黒
―――――深夜。
地平線の彼方まで広がる樹海を、幻想的な蒼月が照らしていた。
樹海の中に在るとある山に、一匹の狼が歩を進めている。
濃霧に覆われた木々の間を歩むその姿は、通常の狼とは異なっていた。
深淵の闇から這い出た様な漆黒の体、一回り以上大きな体躯。
何よりその纏う雰囲気が異質であった。
狂気とでもいえばいいのか、凄まじい怒気や憎気にも似たものを感じさせる。
「……枯れてきているな」
黒狼が巓に近付くにつれ、森は異状を濃くする。
巓に行くほど生命力は薄くなり、付近では生命の息吹は感じられず山は死んでいた。
それを一瞥すると、構わず更に巓へと進んでいく。
「――――――クククッ!
畏れる余り誰も近付かない、故に誰も気付かない、か」
あまりの滑稽な現実に嘲笑が漏れる。
彼等が最悪の権化として打倒しえたものを、畏れる余り、己から隠し近付かない様にした。
それが、力を蓄える時間を与え、その芽吹きを気づく事が出来ない。
「…………あまりにも愚か」
そう言い、脚をとめる。
巓に着いたようだ。
「なぁ、お前もそう思うだろ
――――――――フィーナ」
冷酷な鈍光が宿る青瞳の視線の先には、一樹の枯木が存在していた。
咲くはずのない、咲かしてはいけない、枯木の枝先には一つの蕾が芽吹いていた。
そして、15年という年月が過ぎ――――――。




