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終焉の種  作者: 犬井猫朗
一章 入学
4/6

弐話 早朝[2]

 







 フユキ(王立魔術学院高等部)は全寮制である。


 生徒は15歳から3年間、入学したその日からそれぞれ振り分けられた寮で暮らすことになる。


 今日は新入生が入寮する日なので各寮ではそわそわとした雰囲気が漂っている。


 早朝にもかかわらず起きているものは少なくない。


 それと、もう1つ違う理由で寮内は沸きだっていた。



「―――――おい聞いたかよ?!」


「ああ、聞いたさあれだろ!」


「でも、本当なのかね?」



 生徒達がナニか噂をしている。



「見たことない“隷魔(れいま)”が校内を徘徊してたって」


「まあ確かにいたとして、校内に魔物が侵入(はい)れる筈がないから、いるとしたら“隷魔”だろうな」


「黒犬の隷魔なんてみたことないよな、もしかして新入生に“隷魔師(れいまし)”がいるんじゃないのか?」



 隷魔師――自身から生み出された魔物“隷魔”を使役する者。


 誰もがなれるわけではなく、特異な才が必要である。


 その数は稀少であり、“憑魔師(ひょうまし)”“固有魔術師(こゆうまじゅつし)”と一括りに“特異師(とくいし)”と呼ばれる貴重な存在なのだ。



「でもよう、こんな朝早くに新入生がいる筈ないだろ?」


「まあ、それもそうだけどよ………」


「でも、いたとしたらあの人等(・・・・・・)が黙ってないよな――――――」

















―――――――――――◆






 学院を一望できる校舎の屋根に黒犬はいた。


 つい先程まで一緒にいた少年について、黒犬は感じた印象を思い返し、思考する。


 あれは何かに飢えていた。


 込み上げる飢餓に、戸惑い抑え込むのに必死の様子が見受けられた。


 彼の事はよく理解できる。


 他ならぬ自分と同類だ。


 ある一点を除いて―――――自分は飢餓の()を呑み込んだ、だが彼は元が何なのかは知り得ないが其に呑み込まれそうになっている。


 そのような者に、主に近寄せる訳にはいかない。


 自分と同類というだけでも危険なのだから。



「………………」



 値踏みされたような視線を感じ、振り返り、視線の先に目をやった。


 少し離れた屋根の上で、寝ていたのか上半身だけを起こした状態で少年が此方を視ていた。


 近くも遠くもない、この静かな朝なら声も届く距離だ。



「アナタ ハ ダレ ダ?!」



 気配も臭いも感じられなかった。


 自身の感覚が狂った訳ではない、今も様々な気配や臭いが感じられる。


 この少年の気配や臭いが異常に薄いのだ。



「……っんぁあ。僕?

僕はヤオト・グラザー、此処の二年だよ。

それで、君は?みたとこ普通の犬ではないみたいだね?」



 欠伸をし、軽く自己紹介をする。


 フレンドリーに話す彼――ヤオトの雰囲気はむしろ空虚的なモノに感じた。



「ワタシ ハ 、レイマ ノ ヴァン ダ。

ヤオト、アナタ ハ ナニモノダ!

アナタ ノ ケハイ ト ニオイ ハ キハクスギル!」


「えっ? キハク?

ああ、僕よく存在感薄いねって言われるんだよね。

ごめん、脅かしちゃったかな?

ニオイは多分、朝お風呂に入ったからかな?」


「ナゼ、ココニイタノダ?」


「朝、此処で寝るのが好きなんだよね」



 そう言って笑う少年に空虚感は残ってるが、先程よりは人間味を感じる。


 少なくとも敵意は感じられない。



「…………ソウカ。タシカニ、ココハ キモチガイイナ」


「でしょ。いい朝寝スポットなんだ」



 心地好い風が何度か二人を包んでいく。


 少しの間、風を感じ無言の時間が過ぎる。


 いつの間にか少年に対する警戒心も薄れていた。



「…………ソロソロ、アルジ ノ トコロニモドロウ」


「もう行くのかい?」


「アルジ ガ シンパイ スルト イケナイカラナ」


「そっか。またここに来なよ。ヴァンとは仲良くなれそうだ」


「ソウダナ、タマニ ツカワセテモラウ。

ヤオト ガ、アルジノ テキニ ナラナケレバナ。フッ」


「そうならない事を祈るよ。はは

じゃあね、ヴァン。また会おう」











――――――――――――◆






 …………二十分前…………




 目当ての少女の姿が見えた。


 陽が昇ったばかりの早朝、朝陽が広大な敷地を持つ学院を照らしている。


 ケルウス王国の各領から、魔術師の才能を持つもの達が通う王国唯一の高等部。


 大勢の生徒の中でも目立つであろう、珍しい艶やかな黒髪。


 少女は校門の前にいた。


 少女ならば早めに来ると予想はしていたが、それをも上回っていた。


 学院を真剣に見つめる少女―――ユカに近づく。




「…………凄い、まるでお城みたい」


「あら意外とロマンチストなのねユカ?ふふ」



 

 親友は少し浮かれているようだ。


 頬をほんのり紅くし、振り返ったユカは少し驚いたようだ。


 綺麗だ―――素直にそう感じた。


 同じ中等部を出た彼女はこの一年で、身長も伸び本当に綺麗になった。


 自身の成長の遅さに、やるせない不安に囚われる。


 唯一胸だけは勝っている、それで納得することにした。



 それから他愛ない話をし、学院の敷地に足を踏み入れた。






「―――――――――スノウ、何があったの?」



 学院の庭を散歩していると、ユカがきり出した。


 やはり、彼女は気が付くようだ。


 その事に多少、嬉しくなる。



「敵わないなぁ……」


「そんな顔してたらね。

それで、どうしたの?」


「うん、実は……………

…………“()”も入学したみたいよ」















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