒りの表情。



「彼って…………まさか?!」


「ええ……闇ギルド“煽動機関”、マスター“黒狐”」



 (クロ)()――――!


 怨めしいその呼び名が、ユカのトラウマを掘り返す。



「どういうこと………黒狐は顔や名前すら“正体不明(Unknown)”な人物でしょ?」


「嘗められてるのよ………私達が探してるのを知っていて、ご丁寧に手紙を送ってきたわ」



 そう言って、スノウは一通の書簡を差し出した。


 狐と杯を模した煽動機関の紋章。


 スノウとユカ宛の祝いの言葉と自身の入学の事が書かれていた。



「………学院はこの事は?」


「知らないでしょうね」



 スノウは、感情を押し殺し淡々と告げる。



「それに、この事を話せば疑われるのは間違いなく私達よ、ユカ!」


「……………どうせ、初めから二人。当てになんかしてないよ」



 そう絞り出した答えに、スノウは何も言えなかった。



「………敵の情けか、遊び心かそんなことは解らないが!

敵の尻尾が見えたのは間違いない!これは一歩よね?」


「――――そうね」



 スノウは頷く。



「その尻尾を掴んで、引き摺り出してあげましょ。

それと、ユカ…間違えてるわ」


「……………?」


「二人じゃないわ、ねぇ……ヴァン!」



 そう言い、ユカの背後に目を向ける。



「ソウダ、ワタシ モ イルゾ!」


「ヴァン!」



 黒いふさふさの犬がユカの側まできた。


 彼はヴァン、学院には隷魔として登録されている。


 スノウの相棒兼ペットだ。


 どうやら、学院の見回りは終わったらしい。


 すぐにでも抱きつき、全力でもふもふしたい―――衝動にかられるが、それは出来ない。


 公の場でその様な行動をしていい立場には、ない。


 いつの間にか張り詰めた空気が霧散していた。



「ヒサシブリ、ダナ、ユカ」


「久しぶりね、元気だった?」


「……………三日よ、貴女達」



 ヴァンの頭を撫でながら、ユカは光悦とした表情をする。


 スノウは多少呆れ、苦笑しながら眺めていた。









 学院の広場での、ヴァンとの戯れを終え、備えられたベンチに腰を据えてスノウと話していた。


 ふと、スノウが腕時計をみた。


 見た目は殆ど前世と同じ物。


 ただ、これは魔力で動く“魔法具”だ。



「8時22分ね………そろそろ式場にいきましょ」



 9時から始まる入学式には、確かに丁度いい時間だともいえる。


 スノウは立ち上がりスカートをはたく。


 下品には見えない、むしろ優雅だ。


 その際、風が彼女の薄桜の髪を撫で、ユカの鼻へ仄かに甘い香りを運んでくる。


 これは人間じゃなくて、天使なのでは、とユカは本気で馬鹿な事を考えてしまう。



「……………」


「……どうしたのユカ?」



 首を傾げ、宝石の様な碧眼にユカを写し、顔を近付けてきた。


 ユカは確信した、この子は皆に愛でられる為に生まれてきたのだ、と。



「スノウって、本当に可愛いね♪」


「っな?!」



 顔を紅くし、慌てて後ずさる。


 肌が白いから、紅くなってるのが凄いわかる。


 こうなると苛めたくなると、ユカは小悪魔な笑みを見せた。


 立ち上がると、スノウの前まで行き、彼女の顎に指をなぞる。



「僕と遊ばないか、仔猫ちゃん?」


「ば、ばば馬鹿な事、い言ってないで早くいくわよ!」



 少しふざけ過ぎたのか、拗ねてしまったようだ。


 頬が栗鼠の様に膨らんでいる。


 その姿も唆るのだが、これ以上やると怒りそうなので、誂うのをやめることにした。



「ふふ、ごめんねスノウ♪」


「全然、心が籠ってない………」



 膨らむ頬を人差し指でつつく。



「―――ぷしゅ~」


「ちゃんと籠めてるよスノウ」


「……………はぁ、もういいわ。

それより、早く式場に行って、席を確保しましょ」



 そう言って、スノウは手を再び差し出す。


 ユカがその手を掴むと、曇りのない笑顔をみせてくれた。










  



―――――――――――――――◆





 学院は森に囲まれている。


 サイモン・ロドリューは、学院の城壁の外の森のなか、一人木にもたれ掛かっていた。


 結論から言って、サイモンの精神力は限界であった。


 3年間耐え続けてきた、苦痛と飢餓は、日に日に増すばかり。


 肉体も既に壊れかけていた。


 ブロンドの髪は何故か黒く染まり、服に隠された肌には黒い罅が走っている。



「……っガハァ――」



 気持ち悪く吐いた血は黒く変色していた。


 気を抜けば、すぐにでも飢餓に呑まれ、理性を失うだろう。


 3年間サイモンの身体を侵食してきた“黒血”は、彼に膨大な魔力をもたらしているのも事実である。


 お蔭でこの学院にいる新入生の、第五位として入学できた。


 だが彼に“黒血”を注いだ義父――ケイディ・ロドリューは既にサイモンを見限っていた。


 ケイディの見立てでは、あと一ヶ月もすれば黒血に呑まれ、精神も身体も破壊されるという。



「あと少しだ………っはぁはぁ……

もう少しだけ持ってくれよ」



 彼も一ヶ月後に控える、“学年別魔術対抗戦”まで保ってくれれば充分だった。



「…………辛いだろうサイモン」



 突如、木陰から赤く光る目の少年が現れた。


 瞳以外に何の特徴もない、平凡な少年だ。



「……っさま、誰だ?」


「私は、ドニー・ポット、君と同じ新入生さ」


「何故、俺の名前を、知っている?!」


「……そんなことよりサイモン、魔力か何かが暴走してるんじゃないの?」


「どうしてそれを?!」


「視ればわかるさ」



 ドニーと名乗った少年は、終始不気味な笑顔を張り付けている。


 サイモンは苦痛が絶頂を向かえ、それに気づかない。


 少年はポケットからナニかを取り出した。



「これをサイモン、君にあげよう」


「はぁっはぁ………ネックレス?」



 紫の丸い石のみが下げられた、シンプルなネックレス。



「これを付けとけば、君の魔力の暴走を停めとくことが出来る」


「そんな、都合のいいもんがあるわ……ガハァっ!」



 サイモンはまた、血反吐を撒き散らす。


 何故かドニーは避けなかった、それに黒い血反吐が服にかかってるのに気にした様子もなかった。


 それどころか俯くサイモンの首にネックレスを勝手に掛ける。



「――――何すんだよ?!」


「ネックレスを掛けてあげただけだよ」


「余計な事―――?!」


「―――どうだい、暴走は止まってるだろ」


「………ほんとに止まってる?!」



 あれほど苦しめられたモノが、全て無くなっている。


 信じられないものを見る目でドニーをみた。



「ただ、一ヶ月くらいしかもたないんだよ。

私に出来るのはこれくらいだよ!」


「いや、それで充分だ。

ドニー、ありがとう感謝する。

御礼に何を望む?」


「御礼なんかいらないさ……

ただ、試合で愉しいものを観させてもらえれば、それでいいさ♪」












 

 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ