壱話 早朝
◆ケルウス王国、王都“ヒシカ”
まだ朝露が残る早朝。
中世ヨーロッパを彷彿とさせる街を走り抜ける少女がいた。
王立魔術学院高等部の新品の制服に身を包め、肩の上で艶やかな黒髪が踊っている。
少女の慎ましやかな胸とは反比例し胸は期待に膨らんでいた。
今日はフユキの入学式。
早めに来るつもりではあったが、流石に早すぎた。
まだ、開会式まで二時間程はある。
「………ちょっと、早すぎたかな?はは」
思わず苦笑が漏れる。
昔からこういった時、早く来すぎてしまう。
初等部や中等部の入学式も一番始めに着いていた。
これはもう仕方がない。
生前から刻まれた性分なのだから。
「もう15年か………」
少女には前世の記憶がある。
輪廻転生、生まれ変わりというものです。
前世の自分は、日本に住む平凡な女子高生――双木優花でした。
普通に幸せな家族に生まれ、普通に愛情を注がれ育ち、普通に友達ができ、普通にケンカし、普通に仲直りして。
普通に初恋をし破れ、普通に友人と遠出し、普通に告白され、普通に初彼氏ができ、普通に受験で疎遠となり別れ涙して。
普通に高校でデビューし、普通に新しい友達を作り、普通に普通の彼氏とデートをし、普通の学園生活を送っていた。
ただ、いつ死んだのかがわからない。
それが、初めての異常でした。
ある日、起きたら非日常が待ち受けていた。
伯爵家令嬢、ユカ・ルーキッド。
今世の立場と名前です。
前世と同じ名前は、偶然か必然かわからないがこれには多少ほっとした。
それでもこの世界が異世界で魔法というモノが存在する事を知ったとき、狂喜乱舞しそうになった。
そんなことを考えている間に校門に着いたようだ。
「………………此処がフユキ」
校門の前で、少女――ユカは学院を見上げていた。
悪戯な風が白い制服のスカートをふわりと揺らす。
健全な男子が此処にいたら思わず見てしまうだろうが今は、悲しきか誰もいなかった。
ユカは気にした様子もなく、美少女と称される顔は真剣そのものである。
黒曜石の様な瞳には、どこか強い決意のようなものを感じる。
「…………凄い、まるでお城みたい」
「あら意外とロマンチストなのねユカ?ふふ」
思わず漏れた感想に、誂うような答が返ってきた。
振り返れば、親友の少女が悪戯な笑みを浮かべている。
腰でさらさらと揺れる薄桜色の綺麗な髪、白磁の様な肌、くりっとした碧眼。
ユカとはまた違う、誰もが認める美少女。
本人的には背が小さいことを気にしているらしい。
160㌢はあるユカと頭1つ分はちいさいのは確かだ。
「スノウ様、お――――」
「ユカ!そういうのはなしでしょ」
「――そうだね、おはよう、スノウ♪」
「おはよう、ユカ♪」
思わず敬語を使いそうになり、ムッとされたが言い直すと花も綻ぶような笑顔を見せてくれた。
彼女の名前は、スノウ・フルール、侯爵令嬢です。
だが、スノウは学院では立場を振りかざしたくないらしく、友達に敬語を使われるのは嫌らしい。
それに、スノウは何処か気のせいか家族を遠ざけている節がある。
「―――珍しいね、スノウが朝早くに来るなんて」
「私だって朝早く起きることもあるのよ」
そう言って頬を膨らます。
スノウは存外、朝に弱い。
一度、屋敷に招待され泊まらせてもらった事がある。
その日は朝から予定があったのだがな時間になってもかなか起きなかったのだ。
あの時は確か、“ヴァン”に頼んで起こしてもらった。
「―――そういえば“ヴァン”はどうしたの?」
「ヴァン? あの子は、もう学院にいるはずよ――――」




